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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百九十一章 竜の秘宝

天啓発売記念更新!

という訳でもないんですが、今は書籍の方に奇跡的に差し迫った締切がないので書き溜め切り崩しつつ、しばらくは隔日くらいで更新の予定
「リヒター! お前の力を、貸してくれ!!」

 そんな言葉と共に、禍々しく黒く染まった剣、「騎士剣リヒター」を大きく振りかぶる。

「くっ! させる、ものかぁ!!」

 対峙するのは、青い肌の偉丈夫。

 ――魔将軍リグラス。

 人類侵略の急先鋒にして、一騎当千の武人。
 人では出しえないほどの脚力で一気に距離を詰める。
 だが、

「なっ、消えた? ……上か!」

 ハッとしたリグラスが頭上を見上げた時には、もう全ては遅かった。
 そこにあったのは、太陽を背に、高く高く跳躍する剣士の姿。

「しまっ――」
「――奥義、天覇無窮飛翔剣!!」

 高所より振り下ろされた刃はあっさりとリグラスを両断。
 数多の人間を物言わぬ骸に変えてきた魔将軍は、遂に人間の前に膝を屈した。

「馬鹿、な……。こんな、下等生物ごときに、このわたしが……」

 最期の言葉を遺し、魔将軍は光の霧へとその姿を変えていく。
 それを見届けると剣士は身を翻し、まるで真っ黒な刀身に語りかけるようにつぶやいた。

「……仇は取ったぜ。リヒター」

 そして、その言葉が俺の耳に届くと同時に、辺りの景色は一瞬にして切り替わって……。



 俺は、瞬く間に自分の部屋にもどってきていた。
 光を失った石板からそっと指を離し、ほっと息をつく。

「いやぁ。熱い展開だったなぁ!」

 俺が今見ていた景色は現実の物ではない。
 邪神大戦映像記録に保存されていた過去の記録だ。

 だが、これはもともと猫耳猫をプレイしていた現代日本人を楽しませるために作られたおまけ映像。
 実際の制作者は猫耳猫の制作陣ではなくこの世界を作った謎パワーではあるが、そのコンセプトは十分以上に引き継がれている。
 結果、この記録映像はエンターテイメントとして高いレベルで結実されていた。

 特に、今回見た第八話は物語の折り返し地点ということで非常に熱かった。
 今回は邪神の手先で、人類侵略の尖兵である魔将軍リグラスとの戦いだったのだが、今までライバルポジションだった魔族リヒターが部下の死をきっかけに邪神に反旗を翻し、アレクスたちと共闘したのだ。

 それでも圧倒的な魔将軍の力に敗北しそうになった時、瀕死のリヒターが我が身を犠牲にして「竜の秘宝」というアイテムを使用。
 その身を剣に変え、リヒターの力を託されたアレクスは、激闘の末にとうとう魔将軍リグラスを打ち破ったのだった。

 そして、そんな熱血展開に興奮したのは俺だけではなかった。

「す、すごかったな! すごく、すごかったな!」
「いいから揺らすな、サザーン」

 貧弱な語彙で叫びながら、俺の腕を揺するサザーン。

「うぅぅ。リヒターさん。いい人だったのに……」

 そして反対側にはイーナもいて、俺の手を握ったまま涙ぐんでいた。

 いや、それだけじゃない。
 イーナが握った手より少し上を見ると、俺の腕を抱え込んだ真希がいるし、背中にはレイラがぴったりくっついて荒い息をついている。
 俺の足の間に収まっているリンゴや控えめに胸にくっついて固まったように動かないミツキや頭の上のくまを入れて、総勢6人(プラスぬいぐるみ一匹)が俺にひっついているという異常な状態だった。
 そろって第一話を見たあの日から、夜になると仲間たち全員が俺の部屋に集まってきて、石板を見るのが日課になってしまったのだ。

