挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
191/239

第百八十四章 古くて、新しい相棒

せっかくだから、俺はこの変な鹿を選ぶぜ!

とか言いつつ、スケジュール調整の結果、書籍化作業が二つ重なって変な鹿を厳選する暇もなかったよ……
「これで、試練も終わり、か……」

 スターダストフレア入手に必要なアイテムも、もう最後。
 この競馬場でメダルを手に入れ、丁半、ポーカーで手に入れたメダルと合わせれば、帰還手段に手が届く。
 それは、嬉しいことなのだが……。

「やっぱりみんな、俺たちを見てる気がするな」

 競馬場の独特の熱気の中、俺は周囲からの視線から逃れるように身を縮めた。
 こんな風に注目を浴びているのは、もちろん……。

「なんて顔をしている。不本意だが、このレースが終わるまで貴様は我が相棒だ。
 分かったらもっと胸を張って……」
「うるさい! お前があんな中二ネームでエントリーしなかったら、俺ももう少し堂々としたよ!」

 俺の隣から尊大な物言いで口を出す、生意気な自称相棒のせいだ。

「何が不満か分からんな。神速の王(ゴッドスピードキング)
 これから愚鈍なるモノどもを制し、この地の頂点に君臨する我にふさわしい名前ではないか」
「黙れ天然中二病! それにエントリーネームはゴッドスピードキングじゃなくて、Gスピードキングだからな」

 十文字以上の名前は登録不可能だとゲームの名前入力みたいに融通の利かないことを言われ、仕方なくゴッドをGに変えてもらったのだ。
 だが、Gと言うとどうしても黒くてカサカサ動くあいつを思い出してしまう。
 確かにスピードキングだとは思うのだが、なんかちょっと嫌だ。

「……はぁ」

 ため息と共に、腐った気持ちを意識して吐き出す。

 もうすぐ競馬大会、その最終戦が始まる。
 それが俺の、いや、俺たちのエントリーする最初で最後のレースになるだろう。
 それまでの間、という枕詞を入れるなら、俺とこいつが相棒というのもまあ、間違ってはいないのだ。

「まさか、お前を相棒と呼ぶような日が来るなんて、最初に会った時には夢にも思わなかったな」
「ふんっ。それはお互い様だ!」

 だが、考えてみれば俺がこいつと初めて出会ったのはリヒテルに着いてすぐのこと。
 出会いの時期だけで言えば、リンゴと同じくらいの古い知り合いなのだ。
 それに……。

「ま、こんなに早くここまでこれたのはお前のおかげだ。それには感謝してるよ」

 認めるのも癪だが、こいつがいなければ俺はこの試練にもっとたくさんの時間と、より大量のお金を使っていただろう。

「だから言ったのだ。我が真の力をもってすれば、この程度のこと、児戯にも等しいと」
「ははっ! 言ってろ!」

 軽口を言い合いながら、俺たちは競馬場へ、そのレース出場者用(・・・・・・・)のゲートへ向かう。
 いつの間にか、周囲の視線は気にならなくなっていた。

「さぁ、行こうか、相棒」
「ふん! 精々我の足を引っ張らないことだな」

 心強い相棒・・と競馬場に入りながら、俺はこの状況に至った経緯を思い返していた。



「――な、なんだよ今のは! あんなのありなのかよ!」

 俺が見事頭脳プレーでカジノからメダルをせしめた直後、怒り狂ったサザーンが俺に詰め寄ってきた。
 それはもう、普段の中二的言動も忘れて俺を問い詰めた。

「お、おい。何怒ってるんだよ。結果的にちゃんとメダルが手に入ったんだからいいだろ」
「そういう問題じゃ……。それに、これじゃ全然、時間が……」
「いいから、次に行くぞ」

 サザーンはまだぶつぶつと言っていたが、俺は無視して最後の試練の場所、競馬場へと向かう。
 なんだかんだ言いつつも、サザーンも小走りでついてきた。

「次は競馬場の試練だな。まあこれは、百万E以上の馬券を当てればいいだけだから、簡単だよ」
「なっ!? 競馬って、そんなに簡単に当たるものなのか?」
「いや、まさか」

