挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
39/239

第三十七章 決着

 何度か危ない場面はあったものの、魔封船は何とか王都リヒテルまで無事に辿り着いた。

 ここしばらくの魔封船の中では一番安全なルートを取る奴を選んで乗ったので、途中墜落しても恐らく生存くらいは出来ただろうが、面倒がなかったことはありがたいと思うべきなんだろう。
 ただ一つだけ。
 きちんと着いてしまったことを、少しだけ残念に思ってしまうような要素もあった。

 それは、

「……随分と遅かったですね。
 流石の私も、同じ日に二度も同じ相手に待たされるのは初めてです」

 リヒテルの魔封船発着場で仁王立ちして待ち構えていた、ヒサメの存在である。



「その様子なら、手紙は読んでくれたみたいだな」

 猫耳を見る限り、俺に対して腹は立てているようだが、流石にいきなり斬りかかってくるなんてことはなかった。
 俺が勝負をすっぽかしたと考えているならここまで落ち着いてはいないはずな訳で、これはちゃんと手紙を読んでくれていたという証拠だろう。

 ちなみに教会前で彼女に渡した手紙には、

『9時に勝負開始だから5分前に宿屋の前に来いとは言ったけど、宿屋の前で勝負開始とは言ってなかったよね。てへぺろ☆』

 みたいなことを書いて渡しておいた。
 いや、もちろん『てへぺろ』って本当に書いた訳じゃないが。

 一応言っておくと、こうやって魔封船を使ってヒサメとの勝負に勝つことは、最初、この勝負を持ちかけた時点で考えていた。
 今の所、俺の思惑通りに事が運んでいる、と考えていいだろう。



 ――ヒサメに真剣勝負を申し込み、勝負方法を決めなくてはならないとなった時のことだ。

 俺にとっての最善は何だろうかと考えて、一番初めに浮かんできたのは、

(こういう面倒なことから解放されて、早く一人になりたいなぁ……)

 だった。
 完全に駄目駄目なぼっち思考である。

 だが、この勝負の着想はここから生まれた。
 つまり、『この勝負をダシにすればトレインちゃんからも逃げることが出来るのではないか』という思い付きが今回の出発点だったのだ。

 もし普通の状態で王都に行こうとすればイーナは必ず反対するだろうし、場合によってはついてこようともしてしまうに違いない。
 だが、ヒサメとの命を懸けた勝負が原因で、どうしても俺が王都に行くしかない状況になったとすれば、どうだろう。

 そもそも今回の件の発端はイーナに責任があるため、性格上あんまり俺に強くは出られないだろうし、命懸けの勝負に勝つためというのなら俺が王都に行っても納得してくれるだろう。
 ついでに言えば、王都とラムリックを往復するのはゲーム序盤の人間にとってはかなりのリスクが伴うので、戻ってこいとも言えないはずだ。

 いや、分かってる。
 完全に人の善意に付け込むような行動で、これが最低の思考だってことは分かってる。

 だけど正直、イーナは俺についてこない方が幸せに暮らせると思うし、王都での冒険を考えると、死ぬ危険が大きいイーナを連れて行くのは俺にとっても負担になることの方が大きい。
 王都にはいつか行かなくてはならない以上、この別れは単純にきっかけとタイミングの問題だったのだ。

 で、そこまで決まれば後は簡単だ。
 ちょうど翌日の朝に、比較的安全なルートで王都に向かう魔封船の便があった。
 これに乗れば勝てるような勝負を設定すれば、俺はイーナからもヒサメからも逃げられることになる。


 そこで思いついたのが鬼ごっこという勝負方法だ。

 いくらヒサメが最速のキャラクターであっても、人間の知恵と技術の結晶である魔封船には勝てない。
 当たり前の話だが、ラムリックの町で一番速いのはヒサメではなく、この魔封船なのだ。

 全盛期の俺でも丸二日かかるラムリック~王都間を、たったの数時間で移動する高速移動手段。
 ひとたびこれが出発してしまえば、どんなにヒサメが頑張っても追いつけるはずがない。
 魔封船は鬼ごっこにおける安全地帯と言えるのだ。


 ただ、魔封船がいくら速いとは言っても、普通に魔封船に乗って違う町に逃げるだけでは行き先の町に転移石で先回りされて終わる。
 だから『勝負の最中に俺が魔封船に乗っていて、それが反則負けにならない』ような状況を作る必要があった。

 直近の便では、魔封船が王都リヒテルに着くまでは約3時間。
 だから、勝負の時間を俺が必ず魔封船で空にいる時刻、つまり魔封船の出発時間の1時間後に設定し、一方でその勝負の開始場所については意図的に明言を避ける。
 さっきの手紙に書いたように、「勝負開始の時、俺がどこそこにいなきゃいけないとは決めてなかったよね?」と言い逃れるためだ。