「それにしても、もう半分も終わっちゃったんですね。
 何だか続きを見るのが惜しくなっちゃいます」

 イーナはようやく俺と手をつなぎっぱなしだったのに気付き、少し赤くなりながら手を離すと、しみじみとそんな言葉を漏らした。
 その気持ちは俺にも分かる。

 なんというか、英雄の軌跡を追うというより、連作映画か、さもなければ連続ドラマを見てるような感覚なのだ。
 好きなシリーズ番組が終わってしまうのは悲しいし、この世界には本や漫画はあるようだが、流石にテレビや映画みたいな物は俺の知る限り存在しない。
 この映像記録は、イーナたちにとって特別だろう。

「まあ、な。でも、一度見た話は二度と見れないって訳じゃないんだし、またいつでも……」

 何の気なしに言いかけて、ハッとして口をつぐんだ。
 いつでも、じゃない。
 この映像記録を最後まで見終われば、サザーンとの約束は果たせる。
 そうしたら俺はあの魔法を、帰ることが出来るかもしれない手段を手に入れるだろう。

 もちろん、色々と実験しないといけないだろうし、場合によっては中止する可能性だってある。
 それでも、いつでもイーナたちにこの映像を見せてやれるという保証は……。

「……ソーマさん?」

 いぶかしげな、いや、どこか不安そうなイーナの声に、我に返る。
 何か言わなくては、と思うのに、とっさに言葉が出なかった。
 だが、そんな俺の窮地を救ったのはリンゴだった。 

「…ソーマ。『りゅうのひほう』って、ゲームにもあった?」
「……え?」

 リンゴの唐突な、空気を読まない質問によって場の流れが変わる。

「それは私も気になりました。人間を、いえ、今回は人ではありませんでしたが、生き物を武器に変えるアイテムなど聞いた事がありません」

 そこにミツキの疑問が加わり、俺の言いよどんだ言葉はうやむやになって流された。

「あ、ああ。竜の秘宝はゲームでもあったぞ。
 というか、最強武器を作るには必須だって言われてた。
 何しろあれ、武器になった奴のステの何割かがそのまま武器の+補正になるからな」

 流石に敏捷やスタミナなどは上がらないが、高レベルキャラが変化した武器を持てばそれだけで数十レベル分の強さが底上げされる訳で、これが強くないはずがない。
 竜の秘宝がゲーム終盤でしか手に入らないのと、必ずキャラクターを犠牲にしないといけないことから使用者は少ないが、最強議論になると必ず出てくるアイテムではある。
 由来は分からないが、竜の秘宝で作られた武器はゲーマーたちに「砂竜剣」という愛称で呼ばれて特別視されていた。

 竜の秘宝はゲームでは終盤の悪魔系モンスターのレアドロップとしてしか存在していなかったが、映像記録の方でも貴重なアイテムであるのは変わらず、悪魔であるリヒターが持っていたのを除けば、王家に一個だけ伝わっているだけらしい。

「でもまあ、『猫耳猫』のアイテムだから、当然ながら欠点もあってな。
 竜の秘宝を使う時に、変化する武器の種類も選べるんだが……」

 竜の秘宝に触れながら変化したい武器名と自分の名前を口にすることで武器化が始まるのだが、この変化先の武器候補がやったらたくさん用意されていた。

 剣系だけで、剣、長剣、騎士剣、曲剣、装飾剣、包丁、斬馬刀、レイピア、打刀、木刀、ビームソード、でっかい十字架、大根、ただの木の枝など無数にあり、槍系や斧系などのスタンダードな武器のほか、石、手裏剣、くない、ダーツ、ブーメラン、円月輪、スーパーボール、フォーク、手榴弾、お札、硬貨、ギャルのパンティーなどの投擲系、さらにはなぜかハーモニカ、ギター、ハープ、ピアニカ、リュート、三味線、木琴、パイプオルガン、グランドピアノなどの楽器系、果ては椅子、机、ソファー、ベッド、だるま、暖炉、こたつ、バーベキューセットなどの家具系アイテムなど、とにかくたくさんの変化先候補があり、何を選ぶかによって完成品のグラフィックと重量が変わるのだ。

