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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第四十五章 ゴールデンはぐれノライム


イムは元々人間の良き隣人であり
集団を作って生活する非常に温厚な動物である
彼らがどのくらいおとなしい生き物なのかは
イムという文字を横に並べてみると分かりやすい
そこからある漢字を読み取ることが出来るはずだ

ただ、何らかの理由で群れを離れる個体もいて
その場合は全く話が違ってくる
集団の中で安定を保ってきたイムという生き物は
一人ぼっちになった途端に心の安定を欠き
その凶暴性を増してしまうのだ

そのような野良のイムは人に襲い掛かることもあり
彼らは特にノライムと呼ばれて魔物扱いされる
中でも外見的特徴を理由に群れから弾かれた個体は
攻撃性がかなり強いという傾向があり
これはノライムブスと呼ばれる

ただし、攻撃性を増したとはいえ所詮はイム
彼らはすぐに冒険者たちに退治されてしまう
しかし、そんなノライムたちの中でじっと時を待ち
仲間の死にざまを横目にずっと生き残り続けたモノは
また別の名前で呼ばれることになる

ノライムの中のノライム
野良の中の野良
ぼっちの中のぼっち
すなわち、はぐれノライムである

野良であるだけでなく、さらにそこからはぐれたイム
つまり生粋のぼっちであるはぐれノライムは強い
仲間の死体を踏み越えて生き残った彼らは大量の魔力を
備えていて、彼らの地力はノライムの域を優に超える
しかも長年のぼっち生活ですさみ切ったその心は
ノライムには不可能だった魔法の行使すらも可能にした
彼らは冒険者にとっても容易ならざる相手と言えよう

そして、そんなはぐれノライムが生き残り続け
長すぎるぼっち生活に心をカチカチに硬化させた結果
メタルはぐれノライムが生まれる

メタルはぐれノライムは誰も信用せず何も望まない
閉ざされた心が体をも硬化させ、体はまるで金属のよう
他を顧みず生き残り続けた彼らの逃げ足は非常に速く
熟練の冒険者であっても追いつくことは困難だろう

はぐれノライムと違って彼らは冒険者を見るとすぐに
逃げ出し、高い防御と敏捷のおかげで倒すのは至難の業
その代わり倒せばたくさんの経験値をもらえるのではと
期待されたが、所詮全てから逃げて自閉したぼっちが
豊富な人生経験を持っているはずもなかった

あるいはそれが彼らの自衛手段だったのだろうか
討伐の困難さと経験値やエレメントの少なさから
彼らは冒険者からも狙われることはなくなった
メタルは真のさびしんぼっちになったのだ

一方で、はぐれノライムの中で積極的に冒険者と戦い、
自己を研鑽し、金色に輝くようになった猛者もいた
それがゴールデンはぐれノライムである

その体の強靭さと逃げ足の速さはメタルと同じだが
逃げる理由とその身に蓄えた経験や魔力は桁が違う
彼は強大な力を身に宿しながらも戦いを望まないのだ

しかし、体が黄金色になるまで蓄え続けた彼の経験と
その膨大なエレメントは冒険者にとっては垂涎の的だ
しかも争いを望まない彼は他者を攻撃することもなく
故に冒険者たちはこぞって彼らを求める
ぼっちの癖に不人気なメタルとは全く違うのだ


つまり俺はゴールデンはぐれノライムだけど
お前はメタルはぐれノライムってことだよ!
はい論破!



 以上が、『猫耳猫』の掲示板に寄せられた長文の書き込みである。

 要するに口ゲンカの末にこんな長文を使って相手を攻撃しただけなので、結局本人も「長文うぜぇ!」「キモい」「結局お前もぼっちじゃねえか」とフルボッコにされてその掲示板を去ることになったのだが、内容がちょっと面白かったので、この文章は『猫耳猫wiki』のはじっこに載せられている。

 もちろんノライム云々の説明も嘘八百であるが、なんとなく感じがつかめたのではないだろうか。
 メタルはぐれノライムは、おそらくスタッフの設定ミスで経験値もお金もほとんど手に入らないので倒す価値はないモンスターとされているが、ゴールデンはぐれノライムは大量の経験値とお金を持っていて、しかも自分からは一切攻撃してこない。
 理論上レベル1から討伐可能な、まさに絶好のカモモンスターなのである。

 しかも、それが大量発生するとなれば、これは逃す手はない。
 大量発生の時期は、今から二時間後、今日の午後二時から午後四時の間だと予想されている。
 ここでうまくやれば、今日の宿代くらいは簡単に稼げるだろう。
 いや、それどころか、しばらくお金に困らなくなるくらい稼ぐことも不可能ではないかもしれない。

