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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第四十章 新しい仲間?

(これは……どういうことだ?)

 俺は見覚えのない金髪イケメンを前に、すっかり困惑していた。

 俺は『猫耳猫』のゲームにおいて、ほぼ全てのNPCキャラクターと遭遇しているという自信がある。
 いや、それはもちろん、マイナーなイベントや辺境の隠しイベントなんかでは見たことのないキャラクターもいるかもしれないが、ここは王都で、俺が出会ったのはものすごいキャラ立ちしている金髪のイケメン。
 こんな人をスルーするはずがない。

 第一、戦士ギルドで遭遇したというのも解せない話だ。
 戦士ギルドの本部には何度も出入りしているため、少なくともここに来るようなキャラクターは全部覚えている。
 ギルドにこんなイベントはなかったし、こんなキャラクターはいなかった。
 これは絶対に、何かイレギュラーな事態が起こっていると判断するべきだろう。

「あの、あなたは?」

 用心深く、相手の名前を訊く。
 すると金髪のイケメンは、大仰な仕種で髪をかきあげた。

「おっと、申し遅れてしまったが、僕の名前はアレックズ!
 のちに魔王を倒した偉大なる英雄と呼ばれる男、アレックズだ!」
「なっ…!」

 俺は絶句する。
 アレックズと言えば、開幕と同時に神風的に死んでいくことで有名なNPCだったはずだ。
 何かのバグで生存しているのを目撃したという報告もあり、映像も全くない訳ではなかったようだが、俺は見ていない。
 確かに、この男がアレックズならばその顔に見覚えのないことは説明がつくのだが……。

(しかし、どういうことだ?)

 アレックズはさっき言った通り、ゲーム開始と同時に魔王に突撃していって、すぐに死んでしまうというのが通常の流れだったはずだ。
 今日はもうゲーム開始から六日目。
 本来であれば、彼はもうとっくに魔王城に突撃している、いや、突撃し終えているような時期のはず。

「ふっ、何だい? もしかして、高名な僕の名前を聞いて、緊張してしまっているのかな?
 それとも魔王を倒すという偉業を前に、心が委縮してしまっているのかな?
 心配いらないよ。僕は一人でも魔王を倒す。
 君はただ『勇者の仲間の戦士』として、僕の旅に付き合ってくれるだけでいい」

 いや、一人だと死にますけどね、あんた。
 とは思ったが、言動を聞くにつけ、アレックズの本質はゲームとあまり変わっていないようにも思えた。
 違いがあるとすれば、『仲間』にこだわっている所か?

「ええと、あなたは魔王を倒すつもりなんですよね?」
「ああ、もちろんそうだとも!
 魔王討伐の大役、この勇者アレックズ以外には務まるまい!」

 いや、あんたにも務まらずに死んじゃいますけどね。
 とは思ったが、やはり行動原理自体はゲームとそう変わっていないように思えた。
 では、だったらなぜ……。

「じゃあ、どうしてすぐに魔王退治に行かなかったんですか?」

 その質問をした途端、イケメンな顔に動揺の色が走った。
 さっきまでの胡散臭いまでのアルカイックスマイルが消え失せ、どこか怯えたような表情に変わる。

「う、うむ。ほんの、数日前まではそうしようと思っていたのだ。
 ただ、まあちょっと、善意の進言が、あって、その、方針をな、変えたというか……」
「善意の進言?」

 それはこの特攻勇者を止める理性ある人間がこの世界にはいたってことなのか。
 この金髪イケメンに理屈が通用するとは到底思えないのだが。

 だが、そんな俺の疑問はすぐに氷解した。

「あれはちょうど、魔王を倒そうと王都を出発しようとした時のことだ。
 僕の所へ、一人の女の子が駆け寄ってきてな。
 応援かと思ったのだが、違った。
 その少女はただ、僕に質問をしに来たのだ」

