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一直線の強欲  作者: icemea
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第四話 人殺し 中編

「何がおかしい、悪魔!」

「いや、余りにも愉快すぎて笑わずにはいられないよ。そして、神の犬よ。お前は今こう考えているのだろ。今なら俺を殺せると」

 悪魔の言う通り、今なら悪魔を殺せる。悪魔は不死ではない。だが、人間以上の力と生命力を悪魔は持っているため人間に悪魔を殺すのは不可能とされる。しかし、例外が二つある。一つは人間が悪魔より強い力を持っていること。もう一つは悪魔が弱体化して人間と同等になること。そして、契約者を倒した今、私と悪魔は同等か悪魔の方が少し上って程度になった。召喚者と契約した悪魔は召喚者と一部の力を共有する。力を共有するから契約者の力は強くなり、悪魔は通常通りに力を使える。だが、契約者はただの強くなった人間であり殺すことは可能であり、契約者を殺すと共有していた力が悪魔から少しの間だけ失われ、悪魔は人間と同等になる。

「それが面白すぎてな。なあ、召喚者さんよー」

「ああ、そうだな。でも、俺を除け者にしているのはつまらないな」

 声のする方には死んだはずの馬鹿魔術師がいた。馬鹿魔術師は心臓から血を流しながら言う。

「別に不思議じゃないだろ、神の犬。俺は神の敵だ。この世の摂理から外れて不死になっていてもおかしい話ではないはずだ」

 口にしながら、馬鹿魔術師は杖を構える。杖は先端部分に赤い宝石、おそらくガーネットをつけた一般的な杖。術者の力を増幅する火属性の杖ってところだろう。

 そして、その杖を横に振るう。杖の先端、宝石の軌跡の上にいくつかの球状の黒い炎、黒炎球こくえんだまが出現する。そして、それらは私に向かって放たれる。

「無詠唱魔術!」

 回避も対向術も間に合わないので十字架を掲げて、神力を込める。私が神力を込めたことで十字架に込められた防護術が発動する。だが、この防護術は緊急回避のためだけに使うので神力の消費量も多く、攻撃を完全に防ぐことができない。

 防護術を発動させながら、馬鹿魔術師の魔術を自己嫌悪しながら解析を開始する。


 魔術の解析をする時、いつも自己嫌悪してしまう。神術師が魔術師の術を解析できるのは神術師と魔術師は言葉が違うだけで同じ存在だからである。神術師が神術を使うために神力という世界に存在する力を使う。そして、魔術師も同じ力を魔力と言い使う。

 だから、教会が魔術師を神の敵だと言おうと、私は魔術師を神の敵と認識することをしない。私は、人間として人間を殺す。私の願いを叶えるために。


 無詠唱魔術には驚いたが、別に脅威になるというわけではない。術も黒炎球を直線の軌道で飛ばすだけなので簡単に回避ができる。だが、黒炎球の数が多い。回避は可能だが黒炎球が壁にもなり、私が接近することを阻む。

 簡単に殺せる馬鹿魔術師だと思ったが、その認識を変える。こいつは馬鹿だと思っていると私がやられてしまう。

 攻撃を回避しながら、神術を構築する。だが、この状況では小技の神術しか使えず、それすらも黒炎球を一個消すのが精一杯だ。

 しかし、対抗策がないわけではない。壁を消すことができないならば、壁を通れるようにすればいいだけの話。そのためにはこの術を解析し、対抗防護術を構築しなければならない。それぐらいなら、この状況でもできるはずだ。


 室内には悪魔の笑い声が響き続ける。悪魔の笑い声は何故か私を不愉快にさせる。声自体は大きくなく、微かに聞こえるって程度だ。それでも、耳に届き私を不愉快にさせる。

 不愉快な状態で解析を続ける。本当は落ち着いた状態でした方効率良く解析できるのだが、悪魔の笑い声を聞きながら精神を落ち着かせるのは私には無理だ。ならば、逆にすればいいだけの話。この不愉快な気持ちを魔術師と悪魔にぶつけることを考え、解析を続行する。

 魔術師が馬鹿の一つ覚えのように杖を振るい、私がそれを回避しながら解析を続ける。そんなつまらない光景を悪魔が笑う。どうして悪魔が笑うのかわからない。だが、その笑い声は私を凍りつかせた。


「……くっ、どうして?」

「いいねー。その顔、すごくいいねー。最高だよー。起きた現実を理解できず戸惑うその顔」

 魔術師が私の顔を見て狂った様に笑う。さぞかし滑稽なのだろう、私が起きた現実を理解できずに苦しんでいる顔は。私だって滑稽だと思えてしまうので仕方が無い。

 魔術師に笑われるが嫌ならば現実を受け入れ解明すれば言いだけの話だ。笑う魔術師に対する怒りを笑われる自分に向け現実の解明を急ぐ。

 二つの魔術を同時使用。それが、魔術師の行った不可能な行為。通常、人間は二つの作業を並列は可能だが同時に行うなど不可能。それは魔術でも同様。魔術師は無詠唱で杖を振るうだけで黒炎球を作り、それを私に放つ。放たれた黒炎球を操作するのは可能だが、魔術師は黒炎球を直線に放ち、すぐに杖を振るう。この時点で放たれた黒炎球を操作するのは不可能なはず。操作するというのはその間制御し続けるということだ。だが、新しく黒炎球を作るということは放った黒炎球の制御を解くと言うことだ。

 制御の解かれた魔術の再制御はできるのだが、難易度が高く意味が無い。自分の制御下を離れた魔術は空気中に存在する魔力と反応し制御していた時と魔力の構成が違うから仮に再制御するならば魔術の解析から始めなければいけない。要するに、制御を解いた魔術は他人の魔術と同義であり再制御は他人の魔術を奪うということだ。正直な話、そんな行為をするならば最初からやり直した方が手っ取り早い。このことは神術でも同じ話だ。

 これは常識の中の話。だから、魔術師の行為を不可能だと考えてしまう。ならば、理論上可能な話、非常識の話を考える。思えば、魔術師は既に非常識なことを実行していた。不死など不可能な話。だが、魔術師は心臓を刺されたにも関わらず生きている。

「……生きている?心臓刺されて?」

 喋る暇など無いのに何故か呟く。心臓から血が流れ続けることを気にせず動き続ける魔術師が死んでいるはずない。そう結論付けた時何かが引っ掛かった。

 だが、それも魔術師の攻撃を回避している間にわからなくなる。あれ以来、原因不明に黒炎球の軌道を変えてくるから緊急回避の防護術も使わざるを得ない。

「俺の力に手も足もでないか。悪あがきをするのも勝手だが苦しいだけだぜ」

「お前の力じゃなくて、そこの悪魔の力だろ。借り物の力で威張るな」

 言ってから気がつく。この不可解な現実に悪魔の力が関わっている可能性を考えていなかったことに。低位悪魔は人間にできないことはできない。だが、人間が理論上でしか可能でないことはできる。ならば、この不可解な現実は理論上では可能なことではないだろうか。

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