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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百九十六章 心残り

お前にも、この悲痛な声が聞こえるか?
そうだ、これがストックの悲鳴!
書き溜めの、断末魔の叫びだ!!
 二人だけの部屋で、俺たちはそれなりに長い時間を過ごした。
 ただ、流石に何時間もこもり続けている訳にもいかない。

「……そろそろ、行こうか」

 俺が言うと、リンゴは少しだけ寂しそうな顔をしたが、素直にうなずいてくれた。
 そして、

「…ソーマ」

 不安そうな声で、おずおずと手を差し出してくる。
 それが手を握っていてほしいという意味だと気付くのにしばらくかかった。

 俺が知る限り、リンゴがこういう要求を自分からすることはなかった。
 だが、今日の出来事が少しだけリンゴを変えたのかもしれない。

「……あ、ああ。一緒に、行こうか」

 俺がその手を握ると、リンゴは少し生気のもどった顔でうなずいた。

「行くぞ」

 一言そう宣言して、回収した鍵を使って扉を開け、リンゴの手を引くようにして扉の外に出る。

 俺が、こうやってリンゴの手を引いてやれる時間はもう残りわずかだ。
 それまで、せめてリンゴの望むように、出来るだけ長くこの手を離さないように、俺は……。


「――ようやく出てきましたか」
「うっきゃあああ!!」


 隣から突然聞こえた声に、俺は光の速さでリンゴの手を放り出すとあわてて飛びのいた。

「な、何だ。ミツキか」
「一体誰だと思ったのですか? 随分と驚いていた様子でしたが」
「い、いや。別に、特定の誰かを想定してた訳じゃないんだが」

 答えつつ、なぜだか包丁を握った金髪の女性の姿が一瞬だけ脳裏をよぎった。

「それよりミツキはどうしてここに?」

 俺が尋ねると、ミツキは猫耳を呆れたように横に倒した。

「探索者の指輪で貴方達が動いたのが見えたので、迎えにきたのです」
「そ、そうだったのか」

 あいかわらず色々とチートすぎる。

「心配はしていませんでしたが、その様子だとうまくいったようですね。
 ……二人共、いい顔をしています」

 優しげな顔をするミツキに、俺は真っ先に伝えなくてはいけないことを思い出した。
 俺が元の世界に帰った後、もう一度この世界に帰ってくるつもりだ、と話すと、ミツキはやはり落ち着いた声で答えた。

「……そうですか。いえ、いつも斜め上の方法で事態を解決する貴方の事です。
 そのような答えを出すだろうとは、予想していました」
「そ、そう、なのか……な?」

 俺としてはそんな風に答えるしかない。

「驚いてあげられなくてすみません。けれど、こう見えても喜んではいるのですよ」
「い、いや……。喜んでくれてるのは、その、見てれば分かるよ」
「そうですか。ならよかった」

 あくまでクールなミツキの言葉に、俺はひきつった顔を隠すようにうなずき、「いやっふぅぅうぅ! わっしょぉぉおおおおい!」とパタパタブンブン凄い勢いで振られている猫耳からもさりげなく視線を逸らした。

「リンゴさんの方も、どうやら迷いは消えたようですね」
「…ん」

 ミツキに向かってリンゴはうなずくと、離れてしまった俺の手を自分からぎゅっと握ってきた。

「り、リンゴ?」

 俺は驚き、それから思わずミツキの反応をうかがってしまったが、ミツキは苦笑するだけだった。

「構わないと思いますよ。むしろ、その程度の事を気にしすぎる方が不自然でしょう。
 別に、兄妹という訳でもないのですから、そのくらい」
「…ん?」

 ミツキの謎の言動にリンゴが首をかしげる。
 いや、うん。
 明らかに気にしすぎているのはミツキの方だというか、あの誤解、そんなにダメージ深かったのか。

「そうだ。折角三人でいるのですから、アレを揃えてみますか?」

 ミツキがそんな言葉を口にして、胸元に手を伸ばす。
 一瞬何が始まるのかとついドキドキしてしまったが、ミツキが取り出したのは懐中時計、俺がプレゼントしたクロノスウォッチだった。