 それどころか、ポーカーと同じように賭けた馬だけ順位が落ちる安定の『猫耳猫』仕様だ。
 賭ける時に事前にセーブされない分、ポーカー以上に当てることは難しい。

「だ、だったらどうやって……」
「全部の馬に賭ける」
「……は?」

 見えないが、たぶん仮面の奥で間抜け面を晒しているだろう魔法馬鹿に、はっきりと言ってやる。

「だから、出場してる全部の馬に単勝で百万E稼げるように賭けるんだよ。
 どれだけシステムが順位操作しても、結局どれか一頭は一着になるんだからさ」

 流石の『猫耳猫』仕様でも、全員に賭けると全員落馬して優勝者なし、みたいなことまではやらなかった。
 ありあまるカネの力を存分に発揮したなかなかの名案……だと思ったのだが、俺の臨時の相方は、なぜか気に入らないようだった。

「だ、ダメだそんなの!」
「なんでだよ」

 俺が問い返すとサザーンは一瞬だけグッと詰まったが、すぐに勢いを増して反論してきた。

「だ、だってそんなことしたら、絶対に損するだろ!」
「別にそのくらい、俺は気に……」
「僕は気にするんだよ! それに、だって、そんなことしたらすぐにメダルを……」

 サザーンはもごもごと何か言いかけた後、俺が訝しげに見ていることに気付くと、ぶわっと両手を広げて叫んだ。

「と、とにかくだ! 我が目の黒いうちは、そんな無駄遣いは断じて許さん!
 これは最も尊き血を継ぐ者、偉大なる暗黒魔術師サザーンの誓いだ!
 だ、だから、絶対ダメなんだからな!」

 そんな中二の中に微妙に庶民感覚が交じっているような、何とも言いがたい宣言をしてくる。

「それよりもほら! もっと時間はかかるけれども損をしないで勝てるような、そんな方法はないのか?」
「いやそりゃ……あるけど」
「え? あるの?!」

 自分で聞いた癖に目を丸くするサザーンに、俺は仕方なく説明する。

「実は、競馬にはプレイヤーが出場することも出来るんだよ。
 空き時間に自分の馬を連れて試験をしてもらって、それで一定以上のタイムを出せば、その日の最終戦のレースに特別枠で出れるんだ」
「じゃあ、自分の馬に賭けて、そのレースで優勝すれば……」
「当然、百万E稼ぐことも簡単だろうな」

 しかも初回参加時の賭け率は、馬の強さにかかわらず必ず単勝五倍になる。
 賭け金の上限が百万Eだからこの方法では五百万Eまでしか稼げないが、金策の一つとして猫耳猫wikiにも載っていた。

「問題は、強い馬を用意する方法なんだよな」

 馬は結構色んなところに飼われているので、それを買い上げることで自分の物にすることが出来る。
 ただし、馬を手に入れることと、馬をレースに出すことは出来るのだが、買った馬を育成する要素がほぼ未実装なのだ。

「一応、基本餌以外の餌にはパラメーター変化がつくから、それで育成出来ると言えば出来るんだけど、な」
「何か問題でもあるのか?」
「うーん。餌は基本的に一日に一回しか食べられないし、体力が5増える代わりに加速力が8減るとか、スタミナが10増える代わりに最大速度が15減るとか、そんなのしかないんだよな……」
「全然ダメじゃないか!」

 容赦なく一刀両断してくるサザーンに、俺はかろうじて反論した。

「い、いや、確かに育成要素はあんまりないが、馬には持って生まれた種類があってな。
 ゲーム開始時にランダム生成で馬の種類が決まるんだが、ランクが高い馬なら最初から強いから何とかなる……かもしれない」
「馬にもランクなんてあるのか?」
「ああ。具体的に言うと、こんな感じだな」

駄馬:全ての能力値が非常に低い。頭は悪く、指示を出しても理解されることの方が少ない。食べるのが大好きで、餌だけは普通の馬の二倍食べる。
凡馬:能力値は低め。頭はあまりよくないので、指示を無視することもある。のんびりするのが好き。
駿馬:普通の馬と比べて速力に優れる。レース中に指示を出せば、ほとんどは従ってくれる。ただし神経質なのか、物音に敏感。
軍馬:普通の馬と比べてスタミナに優れる。指示には従ってくれるが、理解するまでに時間がかかる。体が丈夫で昼寝をよくする。
名馬:全ての能力が優れている。レース中の指示に背くことはほとんどない。勇敢な上に、相当優秀な能力を持っている。
赤馬:駿馬や軍馬、名馬よりも速くて体力がある。ただし、指示には全く従ってくれない。ほかの馬にわざとたいあたりすることもあるくらい気性が荒く、暴れることが好き。
神馬:最初から全能力オール999(カンスト)。指示どころか人間用AIが入っているのか普通に会話をこなし、ウィットに富んだジョークも飛ばす。ちょっと偉そうでイタズラが好き。

