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~Side Akemi Tenryo~ 〜『アイドル』な『彼女』と『一般人』の『俺』〜《後編》
約束は守るべきである。約束が守れない奴は信用されないし、何の理由も無しに約束を破るのは人間としてどうかとも思う。
……たった2回しかやってこない(であろう)主人公役の俺こと天領朱実がこんな始め方をしたのにはそれなりの理由がある。

衝撃の告白から数週間、テストを無事に(赤点ギリギリ回避で)乗り越え、終業式も1週間前に終えた俺は家でつかの間の休息をとっていた。
最近では当たり前になった4人組も俺以外は全員部活に所属している為、夏休みに入ってからは集まる事もなく(3人は部活帰りで一緒かもしれないが…)過ごしていた。しかしこの小説がいつまでも俺をそのような状態で放置して置くはずもなく、2日前に

『明後日は海に行くからよろしくねぇ〜♪』

という霞さんからの電話があった。前回の最後に彼女を海に連れていく事を約束したので、即了解を出したら彼女に不思議がられた。それがこんな始め方をした理由だ。
確かに俺は優柔不断でだらし無いかもしれないが、出来る限り約束は守るようにしている。だから水着も用意しておいて、誘われたらいつでも出掛けられる様にしていた。


そして今に至る、と。

俺達4人は今バスに乗っている。霞さんは始め、俺と2人きりで来るつもりだったみたいだが、折角海に出掛けるので悠真と杏奈さんも誘った。

「早く着かないかなぁ〜。ね、あっくん?」

「そうだな。何でこんな時間が掛かるんだろ?」

バスに乗ってかれこれ1時間。俺達の住んでいる所から1番近い海水浴場なら30分位で着くのに、1時間は長い。

「オレ達がむかってるのは穴場中の穴場だからな。その証拠に他に誰も乗ってないだろ?」

「だからか」

時期は夏! 夏といえば海!! だと人々に認識されるくらいなのに、海にむかうバスに俺達以外、誰も乗っていないのはおかしいと思ってたんだ。

「まぁもうすぐ着くから少し我慢しろ」

「私は別にあっくんと居られれば山奥でも絶海の孤島でもいいんだけどね♪」

「さいですか……」

霞さんと付き合って、1つわかった事がある。彼女の性格が俺の前と他の人の前では違う事だ。俺には甘えてきたり、めちゃめちゃ積極的になるんだが、他の人の前では『学園のアイドル:朝比奈霞』の肩書通り、何でも簡単にこなせて、誰にでも好かれる元気で活発な女の子になる。
おそらく、これはどちらが素だとか、キャラを演じてるとかではなく無意識の内にそうなっているんだろう。


『え〜次は《穴場の海水浴場》。《穴場の海水浴場》です』

「あ、もうすぐ着くみたいよ? ほら、霞も朱実君にくっついてないで降りる準備をしなさい」

「えぇ〜〜」

「後でいくらでも一緒にいられるでしょ? それまで我慢しなさい」

「…はぁい」

幼児化も入ってたな…。何て言うか…杏奈さんがお母さんっぽく見える。

『《穴場の海水浴場》に到着しました』

「よし、降りようぜ」

皆が悠真に従ってバスを降りる。


「やっと着いたわね」

「ああ。思ったよりも遠かったな」

思ったよりも遠かったって…ちゃんと位置を調べてなかったのか?
……それにしても名前がそのまんまのバス停だな。なんでこんな堂々と書いてあるのに穴場なんだ?

「あっくん、それは気にしちゃいけないんだよ」

「そうなのか…。って何でまた心を読んでるの!?」

「てへっ♪」

「『てへっ♪』じゃないよ…」

この厄介な能力はどうにかならんかな…。……そうだ!

