挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
229/239

第二百二十章 エンドコンテンツ

安心と安定の連続更新!
これでもうツチノコよりレアとかあの縮地よりもサボってるとか言わせない!
 完全な姿を取り戻した邪神を前に、アレクスが吼える。

「復活、したっていうのかよ! あの状態から!」

 そう叫びたくなるのも無理はない。
 あれほど苦労して倒した敵が復活したのなら、愕然として当然だろう。

「オワリ、ダ」

 そして、復活した邪神は、その隙を見逃さない。
 呆然と立ち尽くすアレクスに、再生した触手が迫り……。

「させません!」

 しかし、その異常事態の中でただ一人冷静だったのは、大魔術師ネームレスだった。

「『タイム・ストップ』!!

 おそらく邪神が再生する間に、詠唱を済ませていたのだろう。
 ネームレスがふたたび時間停止のフィールドを張り、邪神を釘付けにする。

「ネ、ネームレス……」
「動揺する気持ちは分かります。ですが今は……何?」

 だが、その時、ありえないはずのことが、起こった。


「――ザン、ネン。モウ、効カナイ」


 決して動けないはずの、時間が止まったはずの空間にいる邪神が、緩慢な動きではあるが、触手を動かしたのだ。
 そして、一本の触手が、遂には時間停止のフィールドの外に飛び出し、

「馬鹿な! タイム・ストップはちゃんと発動して……ぐっ!」

 魔法発動中で身動きの取れないネームレスを、弾き飛ばす。

「ネームレス!!」

 咄嗟にアレクスが駆け寄り、やっと自失から立ち直った残りのメンバーが自由を取り戻した邪神の押さえに回る。

「ネームレス、おい、大丈夫……」
「わかり、ました……! あれが、神と呼ばれる理由が!」
「なに?」

 息も絶え絶えなネームレスはしかし、自らの傷を顧みることなく、ギラギラとした目で、アレクスを、そしてその奥の邪神を見つめていた。
 だが、そのあまりの気迫に、アレクスは言葉を止めさせることは出来なかった。

「あいつに、状態異常攻撃が、全て通じなかったのは、覚えていますか。
 今回のことも同じです。最初には確かに効いていたはずの時間停止が、今はもう十分な効果を発揮しない。
 あれもおそらく、奴の持つ特性のせいだった」
「特性……?」

 アレクスの問いかけに、ネームレスは叫ぶように答えた。

「ええ。あいつは、邪神は、おそらく死ぬ度に復活し、復活するごとに強くなる!
 あれは、死ぬ前にその身に受けた攻撃を学習し、耐性をつけ、もっと強い力で甦って、全てに報復する怪物だ!」

 唖然とするアレクスに構わず、ネームレスは叫びを止めない。

「勝つことは出来る、ですが、絶対に、倒すことは出来ない!
 そういう存在なのです! あれはっ!!」
「ばか、な……」

 衝撃を受けた様子のアレクスと同じように、俺も驚いていた。
 そして同時に、ストンと腑に落ちるものもあった。
 自分の直感が、正しかったことが分かったのだ。


 ――これが、封印の一族にネームレスの遺した『邪神とは、決して戦ってはならない』という言葉の真実。


 そう、この変化はラスボスによくある第二段階への変身かと思っていたが、違った。
 邪神はラスボスではなく隠しボス。
 言ってみれば、猫耳猫におけるエンドコンテンツだ。

 では、猫耳猫スタッフが好む、自分たちがあまり労力を使わずに、プレイヤーを最大限に苦しめるタイプのエンドコンテンツとは、どういうものだろう。


 ……その答えが、この邪神ディズ・アスター。


 倒される度に、無限に成長して、ゆえに無限に消費することの出来るコンテンツ。
 推測にはなるが、HPや攻撃力などの能力値はデフォルトで上昇し、それ以外の状態異常や属性攻撃などについては、前回の周回で使われたものに耐性を持つようになるのだろう。

