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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第二十七章 仲間

 ゲーム生活四日目。
 ただでさえ前途多難なスタートを切った朝だったが、俺の悲鳴を聞きつけてイーナが部屋に駆けつけたことで事態は更に混迷を極めた。

「え? ソーマさん、筋肉痛なんですか?
 だったらお任せください!
 わたし、マッサージ得意なんですよ!」

 と嬉しそうに俺ににじり寄るイーナ。
 筋肉痛で逃げるに逃げられない俺。

「いや、いいからいいから要らないから!」
「心配しなくても大丈夫ですよ!
 わたし、お母さんからも『あんた、昔からマッサージだけはうまいわね。うますぎてもうなんか……エロいわ』って褒められてて……」
「病気の割に予想以上にフランクなお母様だな!
 そんなの聞いたら尚更要らないからほんと!」

 という、見方によってはいちゃついてるとも取られかねないやり取りは、幸いにも部屋での騒ぎを不審に思ってやってきた宿の主人によって中断され、

「あ、筋肉痛ぅ? じゃあなんでポーション使わないんだ?」

 の一言で完全に終幕した。
 その時俺は、オヤジさんの言葉を聞いてイーナがさりげなく俺から顔を背けたのを見逃さなかった。

 ――こいつ、知ってやがったな!



 筋肉痛はポーションであっさり完治した。
 お礼代わりに宿屋のオヤジさんにはシャベルを、イーナにはアイアンクローをそれぞれプレゼントした後、俺は町に繰り出した。

「筋肉痛は治ったけど、今日は町を見てまわったり、買い物をしたりでのんびり過ごすことにするよ。
 特に何かするって訳でもないから、イーナは別行動でも……」
「一緒に行きます!」
「……そう」

 途中で食い気味に力いっぱいそう言われて、俺も反論する言葉を失う。
 楽しそうに隣を歩くイーナを見て、俺は複雑な気持ちになった。

 俺がイーナの強化を優先したのには、二つの理由がある。
 以前に言ったように、彼女を厄介払いしたいという理由。
 つまり、俺がいついなくなってもいいようにするというのが理由の半分。
 では残りの半分はというと、二人で何かをやった時、彼女だけが死んだりしないように、という思いからだ。

 この世界の人間全部を守りたいとかいった高尚な意識は俺にはないが、知り合いが死んでしまっても平然としていられるほど神経が太いつもりもない。
 自分のせいで人が死んだなんて罪の意識を抱えて生きるのは真っ平ごめんだし、いくら面倒くさくて鬱陶しい奴でも死んでるよりは生きてる方がいいに決まっている。
 理想を言えば俺の知らない所で平和に暮らしてくれるのが一番いいのだが、俺の近くにいる間はせめて死んだりはしないように気を配ってやろうと思う。
 いかにも中途半端だが、これが今の所の俺の正直な気持ちだった。

(だけど、それももう必要ないよな……)

 基本的に、この『猫耳猫』に『パーティ』という概念はない。
 前に話した通り、モンスターの経験値はトドメを刺した人間が総取りするシステムで、低レベルの人間を一気にレベル上げするようなことはなかなか難しい。

 イーナはトレインという特性があるために一気に66までレベルアップ出来たが、これもそろそろ頭打ちだろう。
 トレインモードが発動するのは、俺がラムリック周辺のフィールドに一定時間留まっている時だけ。
 その対象から地下迷宮は当然外されているし、ラムリック周辺で一番レベルの高い敵が出て来るのが『試練の洞窟』なのだ。

 レベル75か76くらいまでは比較的簡単に上がるだろうが、自分のレベルが敵のレベルを上回るにつれて、入手経験値に大きなマイナス補正がかけられる。
 特に適正レベルを5以上上回ると、その補正は致命的なくらいに大きくなる。
 たとえトレインを利用した所で、簡単にそれ以上のレベルまで上げられるとは思えなかった。

 それ以上のレベルアップを望むならラムリックを離れるしかないが、イーナのトレインが発動するのはラムリック周辺だけ。
 そして、トレインモードがなければ彼女は本当にただの冒険者でしかない。
 それにそもそも、このラムリックで生活をするのであれば、それ以上のレベルなんて必要ではないのだ。

(やっぱり連れて行くのは無理、だよなぁ……)

 俺は『猫耳猫』をほとんどソロでプレイしていたと言ったが、最初の方、特に一回目のデータではそんなこともなかった。
 むしろ最初に自分と同じ低レベル冒険者を仲間にして、仲間と自分、そのレベルが均等に上がるように気を付けながら進めていたのだ。
 その時はソロでやることはもちろん、パーティメンバーを変えることもほとんど考えもしなかった。

 『猫耳猫』をもっとも純粋に楽しんでプレイしていた時期と言えるが、自分や仲間が死ぬこともまた、この時期が一番多かった。
 セーブやロードがないこの世界で、普通の冒険者が俺と一緒に旅をするなんて自殺行為以外の何物でもない。

