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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第二章 リザードマンの罠

 金と名声、強さと権力、そして何より冒険とスリルを求め、貴方は故郷の町を旅立った。

 貴方が目指すのは、未だ怪物や魔物が山や森を跋扈し、剣と魔法が飛び交う魔の国、リヒト王国。

 獣人や魔族が当然のように街を闊歩し、冒険者と呼ばれる荒くれが日々しのぎを削る、弱肉強食の世界。

 貴方は彼の地での成功を夢見て旅を続け、とうとうリヒト王国の玄関口、ラムリックの町が望める場所まで辿り着く。

 この分なら今日の内にはラムリックの町に入れるだろう。

 安堵する貴方だったが、その時道の先から叫び声が響いた。

 ――盗賊だ! 誰か来てくれ!

 貴方は一瞬の逡巡の後、愛剣を手に声の方へ駆け出していく。

 響いたのは剣戟の音、そして人の争う声。

 目を凝らすと、そこでは今まさに激しい戦闘が行われていた。

 立ち止まる馬車を狙う盗賊と、それを守ろうとする商人たち。

 商人の一人が叫ぶ。

 ――冒険者か、ありがたい。報酬は出すから手伝ってくれ。

 貴方は商人に無言で頷くと、盗賊に打ちかかっていった。


 貴方の冒険が始まった――





 公式ホームページに書かれていた導入のストーリーを思い出しながら、俺はもう一度目の前に広がる光景を見る。
 もう昔のこと過ぎてはっきりとは覚えていないが、この配置は明らかにスタートイベントだと判断していいだろう。

 初見殺しの異名を持つクエスト、通称『リザードマンの罠』。
 正式なクエスト名は覚えていないが、『商人を守れ』とかだっただろうか。

 正確な統計を取った訳ではないだろうが、プレイヤーの9割以上はこのイベントで一度は殺されていると言われている。
 かくいう俺も、初めての時は何が何やら分からない内にあっさりと殺された。
 何が起こったのか理解出来たのは、確か二回目に殺された時だっただろうか。

 このイベント、何がそんなに難しいのかというと、出て来る敵が強いということもあるが、何より初見での状況の把握が難しい点が挙げられる。
 しかも、ゲーム慣れしている人間ほどこのトラップにはひっかかりやすいのだ。


 状況を再確認してみよう。
 一番俺に近いのが、こちらに背を向けている、剣を持った女性。
 それから馬車を背に、彼女を取り囲むように武器を構える四体の蜥蜴人間。

 さて、分かっただろうか。
 この状況、一見するとリザードマンが寄ってたかって人間の女性を襲っているようにも見える。
 だが、リザードマンたちは、馬車を背にして・・・・・・・、戦っているのだ。
 さらにもっと冷静に観察すれば、革の鎧と曲刀に盾と女の方がしっかりした装備をしているのに対し、リザードマンたちはいかにも普通の服を着て、持っているのもナイフやこん棒程度の護身用の物だと看破出来るだろう。

 ――つまりこれは、馬車に乗っていた善良なリザードマンの商人たちを、完全武装の恐ろしい女盗賊が襲っている、という図なのである。


 公式や説明書に書いてあるストーリーを読めば、実は商人が複数いることなどは分かるのだが、肝心の商人がリザードマンだということは書いていない。
 大抵のプレイヤーはリザードマンは敵という先入観、それに数が少ない方が相手を襲うはずがないという思い込みから、リザードマンの方に斬りかかってしまう。
 そうすると味方NPCだったリザードマンとも敵対関係になって戦うことになってしまうし、リザードマンと戦っている間に味方だと思っていた女盗賊に後ろから刺されるという寸法である。

 これぞまさに、『リザードマンの罠』である。
 いや、リザードマン自体には何の悪意もなく、ただ格好が怖いから悪くもないのに攻撃されるという可哀そうな役回りな訳なのだが。

