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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第一章 腹話術ポーション

 最近の若者はこらえ性がなく、何でもすぐに人のせいにしようとする傾向がある、らしい。
 そんなことを言い出したら最近に限らず年寄りはすぐ「最近の若者は~~」とか言い出す傾向がある気はするが、まあ言ってること自体は一理あるかなと思う時はある。

 例えば、人気ゲームの攻略ページの『よくある質問』(あるいはFAQやQ&A)を見ると、大抵こんな質問が一個は混ざっている。


Q:○○ができません。バグ?


 まあ○○の部分は千差万別ではあるし、『できません』が『たおせません』や『手に入りません』に変わったりするが、大体似通った文面だ。
 それに対する答えもある程度パターンで決まっている。
 例えばこんな感じ。


A:バグではありません。○○のやり方は説明書(○○ページ)に書いてあります。
  質問する前に説明書をよく読みましょう。


 普通に考えればバグなんてそうそうある物ではないと分かりそうなものだが、依存心が強く、自分勝手な人間ほど失敗の理由を外に求めたがるものだ。
 自分で調べたり試したりもせずにすぐ分かるようなことを質問した挙句、何でもかんでもバグのせいにするのはやはりかっこいいものじゃないだろう。

 だが、そこへ行くと『New Communicate Online』は一味違う。
 『New Communicate Online』の攻略ページ、『猫耳猫wiki』にはそんなくどくどしいことは一切書かれていない。
 『猫耳猫wiki』のFAQの一つ目には、ただ、こうある。




Q:○○なんですけどバグですか?
A:バグです。




 あまりに潔いそのたった四文字の返答が、つまりは『New Communicate Online』というゲームの全てなのである。







「ここ……」

 視界の変化が収まった時、俺は広い道の上に立っていた。
 道の左手には森、右手には草原が見える。
 近くに見える立札や、森の植生には見覚えがあった。
 最初の町の郊外、恐らく始まりの森と呼ばれる低レベルエリアの隣だろう。

「さっきまで、町の中にいたはずなのに……」

 一体あの一瞬に何が起こったのか。
 いくら悪名高き『New Communicate Online』といえども、町で立っているだけでどこかに飛ばされるなんてことはなかったはずだ。
 それに……。

「真希?」

 呼びかけても、返事はない。
 電話は切れているようだ。

「あれ? 通じない?」

 それどころか、電話やメールを含めたネット接続機能が使えなくなっている。
 メニュー画面が呼び出せない。

「また、バグか? いや、それにしては……」

 電話まで通じなくなるのはおかしい。
 あれはゲームについている機能ではなく、VR空間に共通で備えられている機能のはずだ。
 ゲームのバグに影響されるようなことはありえない。

「じゃあ、VRマシン自体に異常が…?」

 半信半疑でつぶやきながらも、俺は反射的にゲームメニューを開こうとした。
 それにも全く反応がない。

「どういうことだ?」

 俺の頭に、にわかに不安がよぎった。
 ゲームメニューには、データのセーブ・ロードや、ログアウトの機能もついているはずだ。
 それが使えないとなると……。

 焦り始めた俺の頬を、風が撫でた。
 ……風?

「まさか!」

 俺は慌ててその場にしゃがみこみ、足元の草を、土を触った。
 草の一枚一枚、土の一粒一粒にしっかりとした感触があった。

「ありえない…!」

 VRゲームといえど、その処理能力には限界がある。
 あまりゲームプレイに必要のない部分では手を抜いているのが普通だ。

 『New Communicate Online』はリアル度の高いゲームだが、それでも俺が感じているような、風が頬を撫でる感触や木々の匂いなどは再現されていなかった。
 地面や植物も見かけこそ本物そっくりだったが、草に触っても土に触れても、まるでプラスチックに触れているような無機質な感触があるだけだった。
 なのに、俺が触った草も土も、現実と全く変わらない感触がした。

 最後に聞いた真希の叫びが脳裏によみがえる。

『そんなにゲームが好きならゲームの中にでも行っちゃえばいいでしょ!』

 あの時真希は『打出の小槌』らしき物を手にしていた。
 昔話によれば、『打出の小槌』は振りながら願うことでそれを叶える力があるとされている。
 状況から考えると、俺の言葉に怒りを覚えた真希は、あの台詞を叫びながら手に持った『打出の小槌』を怒りに任せてどこかに振り下ろしたのではないだろうか。
 まさか、その時に願いが叶って俺がゲームの中に入ってしまった、なんてことは……。

「いや、それこそ、まさか、だよな?」

 誰にともなく問い掛ける。
 自分でも、馬鹿なことを考えている、とは思う。
 しかし、そうでなければこの状況をどう説明するのか。

 自分の服装に目をやると、革の鎧と革のブーツ。
 腰には短めの剣の鞘と、小さなポーチがくくりつけられている。
 明らかに『New Communicate Online』の初期装備だ。