(じゃあ逆に、誰なら俺と一緒に旅をしても死なないかって話にもなるけど……)

 少なくとも、今の段階の強さで考えれば該当するキャラはいっぱいいる。
 そうでなくてもこの世界には仲間になるチート級のキャラが無数にいるのだ。
 そういう奴らを早期に引き込むことが出来れば、これからも冒険も順調に進むかもしれない。


 このゲームで一番レベルが高いとされているNPCは、『幻の勇者アレックズ』だったはずだ。
 黄金の装備に身を包み、比類なき剣技を修めた、勇猛果敢で恐れを知らないレベル200の勇者。

 もうこいつが主人公でいいんじゃないかと思うくらいのスペックだが、残念ながら俺はゲーム中でもこいつに会ったことがない。
 思考がとにかく『魔王=倒す』しかないらしく、ゲームが開始されたらすぐに単騎で魔王城に突撃し、プレイヤーと会う前にやられてしまうのだそうだ。
 勇猛果敢で恐れを知らないのも場合によりけりという好例である。

 試練の洞窟の鎧騎士並みの自殺っぷりは有名で、ある意味ではかなりのレアキャラクターだと言える。
 しかし実は制作陣の一押しキャラらしく、何でも彼関連の固有イベントなんて十個近くもあるそうだが、当然ながらまだ誰もクリアしたことがないそうだ。
 まったくもって、幻すぎる勇者である。

 ゲーム的な意味でも一般的な意味でも、出来れば生きていて欲しいとは思うが、もうゲーム開始から三日経っている。
 ゲームの通りならもうとっくに死んでしまっていてもおかしくない訳で、やはり彼に期待するのは無駄かもしれない。


 もう少し現実的に考えてみよう。
 この辺りでも遭遇出来るかもしれない強キャラと言えば、やはり『お助けチーター』だろうか。

 クエストを受けているとたまに出て来る助っ人キャラで、『猫耳猫』最強の女冒険者と名高い。
 『ステップを使って移動速度が落ちるのは彼女だけ』というキャッチコピーが生まれるほどのイカサマくさい高速移動で敵を屠る刀使いで、チーターというあだ名はダブルミーニングになっている。

 たまにひょっこり出て来てクエストをクリアするのを一回だけ手伝ってくれるが、彼女との一騎打ちから始まる連続イベントをこなすと正式に仲間にすることも出来る。
 どちらの場合でも恐ろしいまでの機動力と攻撃力で敵を殲滅してくれるが、仲間キャラとしては微妙という評価が多い。

 あんまりにも強すぎて速すぎるので、敵のトドメを刺しまくってしまってプレイヤーに経験値が全く入ってこなくなるのだ。
 設定で魔王を倒す時はついてきてくれないのだが、彼女なら魔王だってソロで倒せるのではないかという評判が立つほどの圧倒的強者である。

 性格は、気まぐれでありながら冷徹……と、見せかけて、固有イベントのほとんどがベッタベタのラブコメイベントばかりでキャラ崩壊したりする。
 しかしまあ、そのベッタベタなラブコメを見るためにレベル300オーバーの自キャラが十数回殺された、と言えば、その強さのほどは分かってくれるだろう。
 どちらにせよ、この世界ではあんまり頼りたくない相手である。


 それ以外でも、『変態戦士ジェーン』や『茶飲みのライデン』、『名を呼ぶ事も憚られる恐ろしく冒涜的な穴掘り師ローズピアサー』なんて男たちも、その精神性を度外視すれば戦力としては有望だろう。
 ただ、仲間にしたいかと訊かれると微妙……いや、最後の一人については微妙とかじゃなくてはっきりと会いたくないが。


 あとはもういっそ、イベントでしか出現しない王族の人間なんかを狙ってみるのもいいかもしれない。
 ゲームでのイベント戦闘を見る限りでは、リヒト国は王、王妃、王女、全員がチート級の力の持ち主のようだ。
 お前ら自分で魔王倒せよ、って言いたいくらいの強さを持っていた。

 ゲームでは残念ながら仲間にはならず、イベント以外では会うことも出来なかったが、この世界では立ち回り次第で行けるかもしれない。
 まあ、そのためには少なくとも王都に行く必要はあるので、これもすぐに仲間にするなんてことは不可能ではあるのだが。

「うーん」

 思わず唸り声が漏れる。
 どうもキャラクターの強さと人間性が反比例の関係にあるような気がするのは俺の気のせいだろうか。
 何だか自分がソロでプレイしていたのを納得してしまうほど、びっくりするくらい碌な奴を思い出さない。

(そういえば、強さと反比例、と言えば……)