「霞、あんまり心を読むと俺が貴女の事を嫌いになっちゃうよ?」

「え!?そんなのヤダ! 絶対嫌!!」

「じゃあもう読まないでくれる?」

「でもこの力はあっくんにしか効かないんだよ? 持て余した力はいつか暴走しちゃうかも……」

なんの漫画だよ!?ってツッコミを入れたいが今はやめておく。

「な、なら将来俺達の子供に使えばいいよ! 悩みとかもわかってあげられるしさ。俺達の子になら絶対効くよ」

「流石あっくん。冴えてるね! じゃあそうするよ♪」

ドンマイ俺の子供よ。恨むなら理不尽な能力を与えやがった作者を恨んでくれ。









 ・
  ・

あの後バス停から2〜3分歩いた所に砂浜へ降りられる場所があった。下に降りてみると、そこには碧い海と蒼い空と他に誰もいない白い砂浜があった。
そんな絶景に感動しながらも、女の子2人は更衣室へ、野郎2人は外でさっさと着替えて木陰にレジャーシートを敷き、その上に座って女の子2人を待っていた。

悠真と雑談しながら待つこと5分……

「2人共お待たせ♪」

後ろから声を掛けられた。なので振り向くと……

…ヤバイ。とにかくヤバイ……。

霞さんは黒いビキニを身に纏っている。やっぱり結構胸大きいんだな…と改めて実感。しかも余計な肉は一切付いてなく、締まるところがキチッと締まっているから凄い。
一方杏奈さんは白いワンピースタイプの水着だ。スーパーモデル顔負けのスレンダーボディと細い腕に細い足。霞さんも普通の人と比べればかなり細いのだが、それ以上に細い。…ちゃんと飯食ってます?

「あっくん何をジロジロ見てるのかなぁ〜?」

「ご、ごめん!」

霞さんに指摘され、明後日の方向を向く。

「何でそっぽ向くの!? 別に責めてるわけじゃないからこっち見てよ!」

と言って俺の顔を無理矢理自分の方を向かせた。その際に俺の首から『ゴキッ!!』って音がしたけど、どうする?

「この水着はあっくんの為に買ったんだよ? 見てくれなかったら意味が無いじゃない」

いや、その発言は嬉しいんだけど姿勢がマズイぜ。俺が座ってて、その俺の顔を彼女が覗き込んでるもんだから、整ったお顔と2つのお山が同時に見えちゃうわけですよ。

「あっくん…何処見てるの?」

「え…いや……」

今度は彼女がそっぽを向いてしまった。

「悠真、私達は泳がない?」

「…ああ、そうしよう」

(2人共俺を見捨てないでくれぇー!!)

…そのような心の叫びも虚しく、悠真達は碧い海へと旅立っていった……。


「…ごめんなさい」

「………」

「…お願いですから赦して下さい」

「…プッ」

「??」

「アハハハハハッ♪ あっくんカワイィ〜♪」

「はい?」

何が起きた?

