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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第三十九章 ギルド

 ヒサメとの勝負を決めた時点で10万Eちょっとくらいは持っていたのだが、魔封船代で5万、ついでに魔法屋で杖を買って5万弱、でほとんどすっからかんになってしまった。
 最後の日の収入は結局イーナに全部あげてしまったし、一文無し一歩手前、という状況だ。

 流石に今晩の宿代くらいは問題ないが、装備品などを買うのはかなり厳しいだろう。
 しかし、覚えているだろうか。
 俺、ミスリル防具以外の防具を買っていないのである。

(初期防具のままで王都とか、自殺行為にもほどがあるよなぁ……)

 アクセサリーだけはたくさん買ってつけている。
 そのおかげで防御力も多少は上がっているはずだが、そのくらいは焼け石に水。
 そういえば鎧の間に紙を挟むとかの涙ぐましい小細工もしていたが、流石にそれで防御力は増えないだろう。

「……武器でも売るか」

 見栄を張って前の店では全種類の武器を買い漁ったが、考えてみれば剣と短剣については不知火と脇差があるから必要ない。
 この余った剣と短剣を売れば、所持金と併せてこの町の最下級の防具くらいは買えるだろう。
 俺はまず、武器屋に向かうことにした。



「やってしまった……」

 武器を売って防具を買うお金を得るはずが、なぜか別の武器を買ってしまうという最悪の悪循環。
 ゲームでならまだしも、この世界で軽挙に走ればそれは生命の危機に直結する。
 それは分かっているはずなのに……。

「いや、でも、掘り出し物だったしなぁ……」

 掘り出し物には『掘り出し物候補』にリストアップされたアイテムがランダムで陳列されるシステムになっていた。
 今日店に並んでいたとしても、明日もあるかどうかは分からないのだ。

「……まあいいや。切り替えよう」

 買ってしまった物はしょうがない。
 本当に最悪の場合には、ミハエル君を犠牲にするという手も……いや、流石に現実になったこの世界でそんなことは俺には出来ないが、とにかくいくつか町の中だけで出来るクエストをこなせば何とかなるだろう。
 元々、ラムリックの町でもしばらく外に出る気はなかったのだし、あきらめがついてちょうどいいと考えればいい。


 ちなみに、買ってきた武器は二つ。
 一つ目はヒートナイフという名称の短剣。
 攻撃力は弱いが、火属性がデフォルトでついている属性武器だ。

 そして、もう一つ俺が買ったのは掘り出し物の場所にあった、『猫耳猫』屈指のオサレアイテム。
 それは真っ黒くて、一つの大きな穴と、五つの小さな穴が空いている、小さな袋。
 いわゆる、『指貫グローブ』という奴である。

 早速着けてみる。

「フッ! 右手が、うずくぜ!」

 ちょっと調子に乗ってサザーンみたいなことを言ってしまった。
 うん、どうやら指貫グローブには数値には反映されない不思議な魔力があるようだ。

 だが、勘違いしないで欲しい。
 この指貫グローブ、一見何の変哲もない普通のオサレな指貫グローブだが、唯一無二の特性を持つユニークな武器なのだ。
 ……ユニークな武器だが決してユニーク武器ではないので、そこは勘違いしてはいけない。

 なんと、この武器は全武器の中で唯一、『装備しても素手と全く能力が変わらない』武器なのである。


 それってナックルと同じじゃないか、と思う人がいるかもしれないが、それは違う。
 ナックルを着けていても無手スキルは使えるが、攻撃にナックルの攻撃力が反映されるし、ナックルスキルが使えるようになる。
 しかし、この指貫グローブだけは、装備していても素手と同じダメージ計算とスキルになるのだ。

 じゃあ別にそんな物着けずに素手で殴ればいいんじゃないかって?
 俺もそう思う。
 どうして『猫耳猫』スタッフがこんな物を作ったのかは謎だが……まあたぶん、スタッフの中に邪気眼厨二病患者がいたのだろう、ということしか言えない。

 ま、まあこのグローブを使うことになるとは俺も思っていないが、掘り出し物でなかなか出て来ない上に200Eという超お手頃価格なのだ。
 つい衝動買いしてしまった。

(うーん。やっぱりギルドには入っておくべきか)

