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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第二十八章 誤解

 俺に天使と言われてしばらくはイーナの機嫌もよかったのだが、町を進むにつれて目に見えてその様子がおかしくなってきた。

「ソーマさん、この先には……あ、いえ、やっぱり何でもないです」

 たびたびこっちを見上げては、何だか不安そうな様子を見せている。
 それでもあまり気にしないようにして歩いていたのだが、

「あ、あの、こっちよりも向こうに行きませんか?
 あっちの、表通りの方とか」
「え? ああ、いや……」

 突然俺の手を引いて、逆方向に進ませようとしてきた。
 何の気まぐれだろうと思ったが、見るとそれなりに思いつめたような顔をしている。

「この前、武器屋とかアクセサリー屋とかを羨ましそうに見てたじゃないですか。
 今日は何も予定がないんだったら、心置きなく見て回れますよ?」

 イーナはそう言って俺の腕を引いてくる。
 昨日、俺がアイテムショップを出てから、他の店にも入りたがっていたことを見抜かれていたらしい。
 そういうのには鈍感な方かと思っていたが、意外とよく見ている。

 もしかすると、これはイーナなりの気遣いなのかもしれないが、先に見ておかなくてはいけない場所がある。

「店には、後で行くよ。
 でもお店を心置きなく回るために、ちょっと見ておきたい場所があるんだ」

 教会とはまた別の方向の町外れ。
 今俺たちが向かっている先には、この世界最速と言われる乗り物、『魔封船まほうせん』の発着場がある。



「『魔封船』なんて、危ないですよ!」
「……そうか?」

 発着場に着いた途端、イーナが言ったのはそんな台詞だった。

「だ、だって、こんな鉄の塊が空を飛ぶなんてまずおかしいじゃないですか!」
「ああ、うん。まあね」

 なんか現実の飛行機嫌いの人みたいなことを言い始めた。
 ただ、気持ちは分からなくもない。

 『魔封船』は簡単に言えば空飛ぶヨットみたいな物だ。
 魔法の帆に魔力を受けて、空を進む船。
 それが『魔封船』である。

 なぜ素直に飛空艇とかにしなかったのかは議論の分かれる所だが、きっとオリジナリティを出したかったんだろう。
 そして、『猫耳猫』におけるオリジナリティという物は、総じてプレイヤーに嫌がらせをするために存在している。

 この、魔封船について言えば……。

「それにこの船、落ちるんですよ!」

 と、いうことである。


 魔封船の収容人数は20人ほど。
 空に流れる魔力の波、魔流という物に乗って空を飛んでいくのだが、魔流は不安定な物のため、あまり船を大型にも出来ないし、運航は常に不定期。

 おまけに、ちょっとしたことで魔流は変わったりするので、事故の確率が半端ない。
 ゲームの中では、墜落率約三割という逆に驚異的な数値をマークしていた。

「しかも、落ちた先は大抵魔物の巣窟なんですよ!
 商人の人みたいに転移石を持ってたら別ですけど、そんな物なしに魔封船に乗るなんて、どう考えても自殺行為です!」
「いや、そこまででもないと思うけど……」

 例えばこれに乗ってラムリックから王都に行く場合、ラムリックの近くで落ちればまだいい。
 自力で戻るのは時間がかかるだろうが、そこでの敵の強さはレベル50に収まる範囲だ。
 生きて帰ることも不可能ではないかもしれない。
 しかし万が一に逆側、王都の近くに落ちた場合は、最悪の事態が待っている。

 俺がこの船に初めて乗った時、見事に船は落ちた。
 何が何だか分からない内に船は不時着。
 同乗していた商人たちは次々に転移石を使って町に戻っていき、俺は見知らぬフィールドに一人残された。

 何が起きたのかまだ理解出来ないながらも、俺は必死で安全地帯まで戻ろうとして……死んだ。
 後で分かったのだが、最悪なことにそこは敵レベル120のフィールド、『粘菌の森』だった。
 レベル50そこそこのプレイヤーが、あそこに行ってしまったらどうなるか。
 ……あの時のことは、正直思い出したくもない。

