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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第五十七章 六突き

 『猫耳猫』プレイヤーにとって、バグとはありふれた隣人であり、最大の敵であり、そして最高の友でもある。

 俺が今回利用したバグとは、当然その最高の友の方。
 『猫耳猫』史上、もっとも利便性と汎用性に優れたバグと呼ばれ、パッチが出る度に今度こそ修正されたに違いないと言われ続け、それでも結局最後まで残ったバグ。

 ――通称、『死体ノッキングバグ』である。



 クリティカルポイントに攻撃をしてトドメを刺すとそのドロップ率が2倍になるというのは『猫耳猫』の仕様であり、NPCにも周知されている公式設定だ。
 確かに便利な設定だが、モンスターによってはクリティカルポイントが狙いにくい場所にあったり、動きがあまりに速かったりで、充分に活用出来ていないことが多いのも事実だった。

 しかしある時、『連打系のスキルをクリティカルポイントに打ち込んでトドメを刺すと、ドロップ率が跳ね上がる』と主張した人間がいた。
 これが事実であれば、有用なドロップアイテムを持っている相手との戦い方は大きく変わる。
 たくさんのプレイヤーがその検証に乗り出した。

 検証の結果としては、『どうやら正しいが、どういう仕組みでそうなっているのか分からない』というのが大方の意見だった。
 結果が人によってまちまちで、うまく結論が出せなかったのだ。
 ただ傾向として、『攻撃力が高く、連打回数が多いスキルを使った方がアイテムは出やすい』ということだけは分かった。

 しかし、同じ検証をしていたある一人のプレイヤーのとんでもない発言から、事態は劇的な展開を見せることになる。

 いわく、アイテムドロップの検証中、攻撃のタイミングが遅れて相手モンスターが死んだ後(・・・・)に連打スキルが当たったのだが、その時にもドロップ率は上がっているようだった。
 いやむしろ、それから同じ状況を作って何度か検証してみた所、どうも生きている時に当てた場合よりもドロップ率は高くなっていたようだ、と言うのだ。

 その報告を聞いた全てのプレイヤーが「まさか」と言ったが、同時に彼らは一人残らずこうも思っていた。
 (いや、『猫耳猫』ならもしかすると……)と。

 そして、新たな方針の下にふたたび検証が始まる。
 そこで明らかになったのは、驚愕の事実だった。


 そもそも、『クリティカルポイントを狙ってトドメを刺したらドロップ率2倍』というのを内部的にどうやって判定、計算しているのか。
 その答えは、『クリティカルポイントに攻撃がヒット』した時、『ダメージ計算後にHPが0以下』なら『ドロップ率およびレアドロップ率の数値を×2』にする、という物だったらしい。

 ずいぶんと適当だなと思うが、これが普通のRPGや『猫耳猫』以外のゲームであれば問題はなかったのだろう。
 トドメの一撃でHPが0になった瞬間、モンスターの当たり判定は消え、連打だろうがなんだろうが、トドメの時の一回分しかドロップ率補正はかからない。

 しかし、覚えているだろうか。
 『猫耳猫』ではモンスターが死んでもしばらくモンスターの死体は残り、しかもその死体に残っている攻撃の当たり判定によって、プレイヤーが殺されることもある。
 だがそれは逆に、死んだモンスターに攻撃を当てられるという事実も示唆していた。

 そして当然、動いているモンスターの急所を狙うことに比べれば、モンスターの死体のクリティカルポイントを攻撃することは難しくなく、死んでいるモンスターならどんな弱い攻撃を当てても相手のHPは必ず0以下。
 死体のクリティカルポイントを攻撃しても、ドロップ率アップの条件を満たしてしまうことになる。

 また、ドロップ率アップの計算が単純に2をかけるという物なので、ドロップ率は一発当てるごとに、2倍、4倍、8倍と、倍々になって増えていく。
 これが何を意味するのか。

 ――つまりは、『モンスターの死体の急所に連打スキルを当てることによって、アイテムドロップの確率を劇的に上げることが出来る』のである。

 これが、『死体ノッキングバグ』。
 少ないリスクでドロップを増やす、『猫耳猫』プレイヤー御用達のバグ技である。



 さて、この大会ではドロップアイテムが報酬額を、ひいては順位を大きく左右する。
 ここでノッキングバグを使わない手はないだろう。

 俺は最初から、このバグ技を使って討伐大会で優勝する計画を立てていた。
 それについてはゴールデンの討伐大会が決定した時に考えた、


  リンゴの雷撃で足を止めた所を、俺が駆け込んで急所に『六突き』を当てる。
  その作戦で1位を目指しつつ、行けそうならリンゴに少しだけ攻撃を控えてもらって、俺がトドメを刺して俺のレベルも上げる。
  これが最終的な、俺たちの対ゴールデンはぐれノライム向けの作戦である。


