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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第三十四章 一騎討ち

「ああ、そうだ! ミツキ・ヒサメ! 俺はあんたに一対一の真剣勝負を申し込む!!」

 という俺の言葉に、ヒサメはその動きを止めた。

 はっきり言って刀を突きつけられながら言うことではないが、実は彼女の刀がこれで止まってくれるという確信は、俺の中に確かにあった。
 『一対一の真剣勝負を申し込む』というのは、彼女の一騎討ちイベントを発生させるためのキーワードだ。
 彼女が応じてくれるのは分かっていた。

 ただ、問題は……。


「その言葉の意味を、貴方はきちんと理解していますか?
 真剣勝負と言うからには、貴方にも命を懸けてもらいますが」


 そのイベントが、決闘システムを使ったような生ぬるい物ではなく、マジモノの殺し合いだということだ。

 一騎討ちイベントはもともと、ヒサメを正式な仲間にするためのイベントだ。
 ゲーム内の彼女いわく、本気の殺し合いで自分を屈服させられるような相手でないと、背中を預けるには足りないということらしい。
 本当に難儀な性格をしている。

 とはいえ、プレイヤー側としては本当に殺してしまっては仲間にするも何もない。
 最強クラスのNPCであるヒサメを相手に仲間の援護なしで戦って、最終的に彼女のHPを一割以下にしなければこのイベントはクリアにはならないのだ。
 一方で向こうは全力で殺しにかかってくるので困ったものである。

 ちなみにこのイベントでプレイヤーがヒサメに殺された時、ヒサメの友好度が高い場合は、

「貴方を、こんな形で失いたくはなかった」

 とつぶやいて、無表情な彼女が一筋の涙を流すという名イベントがあるのだが、ゲームじゃなくなった今では冗談にもならない。

 殺された後でデレてくれても何の役にも立たない。
 それくらいなら斬るのを思いとどまってくれと言いたくなる。

 しかし、とにかく彼女はそれほどに『真剣勝負』という物に思い入れを持っているのだ。
 親しい相手でもそうなのだから、昨日今日会った人間を斬ることを躊躇うはずがない。
 だが、このままの状態でも殺されるだけだ。
 ならばここは、このイベントの路線を貫くしかない。

「当然だ! 俺はあんたとの戦いに命を懸ける!」

 そう叫ぶ。
 いや、全然当然じゃないけどね!
 ぜんっぜん死にたくないけどね!

「そうですか。……なら、何も言いません。
 仕切り直して仕合うとしましょうか」

 しかしその効果はあり、彼女はそう言うとあっさりと剣を引いてくれた。
 だが、待って欲しい。

 仮に、今の状況で戦闘になった場合、俺に勝ち目はあるのか。
 ちょっと検証してみる。


 今の俺と彼女の間には、圧倒的な実力差がある。
 彼女自身がゲーム開始時からすでに強く、チート級の能力値を有している。
 なのにそこで更に、高レベルユニーク装備で身を固めている始末。

 彼女の圧倒的な強さには、本人のチートとしか言えない能力値の他に、装備品の性能が関係しているのだ。
 そのラインナップは、

 月影[刀] 重さ:2
 天の羽衣 重さ:0
 韋駄天の足袋 重さ:1
 四属の腕輪 重さ:0
 探索者の指輪 重さ:0

 と、総重量がなんと3しかなく、全部合わせても脇差より軽い。
 反則すぎる。

 なのに性能も折り紙つき。
 見た目的にはほとんど薄衣一枚しか身に着けていないのだが、その防御能力は尋常ではない。
 不知火は大太刀分類のため破格の攻撃力を誇るが、所詮中盤武器。
 命中しても、大した痛手にはならないだろう。
 ……むしろそれが分かっているから、最初に全力で攻撃することも出来たのだが。

 彼女が着ている服なんかはいかにも脆そうで、斬るどころか火でもつければすぐ燃えそうに見えるが、それもとんでもない誤解だ。
 どうも彼女の羽衣と腕輪には属性耐性まで付いているようで、火、水、風、土の四大属性にほぼ完全な耐性を持ち、魔法防御も高い。
 ヒサメに魔法でダメージを与えることは、物理攻撃以上に絶望的だろう。

 そして、彼女は状態異常耐性も高い。
 やはり羽衣に状態異常耐性があるのか本人の耐性が高いのか、俺は彼女が状態異常にかかった所を見たことがない。
 少なくとも、現時点の俺が彼女に状態異常をかけることは無理だろう。

 おまけに羽衣と足袋は敏捷にプラス補正をかけているのではと言われている。
 俺が彼女に勝ったのはクリア後。
 彼女の速度に、キャンセルスキルとカスタム魔法を組み合わせて何とか追いついていったのだ。
 しかし、魔法のカスタムは王都に行かなければ出来ないし、覚えているスキルの数だって当然ゲームデータには及ばない。

 俺が勝つには最低でも、NPC最速のヒサメの速度についていき、終盤クラスの防御力を持つ彼女に有効な攻撃を決めなければいけないのだが……。

 あれ? これ無理じゃね?