 ふと思いついて、腰のポーチに手を伸ばす。
 中に手を差し込んだ途端、頭の中に赤と青、二種類の液体の入った瓶のイメージが広がる。
 青い方を選択して手を引き抜くと、ポーチから抜き出した手には、青い液体の入った瓶がしっかりと握られていた。

 ……間違いない。
 これは、ゲーム開始時に三つ所持している体力回復のポーションだ。

「……マジかよ」

 しかも、あんなに大きな物を取り出したのにポーチの大きさや重さが変化した様子はない。
 現実世界でこんなことが起こったのなら、ちょっとした手品か超常現象だ。

「もしここが、ゲームの世界だっていうなら……」

 意を決し、俺は取り出したポーションを、地面に叩き付けた。
 ポーションの瓶は土の上で粉々に砕け散り、同時にけたたましい音と共に瓶の欠片が辺りに飛び散り……とはならなかった。

 ポーションを叩き付けた場所を中心に青い光が広がり、一秒ほど遅れてポワーンという間の抜けた効果音が響く。
 近寄って確かめてみると、ポーションがぶつかったはずの場所に瓶の破片は一つもなく、影も形もなく消え去っていた。

「本当に、ここは『New Communicate Online』の世界…?」

 あまりの事態に天を見上げ、しばらく放心する。

 『New Communicate Online』には、三種類のポーションの使い方があった。
 すなわち、飲む、かける、ぶつける、だ。

 中の液体を飲めば当然のようにHPが回復するし、傷にかければ傷が治る。
 そして戦闘中などに仲間に使う場合には、ポーションを投げつければいい。
 現実ではありえないことだが、ポーションは強くぶつけられると、ぶつかった場所を回復してそのまま瓶ごと消滅するのだ。

 これだけでもこの世界が現実ではなく、ゲームの論理によって動いていることが分かる。
 が、それだけではない。
 『New Communicate Online』にはポーションをぶつけた時に起こる、有名で、しかもまだ修正されていないバグがあった。
 通称『音が…遅れて…聞こえるよ』バグ。

 何をどうミスしたらそんなことが起こるのか、ポーションをぶつけた時に発生する光のエフェクトと効果音が、なぜか1秒ほどずれるというバグ(というか設定ミス)が確認されているのだ。
 ……そう、まるで先程、俺が目の当たりにしたように。

「なんなんだ、ここは」

 風や匂い、草や土の感触から『New Communicate Online』をプレイしているのではないと分かるが、アイテムの仕様や設定ミスに至るまで『New Communicate Online』の法則が忠実に再現されている。
 もしそんなことがありえるとすればだが、『New Communicate Online』の世界をそっくりに模した現実世界に紛れ込んでしまった、と考えるのが一番妥当なように思えた。

「ッ!? なんだ?!」

 だが、俺の思考はそこで強制的に中断させられた。
 道の奥から、誰かの叫び声らしき物が聞こえた気がしたのだ。

「まさか……」

 一瞬だけ考えて、すぐに思い当った。
 この世界が、『New Communicate Online』の世界だとしたら……。
 あれが、起こるのかもしれない。

「くっ!」

 考えていても仕方がない。
 俺は声の方へと駆け出した。

 想像よりもずっと身体が軽い。
 そうだ、間違いない。
 この感覚、現実での肉体ではなく、『New Communicate Online』で身体を動かしている時の感覚だ。
 これならもしかして……。

「ステップ!」

 そう口に出すと、周りの景色がグンと流れた。
 現実では経験出来ないような、強烈な加速が俺を襲う。
 数瞬の浮遊と着地、それからわずかな間の硬直。

 しばらくして解けた技後硬直の余韻を振り切って、俺はまた走り始める。
 どうやらスキルも普通に使えるようだ。
 しかも、ステップの操作感がゲームと全く同じだったことは大きな収穫と言える。

 ステップは誰もが最初から使える基本スキル。
 だが、ただの基本スキルと切り捨てられない数々の有用性がある。

「あそこか!」

 身体の具合を確かめながら進んでいくと、ほどなく争いの現場が見えた。
 一番初めに見えたのは、大きな乗り物。
 現実世界では到底お目にかかることのないような古めかしい馬車が、道の真ん中で立ち往生している。

 そして馬車の手前には、争う人々。
 人影は五つ。
 まず目に入るのが、こちらに背を向けている、剣を持った女性の後ろ姿。
 それから馬車を背に、彼女を取り囲むように武器を構える四体の蜥蜴人間の姿が見えた。
 その光景に、俺は確信する。

 やっぱりだ!
 もう始まっている!

 初見のプレイヤーの実に90%以上を死に追いやったと言われる理不尽なスタートイベント、あの悪名高き『リザードマンの罠』が!
+注意+
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