 この辺りの条件を飲んでもらえるかは正直賭けだったが、ここさえ乗り切れば勝ったも同然だ。

 イーナは魔封船嫌いだし、ヒサメは高所恐怖症だ。
 魔封船に乗り込んでくる可能性は低かったし、念のためにイーナには俺の出航時刻に宿に行くように頼み、ヒサメには彼女への不信を理由に『俺の半径3メートル以内に近付いたら負け』というルールを設ける。
 魔封船は小さい。
 これでヒサメが一緒に乗り込んでくれば、ほぼ自動的に彼女の負けが決まることになる。

 後はまあ、無事に魔封船に乗れるかどうかだけ。
 それはあまり考えないことにして、俺は最後の一日の猶予を使い、仲良くなった人とのお別れと、この町でしか出来ないことを済ませた。

 具体的にはイーナにたいまつシショーを渡したり、自分用にもう一本のたいまつシショーを取りに行ったり、昔買えなかった杖を買ったり、それを持って昔の馴染みに会いに行ったり、『マリみて道場』に行ってこれから役に立つであろう技を習得したり、と大忙しではあった。

 特に最後の一つだが、『マリみて道場』というか、懺悔室は王都の教会にはない。
 ここで便利技『縮地』を覚えれば後々役に立つと思ったので、結構無理をしてしまった。
 ゲームだろうがリアルだろうが、徹夜なんてするものじゃない。



「――あんなに不愉快な手紙を読んだのは、初めてでしたが。
 よくもまあ、あのような詐術で勝ちを拾おうと思いますね」

 そんな徹夜明けの頭に、ヒサメの冷たい言葉が突き刺さる。
 あっさりとした顔で言っているが、猫耳は確かに怒っている。

 正直に言えば、ここで彼女が待ち構えていたのは少しだけ予想外で、彼女は騙されたと知っても気にせずに、そのまま旅を続けるものと思っていた。
 貴重な転移石を使ってまで追いかけてきたのだから、それはそれなりに怒っているのだろう。
 プライドが高く、勝負事に厳格な彼女らしいと言えばらしいのかもしれないが、

「だけどその口ぶりからすると、今回は俺の勝ちだってあんたも認めてるんだろ?」

 勝負事に厳格でプライドが高いからこそ、自分の負けを認めざるを得ない。

「……そう、ですね」

 今度の返答には少しの間があったが、彼女はそう答えた。
 それを聞いて、俺は心の中でガッツポーズ。

 しかし、次に俺を見据えたヒサメの視線には強い力が宿っていて、俺は気を抜きそうになっていた自分を戒めた。
 彼女はその眼力をそのまま言葉に込めるように、俺に新しい提案をする。

「今回の勝負については負けを認めます。
 けれど、このままというのも納得いきません。
 もう一度勝負を……」
「だけど、一応勝利は勝利だから、約束は果たしてもらえるよな?」

 この流れはまずいと思った俺は、慌てて彼女の発言をさえぎり、先手を取ってそう切り出した。

「約束? いえ、貴方は何も要求を……あ」

 気付いたらしい。
 そう、ここまでが俺の計算で、俺の策略だ。
 穴は多いかもしれないが、たぶんそれでも彼女は押し切れる。

「もう、真剣勝負なんてやらないよな?
 そういう約束、だったもんな?」
「う、むぅ……」

 これが、最後の一手である。
 いや、正確に言うなら、ヒサメに勝った時の条件を聞かれて咄嗟に思いついただけだが、これが実質的な駄目押しとなるはず。

 俺はあの時、『俺が勝ったらこういう真剣勝負を受けないで欲しい』とかそんな風なことを言ったはずだ。
 いや、まあ『受けないで』だから自分から申し込む分にはいいとか色々言い訳は立つのだが、プライドの高い彼女が『詐術で勝ちを拾う』ような、そういう抜け道を選択するとは思えなかった。

「む、ぅぅ……」

 彼女の中で、様々な葛藤があるのだろう。
 顔をうつむかせているので表情は分からないが、こちらに突き出した形の耳を百面相させている様は、何だかキョドってるといった様子だ。
 キョドってる猫耳とか斬新すぎる。

(……お?)

