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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第二百二十八章 全ての終わりの言葉

投下直後にでっかい編集ミスがあったので修正
 邪神が倒れたことで、フィールドを覆っていた霧も解除され、俺は駆けつけた仲間たちや街の人々と合流を果たすことが出来た。

 ここからの戦いは、いわば第三段階。
 再生する邪神のコアを、復活スキルが発動する前に壊し続ける耐久勝負へと、ステージを変える。

「アブソリュ――」
「はい、ご苦労さん」

 今も復活しかけたコアを斬り、時間を測る。

「……うん。倒してから復活スキルを使うまでの時間は、大体一分ってとこみたいだな」

 実際には五十八秒だったが、まあそのくらいは誤差だろう。

 おそらくこの一分の時間というのが、猫耳猫スタッフが脳内で想定していた、無限のボス戦のインターバル。
 この間に回復を済ませるなり逃げるなりしろ、ということだったのかもしれないが、短すぎるだろ、と思わなくもない。

 ふたたびHPが全損し、崩れ落ちていくコアを眺めていると、横からイーナが感心したような、少し引いたような微妙な顔で口を開いた。

「そ、それにしてもすごいですね、その武器。
 もう何度もよみがえって強くなってる邪神を、一撃だなんて」
「そりゃまあ、猫耳猫wikiのテンプレにもある、廃人御用達の最強武器だからな」


 ……まず大前提として、無手、つまり素手は弱い。

 素手で敵を攻撃する場合、武器の攻撃力にあたる部分にそのキャラの筋力値が代入されるのだが、普通にプレイしているなら、キャラの筋力値がその時に持っている武器の攻撃力を上回るということはまずない。

 そして、もしキャラの筋力値が武器を上回っていたとしても、無手は武器種として非常に弱い。
 例えば仮に攻撃力が倍になったとしても、素手で殴ったところで低い武器種補正と貧弱なスキルによって与えるダメージは低くなるのが関の山。
 多少攻撃力が劣っていても、適当な武器を使った方がずっとマシなダメージが出せるだろう。

 しかし、そこで出てくるのが、装備しても素手と全く同じ計算式が適用される、ダークシュナイダーこと『指貫グローブ』だ。

 これは単体で使っても何も装備していない時と全く同じ攻撃力になるだけなので、何の意味もない。
 猫耳猫スタッフの遊び心が生んだ、ただカッコイイだけのオサレアイテム……と、思われていたのだが、合成によって全てが変わった。

 指貫グローブの『性能』を移植した武器は、「攻撃力にキャラの筋力値が代入される」という素手と同じ攻撃力計算が行われることが分かったのだ。
 つまり、『形状』に別の武器を持ってくることで、素手の持つ「武器種の弱さ」という最大の弱点を克服しつつ、素手の攻撃力計算を利用出来る。
 これには猫耳猫プレイヤー、特に種死バグやブッチャー乱獲を行って筋力を異様に上昇させていた廃人層は狂喜乱舞した。

 ただし、浮上してくるのが耐久値問題。
 指貫グローブはHPが四十しかないので、『性能』に指貫グローブを採用すると、どんなに弱い敵を殴っても四十回使えば壊れてしまうのだ。

 この問題は長いこと廃人猫耳猫プレイヤーたちを悩ませていたが、最終的には度重なるパッチによって生み出された、ソウルイーターの「もう一つの特殊能力」がそれを補うことになった。

 前にサザーンには、「ソウルイーターに生命力吸収機能をつけるというパッチが出たが、実際にはキャラのHPは全く回復しなかった」と話した。
 だが、この話には続きがある。
 確かにソウルイーターで敵を殴っても装備者のHPはぴくりとも動かなかったが、それ以外(・・・・)のものが回復していたのだ。

 ……そう、ソウルイーター自身のHP、つまり武器の耐久値である。
 何をどう間違ったのか、ソウルイーターは「敵を攻撃することで自身の耐久値を回復する」変則的な生命力吸収機能を持ってしまったのだ。