「全部冗談だよ♪ さっき更衣室で、杏奈とどうやってあっくんをからかうか相談してたの。あっくんはこういう色仕掛けに弱いからなぁ〜。あ、横座るね?」

「…うん」

またやられたか…。フッ、こうなったらやり返してみるか。少しくらいなら赦されるだろう。

「この水着どう? あっくんの好みに合ってるといいんだけど」

ここで敢えて黙りながら霞さんと逆の方を向く。

「ねぇ、あっくん? 聞いてる?」

ちょっと心苦しいけど、ここも聞こえない振りだな。

「あっくん? あっくんってば!」

肩を揺さ振られるけど…以下略。

「やっぱり…怒ってる?」

「………」

「…ボクの事嫌いになった?」

と言いながら俺の首に腕を回してくる。…なんか違和感があるな。

「ねぇ…ヤダよぉ……。あっくんに嫌われたら、ボクもう生きていけないよぉ……」

わかった! 一人称が《私》→《ボク》になったんだ。

「あっくん……」

「霞?」

振り返ると目の前に彼女の顔があった。目には涙が溜まってる。やり過ぎたか…。

「……何?」

「何で一人称が変わってるの?」

「え?」

「だって《私》から《ボク》になってるよ?」

「そんな事より! ボクが嫌いになったんじゃないの!?」

「少しお返ししようと思っただけだよ。もう貴女の冗談には馴れたからね」

「よかったぁ〜。本当にどうしようかと思ったんだから!」

「たまには逆の立場もいいでしょ?」

「イ〜ヤ!! たとえ嘘でもあっくんに嫌われるのは嫌なの!」

自分だけ人を騙しといて理不尽だとも思うけど、それは俺に対してだけだもんな。

「わかった、わかった。で、なんで《ボク》になったの?」

しつこいかもしれないが、どうしても気になる。

「あっくんに嫌われたと思って焦ったから、昔に戻っちゃったのかな。昔自分の事は《ボク》って言ってたから」

「へぇ〜」

「あっくんは《私》と《ボク》だったらどっちがいい?」

「別に俺はどっちでも」

そんな大差もないだろ。

「あっくんは私の事なんてどうでもいいの? ボクはあっくんの事しか考えてないのに!?」

それもどうかと……。

「《ボク》と《私》が入り交じってるよ?」

「それはあっくんがはっきりしないから!」

さようでごぜぇますか。

「俺は本当にどっちでもいいと思ってるんだよ。どちらにしても霞が霞である事に変わりはないんだから」

「なら、あっくんの前では《ボク》にする! 1人だけ特別なんだからね!」

くぅ〜男心をくすぐるね。1人だけ特別扱いってのが最高だぜ。

「で、この水着はどう? あっくんの好みに合ってる?」

「ああ。似合ってるし俺の好みだな」

「よかった♪ もっとじっくり見ていいんだよ?」

と言いながら首に回していた腕を離して俺の正面に立ち、クルッと1回転した。

「いや、ジロジロ見てたら俺が変態みたいだから」

「此処にはボク達2人しかいないし、大丈夫だよ♪」

「そうは言っても…」

「もぉ〜まどろっこしいな! こうなったら…えいっ♪」

「うおっ!!」

『ダンッ!!』

何故か押し倒された…。当たる物が当たってる上に顔も目の前に…

「折角杏奈と悠真君が気を使ってくれて2人きりなんだから楽しまないとね♪ ん〜」

「!!」

…確か無理矢理キスするのって犯罪じゃなかったっけ?まぁ彼女のかわいさはそれ以上の犯罪だけどな!!

「ちゃんと腰に手を回して抱きしめてよぉ〜。少しならお尻を触ってもいいから♪」

《俺=エロい》イメージは健在か…。

「俺はそんな変態じゃないよ!」

「…そんなにボクって魅力無い? 余計なお肉は付けないようにしてるから大丈夫だよ?」

……何が大丈夫なんだ?

「魅力がどうとかじゃなくて、お尻を触っちゃったらただの変態でしょうが」

「いつかもっと恥ずかしい事するのに?」

「!?」

「その時になったら、あっくんはボクのあんな所やそんな所を……」

「あぁー!!」

「?? 急に耳元で叫ばないでよぉ〜」

「ご、ごめん。そ、それより泳ぎにいこうよ? 折角海に来たんだからさ」

かなり際どい発言をし始めたので、どうにか話題を変えにいく。

「しょうがないなぁ〜。既成事実を作るチャンスだったのに…」

何か聞こえたが気にしない。気にしたら本当に既成事実を作られてしまう(気がする)。霞さんが本気で迫って来たら、《蛇に睨まれた蛙》ではなく《核爆弾に狙われたミジンコ》よろしく成すすべ無く仕留められてしまう。

「早く行こーよぉー! 行かないなら……」

「今すぐ行きます! だからその続きは言わないで!!」

いつの間にか20メートル位先を歩いていた彼女に呼ばれ返事をしながら駆けていく。
段々俺の理性も飛びそうになってきたな。気をつけないと……。










 ・
  ・

海での出来事から更に数週間。夏休みも終盤に差し掛かろうかという日の昼下がり、俺は最寄り駅である飛鳥駅で人を待っている。相手は勿論あの人だ。
しかし暑いな…。日蔭に入っていても汗がとめどなく落ちてくる。どうして夏って暑いんだろうな…。日照時間がどうとかそんな事じゃなく、気分的な感想だから理屈なんてどうでもいいんだが。
そんな、本当にどうでもいい事を考えていると…

「だ〜れだ?」

後ろから…抱き着かれた。普通は目隠しだと思うんだがな。

「霞さん、暑いから抱き着くのはやめません?」

「ボクは霞じゃないよ!」

「…じゃあ貴女は誰なんですか?」

「今日のボクは《夏の霞 浴衣バージョン》だよ♪」

「……そう」

《夏の霞》がいるなら《冬の霞》もいるのか?俺には服装が浴衣になっているのと、髪を結い上げている以外に違いは見当たらない。あ、だから浴衣バージョンなのか。でも、《夏》って事は他にも何かあるの?
因みに浴衣を着ているのは、これから夏祭りへ行く為だ。