 こうやって買ってきた武器を見ていたら、やはりカスタムをやってみたくなってしまった。
 そして図らずも、そのおかげで次の方針が決まった。

「戦士ギルドに行ってみるか」



 『猫耳猫』にはギルドと呼ばれる組織があり、そこに加入することでいくらかのメリットを得ることが出来る。
 代表的なギルドには戦士ギルドや魔術師ギルド、盗賊ギルドにバウンティハンターギルドなどがあるが、加入することでそれぞれのギルドにある施設を使えるようになるのだ。

 その中でも特に重要なのは、工房と研究室。
 戦士ギルドの工房では武器防具のカスタムが、魔術師ギルドの研究室では魔法のカスタムが出来る。

 後半以降の戦闘を考えると、この武器や魔法のカスタムは必要不可欠と言ってもいい。
 戦士ギルドと魔術師ギルドは各町に支部があるが、王都にある本部でしか加入が出来ないため、王都に来たプレイヤーのほとんどが一度は戦士ギルドや魔術師ギルドに向かうのだ。

 ギルドに入るメリットはそれだけではなく、それぞれに用意されたイベントをこなしていくことで、ギルド内で地位を上げることも出来る。
 そうなれば色々な特典やイベント報酬アイテムを手に入れることが出来、それぞれのギルドに用意された個性的なシナリオを体験することも出来る。

 ギルドイベントにはかなり力が入れられていて、メインのストーリーの分量を10とすると、それぞれのギルドイベントには4~7くらいのボリュームがある。
 しかも、そのイベント群を最後までこなすことで、個別のエンディングまで見られるという力の入れようだ。

 イベントも良質で、俺も戦士ギルドの最終イベント『国民総脳筋化計画』にはプレイしながら腹を抱えて笑ったし、ギルド内での内紛の巻き添えを喰らって国が滅ぶという魔術師ギルドの最終イベント『傾国の粛清劇』にもそれなりにぞくぞくさせられた。
 もし、どちらのイベントも『ある段階まで進めるとギルド員以外との仲が壊滅的になるので、メインストーリーが進行不能になる』という、どう考えてもGOサインを出すのがおかしいような致命的な仕様がなければ、このギルドイベントはもっと高い評価を得ていただろうと思う。

 何しろ戦士ギルドのイベントを最後まで進めると、ほとんどのメインキャラが『おれ、てき、たおす』くらいしか言わなくなるし、魔術師ギルドのイベントを最後まで進めるとそもそも国民がほとんどいなくなる。
 そんな状態でメインストーリーが進められるはずもなかった。

 かといって、最初のパッチの修正のように、それぞれのイベントを最後までこなすと『全部プレイヤーが見ていた夢だった』ことにして分岐前の状態に戻す、というのはいささか思い切りすぎではないかと思ったが。
 ちなみにその夢オチという解決法は当然ながらユーザーの猛反発を受け、最終的にはそれぞれのギルドイベントを最後までこなすと、メニュー画面に『ギルドイベントを戻す』のコマンドが現れ、能力値などは保持したまま、ギルドイベントで生まれた影響をリセットすることが出来るようになった。

 逆に言えばメニュー画面を開けない今の状況ではそれを使ってイベント影響をリセットすることが出来ない訳で、ギルドに深入りするのは危険を伴うということになる。
 しかし、加入して施設を使用するくらいなら特に問題はないだろう。

 それに、何度か周回プレイをしたおかげで、ギルド加入イベントは何度もやったことがある。
 戦士ギルドも魔術師ギルドも、どちらも加入のためのクエストはそう難しくはなかったし、低レベルでも特に苦労することもないはずだ。

「よし、行くか」

 俺は軽い気持ちで交差された刃がトレードマークの戦士ギルドの扉を開き、目を大きく開くことになる。
 なぜなら、扉の奥には金髪のイケメンがいて、

「やぁ、見たところ君は戦士だね!
 いや、皆まで言わなくていい!
 君に、僕と一緒に魔王退治をするという栄誉を与えよう!」

 いきなりそんなことを言い出した彼の顔は、俺がゲームの中でも一度も見たことがない物だったのだ。
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