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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第四十一章 未知との遭遇

「お、お前、誰だ?」

 俺が誰何の声をかけても、俺の上に乗った彼女は何も返答しようとはしなかった。
 それどころか、身動き一つしない。
 俺の言葉に対して、まるで無反応だった。

(な、何なんだ、この状況…!?)

 気付いたら布団に裸の女の子がいるとか、どちらかというとゲームだとか漫画だとかの領分だ。
 確かに出会いが欲しいとは言ったが、こういう出会いを求めていた訳じゃない。

(こういう時は、まずどうすればいいんだ?)

 最低限の礼儀として彼女の裸身から視線を逸らし、俺が打開策を考えようとした時、

 ――コンコン。

 部屋の扉が、軽快なノックの音を奏でる。

(このパターンは!)

 最悪のタイミングだ。
 ベッドに寝そべる俺と、そこにいる裸の女の子。
 これがどういう誤解を生むかなんて、考えるまでもない。

 しかも、この時間に俺の部屋に用事がある人間なんてそうそういるはずもない。
 一番可能性が高いのは、宿屋の人間。
 つまり、昨日知り合った宿屋の看板娘、アリスちゃんの可能性が高い。

(まずいだろ、それは!)

 今まで見た漫画やゲームの一場面が頭の中にフラッシュバックする。
 俺の頭は瞬間的に沸騰し、

「は、入ってます!」

 気付けば扉に向かって、そう大声で叫んでいた。

 が、肝心の台詞を間違えた!
 今のは、『お腹が痛くて駅のトイレにこもっている時にドアが激しくノックされた時』の対応だった。
 これでは居留守を使うことも出来ない。

 こうなったら仕方がない。
 俺は慌てて全裸の少女に向き直ると、

「わ、悪い! ちょっと、隠れ……うわ!」

 とにかく彼女を布団の中に隠そうとして、勢い余ってベッドに押し倒してしまった。
 彼女の柔らかい身体の感触を全身に感じて、焦りと興奮で身体がカッと熱くなる。

 しかしもちろん、そんなことを気にしている場合ではなかった。
 その物音を聞きつけたのか、無情にも部屋のドアノブが回される。

「あ、ちょっと、待っ…!」

 俺の制止の言葉も虚しく、しっかりと扉は開いていき……。
 そして扉の向こう、俺を呼びに来ていたのはその人物は、もちろん、


「朝食が出来たんで呼びに……あっ、す、すまん!」


 ベッドにもつれ込んだ俺たちを見て顔を真っ赤に赤らめた、宿屋の主人のおっさんだった。



 すぐに扉の向こうに逃げ帰ってしまったおっさんを追いかけて誤解を解き、ついでに何事かと駆けつけてきた娘のアリスちゃんの方にもやむなく事情を話し、女物の服を貸してもらうことにした。

 意外にもアリスちゃんの方が理解と耐性があり、

「冒険者さんですから多少はそういうのあるって分かりますけど、あんまりこの宿でおかしなことしないでくださいね」

 と釘を刺されてしまった。
 いや、それも誤解なんだけれども、まだ俺自身事情がよく分かっていないため、うまく弁解出来なかったのだ。
 まあ、その間中顔を真っ赤にしてほとんど使い物にならなかったおっさんよりはマシな反応だと言える。

 というかいい年したおっさんなんだから、そんな純な反応をしないで欲しい。
 平然と「昨夜はお楽しみでしたね」くらい言ってくれた方が、こっちとしてもまだ精神的ダメージが少なくて済むのだ。

 などと心の中で愚痴りながら俺は自分の部屋に戻って、

「んなっ!」

 思わず絶句した。
 俺の部屋に突然やってきたあの青い少女が、俺に押し倒された格好のまま、つまり裸の身体を全て晒したまま、ベッドに横たわっていたのだ。

 一瞬の驚きから醒めると、俺の中である疑惑が首をもたげてくる。

(もしかすると彼女は、『人間じゃない』んじゃないか?)

 いきなり裸で俺の部屋にいるというのはそれだけで不可解だが、それ以上に彼女の反応に、いや、無反応ぶりに、俺は違和感を覚えた。
 俺の部屋にやってきたのがどういう目的か知らないが、いや、目的があればこそ、俺の呼びかけに対して何も反応しないというのはどうもおかしい。

 もし俺を誘惑するのが目的ならもっと積極的に迫ってくるだろうし、そうでないのなら裸で知らない男の前に出て来ることに羞恥を覚えるものだろう。
 なのに彼女はそのどちらの様子も見せず、それどころか自分一人の時間があったにも拘らず自分の身体を隠すことさえしようとせず、動いた形跡すらない。

(ロボット、っていうのは世界観的にありえないが、オートマタとか、ホムンクルスとか、その辺りならありえるか?)