「それの何が問題なのですか? 必要なのかどうかはともかく、選択肢が数多くあるのはむしろ良い事だと思いますが」

 ミツキが猫耳をぴょっこと傾けながら尋ねてくる。
 俺も確かにそう思う。
 だが、そこで終わらないのが猫耳猫スタッフなのだ。

「ああ。俺もそう思うんだが、実は変化先に何を選んだとしても、絶対に武器種は剣になっちゃうんだよ」
「……は?」

 ぽかんとして猫耳を固まらせたミツキに、俺はため息交じりに説明した。

「だからさ。きっと変化先増やしすぎて設定がめんどくさくなったんだろうな。
 槍を選ぼうが斧を選ぼうが、はたまたソファーやグランドピアノを選ぼうが、全部剣として扱われるんだ」

 前にグランドピアノから剣技が出るシュール動画を見たことがあるが、ひどかった。
 これは剣の大きさで大太刀のリーチのスキルが撃てる不知火とは逆パターン。
 斬撃スキルの効果範囲がグランドピアノの大きさよりも小さいため、どう撃っても敵に当たらないのだ。

 これにはミツキは絶句し、隣にいた真希も顔をしかめた。

「うわー。やっぱりこのゲーム、ええと、その、なんだっけ?
 ほら、フン、じゃなくて、う、うんち……」
「クソゲーな、クソゲー」
「そう! それだね! クソゲーだね!」

 真希にはもうちょっと記憶力と恥じらいを持ってほしい。
 あと、自分でクソゲーと言うのはいいが、他人にそう言われるとなぜか擁護したくなる。
 俺は少しムキになって声を張り上げた。

「い、いやでも、竜の秘宝の武器は本当に強いんだぞ!
 剣として使えないならサブ武器として逆の手に持つだけでもステ補正かかるし、複数あるとさらに凄いことが出来たりするんだよ!
 それを利用した最強武器作成法ってのがもうwikiにもまとめてあって……」

 思い出すのは、『砂竜剣ループ法』という最悪のキャラ強化法。
 竜の秘宝が参照するパラメーターは、キャラクターだけでなく装備品込みのステータスだ。
 その際に装備アイテムは消滅してしまうが、その代わり竜の秘宝を使う本人の能力値が低くても、高いステータス補正のある装備、例えば……。

「え、えと、ソーマさん?」

 そこでこっちを見ていたイーナと目が合って、ハッとした。
 俺は何を考えてたんだ。

 別に誰かを犠牲にしてまで強くなりたいとは思わないし、この世界にはそんな物が必要な敵だっていない。
 俺は邪念を振り払うように、大きく首を振る。

「いや、つまり、そうじゃなくて、だな。
 逆に剣より小さな物にすれば不知火と同じようにスキルを使った時だけリーチが伸びるんだ。
 だから一度だけ、俺も砂竜剣を、つまり竜の秘宝の武器を使ったことがあるんだよ」
「それって、誰かを武器に変えちゃったってことですか?」

 イーナの鋭い指摘に一瞬言葉に詰まる。
 だが、ここはごまかせないだろう。

「ああ。東の山奥にヨーゼフって老人がいてな。
 その人は、誰が何をしようと、ゲーム開始から百二十日経つと必ず寿命で死んでしまうんだ。
 だから俺は、その人に頼み込んで武器になることを了承してもらった」
「……そう、だったんですか」

 イーナの勢いが弱まった。
 竜の秘宝を他人に使わせるのは簡単ではない。
 猫耳猫に他人に好きな言葉をしゃべらせるような魔法やスキルはなく、正攻法で頼むしかないからだ。

 それは要するに実質死んでくださいと依頼するということで、相当に友好度を上げないと成功しないし、キャラによってはどんなに友好度を上げても秘宝を使ってくれないキャラもいる。
 ……ちなみに使ってくれないキャラの筆頭は、俺の話を無視して石板をいじっているアホ魔術師、サザーンだ。

 さっきの説明ではみんなに分かりやすいように「頼み込んで」と言ったが、実際には何度もヨーゼフのところに通って友好度を百近くまで上げ、そのあとで竜の秘宝を使ってくれるように依頼したのだ。