 例えば、今回の『時間停止』については、一度目ではそのまま通り、二度目では半減された。
 おそらく、次か、あるいはその次にはもう完全に無効化されるのではないかと思う。

 特に属性などのない物理攻撃に耐性はつかないようなのは、幸い、と言っていいのか。
 それが効かなくなってしまったらゲームとして成り立たなくなるので当然だが、それだって相手のパラメータが上がればまともに通用することはなくなってしまうだろう。

 ……そう。
 一度なら、二度なら、もしかすると三度くらいなら、倒すことも出来るかもしれない。
 けれど、プレイヤーが勝ちを重ねる度に強くなり、有効な攻撃法も減らされていき、いつかは絶対に負かされる。

 そんな最悪な敵としてデザインされた、最低最悪のボスなのだ、これは!


 ……いや。
 百歩譲って、それはいい。

 ゲームとしては割と一般的なタイプのボスと言える。
 猫耳猫スタッフがやるものとしては、むしろ控えめかもしれない。
 好みは分かれるだろうが、許容出来る、という人もいるだろう。


 ……ただしそれが、現実の存在として実体化していなければ。


「ふざけるな! ふざけるなよ!!」

 叫んだのは、真実を知ったアレクスだった。

「俺たちが、どれだけの犠牲を払って、あいつを倒したと思ってる!
 ルデンが、フィーンが、ローデンが死んで、シエルだって、俺の力になるために、犠牲になって……。
 その結果が、これかよ! 何にも変わってない! いや、それどころか……」

 血を吐くような、アレクスの独白。
 それに反応したのは、敵のはずの邪神だった。

 奴はゆっくりとアレクスの方を向くと、その不格好な顔をにぃぃと歪ませて、軋むような声で、言ったのだ。


「――アリ、ガトウ」


 ……と。

「な、に……?」

 アレクスは眉をあげるが、邪神は意に返さない。
 ただ、楽しそうに、嬉しそうに、語るだけ。

「ワタシヲ、強クスルタメニ、タタカッテクレテ、アリガトウ。
 ワタシヲ、育テルタメニ、タクサン死ンデクレテ、アリガトウ」
「な……」

 もはや言葉もないアレクスたちに、邪神は最後の言葉を吐いた。


「――君タチ、ハ、ワタシノ、ステキナオモチャ、ダッタヨ」


 あまりにも、あまりにも悪辣なその言葉に、

「お、まえ……。お前、はぁああ!!」

 アレクスは激昂する。

 今までの、熱くはあっても無謀ではなかった立ち回りなど、見る影もない。
 愚直に、一直線に邪神に突進していく。

 さっきまでなら、最初の状態の邪神であれば、それでも乗り切れたはずの場面。
 しかし、パワーアップした触手は、騎士剣シエルの一撃でも容易には撃ち払えない。

 少しずつ、少しずつ触手の攻撃に対応出来なくなっていき、とうとう触手の一撃がアレクスの身体を捉えようという、その瞬間、

「水臭いわよ、勇者ちゃん」
「私の事も、忘れて頂いては困りますね」

 危機一髪のアレクスに、義矢門とシズルの援護が入る。
 二人の助けを借りて、何とか危地を逃れたアレクスは、グッと剣を握り直すと、押し出すように言葉を吐いた。

「……悪い、二人とも。けどおかげで、頭は冷えた。
 もう、あんな無様は晒さねえ」

 アレクスは、怒りを押し込めた目で、今度ははっきりと邪神を見据える。
 そこに、先程までの濁った色はなかった。

「うふふ。手がかかる子ほどかわいいってね」
「言葉は無用。その覚悟、剣で示して下さい」

 三人はふたたび邪神の前に並び立つ。
 そして、そこにかけられるのは、ネームレスの声。

「アレクス! あなたには悔やむ暇も、絶望に浸る余裕もありません!
 あれを野放しにしていては、世界は終わる!
 ならば……」

 分かりますね、という無言の問いに、アレクスは行動でもって応えた。

「これで、最後だ。行くぞ、二人とも!」
「しょうがないわね」
「愚問です」

 呼吸を合わせ、三人はふたたび、死の空間に飛び込んでいく。

「ムダナ、コトヲ」

 彼らを襲うのは、復活前とは比べ物にならないほどに強靭で、強烈な、触手の雨。
 まず、壁になっていた義矢門が、次に、耐久力で劣るシズルが、脱落していく。
 だが……。