「先程の場所に戻りますか?
 ここでは存分に戦えないでしょう」

 そんな俺の焦りにも気付かず、ヒサメはやる気満々だ。
 猫耳が嬉しそうにぴくぴくしている。
 可愛い耳して完全にバトルジャンキーである。
 このままでは問答無用で殺し合い……いや、俺の虐殺が始まってしまう。

「いや、ちょっと待ってくれ!
 真剣勝負をするとは言ったが、斬り合いをするとは言っていない」
「……どういう事ですか?」

 たまらずに待ったをかけると、ヒサメが低い声で聞き返してくる。
 猫耳も不機嫌そうにぴんと立っている。

「貴方は確かに、この勝負に命を懸けると言ったはず。
 まさか、言を翻すつもりですか?」

 ここまで殺気立っていれば、猫耳を見なくても分かる。
 彼女は約束を反故にされるのをことのほか嫌う。
 これはまずい。

「もちろん勝敗の行方には命を懸ける。
 負けたら命だってくれてやるさ。
 だけど、俺にはあんたを殺す理由はない。
 斬り合いなんてお断りだ」

 なんかまるで、俺がヒサメに勝てるみたいな言い種になった。
 というか、俺は負けたら命をくれてやらなくちゃいけないのか?
 それは嫌だ。

「成程。しかし、どうやって勝負をするつもりですか?」

 下手なことを言ったら命はないぞと目が語っている。
 じゃんけんで、とか言い出したら、即座に斬って捨てられそうな勢いだ。
 どんな勝負なら彼女が納得し、同時に彼女に勝てるのか。
 俺は全力で頭を回転させて考える。

(……いや、違うな)

 誤解してはいけない。
 俺は別に、彼女に勝ちたい訳じゃない。
 この場を切り抜けたいだけだ。

 考えろ!
 何が俺にとって最善か、考えるんだ!!

「どうしました?」

 何も言わない俺を、ヒサメがゲームで見慣れた無表情な顔で見つめている。

 ……そうだ、見慣れている。
 俺はゲームで、彼女のことをよく知っている。

 強さだけではない。
 その性格や好み、何を重んじ何が苦手とするのかも。
 それを、思い出せばいい。


 ミツキ・ヒサメは二面性のある人物だ。

 刹那的で暴力的でありながら、時に深謀遠慮を見せ。
 気まぐれで移り気だが、一度した約束を違えることはなく。
 人を人とも思わない態度を取るが、気に入った相手に対しては最大限の尽力をする。

 子供の時から厳しい教育を受けていて、しゃべりがどことなく厳めしいのは親の躾のせい。
 昔から自分の速さに自信を持っていて、小さい頃に馬と本気でかけっこをして負けて泣いたという微笑ましいエピソードもあるが、大きくなってから馬と本気でかけっこをして勝利してしまうという笑いがひきつるエピソードもある。

 感情が顔に出ることはないが、耳には出まくる。
 鉄壁のポーカーフェイスで眉をしかめる動作すらもほとんど目撃されたことはないが、十秒以上猫耳が動かない所も誰も見たことがない。
 流れるような所作で無音で動くため余人には気配を感じることも出来ないが、その間も猫耳はぱたぱたと慌ただしく動いている。

 特技は居合抜きとあみぐるみ作成。
 趣味は刀剣の蒐集とぬいぐるみ集め。
 たまに二つが合体して、抜き身の妖刀を持ったクマのぬいぐるみなんかが自室で目撃されたりもする。

 たとえ数百の魔物に周囲を囲まれても動揺一つ見せない豪胆な精神を持つが、極度の恥ずかしがり屋で他人に下着姿を見られると悲鳴を上げてうずくまってしまう。
 どんな強敵も打ち倒して地面に這いつくばらせるため、ヒサメをよく知る人は彼女の前に立つと震え上がるが、本人は高い所が駄目で高所に立つと足がぷるぷるする。ついでに猫耳もふるふるする。
 目の前で人が殺されても全く冷静さを失わず、時には自分の生存すら度外視して目的を果たそうとするが、お気に入りのぬいぐるみの腕が取れて三日三晩泣き暮らしたことがある。

 刀の扱いに特に優れるが、包丁の扱いは特に苦手。
 戦場においては思う様に敵を料理して、家庭においては食材に翻弄される。
 重度のバトルジャンキーで戦うことが何よりの生きがいだが、家で一人になると「普通の女の子になりたいなぁ」とアイドルみたいなことを言う。

 これが、俺の知るミツキ・ヒサメである!!


 やばい、全く隙がない!
 主に萌えキャラ的な意味で!

「決まりましたか?」

 戦慄する俺に、焦れたヒサメが再度声をかける。
 こうなったら仕方ない。
 多少、安易ではあるが……。

「ああ、勝負の方法は、りょう……い、いや、何でもない!!」

 あ、危なかった。
 今、料理と言いかけた時、ヒサメの殺気が百倍くらいに膨れ上がった。
 あのままでは俺は、あっさりと殺されていただろう。
 デッドエンド分岐が多すぎる!

「もし、私をからかっていると言うなら……」
「待った! 今のは冗談だ!
 本当はもう、とっくに考え終わってる」

 少し黙っていただけでまたしても成立しそうになったデッドエンドフラグをぶち折るべく、大声でそう主張した。

 ただ、これは決して、ハッタリなどではなく。
 彼女を殺さず、俺も死なず、ピンチをチャンスに変え、俺の望む最善の未来へと進めるかもしれない、そんな俺にとって最高の一手を、俺は思いついていた。

 だから俺は、厳かに彼女に告げる。


「鬼ごっこを、しよう」


 と。
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