 まあとにかく、そういう場所に落ちてしまった場合、ラムリックで活動していたプレイヤーに生き残る術などないと断言しておこう。

「わたし、こんな船に乗る人は頭がおかしいと思います!」

 だからイーナがここまで力説するのも、分からなくもないんだが……。

「あの、ここ、一応魔封船の乗り場だからね?」
「……あ」

 周りの人の目が、凄く怖い。



 流石にまずいと思ったのか、周囲を気にして声こそ潜めたものの、意外にもイーナは自分の意見を曲げなかった。

「別に、この船のことを悪く言うつもりはありませんけど、やっぱりこんな船、乗るべきじゃないと思います!」

 いや、悪く言ってるじゃないか、とは口に出せない剣幕だった。
 しかも、また声が大きくなっている。

「えーと、つまり、イーナは馬車派?」
「ば、馬車もダメです!」
「え、何で?」

 とりあえず矛先を逸らしてクールダウンさせようとしただけなのだが、逆になんかエキサイトしている。

「だ、だって馬車は……あれは、馬を酷使してます!」
「あ、ああ、うん。馬はかわいそうだよね、うん」

 文字通り馬車馬のように働かされてる訳だしね。
 トレインちゃんマジ博愛主義者。

「馬車もダメですけど、と、とにかく、魔封船は危ないと思います!」

 際限なくヒートアップしてくるイーナ。
 この調子ではここをつまみ出されるのも時間の問題かもしれない。
 俺は必死でイーナをなだめた。

「ま、まあ落ち着きなって。
 俺だって別に、今すぐあれに乗ってどこか行くなんて考えてる訳じゃないんだ。
 ただ、将来のことを見越して下見を……」
「だ、ダメですよ!
 下見なんてしたら、乗りたくなるに決まってます!」

 俺は子供か!
 ……ではなくて。

「まあ、イーナが魔封船嫌いなのはよく分かったよ。
 そんなに嫌なら、先に表通りの方に行っといてくれていいから」
「え…?」

 だから何で、そこで傷ついたみたいな顔をするのか。
 そんなに俺と一緒にいたいんだろうか。
 同じぼっち同士とは言っても、イーナと俺とではぼっちの種類が違いすぎて、時々気持ちがつかめない時がある。

 ともあれ、このままイーナをここに置いていても決していい結果は生まないだろう。
 さて、どう説得したものか。
 俺はない知恵を絞って、何とか彼女に受け入れやすそうな提案を試みた。

「ええと、ほら。
 まだ『試練の洞窟』のドロップアイテムを売ったりとかしてなかっただろ?
 そういうのを先に済ませてくれると助かるなぁっていうか……」
「それは……やってもいいですけど」

 駄目元で口にした言葉だったが、効果があった。
 これもやはり長いぼっち歴のせいか、彼女は他人の役に立つのが大好きなのだ。
 使命を与えられた嬉しさと俺をここに残していく不安がぶつかり合い、彼女を激しく葛藤させているのが見ていて分かった。

「その間に魔封船に乗っちゃうなんてこと、ないですよね?」

 不安そうに訊いてくる。
 ここが攻め時と悟った俺は、大袈裟なほどの身振りでそれを否定した。

「当たり前だろ。
 ほら、あっちを見てみろよ。
 まだ出港準備もしてない。
 行きたくても、まだまだ船は出ないよ」

 俺の力説が功を奏したのか、彼女はようやくうなずいた。

「……分かりました。
 じゃあわたしは一足先に行って、洞窟で手に入れたアイテムを売ってきます」
「ああ、頼むよ」

 鎧騎士のドロップ品は全てイーナに渡してある。
 彼女は俺のおかげで手に入れたのだから、せめて山分けを、みたいなことを言っていたのだが、面倒だから全部持っていてくれと頼んだらあっさりうなずいてくれたのだ。
 俺としてはそのままうやむやにしてイーナに全部あげるつもりだったのだが、こうなっては仕方がない。
 お金の分配でまた譲り合いが発生するかもしれないが、それについては後で考えることに決めた。

「俺もすぐに行くから、そっちも気を付けてな」

 内心の色々を押し込めて俺が見送りの言葉をかけると、イーナは、

「はい! あ、でもその代わり、すぐ来てくださいね!
 来ないと広場の掲示板に、ソーマさんの悪口書きまくっちゃいますから!」

 そんな不吉な捨て台詞を残して、元来た道を駆け戻っていった。

 その足取りは軽快だ。
 やっぱり用事を頼まれたことが嬉しいらしい。

(よく分からない奴だなぁ……)

 面倒なことを押し付けられて、どうして喜んでいるんだろうか。
 つくづく俺には理解不能だ。

「……はぁ」

 それにしても、イーナがここまで魔封船を毛嫌いしているとは思いもしなかった。
 知っていたら何か理由をつけて最初は別行動にしたのだが。
 もしかするとゲームのイーナがラムリックから動かなかったのも、そこに理由の一端があるのかもしれない。
 ああ、いや、それはあんまり関係ないか。

「ええと、それより運航予定表は……」

 探してみると、それはすぐに見つかった。
 次回の出航は今日の午後9時。
 次に明後日の午前8時、更にその次は翌日の正午ちょうど、その次になるとそこから三日後、という感じで見事に飛び飛びだった。
 かゆい所に手を届かせない、実に『猫耳猫』クオリティである。