 この『リザードマンの罠』にはまり、何が起こったのか分からずここで十回以上殺されたというプレイヤーもいたし、これをプレイしていた小学生の中には、この一件がトラウマになってしばらくVRゲームが出来なくなった者もいたらしい。
 わざとなのか天然なのか、このとんでもないスタートイベントは『New Communicate Online』のキワモノゲームとしての名声を高める一因となる。


 もちろんカラクリを知っている今の俺がそんなドジを踏むはずがない。
 だが、それを抜きにしてもこのクエストの難易度は高い。

 何しろ相手の女盗賊は、武器の差はあるとはいえ、商人四人を相手に一人で戦うことが出来る実力者なのだ。
 リザードマンの商人たちとうまく連携して戦わないと、初心者ではあっさりと殺されてしまう。

 剣を抜き、彼らの顔がはっきり見えるようになる距離まで近付いた所で、にわかに俺を緊張が襲う。
 リザードマンたちの顔が、戦う女盗賊の獰猛な笑いが、つぶさに見える。
 それは、俺がゲームで体験したことがないほどのリアルさ。
 この世界がゲームのままではないと、それははっきりと俺に教えてくれる。

 ゲームであれば俺は戦える。
 いくら能力が初期状態に戻っているからといって、序盤の敵に苦戦するようなぬるいやり込みはしていない。
 だが、ここはゲームの中じゃない。
 少なくとも、現実と見分けがつかない程度のリアルさを持つ、現実の空間だ。

 それに、この世界で死んだら生き返れるかは分からない。
 少なくともゲームでもNPCが死んでしまうと自然に生き返ったりはしなかったし、『New Communicate Online』での死に戻りは実質的にはロードだ。
 最後にセーブポイントに立ち寄った状態に戻されるだけで、この世界でもそれが有効かは分からなかった。

(やれるのか、俺は?)

 急に、不安が俺を襲う。
 ゲームでの経験がこの世界でも通用するなら、俺は勝てるはずだ。

 ――本当に?

 芽生えた不安が、俺の焦りを加速させる。

「あっ!」

 考えに気を取られ過ぎたか。
 俺は思ったよりも派手な音を立てて、剣を落としてしまった。

「――――!?」

 戦っていた女盗賊とリザードマン、双方の陣営が俺に気付き、一斉にこっちを向いてくる。
 慌てて剣を拾い直したが、もう遅い。
 五対の友好的とは言い難い視線にさらされて、足がすくんだ。
 まずい、と思った。

 リザードマンと共闘しなければいけないはずだが、ゲーム世界ならともかく、現実になったこの状況で、リザードマンたちは俺を味方と思ってくれるだろうか。
 俺は女盗賊と同じ人族で、しかも盗賊と同じ方向からやってきた。
 普通に考えれば、仲間だと誤解するのではないか?

 そう思ったら急に怖くなった。
 俺は何も思いつかないままに、それでも何か言おうとして、口を開き、

「……ぁ、の」

 しかしその必要はなくなった。

「ちっ!」

 舌打ちと共に女盗賊が動く。
 リザードマンと向かい合っていた彼女は、迷いなく踵を返した。
 挟み撃ちの危険性を理解して、撤退してくれるらしい。
 助かった、と思ったのは甘かった。

 彼女は戦いを諦めたのではなかった。
 ただ、目標の優先順位を変えただけ。
 彼女の次の標的は……。

「お、俺?!」

 挟み撃ちの危険を避けるため、先に不確定要素である俺を殺し、その後でリザードマンたちを襲うつもりらしい。
 冗談じゃない!
 そう思ったし、何かしようかと思うものの、とっさには身体が動かない。

「あ、ぁあ……」

 女盗賊が迫ってくる。
 手に持った曲刀が不気味な光を発し、彼女の残忍な笑みはもう既に勝利を確信しているよう。

 何も出来ない内に、女盗賊と俺との距離はどんどんと縮まっていく。
 10メートルはあったはずの彼我の距離は、いまや0に等しい。

「死にな!」

 今度こそ、女盗賊が殺意を込めて剣を振りかぶる。
 それを見て、俺は……。

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