 なんかもうツッコミどころしかないような話だが、このソウルイーターの特殊能力を使えば、耐久が四十しかない指貫グローブでも余裕で運用することが出来る。
 ゆえに、『形状』不知火、『性能』指貫グローブ、『特殊』ソウルイーターの合成武器は、筋力が666を越え、かつ隠しダンジョンのソウルイーターを手に入れることが出来るような廃人プレイヤーにとってのみ、最強の武器となる。
 結果として、猫耳猫廃人の最終テンプレ装備として、wikiに掲載されるまでに至ったのだった。


 だからこそ、せっかく確保しておいた指貫グローブが、巻き戻り前の世界でサザーンに壊された時は焦ったものだが……。
 まあ、結果的にこうして使えるようになったので、よしとしておこう。

 ゲーム時代の俺は、憤激の種死バグもブッチャー乱獲もやっていなかったため筋力666を越えず、この武器はスルーしていたが、現在の俺の筋力値は推定二万越え。
 指貫グローブを合成した武器の攻撃力は二万越えになり、さらには武器攻撃の際にはキャラの筋力値も計算に入るため、二万の筋力値と二万の武器攻撃力、ついでに大太刀の武器種補正と熟練度補正が合わさり、とんでもないことになっている。

 まだ復活数の少ない邪神なら、この『真・不知火』で普通に斬るだけで倒せるのも当然と言えば当然なのだが……。

「……問題は、ここから、だな」

 一体邪神がどこまで強くなるかは分からない。
 ゲームの基準で考えればとんでもないと言える攻撃力が、邪神の成長にどこまで食らいついていけるのか。
 これはもう、蓋を開けてみなければ分からない。

「これは、つらい戦いになりそうだ」

 また復活しかけていた邪神のコアをとりあえずぶった切りながら、俺は苦々しくつぶやいたのだった。



 それから、ルーチンワークのように邪神のコアを倒し続け、

「……そろそろ、か」

 俺の予測した通り、俺を取り巻く状況は、少しずつ、少しずつ、厳しくなっていった。

 今までサクサクと一撃で倒せていたのが、強い手ごたえを感じるようになり。
 一撃ではコアを両断出来ず、二回、三回と剣を振るうようになり。
 通常攻撃では歯が立たなくなってきて、スキルを使わざるを得なくなってきた。

「……限界だ。みんなはここから少し、離れておいてくれ」

 俺が言うと、今まで俺の近くで俺と邪神の戦いを見守ってくれた仲間たちは、一様に表情を曇らせる。

 だが、ここから先、真・刹那五月雨斬を使わなきゃ倒せなくなる時がきっと来るだろう。
 その時、みんなを巻き込む訳にはいかない。

 その中で、一番初めに決断をしたのは、

「あ、あの!」

 誰よりも俺の手助けをしたいと願っていた、イーナだった。
 自分の無力さを押し込めるように、俺の勝利を祈るように、ギュッと両手を握りしめて、

「わたし、ソーマさんが誰よりもすごいって、知ってますから!
 だから、だからわたし、信じて、待ってます!
 ソーマさんが無事に戻ってくるって、信じてますから!」

 そう口にするイーナの目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。
 本当は、離れたくないのだと、もっと俺の手助けをしたいと思ってくれているのだと、少し鈍いところもある俺にも、感じ取れた。

 だから……。

「……約束、するよ。絶対に、『最強』のあいつに勝って、みんなのもとに帰る、ってさ」

 俺は、はっきりとそう、約束の言葉を口にする。

 本当にそんなことが出来るかは、分からない。
 これは、俺の努力だけではどうにもならない、運任せの賭けだ。

 それでも今は、イーナにこう言うのが正解だと、俺の中の何かが言っていた。

「……はい! ……しんじて、ます、から!」

 込み上げる想いを抑え切れなかったイーナは、その大きな瞳から熱いものをこぼしながら、それでも最後まで笑ってくれていた。
 最後に大きくおじぎをして、街の人が待つ場所へ、駆け出していく。