 王都までの片道料金で、お値段はなんと驚きの50000E。
 メリペの遺産の残りを使えば決して払えない額ではないが、序盤の冒険者にはキツイ料金設定だろう。
 まあ三割の確率で船が駄目になるのだから、その費用を考えるとこのくらいの料金を取らなきゃ商売にならないのかもしれない。
 嫌なリアリティを持ってくるものである。

 ちなみにだが、イーナがちょこっと口にした『転移石』というのを使えば一瞬で町から町に移動することも不可能ではない。
 ただあれは基本的に中盤以降に出るレアドロップ品で、たまに市場とかに売り出されることもあるが、普通に300000Eくらいする。
 こっちは今の俺には流石に手が出ない。

 それ以外の移動手段となると徒歩か馬車だが、馬車は馬車で色々なイベントが起こって歩くより危険なこともあるし、かといって徒歩で行くとなると物凄く時間がかかる。
 確か試しにとクリア後のデータで最短距離を突っ切ってみたが、ゲーム時間でほとんど丸二日くらいかかった。
 途中には今の俺では歯が立たないようなフィールドもあるし、やっぱり王都への移動手段としては魔封船が第一候補として上がってくる。

 魔封船は毎回出発時間や移動経路が変わるため、その時その時で危険度が大きく異なる。
 俺はしばらくそこで運航表とルート表を見比べて、どの時が一番事故率が少ないのか、おぼろげな記憶を頼りに検討し続けていた。



「思ったより時間がかかっちゃったな」

 少し魔封船のルート選びに夢中になりすぎた。
 我に返った俺は、それからいそいで武器屋に駆けつけたのだが、そこにイーナの姿はなかった。

 ドロップの中に武器類がいくつかあったのでここに来たかと思ったのだが、他の店に行っているのだろうか。
 それとももう売り終わって違う店に移ってしまったのだろうか。

 すぐに別の店を探そうかとも思ったのだが、壁を飾る武器の数々に、俺の足は止まった。
 まあ俺が武器屋に来たがっていたのは彼女も知っているはずだし、こっちに探しに来るかもしれない。
 俺はそう自分に言い訳をして、店中に並ぶ武器を眺め始めた。

「おう坊主! ずいぶん悩んでるようだなぁ?
 オレが相談に乗ってやろうかぁ?」

 武器を前に目を輝かせていると、どこか威圧を感じさせる声でスキンヘッドのオヤジが声をかけてくる。

 ごつい体格に眼帯に禿頭。
 武器屋やるより冒険者やってる方がいいんじゃないかというくらいの迫力のある御仁だった。

「もうちょっと、待って下さい」

 だが俺は、その背中にかかる圧力を無視して、無数に居並ぶ武器を眺め続けた。
 一応ゲームで体験していたとはいえ、本物の武器を見るなんてことはあまり経験がある訳ではない。
 剣、槍、斧、武器系統ごとに並べられた武器たちが、ずらっと整列している様は圧巻だった。

 その中でも、一番の高値がつけられている武器に目をやる。
 『つらぬきの槍 6000E』と書かれているそれは、俺のゲームの記憶と姿も値段も一致した。
 現実の要素が加わったことで商品の値段が変化するなんてことが起こってもよさそうだが、今の所そういう事態にはなっていないようだ。
 あ、ちなみに今更だが、Eというのはエレメントの略である。念のため。

 俺がつらぬきの槍を見ていると、後ろから冷やかすような声がかかった。

「はは! やめとけやめとけ坊主!
 そいつは一本で6000Eもするんだぜ。
 坊主みたいなひよっこ冒険者に手が出せるようなもんじゃねぇよ」

 その声に、やっと気付いた。
 そういえば俺は、まだイーナにミスリル装備を貸したままだった。
 装備が初心者用だから、こうやって何度も声をかけられていたのか。

(さて、どうしたものか……)

 ここでわざわざ初心者じゃないアピールをするのも変だし、実際にレベルからすれば俺は駆け出しもいい所だ。

 でも俺にだって、ちょっとは見栄がある。
 ここまで軽視されたら、少しは驚かせて反撃をしてやりたい、と思うのが人情って奴じゃないだろうか。
 そろそろ武器は欲しいと思っていた所だし、ちょうどいい。

 俺は壁の武器を眺めるのをやめ、スキンヘッドの店主に向き直った。

「んん? 坊主、一体……」

 そしてそれ以上の言葉を封じるように、一気にたたみかける。

「それぞれの武器系統ごとに一つずつ、この店にある中で一番高い奴を買います。
 精算、してもらえますか?」

 俺がそうはっきりと言い放つと、店主は何を言われたのか分からないというように一瞬目をまん丸くして、それからそのハゲた頭を困ったようにかいて、言った。


「あー、わりぃ坊主。オレも、客なんだけど……」


 大恥かきました。
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