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ばけものがかり

作者: てこ/ひかり

『最恐!本物が出る!?恐怖のお化け屋敷・リニュアール=オープン!』


 そんな謳い文句を掲げ、寂れた遊園地の一角にある、古ぼけたお化け屋敷が改装された。以前はあまりに時代遅れの小道具やセットに、屋敷を訪れた観光客からの評判は頗る悪かった。だが、遊園地の再興を掛け、オーナーである私自らが指揮を取ったのだった。


「お客様、来ますかねえ…」


 受付で、アルバイトのミヨちゃんがあくび混じりに言った。私は渋い表情で、三角頭巾を被りながらたしなめた。


「大丈夫だ。今回は私もお化け役をやる」

「だからこそ、不安だなぁ…」

「何を言うか。私は昔から人を楽しませることが大好きで…特にお化け屋敷には、強い思い入れがあるんだ」


 そう宣言する私を、ミヨちゃんは疑い深げな眼差しで見つめた。そんな彼女を尻目に、私はお化け屋敷の最奥、持ち場の位置にスタンバイして開園を待った。


 だが、やはり現実は厳しいと言ったところか。昨日と比べても、客は多いとは言えなかった。ましてや古びたお化け屋敷に入ろうというもの好きは、滅多にいない。それでも私は諦めなかった。



 私には勝算があった。数時間のスタンバイの後、ようやく一人目の客が屋敷に入ってきた。私は渾身の演技で客の後ろから飛び出し、両手を前に突き出し幽霊のポーズを作った。


 「おおおおおぉぉぉ…!」

 「うわっ!びっくりした…なんだこいつ」

 「お化け…?」


 薄暗い通路でいきなり後ろから声をかけられた客の反応は…最初は驚いてくれたものの、イマイチ芳しくはなかった。私は内心傷ついた。お化けの演技には多少自信があったのに…。変なものを見る目で白装束の私を一瞥し、客は出口へと歩き出した。


 残された私は急いで白装束を脱ぐと、出口の受付で足止めをくらう客の元へと回り込んだ。受付に何気ない顔で登場し、私は訝しげな客に向かってにっこり笑いかけた。


「お疲れ様でした。如何でしたか?当園のお化け屋敷は…」

「え?ええ…あんまりだったけど…最後の変な幽霊だけは驚いた、かな?」

「そうね。白装束を着た…」

「最後?変ですねえ…白装束を着た幽霊なんて、ウチでは雇っておりませんが…」

「「え…」」


 驚く客に私は精一杯とぼけて見せた。そんな馬鹿な…、と狐に抓まれたような表情をしながら、客たちは屋敷をそそくさと出て行った。彼らの後ろ姿を見て、私はほくそ笑んだ。



 上手くいった。屋敷の中は、雰囲気だけであまり怖がるような仕掛けをあえて外しておいた。そして最後の最後で私が白装束で登場することによって、客たちにそれを印象づける。後は出口の受付でちょっとした「手回し」をしておけば…彼らは「本物の幽霊を見た」、と思い込むかも知れない。あわよくばそれがネットなどで拡散され、宣伝効果を生み出してくれれば…。にやにやしながら私は白装束を纏い、また定位置に戻り客の来るのを待った。



 結果は、大成功だった。客の数自体は少なかったものの、皆が皆信じきっていた。出口にたどり着いた客は口々に「白装束の幽霊だけは印象に残った」と不満げに言い、「そんなものいませんよ」と言う私の言葉を信じ、大いに驚いて出て行ってくれた。閉園後、私は大満足で入口に居たミヨちゃんの下に駆け寄った。


「お疲れ様!いやあ、こんなに面白かったのは初めてだよ。特に最後のお客様なんか…」

「お客様?」


 受付のカウンターで、ミヨちゃんが不思議そうに首を捻った。



「変ですねえ…今日もお客様、一人も来ませんでしたけど…」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミヨちゃんのいじわるぅ! [一言] ……では、ないのですか? ひぃっ!
[一言] アイデアが秀逸ですね。最後のオチにはあっとさせられました。面白かったです。
2015/10/18 16:28 退会済み
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