「で、どうする? まだ時間は早いよ?」

今の時刻は1時30分。4時位にならないと出店も開かないだろう。

「じゃあ、あっくんが人目につかない所でボクを抱きしめ続けるのは?」

「絶対に無理。大体、人目のつかない場所なんて…」

「ないならホテ…」

「それ以上言っちゃ駄目!!」

「…何で駄目なの??」

「ストレート過ぎるから!! 人の目が痛いでしょ!?」

「だって他に誰も居ないよ?」

確かに誰も居ない。本当に今日祭りが有るかどうかすら疑いたくなるような人通りだ。

「それでも外に居る時にそんな事言っちゃ駄目だよ?」

「あっくん以外には絶対言わないから大丈夫よ♪」

「……どうも。結局何処に行くの?」

「喫茶店にでも入らない? 陽射しもきつくて暑いしね。」

「だったら腕を組むのはやめよ? 暑いでしょ?」

「………。実は今日浴衣に着替えてる時にね……」

無視されたぁ!! それが貴女の答ですか!? まぁ俺も離してもらえるとは思ってなかったけどな。










 ・
  ・

歩いて5分。《喫茶 許婚》と看板に書かれた建物が見えてきた。

「あそこに入ろ?」

「うん、いいよ。それにしてもかわった名前だな」

「え? 結構有名なお店だよ。確かラーメン屋さんにも同じ名前のお店があるし」

「へぇ〜」

たぶんかわった趣味の人が名前をつけたんだな。


『カランカラ〜ン』

「「「いらっしゃいませ〜」」」

「お客様は2名様ですか?」

「はい、そうです」

「では、こちらへどうぞ」

と言って2人用のテーブル席に案内された。周りに他の客はいない。まぁこの時間だしな。


「ご注文は今お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい。私はアイスティーで」

「じゃあ俺はメロンソーダを」

「畏まりました。少々お待ち下さい」

そう言い残して店員さんは厨房の方へ歩いていった。

「やっぱり屋内は涼しくていいな」

「そうだね。待ち合わせの時間をもう少し遅らせた方がよかったかな?」

「いや、混む前に移動できるからちょうどいいよ」

「なら、よかった♪」

近くの商店街が毎年企画している夏祭りだが規模は結構大きく、近くの市や町からも多くの人が集まる。だから駅前から、祭りが行われる中央公園まですごい人だかりができてしまうので、よく知ってる人にとって1時間前行動は当たり前になっている。


「アイスティーとメロンソーダ、お待たせ致しました」

「ありがとうございます」

「どうも」

「ごゆっくりどうぞ〜」



「そういえば、あっくんは悠真君にあの話を聞いた?」

「あの話って?」

「そっか…まだ聞いてないんだ……」

霞さんが少々残念そうな顔をする。

「え? 何でわかるんだ?」

「もし聞いてたら、もっと違う反応するもん」

「そんな大事な話なの?」

「うん♪」

なんで悠真はその大事な話を俺にしなかったんだ? 話しにくい事なのか?

「実は…将来の話なの」

「霞と俺が結婚するとか?」

どうせそんな感じの話だろう。

「それはもう決まってる事じゃない!! ボクはあっくん以外の人と結婚するつもりなんて無いから!」

違うのか……。

「じゃあダブル挙式をするとか?」

「あっ、それも面白そうね。今度2人に相談してみよっか?」

「……はい」

うわぁ…余計な事しちまったな。あの2人が断ってくれるのを望むぜ…。

「で、結局どんな話なの?」

「実は…ボク達に子供が産まれたら、その子達を許婚にしないかって話なの」

…………は?