 しかしそれも、ある時唐突に止まる。
 何がしかの結論が出たのか、忙しなく動いていた彼女の猫耳の動きがぴたりと静止して、

「……か」

 顔をうつむかせたまま、彼女は何かの言葉を発した。

 だが、声が小さすぎてよく聞き取れない。
 何を言ったのかと、俺が少し顔を近付けると、







「ばかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」







 あまりの大音声に、耳がきーんとなった。

 声量の凄まじさと普段とのあまりのギャップに二重の意味でくらくらしていると、彼女は後ろも見ずに一目散にどこかに駆け出して、すぐに見えなくなってしまった。

 恐ろしいまでの速度だった。
 もしかすると、魔封船より速かったかもしれない。

「やれやれ。小学生かよ……」

 なんて悪態を吐くが、内心は安堵でいっぱいだった。
 これで俺は何とか、二重の危機を回避出来たことになる。



 今までの説明だと俺がわざわざせこい手段を用いて楽に勝利を拾った、みたいに思うかもしれないが、この『勝ち方』こそが一番俺の頭を悩ませた部分だった。
 ずるい手段を使って俺の実力とは無関係に勝った、という事実が実は一番重要なのである。

 前にも言ったと思うが、このヒサメとの一騎討ちイベント。
 現時点でクリアしてしまうと、続く連続イベントによって、ほぼ確実に俺は殺されることとなる。
 いや、まあゲームとは違うのだから頑張れば何とかなるかもしれないが、正直ヒサメ関連のイベントは、起こさない方が安全なのである。

 このゲームはフリーシナリオ的なシステムなので、どのイベントもクエストも、基本的に受ける受けないは自由。
 ストーリークリアのために起こさなくてはいけないイベントはあるが、それを起こすタイミングは基本的にプレイヤーが自由に決められる。

 ただ、一部のイベントは条件を満たすと強制開始したり、実質的には受けるしかない状況に追いやられたりする。
 そして、ヒサメの一騎討ちからの派生イベントは、典型的な後者の例だと言える。


 一騎討ちでヒサメに勝つと、『ヒサメ家の家訓で自分を打ち負かした相手以外を結婚相手に選んではならないのだが、今まで私に勝った人間はいなかった。結婚するかどうかは別として、一応報告したいので私の父親に会って欲しい』みたいなことを言い出し、ありがちで頭の悪いテンプレラブコメストーリーが始まるのだが、その入り口である『ヒサメ家訪問イベント』が回避不能なのだ。

 その強制具合は凄まじく、身体が勝手に動かされるなどということはないが、誰に何を訊いてもヒサメの家に関する情報しか口にしなくなるので、もうヒサメの家に行ってイベントを終わらせるしかなくなるという剛腕っぷり。
 何しろNPCとのまともな会話が出来なくなるせいで、店は武器屋やアイテムショップどころか宿屋まで利用不可能になるし、他のクエストを受けることも出来なければ、受けていた別の依頼を果たそうとしても受け付けてもくれない。
 それどころか、仲間に指示出しをしようと話しかければ、

「そういえば、ヒサメの家に行くんじゃなかったか?
 俺はここで待っているから、さっさと行って来いよ」

 とモンスターの目の前で言い出し、しまいには町にいる明らかに生後数ヶ月くらいの乳幼児までが、

「それよりも、ヒサメの家に行った方がいいのではないか?
 ヒサメの家は、王都の西にある」

 などと言い出す始末である。
 滑稽とかを軽く通り越してホラーの領域だ。


 で、そうやって連れて行かれた先は剣術道場。
 道場主であるヒサメの父親と門下生9人が待ち構えていて、

「君はミツキを破った実力者だそうだな。
 ぜひ、ワシらとも手合わせをしてくれないか?」

 と提案されるのだ。

 提案なので断ることも出来るのだが、これもほぼ強制イベントで、手合わせをするまでシステム的に道場の外に出ることが出来なくなる上、こっちがうなずくまで何度でも訊いてくる。
 ただ、十回断り続けると一応変化はあって、

「なるほど、この程度では不足と申されるか。
 ミツキ! 彼と手合わせをするからお前も加わってくれ!」

 10対1の状況がヒサメを加えた11対1になるというおまけがついてくる上に、今度は断れない。
 本当に『猫耳猫』らしい行き届いたサービスである。

 つまりは結局戦うことになるのだが、もちろん10対1では決闘システムを発動させることは出来ない。
 だから、ヒサメの父親は、

「なあに、ちゃんと峰打ちにするから大丈夫」

 親切にもそう言って俺を安心させるように目の前で刃を返してくれるが、問題は父親以下門下生全員が逆刃刀・・・を持っているという事実だった。
 峰で打つ気ゼロというか、うっかり(?)殺す気満々としか言えない状況である。
 というか、そのためだけに逆刃刀を十本も集める所に狂気すら感じる。

 そこからも『展開自体はそこらのラブコメ漫画と同じなのに、なぜか常に命の危険がついてまわる』イベントが目白押しで、正直言って今の俺には絶対に乗り切れない。

 文字通り『勝っても地獄、負けても地獄』な状況だった訳だが、俺はそれを何とか乗り切ったようだった。


 ……まあ、なんにせよだ。

 これで俺は、当面の自由と強くなるための時間を得た。
 この新しい街で俺は今度こそぼっちライフを満喫し、『猫耳猫』の悪意に対抗出来るだけの力を身につけ、元の世界に帰る手段を探す。

 俺の冒険は、まだまだ始まったばかりだ! 
第一部完?

一応普通に続く予定です
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