「ナ、ニ……」

 それでも、アレクスは、勇者は邪神の前に辿り着いた。
 うごめく触手を逆に足場として宙を駆け、右手に握る『騎士剣シエル』を限界まで振り上げて、


「――ファイナル、ブレイク!!」


 剣スキル最強の技を、放った。

「コノ、光、ハ……!」

 騎士剣シエルから伸びた光は、コアを守ろうと伸びた触手を両断し、異形の顔を切断する。
 だが、それと同時に……。

「……さよなら。シエル、リヒター」

 騎士剣シエルが、粉々に砕け散り、その柄を残して消えていく。

 ……ファイナルブレイクは、剣のスキルの中で、最高の威力を誇る大技だ。
 単純な攻撃力だけでなく、剣の持つ能力補正の全てを威力に加算するその一撃は、ほかの技とは隔絶した破壊力を生む。

 だが、その名が示す通り、この技は諸刃の剣。
 使用した武器はその一撃のあとに必ず壊れてしまうという、大きなデメリットも抱えているのだ。

「ダ、ガ。ワタシ、ヲ、倒スコト、ナド……」

 そして、そこまでしてなお、強化されて邪神を倒しきることは不可能だった。
 邪神はどこか余裕のある声でそう吐き捨て、しかし、

「今です!」

 ネームレスの声が、別れの悲しみに鈍るアレクスの身体を、ふたたび動かす。

「俺たちには、お前を倒すことは出来ない! だけど、なぁ!」
「マサ、カ……」

 仲間が、最愛の人の剣が作ったコアへの道、むき出しになった心臓部に、アレクスはもう一本の剣、『絶対神剣アルティヘイト』を突き立てる。

「ソウル・ディバイド!」

 それは、『絶対神剣アルティヘイト』の特殊能力。
 あまりのも強力すぎる邪神の存在を、魂ごといくつもの欠片に分割する必殺技。

 ――そしてそれが、激闘の終わりを告げる、一撃だった。




 そこからの流れは、概ね俺たちが知る通りになった。
 分割され、力を弱体化させた邪神を、アレクスたちはさらなる犠牲を払って封印する。

 本体は、地に満ちる力と引き換えにして、戦いの場となった王都に封じた。
 かつて王都だったその地は、邪神の力を抑える代償に、人の生きられない沼地となった。


 しかし、同じ方法で残りの欠片を封印すれば、人が住める場所がなくなってしまう。
 そこで勇者アレクスは、人の生きられなくなったその地を捨て、はるか東の地に、戦いで失われた友の名を取った新しい都『王都リヒテル』を作る。
 そして、そこに集まった人の力を集め、一番大きな欠片をその地下に封印することを決めた。

 ただ、邪神大戦の影響が残る民たちに、真実を伝えることは出来ない。
 だから、偽装として邪神ディズ・アスターの文字を入れ替えた『レディスタス』という架空の神を崇める宗教を設立、邪神を封じたその場所に宗教施設を作り、その建物を大聖堂と名付けた。


 二番目に大きかった欠片は、封印の巫女ネイティアの右手に封じ込められ、一時自由を手に入れたはずの巫女ネイティアは、ふたたび南の孤島での生活を余儀なくされることになる。
 それを不憫に思った大魔術師ネームレスは、弟子でもあるネイティアに同行することを決意、アレクスから『封印の守護者サザーン』の称号をもらい、南の島へと旅立つ。