「何にするって?」

「イ・イ・ナ・ズ・ケ♪」

「許婚って…あの《水をかぶると女の子になったり、パンダになったりするような、ふざけた体質になる池が中国にある》っていう設定の漫画に出て来るあの許婚!?」

「そうだよ♪ あの《ら〇ま1/2》に出て来る許婚」

折角俺が遠回しに表現したのに……

「何でまた急に?」

「え? 色々な都合上♪」

誰の都合だよ……

「ま、それは冗談として許婚の事はどう思う?」

「まだ産まれてくるかもわからないし、例え産まれてきたとしても本人達の意思を無視するのは…」

「だって許婚はそういう物じゃない♪」

……よく考えたらそうだな。

「俺は本人達の気持ちを考慮してあげられるようにするなら良いと思うよ」

「どういう事?」

「俺達はきっかけを作るだけで、その後は本人同士に任せるって事だよ。もしその子達が嫌がった場合に強制するのはいくら何でも可哀相だからな」

「そうだね。その方がいいかも」

「それに、もし同性の子しか産まれなかったらどうするんだ?」

「そこはちゃんと考慮してくれるわよ♪」

「…誰が?」

「内緒♪」

……ここは深く掘り下げるべきじゃねぇな。俺の存在そのものに関わってくる。

「まぁいいとして…その話は誰が考えたんだ?」

「ボク♪」

「そうですか…」

予想通り過ぎて逆に反応に困る。

「3人で居た時にボクが『いつもあっくんの事ばっかり考えてるから、このままだとあっくんの子供が出来ちゃうかも♪』って言ったの。そこから話が弾んでね」

どう弾んだんだろ…。すっげぇ気になる。


「あっくん」

「何?」

「ボク、あっくんとの子が欲しい」

「…は?」

「やっぱり女の子は大好きな人の子供が欲しいんだよ。それがボクの場合はあっくんなの♪ 本当は今すぐにでも欲しいもん」

すっげぇ目がキラキラ輝いてる……。恋する乙女そのまんまだな。

「今すぐ…は無理だけど将来一緒にいることが出来たらその時に、ね?」

「うん♪ カワイイ赤ちゃんだろうなぁ〜〜」

いや、気が早いって。俺達まだ16歳だから。まぁ今の霞さんに何を言っても無駄かな。









 ・
  ・

夏祭りってのは独特だよな。女の子は結構な人が浴衣を着てるし、普段だったら絶対痛い人にみられるのに、お面を後ろに付けてても何も言われない。戦隊ヒーロー系のお面を付けてる俺の彼女さんみたいにな。

「いらっしゃい! いらっしゃい!! おっ、そこのねーちゃん! りんご飴はどうだい? 彼氏のあんちゃんと2人で1個を食うなんていいと思うぞ?」

おい、出店のおっさんは余計な事を言うな!

「おじさんナイスアイデア!! 1個頂戴♪」

ほら! こうなっちまうだろうが!!

「ねーちゃんはかわいいから200万円の所を100円にまけてやるよ!」

「おじさんありがとう♪」

「ヘヘッ! 気にすんな!」

いい年したおっさんが鼻の下を伸ばしてんじゃねーよ!! 後ろで奥さんが青筋たててるぞ?


「甘くて美味しぃ〜。はい、あっくん」

「俺も食べるの?」

「ボクが口を付けた物は食べたくないの……?」

「い、いや…だって今から焼きそばとか、タコ焼きとか食べるでしょ? 口の中が甘いと変な味になっちゃうし……」

「そういう事は早く言ってよねぇ〜。少し食べちゃったじゃない」

と言いながら『プゥ〜』と頬を膨らませる。つ、つついてみてぇ……


「あ、あっくん…何してるの?」

「…え? ああっ! ごめん!!」

左横にいる彼女の頬をいつの間にか突いてた。無意識の内の行動だったな…。

「どうして突いたの?」

「い、いや…かわいいなぁ〜って思って……」

「ホントに!? 本当にそう思ったの!?」

「まぁ…。そうじゃなきゃあんな事しないし」

「嬉しい♪」

その言葉と同時に、お約束通り俺に抱き着いてくる。

「ちょっ…人がいっぱい居るし、浴衣も崩れちゃうから抱き着くのは……」

人の目が生暖かいんだけど…。主に俺に対して。ふっ…いつでも損をするのは、釣り合える男が居ない程の美少女と付き合っている俺なのさ……。

「浴衣はそんな簡単に崩れないよ。初めてあっくんがかわいいって言ってくれたんだもん。そんな簡単に離れられないよ♪」

「後でいくらでも言うから今は離れて…?」

「そんな安売りの言葉じゃ嫌! 心がこもってないとダメなの!!」

そりゃそうかも。心がこもって無い言葉なんて、発する意味が無いしな。

「わかった。絶対そんな事はしないから、まずは離れて? 今は祭りを楽しむ時だから」

「わかったよぉ…」

ふぅ…どう考えてもバカップルだな。もう慣れたからいいけどさ。


「じゃあ先ずは何を食べる?」

「焼きそば♪ おじさ〜ん! 焼きそば下さ〜い!」

切り替え早過ぎ!!

