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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第五章 盗賊メリペの遺産

 たまに推理小説なんかを読んでいると、めちゃくちゃ凝ったダイイングメッセージとか、やけにこだわりを持った宝の地図とかを見つけることがある。
 物によってはうまく理由付けをしている場合もあるが、冷静に考えると死の間際にそんなトンチの利いたメッセージ残せるかなとか、自分用のメモにそんな凝った地図とか描かなくてよくないかとツッコミをしたくなることもある。

 それをゲームでやっちゃったのが、この『New Communicate Online』のクエスト、『盗賊メリペの遺産』である。

 仲間を裏切って財宝を持ち逃げしたメリペは追手にかかって殺されるが、どれだけ探してもメリペが盗んだはずの財宝は見つからなかった。
 ひょんなことからメリペが残した手記を手に入れた貴方は、そこに残ったヒントを頼りに財宝を探す。

 みたいな話の流れになる。
 まあよくある感じのあれである。


 ただ問題なのはこのクエスト、三つのダンジョンをたらいまわしにさせた挙句、最終的に、『なんと財宝はメリペの家の庭に埋まっていたのだ!!』という青い鳥もびっくりのオチが待っているということだろうか。
 自分ちの庭に隠したのに何でわざわざ地図書いたんだよ! お前本当は誰かに財宝探してもらいかたったんだろ! とか、メリペの財宝探してた奴も庭くらいちゃんと調べろよ! とか色々言いたいことはあるが、今回ばかりはそれに感謝したい。

 ――実は、そのメリペの住んでいた家というのが宿屋のすぐ裏手にあるのだ。





「ここ、だよな?」

 俺は、ゲームで見覚えのあるその庭までやってきた。
 夜間に訪れたことはなかったので少し感じが違うような印象を受けるが、たぶんここで合っているだろう。

 『New Communicate Online』では基本的に特別なイベントでもない限り、地面を掘ったり壁を壊したりなどの行動は出来なくなっている。
 『盗賊メリペの遺産』についても、ゲームでは三つのダンジョンでヒントを見つけ、きちんとイベントフラグを立てないと庭を掘ることは出来なかったが、ここは現実世界。
 そんな制限はない、はずだ。

「確か、木の根元の……ここか?」

 当たりをつけた場所に、剣を突き刺す。
 すぐにカツン、という固い感触があった。

「これは、当たり、か?」

 内心の興奮を隠して、剣と素手を交互に使って埋まっている物を掘り出していく。
 しかし今の俺を客観的に見れば、こんな暗い中、人様の家の庭で地面を掘り返している男。
 これはもう抜群に怪しい。
 かなりの不審者だ。

 イベントをスキップしてズルをしている後ろめたさともあいまって、俺はなんとなく悪いことをしているような気分になっていた。
 早く終わらせてしまおうと、必死になって地面を掘る。
 土は思ったよりも固く、掘り返すのは苦労したが、埋められていた場所が浅かったのが幸いした。
 ほんの数分後、俺の前には黒い金属製の箱があった。

「へ、へへ、やった……」

 大して何もやってないのだが、凄いことをやったような気分になった。
 辺りを見回す。
 幸いにも見ていた者は誰もいないようだ。

 そっと、箱に手を伸ばす。
 結構ずっしりとした重量があった。
 このイベントは中盤くらいで発生するはずのものだ。
 中身もかなり期待出来る。

 念には念を入れるべきだ。
 もう一度、辺りを見回した。
 誰も見ている者はいないようだ。

「こっそり見張られてるとか、ないよな?」

 俺の今の能力はお世辞にも高いとは言えない。
 それなりの腕を持つ盗賊にでも狙われたら、正直勝ち目はない。

 いや、このメリペの事件があったのは、作中時間で50年以上前だったはずだ。
 そもそもこの財宝の存在を知っている者も、この箱の所有権があるような者もいないはずだ。
 誰も見張っているはずがないし、これが財宝であると分かる人間もいないはずだ。
 もう地面を掘っている訳ではないし、怪しさだってずいぶんと少ないはずだ。
 うん、何も問題ないはずだ。

「大丈夫、大丈夫」

 何も心配ない。
 怯える気持ちを完全に振り払った俺は、余裕の表情で辺りを見回した。
 やっぱり、誰もいない。
 俺は素早く黒い箱を抱え込んだ。

 まあ備えあれば憂いなしだ。
 最後にもう一度だけ辺りを見回し、誰にも箱が見つからないように、箱をみぞおちに押し込むように持ちながら、俺は前かがみになって小走りにそこを歩き去った。
 もしかしてこれ、余計に怪しく見られるんじゃないかと気付いたのは、宿に帰りついた後だった。