 邪神の特殊能力は、欠片が一定以上小さくなれば制限されるらしい。
 次元(ディメンション)破壊者ブレイカーの能力が使えない小さい欠片二つは、ラムリックとのちに生贄の祭壇と呼ばれる場所に専用の施設を作るだけで封じることが出来た。
 これが、生贄の祭壇にあった邪神の欠片と、ゲームでラムリックの隠しダンジョンに封じられていた邪神の欠片となるのだろう。


 そうして最後に、記録映像は、アレクスのモノローグで終わりを告げる。

「……俺たちは、邪神を封じて英雄と呼ばれた。
 だが、俺たちは、俺たちだけは、知っている。
 邪神大戦なんて呼ばれたあの戦いが、単なる負け戦だってことを。
 封印は、永遠じゃない。邪神はいつか、絶対に甦る。
 この記録が、この、屈辱と、敗戦の記録が……。
 やがて訪れる、勇者たる資質持つ者への、礎とならんことを……」



 目の前が暗転して、現実の世界に戻ってきても、しばらくは誰も口を開くことはなかった。
 ショックを受けている様子で、みんな一様に顔を伏せている。
 だがそれも、あんなものを見せられたら当然だろう。

 動揺しているのは、仲間たちだけじゃない。
 俺だってそうだった。
 震えそうになる手を必死で押さえ、歪みそうになる顔を、片手で覆って隠す。

 痛いほどの、沈黙が続く。
 だがやがて、ぽつり、ぽつりと、それぞれが思い思いの言葉を漏らす。

「予想外、でしたね」

 口火を切ったのは、ミツキ。
 猫耳をうなだれさせて、そんなことをつぶやいた。

「だから、言いたく、なかったんだ。
 だって、さ。あんなの、ずるい、よね」

 続いて、真希がそう言って力なく笑う。

「ですが、私達はもう引き返せません。
 邪神の欠片のうち、三つはもう倒しています。
 その力が残りの欠片と本体に行ったとすれば、封印のバランスは崩れているはず。
 邪神の復活は時間の問題でしょう」

 冷徹にすら聞こえるミツキの言葉に、ふたたびその場に沈黙が落ちる。
 それを打ち消すように声を張り上げたのは、イーナだった。

「で、でも、何か方法があるはずです!
 そうだ! 壊したコアを粉々にするとか、どこかに隠してしまうとか……」

 だが、イーナの言葉は、すぐにミツキに否定される。

「それは、どうでしょうか。破壊された後のコアは、大きさを増していました。
 つまりあれは、単純に壊れたコアが寄り集まった訳ではないという事です。
 あの現象を邪神の死をトリガーにして発動する魔法のような物と捉えると、塵一つ残さず消滅させたとしても、再生を防げるかどうか」
「そん、な……」

 ミツキの言葉に打ちのめされたように見えたイーナだったが、それでもこの空気を自分が変えなければ、と思ったのか、もう一度明るい声を出した。

「な、なら! もう一度! もう一度封印すれば……」
「それこそ非現実的です。映像にあった時よりも、今の邪神は強力になっています。
 それを封印出来るだけの余力など……」

 言下に否定され、遂にはイーナもうつむいてしまう。

「じゃあ、本当に、もう何もやれることはないんですか?
 ……なにをやっても、ぜったいに、勝てない相手なんて!
 倒しても倒しても、際限なく強くなる敵なんて、そんなの……」

 いつもは闊達なイーナの、絶望の叫び。
 それを聞いて、俺は……。


「――本当に、際限はないのかな?」


 気付けば、そんな言葉を口に出していた。

「ソーマ、さん?」

 そうして、俺の顔を見たイーナが、びっくりした表情をする。
 きっと、今の俺の顔は、ひどいことになってるんだと思う。

 手の震えが、止まらない。
 自然と顔が歪むのを、止められない。

「あ、あの、ソーマ、さん?」

 イーナの心配そうな声を聞きながら、俺の心はまだ、千々に乱れたまま。
 ぐちゃぐちゃな思考がぐるぐると、頭の中を駆け巡る。

 だって、そうだろう?
 これは、ゲームなんかじゃない。
 れっきとした現実なんだ。


「ソーマさんは、どうして……」


 なのに、こんな、こんな……。


「――どうして、笑っているんですか?」


 こんなチャンスが、巡ってくるなんて!!