「…ソーマも」

 急かす声に横を見ると、リンゴも自分のクロノスウォッチを手にしていた。
 アレという言葉で分からなかったのは俺だけだったらしい。
 俺もあわてて自分の時計を取り出すと、二人にならって前に差し出す。

 三つで一つの傷をつけられた時計がぶつかり、カツンと心地よい音を立てた。
 それを穏やかな目で見つめながら、ミツキが口を開く。

「貴方が挫けそうな時は、この時計の音を聞いて下さい。
 離れていても、私の心は貴方の傍にいます」
「ミツ、キ……」

 心に染み入るようなミツキの言葉に、俺は思わず涙がこみ上げそうになって、あわてて息を止める。

 かつて、戦闘以外に興味を持たず、人への関心を切って捨てていたような鉄面皮はそこにはなかった。
 ミツキは誰よりも温かく、人間らしい表情で、言葉をつむぐ。

「それから、私は心だけ傍にいるだけでは満足出来ないので、ありとあらゆる手段を使って物理的にも貴方の傍にいますね」
「……え?」

 俺が驚いてミツキを見ると、さっきまで温かく、人間らしい表情を浮かべていたはずの猫耳は、ぴょこぴょことやんちゃに、楽しげに揺れていた。

「私が貴方の帰りをただ待つような物分かりのいい人間だと思いましたか?
 父や親しい相手とは別れの挨拶も済ませ、既に身辺の整理はついています。
 まずは貴方の世界に一緒に帰れないか、試してみましょう」
「な、え、ちょっ、ミツキ……?」

 突然の告白に、俺の頭が追いつかない。
 ミツキは混乱して棒立ちになった俺の腕を取ると、それをぎにゅっと抱え込んだ。

「や、やわら……じゃなくて、それってどういう……」
「…ソーマ、いこ」

 すると、少しだけ怒ったような口調でリンゴが言って、俺は手を引っ張られる。

「え? ちょっとこれ、えぇ……?」

 訳が分からなくなってリンゴとミツキの間で視線を往復させる俺を見て、腕を抱え込んだままのミツキがくすりと笑った。



「リンゴさん!」
「まったく、やっと出てきたか!」

 とりあえず腕をはさ……抱えるのはやめてもらって、ミツキの案内で俺たちが食堂に向かうと、そこにはまだ城に詰めたままの真希を除く仲間たち全員が勢ぞろいしていた。
 必要以上に待たせてしまったことに少し罪悪感を覚えるが、後悔はしない。

「みんな、聞いてくれ」

 その代わり、ということでもないが、俺はあらためてみんなの前で自分の決意を話す。
 俺は真希を連れて元の世界に帰って、それからもう一度、絶対にこの世界にもどってくると宣言した。

 仲間たちの反応は、様々だった。

 サザーンは「ふん! 当たり前だ!」と言って胸を反らし。
 イーナは「はい! はい!!」と感激したようにしきりにうなずき。
 レイラは「わ、私、ずっと待ってるから!」と俺の手を握り。
 ミツキはただ、静かに微笑んだ。