 次に動いたのはミツキ。

「連戦で辛くなったら、ポーションを飲んで下さい。
 気休めではありますが、経口摂取なら精神的な疲れも少しだけ癒やしてくれるはずです」

 余計なことは言わず、ただ実用的なアドバイスだけをして、離れていく。
 それから、心配そうなリンゴが、唇を尖らせた真希が、悔しそうなサザーンが、つらそうな顔をしたレイラが、それぞれ俺のもとを離れていく。

 そして、最後に残ったのは……。

「思えば、お前にも、いや、お前らにも随分と世話になったよな」

 二匹に増殖した愛らしいぬいぐるみ、くまだった。

「お前らには、助けられてばっかりだけど、さ。
 もし、俺が失敗したら、あとは頼むぞ」

 俺が言うと、くまはいつも通り、ニタァ、と笑って……俺の鞄の中に入っていった。

「……うん」

 まあそりゃ、戻るべき場所が鞄の中なら、最後まで残るよね。
 思わず脱力すると同時に、俺は身体から余計な力が抜けているのを感じた。

「これはまた、くまに助けられた、ってことかな」

 俺は少しだけ軽くなった気分で邪神のコアに向き直ると、無限の戦いへと身を投じたのだった。





「……はっ。はっ」

 自分の呼吸の音が、やたらと耳につく。

 復活したコアをもう何回破壊しただろうか。
 百を超えたあたりからはもう、数えていない。

 時間の感覚も、すでにない。
 ただ、初めに邪神を倒した時には中天にあった太陽が、今はもう西の空に見える。

 あれからすぐに普通のスキルではコアに傷をつけることすら難しくなって、俺は『刹那五月雨斬』を解禁せざるを得なかった。
 流石に刹那五月雨斬はその威力が桁違いだ。
 それから数十回は順調にコアを破壊出来ていたが、その刹那五月雨斬すら、一撃ではコアを破壊出来なくなっていく。

 今ではもう、真・刹那五月雨斬を組み込んだ刹那五月雨キャンセル移動を繰り返し、ようやくコアを破壊出来ている状態だ。
 それでも刹那五月雨斬を使い始めてから必要攻撃回数の伸びが鈍化しているように感じたのだが、おそらくこれは、この戦いで俺の攻撃力が上がっているせいだろう。

 推測だが、邪神は復活する度に能力だけでなくレベルも飛躍的に上昇している。
 だとすると、それと戦い、倒している俺のレベルや能力値、武器の熟練度もまた上昇していると考えることが出来る。

 レベル差が大きい相手に刹那五月雨斬という超多段ヒット技を当てている訳だから、大太刀の熟練度の成長効率は松明シショーの比ではないはず。
 それが、ともすれば引き離されそうになるこの耐久レースに、俺が何とか周回遅れにされずにしがみついていられる原因だった。

 また、悪い方の誤算もある。
 邪神が復活スキルを使うまでのインターバルが少しずつ短くなっているのだ。

 どうやら一番初めに計測した時、復活までの時間が一分ちょうどではなく、五十八秒だったのは、誤計測や誤差などではなかったようだ。
 もう計測する余裕もないが、コアの再生速度は少しずつ、ほんの少しずつじわじわと速くなり、復活スキルを発動するまでの時間は、当初の半分以下にまで短縮されている。

 それが、遅効性の毒のようにじわじわと、俺を追い詰めていた。

「頭が、いてえ……」

 武器の耐久も、スタミナも、ステータス的な要素について言えば問題ない。
 どちらもソウルイーターの能力があれば増えることはあっても減ることはない。

 だが、それを支える俺の精神力については別だ。

 一度成功させるのだって、極度の集中を必要とする『真・刹那五月雨斬』。
 それを複数回、ほとんど休む間もなく連発しなければいけないのだ。
 いくら肉体的に疲労しないと言われても、精神の疲弊は隠せない。

「く、そ……!」

 集中のしすぎでズキズキと痛む頭に毒づきながら、ポーチから最高級ポーションを取り出し、一気に煽った。
 ミツキに言われた通りの気休め程度の爽快感で頭痛を誤魔化し、瓶を投げ捨てると俺はまた剣を構える。