「ソ、ソーマ、さん?」

 イーナが完全にドン引きした声を出して、俺はやっと我に返った。
 必死で笑顔を消して、出来るだけ真面目な顔を作る。

 分かってる。
 世界が滅びるか滅びないかの瀬戸際で、笑ったりするのは不謹慎だって、分かってはいる。

 でも、ある程度は仕方がないと思うんだ。
 ……だって、思いついてしまったから。

 都合のいい想像、いや、妄想かもしれない。
 細い糸を渡るような、か細い可能性かもしれない。

 ――それでも、あいつを倒せるかもしれない可能性に、気付いてしまったから。

 そして、それだけじゃない。

「例えば、ミツキは、さ。一体何を目指して戦ってるんだ?」

 俺の唐突な質問に、ミツキはしばし、固まったものの、素直に答えてくれた。

「それは……もちろん、強敵との戦いが楽しい、というのは一番の理由ですが。
 そうです、ね。あとは誰よりも、強く……一番強く、なりたい、とか」

 まさに、望んでいた答えに、俺の顔が、また笑顔を形作るのを感じる。

 俺が猫耳猫をプレイしていたのは、もちろん理不尽なイベントをねじ伏せるのが楽しかった、というのが一番の理由だが、キャラクターを、自分の分身を成長させるのが楽しかった、というのもある。

 子供っぽい夢だって、笑うなら笑え。
 でも、俺は思うんだ。


 誰よりも高くまでレベルを上げて……。
 誰もやったことのないコンボを覚えて……。
 誰も想像もしないような強い武器を手に入れて……。

 誰よりも強い存在に、『最強』に、なる。


 それは、ゲーマーなら誰もが少なからず持っている、夢なんじゃないかって。


 ――『最強』。
 ――『世界一』。


 口に出してしまえば陳腐な言葉だが、これはそう簡単なものではない。
 俺は誰よりも猫耳猫に情熱を傾けていたが、それが本当に世界で一番だったか、と言われると、流石にそうだと答えられる自信はない。

 俺は猫耳猫にハマり込んでいたが、俺よりも速くゲームをクリアした人はたくさんいた。
 最後には真刹那五月雨斬なんて技まで編み出したり、果てしなくやり込んだという自信はあっても、やっぱりそれが世界一だったかどうかは、猫耳猫プレイヤーの中で、『最強』になれたか、と訊かれると、それもやはり、自信はない。

 でも……。

「カンスト、とか、オーバーフロー、なんて言っても、分からないよな。
 でも、ゲームには必ず数値の上限があるし、どんなコンテンツにも終わりはある。
 それは、猫耳猫でも、例外じゃない」

 そうだ。
 終わらないゲームなんて、ない。
 だったら……。

「じゃあ、この邪神に終点があるとすれば、それはなんだと思う?
 この邪神との対決に、『果て』があるとしたら、どんな時だと思う?」
「……まさか!」

 俺の言葉に、やはり真っ先に反応したのはミツキだった。

「たぶん、そのまさか、だ。
 邪神を倒して、倒して倒して倒して、倒し続けて、邪神を強く、強く強く強くし続けたら、邪神にもこれ以上強くなれない『限界』が来る。
 ……それがこの世界の、邪神の終点だ」