「ま、待って!」

そんなに急がなくても焼きそばは逃げないから!!

「おっ、お嬢ちゃんかわいいねぇ〜。大盛りと割引どっちがいい?」

まさかの選択制!?

「彼氏にいっぱい『ア〜ン』出来るよう大盛りにして♪」

「よしきた!! お嬢ちゃんも青春してるねぇ〜」

「勿論♪ 日本一のラブ×2カップルよ♪」

「そこは世界一って言わないと駄目だぜ? ほらよっ!200円な」

焼きそば屋のおっさんがそう言いながら、大量に入れ過ぎたせいで入れ物からはみ出している焼きそばを霞さんに渡したが……おっさん、看板には350円と書いてあるぞ? 選択制にした意味はあるのか?

「おじさんありがとう♪ 将来私達の子供が来た時もよろしくね?」

「まかしとけ! お嬢ちゃんの名前は?」

「『天領霞』よ♪」

「霞ちゃんか。将来もいいが、来年もよろしくな!」

「うん♪」

何でこんな短時間で仲良くなってんだ? これも『学園のアイドル:朝比奈霞』の力か? 此処は学校じゃねぇけど…

「何で『朝比奈』じゃなくて『天領』にしたんだ?」

「だって私達の子供の名字は『天領』でしょ?」

「まぁそうなるかな」

「なら、の〜ぷろぶれむじゃない♪ それより焼きそばを食べよ? 早く食べないといい場所で花火が見れないわ」

「それなら心配いらないよ。他に誰も来ない、特等席がある場所を知ってるからな」

「本当に? さっすがあっくん!! ご褒美にア〜ン♪」

「ご褒美ってなんか違っ…」

「ア〜ン」

「……グフッ…」

無理矢理ねじ込まれた。……確か前にも同じ事があったな。

「まだまだいっぱい有るからねぇ〜」

あのおっさん入れ過ぎだっつーの!! 俺を殺す気か? 《死因・美少女に「ア〜ン」されて、幸せ過ぎ+焼きそばを食い過ぎたから》で。絶対TVのトップニュースにあがる。《男子高校生 死んだ原因がアホらしい!?》みたいな? ぜってぇ嫌だ。ただの恥さらしじゃねぇか。


「次はあっくんがボクに『ア〜ン』して♪」

「え?」

「それとも、ボクが口移しで食べさせてあげようか?」

いくら周りに人がいない所へ移動したと言っても、それは流石にどうかと思うぜ?だから迷いなく…

「前者で」

「はい、割り箸♪」

もう後戻りは出来ないんだよね?…今更こんな事で悩んでる俺もおかしいな。散々恥ずかしい事してるんだから。

「はい、ア〜ン」

「ア〜ン」

やべぇ…めっさかわいい……。俺のキャラが崩れてる気がしないでもないが赦してくれ。

「美味しぃ〜♪ とっっっても美味しいよ♪」

「それはよかった。作ったのはあのおっさんだけどな」

「それは気にしないの。あっくんは焼きそばとボクだったらどっちが美味しいと思う?」

は!? その唐突すぎる質問は何?

「発言の意味がわかんないんだけど……」

「わかってるくせにぃ〜。自信無いけど、たぶんボクは美味しいよ? あっくんが毎日でも食べたくなるくらいにね♪ 早くあっくんに食べてもらいたいなぁ〜。あ、でもおかわりは1日2回までね?」

美味しいって……そんな発言していいの? それに自信ありありじゃないっすか。

「……また今度な」

「うん♪ 約束ね♪」

あ〜あ…約束しちまったよ……。まぁその時はその時だな。











 ・
  ・

「あっくん、まだ着かないの? もう歩いて10分位経つよ?」

トラウマになる位に焼きそばを食べた(ほとんど俺が食った)ので、俺達は誰にも邪魔されずに花火が見れる穴場にむかっている。
……今回《穴場》が多くね? 気のせいか?