「いい、加減に、しろよ!」

 叫びと共に、『真・刹那五月雨斬』を発動させる。

 もう、復活までの猶予はない。
 コンボ発動に失敗して、技後硬直が起こったら、もう取り返せないかもしれない。
 そんなプレッシャーが、俺の神経をガリガリと削っていく。

「それ、でも! あきらめる訳には、いかないんだよ!」

 一度、二度、三度、四度……。
 繰り返される驟雨のごとき斬撃が、やっとコアを削り切る。

「はぁ……。はぁ……。まだ、終わらないのかよ」

 邪神のコアは、ますます大きくなっていく。
 終わりが見えるようには見えない。

 間を置かずに寄り集まっていくコアをにらみつけ、俺は汗で滑る両手の武器を握り直すと、また刹那五月雨斬を放つ。

 放つ、放つ、放つ、放つ、放つ!

 無限に続くかとも思える悪夢のような時間。
 確実に、邪神のコアは破壊している。
 それでも、終わらない。

 前に、進んでいるはずなのに。
 終わりは見えず、ただ苦しみだけが、大きくなっていく。


 ――邪神のコアは、まだ堅くなる。


 ――頭が、割れるように痛い。


 ――外したら、終わりだ。


 ――息が、詰まる。


 ――ああ、頭が、痛い。


 混濁していく意識と、鈍くなっていく手足。
 全てが淀みに沈んでいく中で、自分の内で弱気の虫が騒ぎ出すのを感じる。


 ――なぁ。本当にこれに、終わりはあるのか?


 幻の自分がそう問いかける。

「……うるさい」

 そんな疑問、最初から呑み込んで始めたことだ。
 そんなことは、今さら止まる理由になんてならない。


 ――なぁ。こんなことに、本当に意味があるのか?


 あるに決まってる。
 みんなだって、認めてくれた。
 応援してくれた。

 だから俺は、戦うんだ。
 あきらめないんだ。
 あきらめちゃ、いけないんだ。


 ――なぁ。本当は、もう無駄だって分かってるんだろ?


 そんなこと、ない。
 あきらめなければ、きっと!
 きっ、と……。


 ――なぁ。本当にそう、思ってるのか?


 当たり前だ。
 これは無駄なんかじゃない。

 いつか終わる。
 ちゃんと倒せる。


 ――なぁ。これって結局、お前のワガママなんじゃないか?
 ――このワガママが結局、お前の仲間を、世界を終わらせるんじゃないのか?


「違う。違う違う、違う!!」

 否定する。
 何度も何度も否定する。

 何度も何度も、刹那五月雨斬を撃つ。
 何度も、何度も、何度も……。


 ――なぁ。本当に?


 でも、終わらない。
 コアはふたたびよみがえり、刹那五月雨斬を撃って、問いかけは止まらない。
 否定しても否定しても、疑心が浮かび上がって、俺を苛んでくる。

 幻聴が、止まらない。
 幻聴が、幻聴が……。


 ――なぁ?



「うる、さぁい!!」

 叫んで剣を振り払った瞬間、体勢を崩した俺は、地面に膝をついていた。

 ――立たなければ。

 反射的にそう思ってから、首を傾げる。

「あ、れ? なんで、立たなきゃいけないんだっけ」

 頭の中が、真っ白になる。
 何か大事なことを、していたはずなのに。

 気付くと、俺は剣を取り落として、その場に倒れ込んでいた。


「――ッ!!」


 遠くから、誰かの叫び声が聞こえる。

「レイラさん! そこにある欠片を、クーラーボックスの中に!」
「え、で、でも……」
「まだ、時間停止への耐性は完全ではないはず!
 うまくすれば、時間稼ぎになります! 早く!!」