 強さだけ・・で言うなら、『最強天才アホ魔法使いサザーン』も一応候補には入るだろう。
 まあ……入るだけ、だが。
 もう名前だけ言えば説明は要らない気がするが、こいつは仲間にするだけで『生存率が半分以下になる』『死亡率は5倍以上になる』などと噂される、ドMプレイヤー御用達のマイナス方面の最強キャラである。

 とはいえ、スペック的に言えば、魔法系最強キャラ候補の一人と言ってもいいのだ。
 何しろこいつ、能力値と魔法の威力は高い。
 もはやバカ高い。
 しかしだからこそ、多くの犠牲を生むのである。

 その悪評は数限りない。
 製作者の悪意の塊としか思えない悪い意味で洗練されたそのAIは、数多のプレイヤーたちに憤怒という感情がどういう物だったのかを思い起こさせた。

 まず、次の魔法の威力を二倍にするコンセントレートの後に高確率で状態異常魔法を使うのは基本として、眠っているモンスターを最優先でターゲットして弱い攻撃魔法を当てて起こす、魔法防御が低い敵にはなぜか高確率で状態異常魔法を使う、そういう敵は大抵物理系なのに覚えている状態異常魔法がバーサークだけなのでむしろ相手を強化する、たまに「み、右手の封印がっ!」とか言って暴れ出す右手を押さえる仕種をする、しょうがねえ厨二病患者だと思っていたら本当に右手の封印が解けてパーティが全滅する、モンスターに近くまで接近されると爆発系魔法で身を守ろうとして自分も死ぬ、怪しげな仮面をつけている、攻撃を受けるとパニックになって無差別に魔法を撃ち放つ、回復してやるとチッと舌打ちする、敵が二体以上いたら味方を巻き込んでも必ず火炎系の範囲攻撃魔法を使う、火属性のモンスターにも火炎魔法を使ってHPを回復させる、水の中でも火炎魔法を使おうとして失敗する、森でも火炎魔法を使ってフィールドを山火事状態にする、なのにたまに火属性が弱点の敵が出て来るとなぜか得意でもない風魔法を使ったりする、急にフフッと笑い出す、理由を尋ねると「いや、失敬。思い出し笑いだ」と言う、なまじ魔法の射程が長いばかりに遠くの非アクティブ状態のモンスターや強敵モンスターを無意味に先制攻撃して戦闘状態に変える、時間にルーズ、カウンター状態のモンスターにも平気で攻撃して反撃を受ける、すぐに確率がどうとか言い出す、何もしていない状態が続くと待機モーションとして勝手に自分の半生を語り始める、その話の内容が毎回変わる、しかも辻褄が合ってない、敵のレベルに関係なく最強クラスの魔法を使うのでオーバーキルになる、敵どころか敵の落としたHPのあるドロップアイテムまでオーバーキルする、敵のレベルに関係なく最強クラスの魔法を使うので戦闘終了までに詠唱が終わらない、それどころか戦闘が終わってもまだ詠唱を続けるため行軍が遅れる、位置取りを間違えると戦闘終了後に発動した攻撃魔法に巻き込まれて味方が死ぬ、その魔法エフェクトに引き寄せられて新しい敵がやってくる、敵のレベルに関係なく最強クラスの魔法を使うので肝心の時にMP切れになる、MP切れになったら紙装甲の癖に敵に突撃して即座に殺される、失敗をすぐ他人のせいにする、勝った時の台詞が恩着せがましい、勝利ポーズがうざい、テーブルマナーがなってない、好きな物を最後まで残すのがなんか嫌、山に登るのに動きにくい格好でやってくる、虫に刺されると泣き言を言う、すぐに休憩しようと言い出す、最後には俺におんぶされて下山する、酒を飲むと気が大きくなる、飲んでなくても自分に酔っている、人の目を見てしゃべれない、人の目を見てしゃべれないのを仮面のせいにする、なんかもう名前を思い出しただけで苛々する、こいつのせいで持病の肩こりと腰痛がひどくなった、こいつのせいで地球が温暖化した、それでも最強魔法の一つ『スターダストフレア』はこいつのイベントでしか取得出来ないので最低一度は仲間にしない訳にはいかない、と、本当の本当に最低の奴である。

 嘘かと思うかもしれないが、これは全て本当の話だ。
 その証拠に今、俺はなんか苛々しているし、持病でもない肩こりと腰痛がひどくなった気がする。
 きっとこいつの名前を思い出したせいだろう。

(それに比べれば……)

 俺は自分の横を歩くイーナを見た。

「え、と。どうかしました?」

 朝は少し怒ってしまったが、筋肉痛の俺にマッサージと称して悪戯をしようとするなんて、実に可愛いものじゃないか。

「イーナってほんと、天使みたいな奴だな」
「へ? うえぇっ?!」

 目に見えて動揺するイーナを微笑ましく見守りながら、俺は時間をかけても仲間選びは慎重に行おうと心に決めたのだった。
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