初めての客 3
「待って、トム」
ウィルはバっと椅子から立ち上がった。
「まだ聞きたいことがたくさん――」
トムは両手を上げてそれをさえぎった。
「ウィル、気持ちは分かるが今日は大急ぎで客を迎える準備をしなければならない。数日前からしておけばよかったんだろうが、この通りどうも俺は体調が優れなくてね。気があまり進まなかったんだ」
トムはそう言うとさっさと外に出て行ってしまった。ウィルはそのまま何分間か立ち尽くし、そしてぼちぼちと後片付けを始めた。
午後四時半。ウィルはぐったりとしてベッドに横になっていた。まだ客は来ない。トムは客のためのご馳走をキッチンで作っている。ウィルは、昼食の後、めいいっぱい働いた。物置のベッドは思ったよりもはるかにほこりまみれで雑巾で拭くのにかなりの時間がかかった。のびきっていても、ウィルの胸は高鳴っていた。きっともうすぐだ。もうすぐ客が来る。ウィルはだんだん落ち着きをなくした。じっとしていることに耐えられず、ベッドから起き上がった時だ。
「ドン、ドン」
戸を激しくたたく音がした。ウィルは自分の部屋のドアをバンと乱暴に開け、びっくりしているトムの前を通りすぎ、戸の前でピタっと静止した。そこでウィルは大きく深呼吸をした。そして木でできたドアノブをにぎりしめ、まわしてゆっくりと引いた。続いてウィルがしたことは、ぽかんと口を開けることだった。予想外の客だった。なぜならてっきりウィルは客はトムのような中年、またはそれ以上に年のをとった人だろうと勝手に決め付けていたからだ。固定観念とは恐ろしいものである。客はそういう人だとしてウィル信じて疑わなかった。だが、ウィルには仕方が無いことかもしれない。なぜなら、ウィルには自分と同世代の人たちに知人は全くいなかったし、そのような人たちとの接点もさらさらなかったからだ。読者ももうお分かりだと思うが、ウィルには知人はトムとフランクじいの二人しかいない。そういうわけで、ウィルは戸の前に立っている人物が自分と同じくらい若い少年だったのですっかりびっくりしてしまった。その少年は全体的に痩せ型で背はウィルより十センチほど高かったが、がっしりとしていてたくましく、優雅な髪の毛はウィルの真っ黒な髪とは違って鮮やかな赤茶色だった。服は深緑色の革の服を着ていて腰には剣が携えられていた。誰が見ても勇ましい士族だと分かるような格好だった。
さて、ウィルはまだ口を開けたままつったていた。そのため、その少年もそしてトムも何も言わずに固まっていた。遠くで小鳥がさえずっていた。
「そんなに口を開けていたらハエが入るぜ」
やがて、その少年がにやりとしてウィルに言った。ウィルは、はっと我に返った。
「ウィル、お客さんに失礼じゃないか。早く中に入れてあげないさい」
トムが後ろから笑いながら言った。ウィルは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらそこからどいた。その少年はにやっとした顔をウィルに向けながら家の中に入ってきた。そして、トムが近寄って来たのに気付くと、手をトムのほうに差し出した。
「はじめまして、トム・ソルンおじさん。ローレイ・ジャティスです。お会いできて本当に光栄です。」
とても丁寧な口調だった。トムのことをとても尊敬している、そんな感じだった。トムはにっこり笑って、差し出された手をぎゅっとにぎった。
「こちらこそ。急に無理なことをいって本当にすまなかった。ナニーは元気かい?」
「もちろん。うるさすぎるくらいですよ。トムおじさんのことをしょっちゅうしんぱいしていましたよ。全然顔を見せないから何かあったんじゃないのかとか、生活がとても不便なんじゃないかとか。手紙でも何度か遊びに来るようにお誘いしたのにやっぱり来られなかったし……」
トムは困ったような顔をした。
「そのことについては十二分に説明したはずだが……」
ローレイは笑いながら軽く手を振った。
「はい、もちろんしっかりと書かれてありましたよ。でも、母はご存知だと思いますが、極度の心配性なんです。ありえないことまで勝手に妄想して心配してるんですから」
「ここに向けて出発する時だって、涙涙で……」
トムは大声をたてて笑いながら、ローレイに小さな台所のまえにあるテーブルの椅子
座るように促した。
「すっかり忘れていたがナニーは小さい頃からそうだったんだ。母親に似てね。でも、君は長男だろ?初めての子供が親元を離れるのは心配性じゃなくたってきっと悲しいよ」
ローレイの言うとおり、トムの妹はどうやら極度の心配性らしい。ウィルはぼんやりと考えた。ただここに数日間訪問するだけなのに泣くなんておかしい。
トムはガラッと椅子をひき、座りながらウィルにも自分の隣に座るように合図した。ローレイは背筋をピンとしてトムの向かい側の椅子に座った。ちょうど自分の部屋に避難したいと思っていたウィルは、仕方なくぎくしゃくしながらトムの隣のイスにすわった。
トムはウィルの肩に手をぽんと置いた。
「ローレイ、こちらはウィルだ。ウィル・カシュー。確か君は十六歳だったね。ウィル
君より一つ年下で十五歳だよ。ウィル、こちらはローレイ・ジャティス君。私の妹の息子、つまり私の甥にあたる。ほら、ウィル挨拶しなさい」
「よ…よろしく」
ウィルは消え入るような声で言い、うつむいた。耳がとても熱かった。
|