 なにかとても、重要なことを話している。
 そんなふうに思うのに、どうしても、あたまがはたらかない。

 ふと、頭上に影が落ちる。
 その影には、かわいらしい猫の耳がついていた。

「ポーションです! 飲んで下さい!
 これで少しは、楽になるはずです!!」

 くちもとに、とうめいな液体が入ったビンが、おしつけられる。
 おれはそれを見ながら、彼女のこえは、とてもきれいだなぁと、そんなことをおもっていた。

「しっかり、して下さい! ……っく!!」

 そのこえの主は、そのキレイなビンをじぶんのくちもとにもっていって、中の液体をくちにふくむ。
 それから、そのかおが、きゅうにせまってきて……。


「――ん、ぐっ!?」


 口に流し込まれた清冽な感触に、俺は反射的にそれを飲み下し、

「ミツ、キ……?」

 俺がやっと正気に返ると、そこには誰より見慣れた仲間の顔があった。
 潤んだ瞳と、正面から見つめ合う。

「聞いて下さい。つらいというのは、分かります。
 でも、貴方は、貴方にしか出来ない事をしている。
 私はそれを誇りに思っています」

 ミツキはさらに俺に顔を寄せ、その想いを直接ぶつけるように言葉を紡ぐ。

「ただ貴方に託す事しか出来ない私に、何かを口にする資格はないのかもしれません。
 でも、でも私は、見てみたいのです。
 貴方があの邪神に克ち、最強となる、その瞬間を……!」

 ――そう、だ。

 そう、だった。
 俺は、『最強』を、ゲーマーの夢を、追いかけて……。

「も、もう駄目だよ、ミツキ!!」

 悲鳴のような声が聞こえた。
 見ると、クーラーボックスの横から邪神のコアの欠片が抜け出し、また一つに集まろうとしている。

「くっ!」

 表情を歪め、何かを口にしようとするミツキを制し、俺は立ち上がった。

「ありがとう。やっぱりミツキは、俺の最高のパートナーだよ」
「あっ!」

 驚いたように目を見開くミツキの横を抜け、俺は不知火を拾うと、スキルを発動する。

「刹那五月雨斬、十連だ!!」

 秒間千発を超える斬撃が、瞬く間にコアを削り、砕き、吹き飛ばし、球形を取り戻しかけていたコアを、ふたたび瓦礫の山へと変えていく。

 頭痛は治まらない。
 脳を酷使しすぎたせいか、視界だってグラグラ揺れているし、とてもまともな状態じゃない。

 それでも……。
 もう諦めることだけはしないと、決めた。

 もう小休止なんてしみったれたことは言わない。
 ずっと全力だ。


「どこまでも、どこまでも、付き合ってもらうぜ!
 猫耳猫プレイヤーってのは、執念深いんだ!」


 叫びと共に、俺は集まりかけたコアの破片に、刹那五月雨斬を見舞った。






















 …………。



 …………。




 …………。



 どれだけの、時間が、経ったか。



 俺は、邪神のコアを、斬って、斬って、斬って、斬りまくった。



 もう、戦うこと、技を撃つこと以外の全てが消えていって……。



 頭の痛みすら、斬撃の彼方に溶けていった。



 そして、それから……。



 斬って、斬って、また、斬って……。



 それから……。



 それから、どうなった……んだっけ?



 ――赤い。



 気付けば、世界は赤く染まっていた。



 ――夕焼け、だ。



 もう、日が落ちる。



 そうだ、眠らなく、ちゃ。



 なんだかひどく、まぶたが重い。



 全てを忘れ、俺は睡魔に身をゆだねる。



 おれはゆっくり、目を閉じて……。





「――ソーマ!!」




 その、懐かしい声が耳に届いた瞬間。


 ――バチン!!