 え、それってまさか……。


「僕が勇者であるか否かを、な」


 心の中で、うわぁ、と嘆息する。
 なんかもう、先が予想出来てしまった。

「僕はもちろん自分は勇者だと答えたのだが、その、その少女は、僕が勇者だなどと悪いじょうだ、冗談、などと言い、ゆ、勇者ならもっと賢そうなはずだとか、そもそも仲間が一人もいないのに勇者はおかしいとか、魔王の所に行く前に雑魚に囲まれて殺されそうだとか、な、なんの根拠もない、ぼう、暴言、そういう、わ、わるっ、わるくちを、言って、僕は、つい……!
 ち、違うんだ! 別に暴力を振るおうと思った訳では!
 た、ただ、肩をつかんで引き留めようと、だから……え、今の気持ち?
 い、いや、そんな、僕が、こんな幼い子に踏まれて屈辱の中にも興奮を覚えているなど、まさか……」

 何だかトリップして危ないカミングアウトまで始めてしまったが、大体の事情は分かった。

 ――やっぱり犯人は、ポイズンたんでした!

 まあつまり、あれだ。
 口達者なポイズンたんに、脳筋なこいつはあっさりと言い負かされ、あげくの果てに腕力でも負けて地面に這いつくばらされてすっかり自信を喪失。
 せめてポイズンたんに言われた欠点を一つでもなくそうと、仲間集めに奔走することになる、とそんな感じの流れだろう。

 こうなった原因も、一応は類推出来る。
 ヒサメが俺以外からの依頼を受けていたように、この世界の人間は、ゲームではプレイヤーに対してしか行わなかったアクションを他の人にもやるようになった。
 簡単に言えば、プレイヤーにしか毒舌を吐かなかったはずのポイズンたんが他の人間にも毒を吐くようになり、アレックズがその毒牙にかかった、という訳だろう。

 ポイズンたんには散々煮え湯を飲まされてきたが、彼女の毒舌のおかげで一つの命が救われたのだから、まあ今回ばかりはポイズンたんグッジョブ、と言っておこう。
 それに、勇者アレックズは顔も見たことはなかったが、ゲームでは個人的に結構気に入っていたキャラだった。
 彼が救われたのだったら、それは嬉しいことだろう。

「ま、まあその話はいいのだ。
 それで僕は自分に足りない物に気付けた訳だからね。
 それよりも、どうだろう?
 僕と一緒に魔王討伐を……」
「お断りします」

 だが、それとこれとはもちろん話が別だ。
 せっかくイーナやヒサメを振り切ってまで一人になったのだ。
 こんな所でおかしな奴の仲間になるつもりなんてない。

「ま、待ってくれ!
 パーティバランス的に、今戦士と僧侶が一番必要なのだ!
 僕たちについてきてくれるだけでいいから……」
「いや、そんなの知ったことじゃないですし」

 今まで曲がりなりにも丁寧な対応を心掛けていたが、つい本音が口をつく。

「い、一体何が気に入らないと言うのだ?
 自慢ではないが、僕のレベルは200だぞ?
 他の誰と旅をするより、僕と一緒に来た方が……」

 これ以上はもはや聞くに堪えなかった。

「そういえば用事があったのを忘れていました。
 これで失礼します」
「なっ! 待ちたまえ!
 君は――」

 俺はなおも引き留めようとするアレックズを振り切って、戦士ギルドを後にした。



「全く、アレックズも堕ちたものだな」

 外に出て、アレックズが追ってこないのを確認してから、そう愚痴をこぼす。
 もともと俺が、ゲームのアレックズを好きだったのは、あいつが敵わないなりに一人で魔王に挑んだ所に共感したからだ。

 数が力であることは、ゲームにおいても現実においても変わらない。
 同じ実力を持った人間なら、一人で当たるより三人で当たる方が、確実に目標の達成はたやすくなるだろう。

 そしてそれは、『猫耳猫』においても同様だ。
 『猫耳猫』では仲間が足を引っ張る場面が普通のゲームと比べて30倍くらいはあるが、それでも一人で旅をするよりは仲間を連れていった方が、冒険の難易度はぐっと下がる。
 それは分かってるし、受け入れている。

 ――だが、そんな困難に目をつぶって、あえて一人ぼっちで魔王に挑む者こそが、本当の『勇者』、真に『勇気ある者』ではないのか?