 という言葉の通りである。

 もう少し詳しく説明すると、リンゴが雷撃でゴールデンを倒し、死んで動きが止まった所を俺が駆け込み『六突き』でノッキングバグを起こす。
 それによってゴールデンはノライム金貨をほぼ確定ドロップするので、その報酬額で1位を目指すということだ。

 今回は六連撃スキル、『六突き』を使った。
 これで『死体ノッキングバグ』を行った場合、アイテムドロップの確率は2の6乗倍される。
 つまりは2×2×2×2×2×2=64で、元のドロップ率の64倍。
 ノライム金貨のドロップ率は10%なので、バグ技使用時のドロップ確率は640%。
 流石にシステム上、一度に何個ものアイテムを落とすということはないが、余裕で確定ドロップをする。

 ただ最初は見逃していたのだが、討伐大会を勝ち抜くことを考えると、この死体ノッキングバグにはちょっとした欠点があった。
 この技はレアドロップ率も上昇させてしまうのだ。

 レアドロップ判定は通常のドロップ判定よりも前に行われるため、レアドロップ判定が成立してしまうと通常ドロップのノライム金貨が手に入らない。
 ゴールデンのレアドロップ『黄金桜』はドロップ率0.1%なので、死体ノッキング後のドロップ率は6.4%。
 確率的に言えばあと3個くらい落としても全くおかしくはなかったのだが、幸運と言うべきか不運と言うべきか、結局1個しか出て来なかった。


 しかし、計算違いはもう一つあった。
 もちろん、ヒサメの存在である。

 そもそも最初から、討伐数で1位になれるだろうとは思っていなかった。
 ランダム要素が強いとはいえ、これは『猫耳猫』のイベント。
 ヒサメ、とまで言わずとも、それなりに力を持ったキャラが参加していることは想定していたのだ。

 しかしどんなに強い相手でも、1匹当たりの報酬額の違いで乗り切れると考えていた。
 普通は討伐で1匹につき1万、納品でも平均化すると同じくらいもらえるので、合計2万。
 一方で俺たちは金貨を確定ドロップさせるので、1匹当たり討伐1万、納品10万の、合計11万の報酬を稼げることになる。

 相手が普通の倒し方をするなら、こっちが80匹以上倒せば向こうが残りの420匹全てを倒しても届かないので、この時点で勝利確定。
 せめて50匹でも倒せば、向こうは過半数以上である275匹を倒さなくてはいけないので、まず負けはないだろう。
 そんな風に思っていたのだ。

 だが、ヒサメはクリティカルポイントを正確に狙うことによって1匹当たり3万の報酬額を稼ぐ化物だった。
 これにより安全圏は安全圏ではなくなる。
 しかもヒサメの口ぶりから、彼女が過半数を狙っている可能性がにわかに浮上してきた。

 そして、1時間経過時点での俺たちの死体ノッキングバグの成功数は66。
 報酬的にも730万E程度で、ヒサメが過半数を押さえた場合の750万Eにはおよばない。
 そしてその時の俺には知る由もなかったが、実際ヒサメは251匹のゴールデンを倒し、771万Eもの報酬をマークしていた。

 この時、俺たちが大岩のポップポイントを探さなかったら、あるいは、ヒサメが251を越えてもまだ狩りを続けていたら、きっと俺たちは負けていただろう。
 そういう意味ではこれは本当に、『あきらめなかった者の勝利』なのだ。



(うん。実にギリギリの戦いだった)

 俺はリンゴと共に優勝の表彰を受けながら、今回の大会をそんな風に振り返る。

 明らかにおかしな記録でもイカサマだと言う人間がいないのは、この世界が半分ゲームだからだろう。
 きっと、この大会で不正なんか起こらないことが、彼らには分かっているのだ。
 俺の成績の発表の後、驚きのためか一瞬場内は静まり返ったものの、もう一度司会者が俺たちの勝利を告げると、大きな歓声と共に祝福の言葉を投げかけてくれた。

 悪辣極まりないイベントが多い割に、いい人が多いのも『猫耳猫』の特徴だろう。
 ……まあそれすらも製作者の思惑の内で、本人に悪気がないのに最低なイベントを起こされたりするから、さらにプレイヤーは苦しむことになったりもするのだが。