「まさかボクを襲う為に此処へ連れて来たんじゃ……。初めてがこんな場所なんて嫌だよ…。出来たらあっくんの部屋がいいな…」

問題はそこじゃないだろ!!

「もうすぐ着くから、あと少し頑張って」

「本当に?」

「うん。あ、あったあった。あそこだよ。あのベンチのある所」

そう言いながら小高い丘の頂上を指差す。

「へぇ〜。こんな場所にベンチなんて有ったんだ。今まで気付かなかったよ」

「元々知ってる人が少ないからね。俺がこの場所を知ったのも2〜3年前だから」

その時俺は中学生にもなって迷子になってたんだけどな。《禍を転じて福となす》だ。

「でも、何で2人掛けベンチ1つしか置いてないんだろう?」

「早い者勝ちなんじゃないか? それとも、あまり数が多過ぎるて人が集まると良い雰囲気が壊れるからとか」

「ん〜どうなのかなぁ〜『ヒュ〜……ドン!!』…あっ!! 始まっちゃったみたい! ほら、早く早く!!」

「ひ、引っ張らないで……」

腕を引っ張ってベンチまで連行され、座らされた。


「わぁ〜綺麗だなぁ〜。ね、あっくんもそう思うでしょ??」

「あぁ、綺麗だな」

ここで『君の方が綺麗だよ。』という台詞を、今横に居る彼女は求めているのだろうが、自分からそんな歯の浮くような台詞をはける度胸など俺にはない。



……チラッと霞さんの方を見てみる。

「綺麗だなぁ〜」

そんな素直な感想を、何1つ偽りの無い笑顔で発する事の出来る彼女の横顔が1番美しいし、綺麗で美人だと思う。
外見が美しいのは勿論だが、何かこう…彼女の纏っている空気とか雰囲気といった物が誰よりも輝いて見える。そして…眩し過ぎる。



「霞……」

気が付くと、いつの間にか彼女を抱きしめていた。

「あっくん? どうしたの?」

さっきまでの明るい声とは違い、何かを心配するような声だ。たぶん俺の雰囲気を感じたんだろう。

「やっぱり俺と貴女とじゃ釣り合わないよ」

「……え?」

「俺にとって貴女は眩し過ぎる。何もかもが」

「…そう」

「だから…」

「だから…だから何!? 別れるとか一緒に居られないって言うの!?」

「………」

「イヤ! 絶対に嫌!! そんなの赦さない!! ボクは一生あっくんの傍に居るって決めたの!!」

「…だからそれじゃ駄目なんだよ」

「あっくんはボクじゃ嫌なの!? ボクと一緒に居るのが嫌!?」

「……必ずしも俺が望んでる事と選択肢の正解が同じじゃないんだよ」

「正解なんてまだ出来上がっても無いよ!! ボク達の進む未来みちが正解になるの! だからボク等は一緒に居るんだよ!!」

既に彼女の目からは大粒の涙が流れ落ちている。そして、その涙さえも輝きを放つ。

「それはドラマや漫画だけでの話。貴女は望めば何でも手に入る。与えられるだけじゃなく、自分の力で手に入れる物も含めてね。俺は足枷あしかせでしかないんだ。頭の良い貴女ならわかるよね?」

「わかるわけないじゃない!! ……赦さない! 君がボクから離れていくなんて絶対に赦さない!! ボクの何処が嫌なの? 頑張って直すから!」

「全部」

「!!」

俺の言葉に彼女の表情が驚愕で一杯になる。

「気付いてないの? 貴女の行動は全てが人を魅き付ける。勿論俺も例外じゃなく。だからいつか本当に離れる事が出来なくなる前に、ね? 今なら引き返せるから」

「………」

「じゃあ俺は帰るよ。送ってあげられなくてごめん。気をつけて帰ってね?」

そう言って立ち上がり、丘を下り始める。


……これでいい。彼女と一緒に居るようになってから、ずっと悩み続けた事の答が出た気がする。
俺が1人で生きていけばいいんだ。例え彼女の気持ちをもてあそんだと言われようが何と言われようが、彼女の足枷とわかっていて一緒に居るよりはマシだ。

悠真と杏奈さんにも謝らないといけないな。散々迷惑掛けた結果がこれだもんな。




『ダンッ!!』

「!?」

え?何で視界が反転して……

「バカッ!! バカ! バカ!! 散々自分の言いたい事だけ言ってさよなら? ふざけないで!!」

海の時みたく後ろから押し倒され、仰向けにさせられた俺の上に彼女が覆いかぶさるようになっている。地面が芝生でよかった。コンクリートだったら、頭を打って死んでた。っと、こんな場違いな事を考えてる場合じゃない。

「『俺は足枷でしかない』? 笑わせないで! 足枷に成る程、君はボクに心を開いてくれた?」

「………」

「『今なら引き返せる』? 誰が何処へ引き返すのよ!!