 俺は部屋を出た時の姿勢、仰向けになってベッドに身体を投げ出した、ある意味扇情的とも言える体勢、の彼女の身体を極力見ないようにしながら、ベッドに近付いていく。
 それでも彼女に近付くために歩いているのだから、当然その身体は嫌でも目に入る。
 そのことにそこはかとない罪悪感を覚えたが、収穫はあった。

(よく見ると、呼吸に合わせて身体が僅かに上下している。
 やっぱり生きてはいるみたいだな)

 俺が近くまで来てもやはり全く反応を示さない彼女の頬に、俺はそっと手を伸ばした。
 その肌は人間としか思えない感触と温かさで、俺は彼女が機械仕掛けの存在だという仮説を捨てる。
 だが、事ここに至っても彼女は全く無反応で、ほとんど人間味という物がなかった。

「生きてる、んだよな?」

 思わずそんな独り言が漏れる。
 それは単に考えていたことが口に出たというだけで、返答など全く期待していなかったのだが、

「…たぶん」

 そこで初めて、青い少女が口を開いた。
 驚く俺に向かって、青い少女の顔がわずかに傾き、

「たぶん、生きてる」

 そうはっきりと、はっきりしないことを彼女は口にしたのだった。



 聞きたいことは山ほどあったのだが、そこでアリスちゃんが服を持ってやってきてくれたので、話し合いはそこでしばらくお預けとなった。

 いまだに全裸のままベッドに身体を横たえている少女と俺を見比べると、アリスちゃんは俺に軽蔑の眼差しを送ったが、口に出しては何も言わなかった。
 ただ、俺に服を渡した時に、

「念のため言っておきますけど、その服、新しい奴ですから。
 その服であなたが、へ、変なことしようとしても、無駄ですからね!」

 と言い捨てて部屋を出て行った。

 一体使い古しの服を手にしたら、俺がどんなことをすると考えたのか。
 俺は何だか凄いレベルの変態だと思われてるっぽかった。

「だから、誤解だってのに……」

 アリスちゃんの中での俺の変態度の急上昇には地味にショックを受けたが、誤解を解くにもまずは目の前の女の子から事情を聞かないと始まらない。
 しかし、事情を聞くためには話が出来る状態になってもらわないと困る。
 俺は受け取った服をベッドの上の少女に手渡した。

「俺は後ろ向いてるから、とりあえずこの服を着てくれ」

 そう言って、宣言通りに彼女に背を向ける。

 だが、いつまで経っても衣擦れの音がしてこない。
 あるいは無音で着替えているのだろうか。
 流石にもう着替え終わっているだろうというほどの時間を置いて、

「もう、いいか?」

 と尋ねても、背後から返事はない。

 もしや、もうどこかに行ってしまったとか?
 俺の中に不安が芽生える。
 だが、

「振り返るぞ、いいか?」

 もう一度俺がそう尋ねると、

「…うん」

 という短い返答があった。
 それだけのことなのに、少し安心してしまった。
 彼女とのコミュニケーションは、ずいぶんと苦労させられそうだ。

 そんなことを思いながら俺は振り返って、そこに見えた彼女の姿に目を丸くした。
 なんとそこには、全裸からアリスちゃんの服を受け取って、見事な全裸に変身した彼女の姿が!!

「って、変わってないじゃないか!」

 興奮のあまり思わず叫ぶ俺に、青い髪の少女は表情一つ変えず、ただ手にした服を俺に突き出した。

「これ、どうやって着るの?」



 悪い冗談のような言葉だったが、彼女の台詞はどうやらガチのようだった。
 服という物の概念は分かっているようだったが、その着方という部分の知識がすっぽりと頭から抜け落ちているようで、渡された普通の服の着方さえ本当に分からないらしかった。
 仕方ないので半分目をつぶりながら、後ろから彼女に服を着せていく。

(つ、疲れた……)

 借りた服は特に変わった構造ということもなかったのだろうが、女物の服も女の子に服を着せるのも、どちらも初めての経験である。
 これだけですっかり気疲れしてしまったが、むしろここからが本番だ。
 俺は気と表情を引き締めて、彼女に向き直った。

(うーん、これは……)

