第38話 母の反対2
一週間後の日曜日。
久しぶりに会った愛と私は、カフェでお茶していた。
木製の丸いテーブルには、白い食器に形良く盛られたシフォンケーキと紅茶のセットが置かれている。
「そっか……喜和子。お母さんが反対してるんだ」
愛はフォークを垂直に立てて、シフォンケーキを切り分ける。
一口分をフォークに突き刺し、小脇に添えられた生クリームをすくうと、一気に口にほおばった。
「うん。母ったらね、マスターの話題になると、途端に表情をこわばらせちゃって……」
それだけ言うと、私は紅茶を一口のみ、ソーサーに戻した。
「喜和子が嫁ぐのが寂しいんじゃない?」
「それもあるんだろうけど……、マスターが一回りも年上って言うのが気に入らないのよ」
「喜和子のお母さん。厳しそうだもんねー。うん。まぁ……ちょっとマスターだと年齢高いかな?」
愛は、窺うように言った。
「ああ。ちょっとなんて、気を使わなくていいよ。でもね。父も母より8歳上だったんだけどな」
「喜和子。12歳差でしょ……一桁と二桁の差は……」
それを言われると……。私は頭を抱え込んだ。
「別にさ。いいと思わない? バツイチで子持ちだとか不倫の末にとかで、反対するならわかるけど。歳がいってるのは、マスターの責任じゃない!」
母は、マスターの何にもわかってないくせに。
年齢だけで、だめだと言われるなんて、理不尽すぎる。
私の語りが自然と熱くなっていたんだろうか。
愛がしみじみと言った。
「喜和子。前にハンバーガーショップで話してた頃と比べたら、すごい変化だね……」
「え?」
「あの時は、もしかしたら好きかもなんて言ってたレベルだったのに。もう結婚? まさか喜和子とマスターがここまでの関係になるなんてね」
「あ……そっか」
オークションだ何だと言ってた頃からだいぶ経つように思えるけど、それが去年の12月の話。
今は2月の頭。
そうだよね。
すごいスピードだ。
自分だってこんな状況、意外だと思う。
愛は、また一口シフォンケーキを口に入れると、紅茶を飲んだ。
「喜和子。頑張れ!」
あとは、何も言わずに私を見て微笑んでいる。
「うん……。頑張る」
反射的にそう答えていた。
そうだよね。なんとかマスターとの事を許してもらうよう、母を説得するしかない。
あれこれ無責任にチャチャ入れられるよりも、愛のその一言がものすごく心強かった。
***
マスターには、定期的にメールしていた。
その内容のほとんどは、今日あった事とか他愛もない事だけど。
メールの交換は、恋人としてのもの。
また初茶会以降は茶道教室のたびに香織さんと喫茶『黒薔薇』に寄っていた。
その時の私は、あくまでお客さんの立場。
最初は、マスターと香織さんと3人で顔をあわせてどう振舞っていいのか、悩んでいたけれど。
実際3人で会ってみると、心配したほどじゃなかった。
不思議なことに気持ちが茶道教室モードになってしまうのだ。
しかも、回を重ねる毎に慣れてきて。
さほどに緊張しないものだって思った。
一人の時は、これでいいのかしら……って、香織さんを欺いていると言う後ろめたい気持ちが付きまとう。
その一方で、男女の仲なんて個人的なこと。
ずっと上手くいく保障もないんだから、親が認めて婚約成立するその時まで、黙っているものだと言う気持ちもあった。
本当は、母さえ認めてくれるならば、今すぐにでも香織さんに言いたいと思いながら。 |