 俺の頬が飛んできた何かにぶつかり、俺は一瞬で目を覚ました。

「く、くま!?」

 意識を失って倒れていた俺をぶっ飛ばしたのは、くまだった。

「助かった、くま! そうだ、邪神は!?」

 顔を上げた俺の目に映ったのは、今にも再生を終えようとしている、邪神のコアの姿。

「く、そぉおおお!!」

 それはもう、思考を越えた、本能の動きだった。


「間に、合えぇっ!!」


 スキルを使うことすら忘れて、俺は反射的に邪神に向かって足を蹴り出していた。

 ここで邪神に復活をされてしまっては、今までの全ては無駄になる。
 いや、それどころか、世界は滅び、俺も、仲間も、全てが死に絶えてしまう。


「とどけ!」


 手を、伸ばす。

 邪神のコアが、ドクン、ドクンと脈動する。
 時間がない。


「とどけ!」


 手を、伸ばす!

 この瞬間に間に合うのなら、腕がちぎれてもいい。
 そんな想いで、必死に手を伸ばす。


「とど、けぇ!!」


 脈動する、そのコアが……。
 感情のないはずのコアが、なぜだか一瞬、哄笑を浮かべたように、見えて……。


「とどい――」


 そして、遂に……。













「――アブソリュート ディズ・アスター」













 ……全ての終わりを告げる声が、響いた。



「あ、あぁぁ……」

 身体から、最後の力が抜ける。
 どさり、と自分の身体が地面に崩れ落ちるのが分かった。


 ――おわっ、た……。


 終わって、しまった。

 頭上でメキメキと、邪神がその姿を変えるのが見える。
 こうなっては、誰にも止められない。


 ――俺は……失敗した、のか。


 途中の記憶は、もうない。
 ただ、邪神の再生の速度は、どんどん上がっていた記憶が、ある。

 ――無理、だったのか。

 俺は、『最強』に、カンストに、届かなかった。
 みんなの期待に、応えられなかった、んだ。

「あ、あぁああああ……!」

 胸をかきむしりたくなるほどの悔しさと、心に穴が空いたかのような虚しさが、同時に襲ってくる。


「――ソーマ!」


 不意に俺の頭が、温かい感触に包まれる。

「リン、ゴ……?」

 俺の頭を持ち上げたのは、リンゴだった。
 その顔を涙でぐしゃぐしゃにして、リンゴは俺を見ていた。

 熱い感触が、頬に落ちる。
 こんな俺のために泣いてくれるのが、嬉しくて、申し訳なかった。

「ごめん、な。やくそく、まもれなくて……」

 自分でも驚くほどのかすれた声で言うと、リンゴはちぎれるほどに強く、首を横に振ってくれた。

「…ソーマは、がんばった! がんばってた、から……!」
「そ、っか……」

 心がスッと、晴れていくのを感じる。

 確かに俺は、『カンスト』には届かなかったかもしれない。
 でも、あれほど出鱈目な強さの不知火でも簡単に倒せないほどのコアを、何度も、本当に数えきれないほど何度も、倒したのだ。

 あの邪神は、『カンスト』ではなくても、たぶん『最強』ではあっただろう。


 ――約束、半分だけ、果たせたの、かな。


「ソー、マ?」

 焦るリンゴの声を聞きながら、自由の利かない身体に鞭打って、ゆっくりと、けれど必死に身体を起こす。


 ――たとえ、失敗したとしても。
 ――たとえ約束を、果たせなかったとしても。


 始めた者として、「終わり」を見届ける義務が、俺にはあると思うから。



 顔を上げた俺の前、邪神の『変化』は進んでいく。


 真球のコアから角のような突起が生まれ、コアの側面から糸状の物体が伸び出し、うねる。


 ミシミシと音を立て、本体の形状も変わっていき、それが一つの形を作る。


 そうして、やがて、その音も止み……。


 全ての『変化』を終え、俺の目の前に降り立った傷一つないその姿は、紛れもなく……。


 まぎれも、なく――












 ――弦楽器、だった。












「え? えっ? ソー、マ?」

 震えるリンゴの声を背に俺はよろよろと足を進め、その楽器を、かつて邪神だった(・・・・・・・・)武器、『リュート ディズ・アスター』を手に取ると、高く掲げる。

 そして、俺を応援してくれた全ての人に届けとばかりに、声の限りに叫んだ。



「――最強の武器、ゲットだぜええええええええええええ!!」



凄絶なる決着!!
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