 そして、その余韻が収まった時、リンゴが前に出る。

「…ごめんなさい」

 迷いない足取りでサザーンの前に立つと、石板を差し出した。
 サザーンはしかし、差し出された石板を前に、首を振った。

「これは、ソーマに渡してくれ」
「……俺に?」

 それは確かに石板を起動させることが出来るのは俺と真希だけだが、サザーンが石板を手放すのは意外だった。

「分かった。じゃあ、とりあえず俺が持っておいて、夜になったら……」
「いや。映像記録を見るのは、延期しよう」
「延期?」

 意外な言葉に、俺は思わずいぶかるような視線を向ける。
 周りを見ると、全員が怪訝そうな顔をしていた。

「それは、別に構わないが。延期って、いつまでだ?」

 明日か、明後日か。
 それによって予定も変えないといけないなと考えながら、俺が尋ねると、サザーンはあっさりとこう言った。

「それは、分からないな」
「分からない、って……」

 一番最終話を楽しみにしていたはずのサザーンの投げやりな言葉に、混乱する。
 しかし、それでもサザーンの声はどこまでも真剣だった。

「いつまでになるかは分からない、ただ――」

 真剣に、仮面越しながらも俺の目をまっすぐに見て、そしてこう言った。


「――お前がまた、この世界にもどってくる時まで、だ」


 完全に、不意打ちだった。
 一瞬、サザーンが何を言おうとしているのか、分からなかった。

 俺がこの世界にもどってくるまで石板を預かるということは、それまでこの石版は使えないということ。
 つまり、もし俺がこの世界にもどってこれなければ、サザーンは永遠に邪神大戦の最終話を見ることは出来なくなる。

「いい、のか、サザーン。お前はあんなに映像記録を見るのを楽しみにしてたじゃないか。なのに……」
「愚問だな。それともまさか、この世界にもどってくる自信がないのか?」
「……いや。俺は、絶対にこの世界にもどってくるよ」

 俺がはっきりと答えると、サザーンはもう一度鼻を鳴らした。

「ふん! だったら何も問題はない。最終話を想像して楽しむ時間が長くなるというだけのことだ。
 ……まあ、何だ。僕だって、お前を、信じてるからな」

 小さい声で付け加えられた言葉に、不覚にも胸が熱くなった。

「そ、そんな顔で僕を見るな! と、とにかく、途中で止めてしまったとはいえ、約束は約束だ。
 お前が言う魔法の修得とやらに付き合ってやる! か、感謝するんだな!」
「……ああ。ありがとう、サザーン」
「ふ、ふんっ!」

 俺が素直に感謝の言葉を投げかけると、今度こそ本当に照れくささの許容範囲を越えたのか、サザーンはそっぽを向いて何も言わなくなってしまった。

「あっ! も、もしかしてソーマさん、その魔法っていうのが手に入ったらもう帰っちゃうんですか?」

 代わりにイーナが焦った声を出し、「え、ええっ! 私たち、まだしてないのに!!」とレイラがおかしなことを口走って注目を浴びたが、もちろんそれは杞憂だ。

「まさか。レイラにも言ったけど、そんなにすぐには帰らないよ。
 本当に帰れるのかどうかも分からないし、そのために少しずつ実験もしなくちゃいけない。
 ……それに、この世界にはまだ、やり残したこともあるしな」
「やり残した事、ですか?」

 最後につぶやくように付け加えた言葉に興味を覚えたのか、ミツキが耳をぴんと立てた。

「ああ。リンゴと話してる間に、俺も考えた。
 その時に思ったんだ。
 どうしても、この世界でやっておきたいことがある、って」

 自分のしたいことを押し殺してまで俺との再会を望んでくれたサザーンのことを思うと、流石に申し訳なくなる。
 ただ、それでも。
 やっぱりこれだけは譲れない。

「俺は元の世界にもどる前に、西の沼地に行かなきゃならない。
 行っておかなきゃ、気になって元の世界に帰ることなんて、出来ない」
「西の沼? まさか……!?」

 何かを察したようなミツキに、軽くうなずく。
 そう、西の沼地はゲーム未実装地帯。
 邪神の本体が封じられ、魔王城以上の魔物が棲むという未開の地。

「そのまさかだ。俺は、これから西の沼に行って……」

 それこそが、俺の心残り。
 この世界で絶対にやらなくては帰れないこと。
 つまり……。


「――ゲームにいなかったモンスターを探して、狩って狩って狩りまくるぞ!!」


 俺が宣言した瞬間、ミツキを含んだ全員が、「あ、はい」という感じの微妙な表情をした。

 そんな中、リンゴが後ろからぽつりとつぶやいた「…ななめした」という言葉が、なぜだか胸にグサリと突き刺さったのだった。


そんな馬鹿な… 、 この先、絶望に注意しろ

まえがきの通りの状況で、でも、きっと、明日か明後日には更新できるはず……
少なくとも明後日更新予定とか言って十日以上間が空くとか、そんなこと常識で考えてありえないですし、ね!!
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