 別に俺は、一人で戦わなきゃ勇者じゃないとは言わないし、仲間と戦う勇者を否定するつもりも毛頭ない。
 だが、『仲間がいないから勇者じゃない』なんて妄言を受け入れて、その言葉に屈して仲間を探すような奴の仲間になんて、絶対になれるはずはなかった。
 もし俺がそんなことを言われたら、他の全てで言い負かされたとしても、『一人ぼっちだったら勇者じゃない』という言葉だけでも、絶対に撤回させる。

 それが、ぼっちゲーマーの矜持という奴だった。
 ……まあ、ぼっちをディスられたような気がして顔真っ赤にしてるだけ、とも言う。



「にしても、あれじゃ戦士ギルドにはしばらく近付けないな」

 確か戦士が必要だとか言っていたので、それを目当てに戦士ギルドで張っているのだろう。
 短絡的な思考だが、それは確かに正攻法でもある。
 しかし、いくら高レベルでも、あんなのの仲間になる奴がそうそういるとも思えない。
 仲間が見つかるまで粘るつもりなら、少なくとも数日くらいはあそこに近付くと面倒なことになると考えるべきかもしれない。

 まあ、武器のカスタムが必要になるのは、不知火以上の攻撃力や性能を持つ武器を手に入れてからだ。
 当面の所、無理して戦士ギルドにこだわる必要はない。
 そして、有用な施設を持つギルドは、この街にはもう一つあるのだ。

「……ここ、だな」

 魔術師ギルド。
 魔法陣を象ったマークがついた扉の前で、俺は深呼吸をする。

 魔術師ギルドのイベントは、戦士ギルドの物より若干ひねくれている。
 もちろんイベント内容をすっかり把握してしまった俺が苦戦することはないとは思うが、ゲームが現実に変わったことでさっきのようなイレギュラーが起こらないとも限らない。
 俺は何があっても大丈夫なように、しっかりと覚悟を決めて扉を開いて、

「……は?」

 鋼色の鉄の塊と遭遇した。

 呆然とする俺に気付いたのか、鉄の塊の下方、唯一生身を露出させている口が、俺に向かって割合甲高い音を吐き出す。

「ようこそ魔術師よ!
 喜ぶがいい、君に世界一の幸運が舞い降りた。
 世界最凶の魔法の繰り手にして、邪悪なる闇を右手に宿した希代の天才魔術師、このサザーン様と――」

 俺は無言で扉を閉めた。



「……ふぅ。危なかった」

 そういえば、あんな鉄仮面みたいな大仰な仮面を着けているキャラクターが存在していたような、いなかったような。
 いや、全然覚えてないけど。
 全然全く覚えてないけど、あのアホ魔術師の活動拠点も一応王都だったような……。

 いや、とにかく、だ。
 この段階で、一つだけ言えることは、

「戦士ギルドも魔術師ギルドも、行けなくなっちゃったなぁ……」

 活動開始三十分もしない内に、これからの行動予定が白紙に戻ってしまったということだった。



「今日も、なんだかんだでハードな一日だったな。
 ……ほんと色んな意味で」

 戦士ギルドと魔術師ギルドへの加入が実質不可能になった後、俺はその足で近くの宿屋に向かうことにした。
 このままバウンティハンターギルドに向かうという手もあったが、気付けばもう空も薄暗くなっているし、何だかおかしな出会いラッシュが続いている。
 これでバウンティハンターギルドに行って、今度は『茶飲み』だとか『ローズピアサー』辺りが待ち構えていたら、本当に目も当てられない。