「おう! 坊主帰ったか! 今日の夕食は……」
「すみません! 後にしてください!」

 宿の主人が声をかけてくるのを振り切って、箱を抱えたまま部屋に入った。

 大した運動をした訳でもないのに息が切れている。
 前に真希が、学校に何かの行事の費用だかで二万円を持っていた時、通学中、会う人全部が泥棒に見えたとかいう話を思い出した。
 その時はたかが二万円ごときで何をビビッてるんだと思ったが、今はその気持ちが分かるような気がした。
 いや、俺はそこまでビビッてはいないが、まあほんの一割ほど気持ちが分かったということだ。

「よ、よし…!」

 黒い箱をベッドに置いて、俺はその前に陣取った。
 箱を無事に入手することに成功したが、それだけではまだ半分だ。
 真っ黒なその箱の真ん中にはダイヤル式のロックがかかっていて、正しい数字に合わせなければ箱を開けることが出来ない。

「やる、か?」

 番号ははっきりと覚えている。
 12076。
 メリペの遺産クエをやった時に何度もつぶやいていたおかげで暗記してしまったのだ。
 ただ、問題は……。

「間違えると、やばいんだよな」

 間違った番号を入力して箱を開けようとすると、高圧電流が流れて大ダメージを受けるのだ。
 今の段階でそんな物を喰らったら即死間違いなしである。

 だが、せっかく取ってきた物であるし、他人に相談して奪われても困る。
 俺は腹をくくって番号を合わせた。

「…1…2…0…7…6」

 数字を合わせて、終わったら更にもう一度確認する。
 1、2、0、7、6。
 よし、間違っていない。
 数字がズレて、中途半端になっているなんてこともない。
 これで何も問題ないはずだ。

「開け、るか?」

 両手で箱の両側を持つ。
 これで俺が手を上に持ち上げるだけで箱が開く。
 あるいは俺がこんがり焼ける。

 いや、そんなことは起こらない。
 数字が合っているという自信はある。
 ちょっとこの箱を開けるだけで、メリペの遺産は俺の物だ。

 箱をにらみつける。
 12076。
 数字は変わらない。
 これでいいはずだ。

 いや、本当にこの番号で合ってただろうか。
 実は12067だったりはしないだろうか。
 いやいや、そんなことありえない。
 あんなにしっかりと覚えていたじゃないか。

「ふぅー」

 一度箱から手を放す。
 手についた汗をぬぐって、深呼吸。

「よし、いける!」

 そう言って自分に気合を入れる。
 剣か何かで開けようかとも思ったが、すぐにやめた。
 電流なら剣では無駄だろう。
 第一、数字は合っているという確信があるのだから、あとは俺の度胸の問題だ。

 大丈夫。
 この箱はゲームと同じ場所にあった。
 パスワードだって、同じに決まってる。

 俺は覚悟を決めて、両手に力を入れて――



「なぁ坊主! 夕飯が――」
「うへぁあ!!」



 後ろからかけられた声に飛び上がった。
 振り向くと、ドアから顔を出した宿の主人が目を丸くしていた。

「な、なんて声出してるんだよ。
 びっくりするじゃねえか」
「な、んな…っ!」

 口がぱくぱくするだけで、すぐに声が出なかった。
 びっくりするじゃねえかと言われたが、びっくりしたのはこっちである。
 心臓が飛び出るかと思った。

「の、ノックくらいしてくださいよ」
「え? ああ、悪い悪い。
 鍵かかってなかったから、つい、な。
 あー、夕食が出来たから呼びにきたんだが……」

 つるりとした頭を撫でながらそんな風に言われ、俺も毒気を抜かれてしまった。
 そういえば、夕飯付きだと言っていた。
 色々と確認していなかった俺にも非はあるかもしれない。

「……分かりました。
 すぐ行きますから、下で待っていて下さい」
「おう! 今日の客はお前ともう一人しかいないから、すぐ来いよな!」

 どんだけ流行ってないんだよ、この宿屋。




「……よし」

 宿屋の親父が部屋を出て行き、階下に降りて行ったのを確認すると、今度こそ俺は部屋にしっかりと鍵をかけ、もう一度箱に挑もうと振り返って……。

「なんて、ベタな……」

 地面に両膝をついた。

 箱は、開いていた。
 後ろから声をかけられて驚いた拍子に、反射的に開けてしまったらしい。
 箱の中を見ると、キラキラと光る宝石や装飾品が見えた。



 ゲーム生活、一日目。

 ――俺は、大金持ちになった。
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