 今までは裸に気を取られて直視出来なかったが、初めてじっくりと彼女の姿を眺める。
 さらさらの青い髪と、透き通るような青い瞳が特別に目を引くが、それを抜きにしても相当な美少女である。
 細い身体付きは色気には乏しいが、ある種の芸術品のような美しさを備えていた。

(やっぱり主要キャラ、だよなぁ……)

 念のため言っておくが、別に俺はスケベ心丸出しで彼女を観察していた訳ではない。
 作品上重要なキャラ、製作者が愛着を持つような立ち位置にいるキャラほどキャラクターのデザインに力が入り、結果的に美人率が上がる。
 美形ということはそれだけで『猫耳猫』において重要なポジションを占める可能性が高いということなのだ。

 そして、彼女がもし『猫耳猫』の主要キャラだとしたら、俺が覚えていないなんてことはまずありえないはずなのだが……。

(見覚えがあるような気はするんだけど……。
 何だか今一つ、しっくりこないというか)

 アレックズのように、全く見覚えがないということはない。
 むしろ何度も見たような気はするのだが、はっきりと思い出せない。
 あるいは服装や髪型などが違いすぎていて、ゲームの時とイメージがぴったりと合致しないのかもしれなかった。

(まあ、いいか)

 仕方ないので思考を放棄する。
 肝心なことは、本人に尋ねればいいのだ。

「分からないことは分からないと言っていいし、答えたくないことがあったらそう言ってもいい。
 可能な範囲で、俺の質問に答えてくれ」
「…うん」

 とりあえずの素直な反応に、俺は少しだけ胸を撫で下ろす。
 まずは当たり障りのない所から質問していき、徐々に核心に迫っていく戦略を取ることにする。
 となると最初は……。

「まず、君の名前は?」
「わからない」

 出だしからいきなりつまずいた。
 いや、名前を言いたくない事情があるのかもしれない。
 名前よりももっと当たり障りのない所となると、

「ええと、じゃあ、君の年齢は?」
「わからない」

 年齢すらもNGだった。
 いや、もしかすると……。
 俺は嫌な想像に駆られ、それを払拭するべく矢継ぎ早に質問を始めた。

「じゃ、じゃあ、レベル」
「わからない」

「得意な武器は?」
「わからない」

「得意なスキル」
「わからない」

「なら、性別」
「おんな。……たぶん」

「家はどこ?」
「わからない」

「故郷は?」
「わからない」

「親はどんな人?」
「わからない」

「好きな場所」
「ない。……とおもう」

「好きな食べ物」
「くだもの食べたい」

「どうしてこの部屋に来たんだ?」
「わからない」

「いつからこの部屋にいた?」
「わからない」

「どうやってこの部屋に来た?」
「わからない」

「……VR、ログアウト、オーダー、どれかに聞き覚えは?」
「ない」

「最近あった面白いことは?」
「わからない」

「この国が崇める神様の名前は?」
「レディスタス?」

「今年は聖歴何年?」
「わからない」

「この国の王様の名前は?」
「わからない」

「345の二乗は?」
「……………119025?」

 こいつ計算速いな!
 ではなくて。

(なんなんだ、こいつは……)

 彼女が俺を騙そうとしていないなら、彼女は自分のことも満足に分かっていないことになる。
 少なくとも今の質問から分かるのは、彼女は女で果物が好物であるということ、あとは345を二乗すると予想外にとんでもない数になる、ということくらいである。

 このままではお手上げだ。
 せめて、名前だけでも分かれば俺も思い出せそうなのだが、とそこまで考えて、

「…あ」

 俺は、自分が重要なアイテムの存在を忘れていたことにようやく気付いた。
 鞄の中に手を突っ込んで、そこから紙の束を取り出す。

 何を隠そう、これこそが俺の思い出した重要アイテム、レベル鑑定紙だ。
 以前に自分やイーナに使って、その効果は実証済み。
 これを使えば、少なくとも相手の名前とレベルだけは把握出来る。

「これ、使ってもいいか?」

 という質問には、彼女はためらわずにうなずいてくれた。
 それでもあまり彼女を刺激しないようにそっと、その腕にレベル鑑定紙を押し付けた。

 紙に文字が浮かび上がってくる。
 少なくともこれで、状況は一歩前進するはずだと俺は胸を撫で下ろして、

「なんてこった……」

 しかし彼女に当てた紙を見た俺は、思わずうめき声をあげてしまった。
 いくらなんでも、こんな事態は想定していなかった。

 見間違えではないかと、もう一度鑑定紙に浮かんだ文字を読む。


*ェ♯*♯・*♭・゛※* : レベル1


 彼女は、バグっていた。
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