 何より、徹夜明けのままずっと活動してきたので眠くて仕方ないという生理的な理由もあった。
 バウンティハンターギルドは他の二つと違って加入する場所ではないし、依頼を受ける気がないなら明日に回しても何の問題もないだろう。

 ちなみに宿代は1000E。
 指ぬきグローブ五つ分の値段とは、完全にぼったくり価格である。
 とはいえ、ラムリックの町の宿屋のオヤジさんみたいな強面の宿屋主人も、その娘で従業員であるアリスちゃんもどちらも親切そうだったので、単に物価の差なのだろう。
 これが地域格差という奴だ。

 ついでに言っとくと、看板娘のアリスちゃんとは夕食の時に少し話したが、凄くいい子だった。
 大体、アレックズやサザーンは論外として、イーナやヒサメなんかの例を見ても分かる通り、この世界には碌な出会いがないのだ。
 空から女の子が降ってくる、とか、曲がり角で美少女転校生とぶつかって、みたいな運命的だったり漫画的だったりする出会いが欲しいとまでは言いはしないが、普通に話が出来て相手の普通さに癒されるような、こういうアリスちゃんとの出会いみたいなことがもっとたくさんあってもいいと思う。

 まあ、アリスちゃんを抜きにしても、この宿はなかなか居心地がいい。
 ゲームで王都にいる時は「どうせゲームだし」とお金が必要ない馬小屋に泊まっていて、正規の宿にはとんと縁がなかったのだが、ここは意外といい場所かもしれない。
 ラムリックの町より一回り大きい部屋と、見るからにふかふかで清潔そうなベッドを見て、改めてそう思う。

「よし、と」

 部屋に入った俺は、まず鞄を開けてたいまつシショーを取り出す。
 徹夜明けの身体にはふかふかそうなベッドは魅力だが、このまま何もせずに寝るのは何だか気が咎める。
 部屋の中で不知火とヒートナイフを二刀流してひとりしきり武器熟練度を上げていき、眠気がマックスになった所で寝ることにした。

 今日はアレックズとサザーン、ついでにアリスちゃんなんていう人たちと巡り合って、早速ぼっち生活に暗雲が立ち込めてきたような気もするが、俺はあきらめない。
 ぼっちのままでこの世界を生き抜いて、ぼっちこそが至高であることを証明してやる。
 眠気に汚染され、何だか沸いた思考をしながら、俺はベッドに倒れ込んだ。

(ふか、ふか、だぁ……)

 今の俺にとって、やはりふかふかなベッドは抗うのも馬鹿馬鹿しいほどに強大な敵だった。
 睡魔は急速にその力を増し、あっという間に俺を飲み込んでいき、俺の意識は闇に沈んでいく。

 こうして激動のゲーム生活六日目は幕を閉じた。



 翌朝。
 奇妙な寝苦しさを感じて俺はぼんやりと覚醒した。

 だが、まだ時間が早いのか、あるいは昨日の疲労が残っているのか、身体を起こすのが億劫だった。
 鼻腔をくすぐるシーツのいい香りと、人肌の布団のぬくぬく感が俺を覚醒させないとも言える。

(やっぱり、ふかふか……ん?)

 昨夜寝ていた時ほど、布団がふかふかではない気がする。
 いや、凄く手触りがよくて極上の触り心地なのだが、何だか布団というよりは、もっと生き物的な……。
 そう思ってうっすらと目を開けて、

「う、わ……」

 思わず、驚愕と感嘆の入り混じった声を上げてしまう。

 だが、それは仕方がないことだろう。
 どうも王都リヒテルの出会いラッシュは、まだ続いていたらしい。
 なぜなら……。

「お、お前、誰だ?」

 ――俺の視線の先、俺の身体の上には、一糸まとわぬ姿で俺にのしかかる、青髪青目の美しい少女の姿があったのだから。
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