「それで、その武器は役に立ったのですか?」

 すぐに言葉が出ない様子のイーナに代わって、ミツキが続きを尋ねる。
 だが、その言葉に俺は明確な答えを返せなかった。

「どう、かな。武器としてはあんまり役に立たなかったけど、確かに補正は便利だった。
 でも結局は、あの武器を使うことはほとんどなかった」

 この世界では出来るかもしれないが、ゲームでは竜の秘宝武器は合成機にも入れられず、武器種が変えられなかった。
 だからいくら剣より小さくて小回りが利いても、肝心の大太刀スキルが使えない砂竜剣はあまり役に立たなかったというのがまずある。

 それからヨーゼフの能力値は大して高くはなかったから劇的な効果が望めなかった、というのも理由の一つだろう。
 でも、一番の理由はきっとそれじゃない。

「……たぶんさ。やっぱり、誰かを犠牲にして強くなるっていうのが、単純に性に合わなかったんだろうな。
 相手は単なるゲームのキャラクターだって、分かってるはずなのにさ」

 馬鹿だよな、と俺が自嘲気味に言うと、俺の手がギュッと握られた。

「そ、そんなことありません」
「イーナ?」
「それは、それがソーマさんのいいところなんだって、わたしはそう思います!」

 熱いイーナの言葉に、つい俺は照れて顔を逸らした。
 あわてて弁解する。

「い、いや、そんな綺麗な理由だけじゃないけどな。
 やっぱり剣が使いにくいってのもあるし、それにほら、地味に名前の問題もあって」
「名前、ですか?」

 砂竜剣の名前は武器の種類と元になった人物のファーストネームになると決まっている。
 例えばリヒターが騎士剣になった場合、「騎士剣リヒター」という名前に強制的に決められてしまうのだ。

 そして武器カスタムが出来ないということは、武器種だけではなく、武器の名称も変えられないということ。
 俺は昔の失敗を悔いるように、照れ笑いを浮かべながら言った。


「――だって、『ギャルのパンティーヨーゼフ』って、ちょっと格好悪いだろ」


 その一言を最後に、なぜか部屋に重く冷たい沈黙が落ちた。



 そのやりとりを契機に、俺たちはなんとなく解散し、なんとなく自分の部屋に帰っていった。

「そーまはほんと、いつまで経ってもそーまだよねー」

 真希はそう言い残して呆れたように去っていき、

「貴方が途中で言い淀んだ複数の秘宝の使い方、というのが気になりますが。
 しかしそれはきっと、それ(・・)が明かしてくれるでしょう」

 ミツキは最後に謎めいた言葉と共に石板を指さすと、猫耳をバイバイと振りながら帰っていった。

 まあ、癖のある連中ばかりなのでなんとなくでは帰らない奴もいる。
 まずどうしても俺から離れようとしないレイラを説得して部屋から押し出し、光を失った石板から何とかさらなる情報を読み取ろうと無駄な努力を続けるサザーンに石板を押しつけて部屋から叩き出し、最後にほかの人を帰すのを手伝ってくれていたリンゴが部屋から出ようとしたところで、俺は先ほどの一幕を思い出した。

「あ、待ったリンゴ」

 俺に引き留められ、ドアノブに手をかけたままリンゴが振り返る。

「さっきはその、ありがとな。
 リンゴのおかげで助かったよ」

 イーナへの言葉に詰まって困っていた時、リンゴが話を逸らしてくれた。
 リンゴのことだからわざとやった訳ではないと思うが、一応お礼だけは言っておきたかったのだ。
 突然感謝の言葉をかけられたリンゴは、てっきり戸惑うかと思いきや、


「――わたしは、ソーマをおうえん、してるから」


 謎めいた言葉を返すと、なぜか逃げるようにドアの向こうに消えてしまった。

「応援って、どういうことだ?」

 あいかわらず、リンゴの言うことはよく分からない。

 ただ去り際、ドアが閉まる前に見えたリンゴの横顔は妙に寂しそうで、その顔がしばらく俺の頭から離れなかったのだった。
竜の秘宝の説明が楽しすぎて丸々一話分使ってしまった……
+注意+
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