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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第二百二十一章 神々の試練

そ、操作ミスった!

で、でも五分まではロスタイム!
ロスタイムだから!
 ――『絶対神剣アルティヘイト』は、かつて勇者アレクスが用いたいわば「勇者の剣」だ。

 その来歴は定かではないが、邪神大戦の時代より古くから存在していると言われ、その取得には『封印の巫女』が必要で、オールドキャッスルと呼ばれる城塞跡で巫女が合言葉を口にすることで、『神々の試練』が受けられるようになり、それを突破することで、『絶対神剣アルティヘイト』が手に入る。

 ゲーム発売前、事前に流れていた情報が正しければ、攻撃力はほかを圧倒する最高値で999。
 二番目に攻撃の数値が高いのが『ソウルイーター』の666だと言えば、そのすごさも分かるというものだ。

 しかし、それ以上にとんでもないのが特殊能力だ。
 装備者への遠距離攻撃を無効化し、そのフィールドにいる友好的なNPCの数につき1%ずつ基本能力値に補正をかける、というのだから、とんでもないぶっ壊れ武器と言える。

 まあ、現実には予告するだけしておいて、猫耳猫のゲームには実装されなかったのだが、それが手に入るかもしれないとなれば、感動もひとしおだ。
 ただ、アルティヘイトを手に入れるための『神々の試練』というのが、なかなかに意地の悪い内容だった。

 巫女がキーワードを口にすることで、特別なマップへの転移門が出現。
 その門をくぐると、絶対神剣アルティヘイトが祀られている特殊マップに出る。
 そしてそこには、三十メートル程度の光の道と、その先にあるアルティヘイトが見える。

 同行者がついていけるのはここまでで、光の道に踏み入れられるのは試練を受ける者一人だけ。
 二人以上の人間が先に進もうとすると、足場である光の道が消えてしまう、らしい。

 試練とは、四方八方から迫りくる妨害の光の刃を避けて光の道を進み、アルティヘイトに触れればゴール、なのだが、試練に挑戦する者は身体能力を一般人並みに制限され、スキルや魔法、アイテムなども使えなくなる、というのだ。

 ゲーム的に言うなら、能力値が固定化され、レベルではなくプレイヤーの腕だけが物を言う制限マップ、ということになるのか。
 ステータスの関係のない完全なアクションゲームになる訳で、どちらかと言えばスキルやステータスなどでゴリ押ししてきた俺にとってはかなりの鬼門と言える。

 だが、苦手だからと言ってこの試練を人任せにする訳にはいかない。
 神剣アルティヘイトを扱えるのは試練を受けた者(・・・・・・・)だけ。
 試練を突破してアルティヘイトに触れた者だけにしか扱えない専用武器になるらしい。


 一応前向きになれる材料としては、封印の一族の里でアルティヘイトを取りにいくと告げたところ、サザーンの父親のシュードから参考になる話を聞くことが出来たことだろうか。

 歴代の巫女の中にはアルティヘイトのある祭壇を起動した者が、記録に残っているだけで五人ほどいたらしい。
 その中でも、一人はアルティヘイトが実在することだけを確かめて満足したが、残りの四人については、それぞれ傑物とされた相棒を連れて、実際に神々の試練に挑戦したという。

 その話をまとめると……。

 まず、最初の一人は里一番の力自慢だったらしい。
 ただ、力が強くてもこの試練では何の役にも立たない。
 ほんの数メートル進んだところで自分には手に負えないと判断、そのままリタイアしたそうだ。


 二人目は身軽さが自慢の男だった。
 だが、試練ではその身体能力は制限をされる。
 三分の一ほど進んだところで片腕を切断され、必死で帰還。
 帰り道にも光の刃が出現して男はさらに足を負傷したものの、何とかスタート地点まで戻ったところで巫女の回復魔法を受け、何とか一命はとりとめたらしい。


 三人目の男は、知恵者。
 彼は浮遊を含めたありとあらゆる補助魔法を事前にかけて光の道に挑み……。
 その全てが光の道に入った瞬間に無効化され、ほんの数秒で死んでしまったという。


 そして、もっともいいところまでいった四人目は、とても慎重な男だった。
 彼は何度も何度も試練に挑戦し、無理のないところで引き返すことによって、少しずつ光の刃の飛んでくる場所やタイミングを計っていったらしい。