「………」

「『俺の望んでる事と選択肢の正解は違う』? 男なら『正解にしてやる!』ぐらい言ってよ!!」

………。

「……言えたらこんな事にはなってない」

「……そう。よくわかったわ」

「そうか」

やっと終わった。これでようやく終止符を……

「!?」

何故キスを?別れのキスか?

「あっくん……あっくんの本心を聞かせて?」

「だから俺は……ッ!?」

またキスを…。このキスに何の意味があるんだ?

「ねぇあっくん? たまには我が儘言ってもいいんだよ? あっくんはいつも人に気を使ってるよね」

「そんなことは…」

優しい、包み込むような声に流されそうになる。

「あるよ。ボクはずっとあっくんを見てるからわかるの。人に合わせるのも大事だけど、たまには自分の好きに生きないとおかしくなっちゃうよ? ボクは大好きな人がそんな風になっちゃうのが嫌なの。だからそんなボクの我が儘をきいて? ボクはあっくんに何でも話して欲しいんだ」

「………」

「あっくん?」

「…好きな人と好き好んで離れる奴なんか居ない!」

「うん」

「離れた方が良いって頭で考えてても身体がいうことをきいてくれないんだ!」

「うん」

「我が儘…言ってもいいのか?」

「うん。だからボクはあっくんの傍に居るんだよ」

………。

「……出来る事なら、俺は霞と一緒に居たい。でも、それ以上に貴女には幸せになって欲しいんだ。だけどそれは俺じゃ叶えられない。俺は人を幸せに出来る男じゃないんだ」

「そう思ってるのはあっくんだけだよ? ボクはあっくんと居ると、とっても幸せだし、周りの皆もボクが1番いい笑顔してるのはあっくんと一緒の時だって言ってた」

「……本当に?」

「本当だよ。だからボクといつまでも一緒に居て? ボクはあっくんを愛してるんだから。あっくんはどう?」

「俺は…誰よりも霞と一緒に居たいと思ってる。それを『愛してる』って言うなら、俺は霞を愛してるんだろうな」

「ふふっ♪ 素直じゃないんだから」

「呆れた?」

「ううん。あっくんが思った事を素直に話してくれないのは、今に始まった事じゃないもん。でも、これからボクには何でも話してね?」

「ああ、わかった」

「ふふっ。よかった♪ じゃあベンチに戻ろ? もうすぐ花火も終わっちゃうよ」

「そうだな」

そんな会話をしながら立ち上がってベンチに戻り、2人で肩を寄せ合いながら座る。




「あっくん、綺麗だね?」

「ああ」

とても綺麗だ。花火も。霞も。





「あっくん」

「何だ?」

「大好き♪ 愛してる♪」

「ああ、俺もだ」















この数年後、俺&霞夫妻は男の子(更に数年後に女の子も)、悠真&杏奈夫妻は女の子を授かる事となる。
どうもakishiです。

《朱実編》やっと終わる事ができました(たった2話ですが、1つ分が長かったので…)。番外編であまり文字数を使えなかったので、展開が早過ぎたかもしれませんが、そこはどうかお許しを…。

考えてみたら、朱実君は綺羅君と太陽さんが出会った時にもう亡くなってるんですよね…。少々…というか、かなり残念です(そうしたのも作者なんですが…)。かといって《実は朱実君は生きてる…》という設定も無いので、もう本編で彼が登場する事も無いでしょう。ただ、後書きでの出番を打診(?)しているので次回の後書きにご期待下さい。

次回から再開する、綺羅君と太陽さんの物語もよろしくお願いします♪


P:S 今まで感想を下さった方、遅ればせながら返信させていただきました。色々と忙しかったというのもあるんですが、本当に申し訳ありませんでした。


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