 とにかく、人に褒められるというのは嬉しいことだ。
 俺も自然と笑顔を浮かべ、俺たちに祝福の言葉を送ってくれている人たち、詰まる所、その場にいる全員に手を振り返す。

(……いや、違うか)

 少なくとも、全員というのは正確ではない。
 この場にいるほとんどの人間が俺たちに歓声を送ってくれていたが、最低でも一人、例外はいた。
 その例外というのは、もちろん、

「……ありえ、ません」

 無表情というより、虚脱のあまり感情がどこかへ行ってしまったような顔をして、猫耳をへにゃっとさせて立ち尽くす、ヒサメだった。



 発表が終われば次は賞金の授与になる。
 ただし、1位の俺たちについては額が額だけにここで賞金を渡すのは難しいらしく、バウンティハンターギルドの本部に行って受け取りをしてほしいと司会の人に説明された。

 ゲームにはなかった展開に少し不安を覚えるが、

「きっと向こうの用意もありますから、のんびり来てくださって構いませんからね!」

 この愛想のよい態度からすると、踏み倒されるということはなさそうだ。
 俺たちは言われた通りに少し街を巡り、のんびりとギルドまで受け取りに行くことにした。

「リンゴ。これからお金を使って何をするか、考えておくんだぞ」

 なんて言いながら、街を散策して歩く。

 お金を手に入れたら買いたい物、買わなきゃいけない物が脳内にどんどん溢れ出して、何だか楽しい気分になってきた。
 そうしてずいぶんと回り道をして、バウンティハンターギルドに着いたのだが、

「臨時、休業…?」

 そこには、そんな張り紙がされていた。
 ゲームシステム上、踏み倒しなんてされるはずがないという自信が、大きく揺らいだ。
 だが、通常業務はやっていなくても賞金は渡してくれるかもしれないと思い直し、扉を開いた。

「おっ」

 鍵がかかっているかとも思ったのだが、案に相違して扉はあっさりと開き、中から明かりと複数人のしゃべり声が響いてきた。
 どうやら仕事はしているらしい。

 これなら何とかなりそうだと胸を撫で下ろし、中に一歩を踏み入れて、驚いた。


(な、なんだ!? この唐突かつ圧倒的なアウェイ感!!)


 昼に見た時と比べ、明らかにギルドの中が様変わりしていた。

 『質素倹約』『一日一膳』『欲しがりません勝つまでは』『お金は大事だよ』などと書かれた、明らかに前来た時はなかったはずのポスターがいたる所に張られており、しかもなぜか受付にいるのはおじいちゃん!

「はー。最近めっきり耳が遠くなってねぇー」

 と独り言で耳が遠いアピールをしている。
 また、職場見学なのだろうか、街でよく見かけるような女の子がカウンターの向こうで中年職員に話しかけていて、

「おとうさんってここではたらいてるのー?」
「ああ、そうだよ。間接的にだが街を守る、大事な仕事なんだ。
 今は……ちょっとお金のことで大変だけど、きっと大丈夫。
 家族のためにも、父さん頑張るからね!」

 などというほのぼのしているような世知辛いような、よく分からない会話が繰り広げられている。
 さらにその隣の女性ギルド員はなぜか赤ん坊を抱いて、

「ごめんねぇ、今月、生活苦しいから。
 ちゃんと給料が出れば、お前にも楽をさせてやれるんだけど」

 とか話しかけている始末。
 さらにその隣では、若いギルド員と年配のギルド員がいかに自分たちの仕事が国や街にとって大切か語り合っていて、

「……そうなんですか!
 じゃあこのギルドがなくなったら大変なことが起こるんですね」
「ああ。とはいえ国からも援助金が出るから、ちょっとやそっとじゃ潰れないよ。
 しかし、もし討伐大会の賞金なんかでいきなりまとまったお金、例えば8270万Eなんかを即日で払うようなことになったら、潰れてしまうかもしれないな」

 そのあまりにもあんまりなわざとらしさに、鈍い俺もようやく理解した。
 つまり、これは、あれだ。

(こいつら、俺たちに報酬の受け取りを辞退させようとして、精神攻撃を仕掛けてきているッ!!)



 こうして。
 場所を平原からギルド内に移し、『ゴールデンはぐれノライム討伐大会』、最後にして最大の戦いが始まった!!

 ……のかもしれない。
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