「やれる! やれるぞ!
 確かに初見でこれを抜けるのは難しいが、光の刃には固定のパターンがある!
 これなら何度も練習して時間をかければ、何とか突破できそうだ!」

 男は何十回目かの挑戦で半分ほど進んだ時にそんな言葉を残し、そして、その言葉を残した次の挑戦で、帰らぬ人になったという話だ。


 思わず怖気づきたくなるような結果だが、これで分かったことはいくつかある。

 試練で失敗しても、何度でもやり直しが出来ること。
 光の道ではスキルの発動だけでなく、かかったバフも無効化されること。
 最初の浮島まで戻れば、魔法やスキルが使えて、問題なく回復も出来ること。

 そして、おそらく……。
 試練も半分以上が過ぎて、挑戦者がこのギミックに慣れた頃に、『何か』があるということだ。

 怖気づいている時間はない。
 話を聞き終えた俺たちは、予定を切り上げて孤島を出発、猫耳を震わせて嫌がるミツキを引っ張って空中都市に戻り、一路オールドキャッスルに向けて舵を取った。



 幸いなことに、ここまで来るのはそう大変ではなかった。
 何しろ、俺たちには物語終盤の味方である飛空艇……もとい、空中都市があるのだ。

 オールドキャッスルの祭壇は地上にむき出しで存在していたため、空中都市をオールドキャッスル上空まで動かして、祭壇に向かって脱出装置で降下するだけで、一度も戦闘をすることなく祭壇まで辿り着くことが出来た。

 サザーンの協力でこの隠しマップにも来られたし、あとは俺がこの剣に触れればオールクリア、ということになる。

「ここが独立マップじゃなかったら、空中都市からゴール地点まで落ちたり、ってのも出来たんだけどな」

 思わず、そんなことをつぶやいてしまったが、いいや、と首を振る。
 今回ばかりは、そんな小細工を弄するつもりはない。

 まっすぐ行って剣を触って帰ってくる。
 それだけだ。

 もちろん、失敗すれば死ぬ可能性はある。
 だけど……。

「世界の運命をかけたワガママを通そうって言うんだ。
 俺だって、ちょっとくらいは命を懸けなきゃな」

 それが、俺なりの責任、という奴だろう。

「ね、ねぇ、そーま。これ、本当にやるの?」

 そんな俺の思索を打ち切らせたのは、真希の不安そうな声だった。

「だから、絶対神剣アルティヘイトのスペックは話しただろ。
 あの武器は、絶対に邪神を倒すためには必要なんだ」
「う、うん。それは……わかるけど。
 だけど、そーま、運動ぜんぜんダメなのに、ほんとーにスキルも魔法もなしでクリアできるの?」

 なおも心配そうな真希に、俺は笑ってみせた。

「そんなに心配するなって。俺だって何もぶっつけ本番で挑もうって訳じゃない。
 今日ここに来たのはただの下見だよ」

 命を懸けるというのは、そのまま命を無駄にする、というのとはイコールじゃない。
 今までの突発的なトラブルなどとは違い、万全の準備をした上でこの試練に臨むつもりだった。

「リンゴ、悪いけど念のため、回復アイテムを用意しててくれ」

 そう言って、俺はリンゴがたたたっとスタート地点の横に立ったのを確認して、光の道の前まで移動する。

 真希は心配をしているようだが、俺にだって勝算はある。
 何しろ俺に運動能力はないが、その代わりにほかの挑戦者にない大きな大きな『武器』があるのだ。

「さて、それじゃ一つ、予習と行きますかね」

 そうして俺は、邪神大戦映像記録の石板を取り出し、その第十二話と書かれた場所に触れる。
 その瞬間、俺の視界にはかつての勇者の冒険が、神々の試練に挑むアレクスの勇姿が、浮かび上がってきた。


 ――邪神大戦映像記録の第十二話は、ちょうど祭壇に辿り着いたアレクスが、神々の試練に挑むところから始まる。

 ネイティアが呪文を唱え、神々の試練の場に視点が移動した瞬間、目の前に広がった光景を見て、俺は心の中で快哉を叫んだ。

 なぜなら、映像で見える光景は、さっきまで俺が見ていた試練の場と寸分たがわず全てが同じなのだ。
 記憶だけでは断言は出来なかったが、こうして比べてみると、光の道の幅や長さ、アルティヘイトが浮かんでいるゴール地点までの距離まで何もかも、全てがピッタリ同じと考えてよさそうだ。