 そしてもちろん、終点に到達するだけでは、意味がない。
 俺が見据えているのは、当然その先。
 つまり……。


「もし、邪神の成長に終わりがあるとして、その成長し切った邪神を倒せば……」
「……邪神は、消滅するかもしれない?」


 挟みこまれたミツキの言葉に、俺は一瞬大きく目を見開いた。
 俺の言葉を一歩も二歩も先回りして、問題の本質を言い当てたミツキに驚きながらも、俺は首を横に振る。

「それは……正直、何とも言えない。
 それで終わりになるかもしれないし、ならないかもしれない」

 猫耳猫スタッフはクリア不可能な障害を設定するよりは、一応のゴールを設定して、それをクリア出来ないプレイヤーを煽ることをことのほか好んだ。
 これが、この邪神戦における、最大の福音であり、同時に不安要素でもある。

 あるいは最悪の場合、数値がオーバーフローした挙句反転して、最弱になるかもしれない。
 でもまあ、弱体化した邪神ならどうにでも出来るだろうから、それはそれでもいい。

「そんな、不確実な事を……」

 言いかけたミツキの想いは、分かる。

「無謀だってことは、分かってる。
 全部が思った通りにいくかは分からない。
 ……いや、そんな可能性は低いってことは」

 こんなのは、挑戦とも言えない。
 賭け、と言ってもいいのか分からない。

「カンストなんて、本当にあるかどうか分からないし、カンストした邪神を倒した時何が起きるかなんて、誰にも分からない。
 でも、試してみたいって、そう思ったんだ」

 現実になったこの世界に、カンストなんてものがあるかは分からない。
 でも、もしそれが存在するとしたら……。

「だって、もし全部の能力値が、カンストに、限界にまで高まったら……。
 そいつはもう、文句なしの『最強』だよな」

 俺の世界の『最強』は手の届かない場所にあった。
 はっきりとした『最強』なんて、見つけることすら、出来なかった。
 だけど……!

「本当に、誰も敵わないくらい、誰も疑いようのないくらい強い、これ以上のない『最強』の邪神を……。
 そんな存在を、俺が、倒しちゃったら……さ」


 ――『最強』だとか『世界一』だとか、そんな称号は、俺には無縁のものだって、諦めていたけど。
 ――それ、でも……!


「そうしたら、俺は、誰も文句のつけようのない、本当の、『最強』を――」


 ――かつて憧れた、純粋な夢を。
 ――戦う者としての、理想の体現を。
 ――ゲーマーにとっての、一つの終着点を。


「――この手に出来るんじゃないか、なんて、さ」


 ……そう、言ってしまってから。
 仲間たちが、ぽかんとした表情で俺を見ているのに、やっと気付いた。

「あ、い、いや、今のは、その……」

 熱くなって、つい語りすぎた。

「わ、悪い。最低だよな。世界の運命がかかってるってのに、こんな、自分のワガママを……」

 俺が頭をかいて、自嘲の言葉を吐き出した、その時だった。

「ふ、ふふ……。あははははは!」
「ミ、ミツキ!?」

 ミツキが、笑った。
 鉄面皮とまで言われて、猫耳以外に感情を出すことがほとんどなかったあのミツキが、声を出して、楽しそうに、笑ったのだ。

 唖然とする俺たちの前で、ミツキは今度は微笑みの形に唇を釣り上げた。

「世界の命運を決める我儘、いいではないですか」
「えっ?」

 とんでもない言葉に、言い出したはずの俺の方が、鼻白んでしまう。

「むしろ貴方は、何を躊躇っているのですか?」
「い、いや、だって、俺の思惑通りに行くかなんて全然分からないんだぞ?
 途中で力が足りなくて倒せなくなるかもしれないし、もし、ちゃんとカンストまで行ったって……」

 なおも言葉を続けようとする俺を、ミツキは嫣然とした笑みで遮った。

「今更な心配です。どの道、あんな怪物を倒せる可能性があるのは貴方だけでしょう。
 貴方がいなければ世界は滅ぶのだから、貴方が失敗して世界が滅んでしまったとしても、責められる謂れはないはずです」
「そんな、むちゃくちゃな……」