 騒がしい気配に視線を移すと、張り紙を見た冒険者たちが一斉にカウンターに殺到して行くのが見えた。

 そうだ。
 大量発生が起こると、バウンティハンターギルド唯一のクエスト『討伐大会』が開催される。
 これに乗り遅れる訳にはいかない。

「リンゴ、俺たちも行くぞ」

 見た所、今このギルドにいるのはほんの数人ほど。
 あぶれることはないだろうが、時間が経てば分からない。
 俺はリンゴの手を引いて、カウンターに向かったのだった。


 俺はカウンターで申し込みをして、『ゴールデンはぐれノライム討伐大会』にリンゴとチームでエントリーした。
 受付のむさいおっさんから、討伐証明用の専用クリスタルを受け取る。

 通常、倒したモンスターの持っていた魔力は自動的に財布代わりのクリスタルに入れられ、エレメント(つまりお金)として使えるが、バウンティハンターギルドではそれを利用して、討伐証明用のクリスタルを作った。
 この専用クリスタルは討伐対象の魔力だけを吸収し、規定数のモンスターを倒すと満タンになって、討伐の完了を教えてくれる。
 これをカウンターに持っていくと討伐依頼を達成したと証明されるのだが、前にも言った通り、これを借りるのに報酬の半額のエレメントが必要になるのである。

 しかし、討伐大会の時だけは例外で、大量発生したモンスターが街を襲うのを避けるため、という名目で、先着の50名に無料で専用クリスタルが渡される。
 それを手に入れることが、まず討伐大会の参加に必要な条件である。

 討伐大会は、大量発生したモンスター(この場合はゴールデンはぐれノライム)の討伐と納品の依頼を混ぜ込んだようなクエストだ。
 討伐大会中は、常に対象モンスターの討伐依頼と納品依頼を受けているような状態になる。

 つまり討伐大会で対象モンスターを10体倒せば、10体の討伐依頼を受けたのと同じだけの報酬が、対象モンスターのドロップアイテムを5個納品すれば、5個の納品依頼を受けたのと同じだけの報酬が、大会終了後に受け取れることになる。
 これはもう、めっちゃくちゃおいしい。

 そして、討伐大会での報酬額が参加者の中で1番だった場合、なんと副賞として報酬額が10倍に跳ね上がる。
 ちなみに2番で3倍、3番だと2倍である。
 この順位による報酬の増額が破格なため、大会ではこれを狙っていくのが基本となる。

 特に重要なのがチームで、事前申請で3人までのチームを作って報酬額を合算することが出来る。
 さっき言った通り、俺とリンゴはチームで登録した。
 三人目もいた方が有利にはなるのだが、報酬のことで後でもめるのもごめんだ。
 二人で何とか1位を目指して頑張ることにしよう。


 大量発生と討伐大会は、ゲームクリアまでに二、三回出会えればいいくらいのレアイベントだが、『猫耳猫』における最高のボーナスイベントの一つであり、バウンティハンターギルドが『猫耳猫』の良心と呼ばれるもう一つの理由でもある。

 そうは言っても対象のモンスターがあまりに強すぎれば参加は不可能になるし、遠すぎる場所だと最悪大量発生の時間までにその場所に辿り着けないこともある。
 それに、大量発生時にはモンスターが本当に大量に発生するため、普段よりもきつい戦闘を強いられることが多い。
 本来なら大量発生と討伐大会は旨みは大きいものの、楽なだけのイベントではないのだ。

 だが、今回は違う。
 場所が街に近いデウス平原で、そして対象モンスターが報酬が多くて危険の少ないゴールデンはぐれノライムだなんて、ゲーム中でも一度も見たことのない、これ以上望めないレベルの好条件だ。
 ゴールデン相手なら死亡のリスクもないし、うまく1位を取れば億万長者だって夢ではない。
 そうでなくても何匹か倒すだけで、宿泊代に困らない程度のお金は十分に手に入るだろう。

 馬小屋よさらば!
 俺たちはもっと先に行く!

 この世界に来てから散々な目に遭っているような気がしていたが、どうやら神様は見ていてくれたらしい。
 ようやく俺にも幸運な日が訪れたのだ。

「よし、そうと決まればすぐに対策を練るぞ!」

 とりあえず大量発生の時間まで残り二時間。
 その間にゴールデンはぐれノライムを倒す作戦を考える必要がある。

 と、その時。
 意気揚々とギルドを後にしようとする俺の耳に、突然の幸運に沸く冒険者たちとは少しトーンの違った、しかし同じくらいに興奮をした声が飛び込んできた。

「なぜ、なぜよりにもよってゴールデンなのだ!
 あ、ああ、このままでは、300年間こつこつ積み立てたギルドの備蓄が……。
 もうギルドはおしまいだぁ!!」

 ……あ、うん。
 本当に、ご愁傷様です。
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