 これで俺の勝率はさらに上がった、と考えていいだろう。
 これなら映像記録の映像を頼りに練習をすれば、現実の試練でも十分に通用するはずだ。

(おっと……)

 そうやって慢心していては、何か落とし穴があるかもしれない。
 俺は前に見ていた以上の真剣さで、試練に挑むアレクスをじっと観察する。

 最初に生まれた、足首を切り裂くような角度で飛んできた光の刃をぴょん、と跳んで躱したのを皮切りに、アレクスの試練への挑戦が始まる。
 あいかわらずのアクロバティックな動きに感心させられるが、試しに「あの場に立っているのが自分だったら」と考えてみることで、新たに分かってくることもあった。

(なる、ほどな……)

 確かにアレクスの動きはすさまじい。
 身体能力は制限されているのに、とんでもない反射神経と対応力で、襲い来るピンチを次々に避けている。
 それは単純に能力が高いというだけでなく、自分の身体の使い方を熟知しているからこその動きと言えた。
 初見でこれに挑んだ場合、俺はとても同じようには動けないだろう。

 だがそれはあくまで、知識量が同じであれば、という但し書きがつく。
 とっさの対応の早さ、判断の鋭さではおよばなくても、「次にどこから刃が来るか」を知っていて、「その時にどのように動くか」を事前にシミュレートしておけば、同じとはいかないが、遜色のない動きが出来るのではないか、とも感じた。

(覚えゲーは、割と得意なんだよな)

 そんなことを思いながら見ていると、アレクスはようやく、ゴールまで二メートルというところまで辿り着く。
 だが、そこで……。

(う、うわっ!)

 何の前触れもなく、光の刃がアレクスの足元・・に精製され、アレクスめがけて飛んでくる。
 出現から飛翔まで、その間、わずかゼロコンマ五秒。

 野生の勘か、あるいは神の加護でもあったのか。
 偶然下に視線を向けたアレクスは間一髪でその刃に気付き、身体をのけぞらせて避けていたが、こんなもの知らなければ絶対に避けられないと思う。
 ……そう、知らなければ、だ。

(あの四人目の男は、これに引っかかって死んだのかな)

 ただ、この試練の『落とし穴』がその程度なら、石板を持っている俺には届かない。
 特に問題にはならないだろう。

(あとは、罠の発動も試しておくかな)

 無事に試練を乗り越え、嬉しそうに神剣を眺めるアレクスを見るとはなしに見ながら、俺もまた、喜びを隠しきれずにそんなことを考えたのだった。


「――ソーマ!!」

 叫び声が耳を打つ。
 今度のは映像が作り出した過去の声ではなく、仲間の、リンゴの危機を知らせる声だ。

 そして、その叫び声の理由は明白。
 神剣アルティヘイトの辺りから生成された光の刃が、俺に向かって高速で飛んできていた。

「よ、っと」

 気の抜けた声を出して、俺は大げさなほど大きく、横に飛んだ。
 光の刃は俺の脇を抜けて、虚空へと消えていく。

「こ、こわぁ……」

 初めて生で見る刃に、肝を冷やした。
 だが、間違いない。

 この場所は映像記録で見た試練の場所と完全に同じだし、さっき出てきたあの光の刃は、映像記録で見た最初のトラップそのままだ。

 確かに俺は、運動全般があまり得意じゃない。
 でも、ほんの三十メートルの道を進むだけなら、事前に何度も練習すれば出来るようになるはずだ!
 確かな手ごたえに、俺は思わず拳を握りしめていた。

「……やれる! やれるぞ!
 これなら何度も練習して時間をかければ、何とか突破できそうだ!」

 はしゃいでいる俺を見て、さっきまで緊張していた様子の仲間たちも、やわらかい笑顔を向けてくれた。

 ただ、一人だけ……。


「……信じていいん、だよね、そーま」


 なおも俺に気遣わし気な視線を向ける、従妹の少女を、除いて……。
Q.信じていいん、だよね、そーま
A.ソーマを信じていいはずがないです



次回更新は、あし……今日!
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