 理屈に合っているような、合っていないようなことを言う。

「それに、私も、見てみたくなりました。『世界最強』を打ち倒して、『世界最強』となる、貴方の勇姿を」

 もちろんそのあとで、最強の貴方を倒すので、私が世界最強になりますが、などと付け加えるのが、実にミツキらしい。
 い、いや、まあ、そういうことではないと思うが。

 そして、それに力を得たように……。

「ソーマなら絶対やれるよ!」

 とレイラが特に根拠はないが力強い言葉を贈ってくれて、

「んー。まあそーまなら、なんかやっちゃうような気はするよね」
「ふっ。貴様は我が終生のライバルだからな」

 呆れた様子で真希が、それから仮面モードのサザーンが、さらに……。

 ――ニタァ。

 ついでに鞄の中からくまが起き出して、笑顔を見せてからすぐに鞄の中に戻っていった。
 くまはともかく、なんと、その場にいるほとんどの人が、意外にも俺のワガママで穴だらけな作戦を、支持してくれたのだ。


「――ま、待ってください!」


 そんな中で、一番冷静だったのは、意外にもイーナだった。

「で、でも、復活するとドンドン強くなっちゃうんですよね?
 今でもあんなに強いのに、それ以上に強くなった邪神と、何度も、下手をすると何十回も戦うなんて……」

 心の底から不安そうにつぶやくイーナ。
 だが、それについてはすでに考えがある。

「いいや。十分な攻撃力さえあれば、完全な邪神と戦うのは、一度だけでいいんだ」
「えっ?」
「ほら、覚えてないか? アレクスたちが破片から再生した邪神のコアを破壊した時、もう一度再生した邪神のコアが、一回り大きくなっていたことを」
「じゃ、じゃあ……」

 それで俺の意図を悟ったイーナに、俺は力強くうなずいた。


「――ああ! 復活スキルが発動する前に、コアを最大火力でボコってぶっ壊す!
 壊れたコアがまた再生したら、その時点でもう一度問答無用でボコり続ける!
 こうすれば、きっと一発も攻撃を食らわずに邪神を最強にすることが……いや、最強になった邪神を倒すことだって出来ると思うんだ!!」


 我ながら、名案と言うほかない、その台詞に……。
 仲間たちは、今日三度目の沈黙でもって応えた。

「……はぁ。そーまってさぁ。ほんと、アレだよね」

 なぜか真希が呆れたようなため息をつき、

「あ、貴方はそんな勝ち方で、胸を張って『最強』になったと言えるので……ああ、いえ。
 貴方はそういう人でしたね。忘れて下さい愚問でした」

 せっかく笑顔を見せていたはずのミツキがいつもの鉄面皮に、いや、心なしか冷たい表情になって俺に刺すような視線を送ってくる。

 一方で、

「……ふん。まあ、こいつが最強を目指して正々堂々と戦うなんて言ってた方が、おかしかったんだ。
 いつも通りに戻った、と言うべきじゃないか」
「…ん。ちょっと、あんしん、した。ソーマは、やっぱり、ソーマ!」

 サザーンとリンゴは擁護らしき言葉を言ってくれているが、なぜだろう。
 そちらの方がむしろ、胸に刺さるのは。

「……と、とにかく、だ!」

 今のままでは、邪神を倒すのは難しい。
 未来の『最強』を下すためには、こちらも現時点での『最強』の矛と盾を用意する必要があるだろう。

 そのために、必要なものは……。

「やっぱり、取りに行かなきゃいけないみたいだな」

 隠しダンジョンに眠る、不遇の最強武器と言われた『ソウルイーター』と、それから……。


「――ゲームでは入手不可能だった邪神討伐の最終兵器、『絶対神剣アルティヘイト』を!!」

今回の話を書いてて「ソーマって実は結構やばい奴では?」と思いました(小並感)


邪神戦までノンストップで行く予定なので、そろそろ感想欄見ない方がよいかも
ということで、次回更新はもちろん明日!!……です、よ?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