「つまり、最初から強い馬を引き当てれば……」
「ああ! レースに勝つことだって、夢じゃない!」

 夢ではない、が。

「ただ、名馬でも勝率10%くらいだし、名馬のランダム生成率1%以下だって言われてるし、赤馬と神馬に至っては計測出来ないくらい生成率低すぎて実際見たことないし、そもそも馬のランクの見分け方なんて分からないけどな!」
「ぜんっぜん、ダメじゃないか!!」

 だから最初は言わなかったんだよ、と返したいのをグッと堪えた。
 本当は言いたくなかったんだが、仕方ない。

「必勝法なら、あるぞ。ただ、それをやるためには最低でも一ヶ月近くかかるから、あまりオススメ――」
「それで行こう!」
「……へ?」

 俺が半分ほど言いかけたところで、サザーンが身を乗り出し、俺の両手をつかんで、爛々と燃える目で俺を見ていた。
 訝しげに見る俺の視線に気付き、サザーンは俺から離れ、わたわたと手を振って弁解をし始める。

「あ、や、その……。だ、だから、貴様が考えた必勝法なのだろう?
 だったらどうせろくでもないものだろうが、きっと確実なはずだ。
 そういう面では、信頼している」
「そ、そりゃ、どうも」

 サザーンに褒められることなんてほとんどなかったので、俺はついうろたえてしまった。
 だが、当の本人は自分の言葉の影響など何も気付いていないようで、うんうんとうなずきながら話を続ける。

「それに、時間がかかるというのが何より……ざ、残念だが、ええっと、その、お金がかからないのがいい!」
「いや、餌代が結構……」
「ならそれは僕が出す!!」

 俺の反論に、ノータイムで言葉をかぶせてくる。
 急にやる気になって一体どうしたんだ、とは思ったものの、サザーンが乗り気になってくれたのはなんとなく嬉しい気もした。

「それで、何をするんだ? 何か準備が必要なものはあるのか?」

 まるで俺の気が変わるのを恐れるように、サザーンが急いた様子で先を促してくる。

「え、ええっと、まずは駄馬を用意して、それから出来るだけ効果量が大きい同じ種類の餌を100個くらいかき集めて……」
「よしっ! 馬は任せた! 餌買ってくる!」
「っと、待った!」

 今度は説明の途中で駆け出していこうとするサザーンの首筋をつかんで、何とか止める。

「餌代出すとか言ってたが、そういやお前、ほぼ無一文だっただろ!
 図書館の入場料払えてなかったじゃないか!」
「だ、大丈夫だ! そのくらいのお小遣いはもらった」

 お小遣いって……。

「誰だよ、お前にそんなのあげた奴」

 図書館に入った時は持っていなかったのだから、たぶん俺のパーティメンバーだろう。
 それともまさか、道すがら会った変なおっさんとかに騙されたりしてないだろうな。
 俺が少しだけ心配になって訊くと、サザーンはちょっと恥ずかしそうに答えた。

「く、クマ様だ……」

 くまぁ……。
 姿を見ないと思ってたら、こっそりそんなことしてたのか。
 というか、お金持ってたのかよ、あいつ。

「あっ!」

 俺があまりのことに呆れていると、その隙にぬいぐるみにお小遣いをもらっている自称暗黒魔術師は俺の拘束から逃れ、ふたたび走り出した。
 すぐには手の届かないところまで行ったところでくるんと振り返り、叫ぶ。

「と、とにかく! 仕方がないからレースで勝てるまで、僕が全力でサポートしてやる!
 だから、お前は勝手に全頭賭けしてお金を無駄にしたらダメだぞ!
 お前も本気で、レースに勝ってメダルを手に入れることだけ考えろ!」
「……分かったよ」

 根負けした俺がそう答えると、この迷惑でお節介な腐れ縁の魔術師は、仮面の奥で嬉しそうに笑った……ような気がした。

「じゃあここに三時間後に集合な!
 とびっきりの餌を買ってきてやるから、貴様は馬の調達、しくじるなよ!」

 だが、それを確かめる間もなく、サザーンは元気よく走り去っていってしまった。
 なんとなく温かい気分になった俺は、自分に気合を入れ直した。

「なら俺も、心当たりを当たってみるか」

 やると決めたら、全力だ。
 俺は走っていったサザーンに負けないほどの速度で、猛然と目的地目がけて足を動かした。



 ――そして、今。
 諸々の面倒な手続きを終え、様々なハードルを乗り越えて、俺は、俺たちはこの競馬場のフィールドに立っている。

「何だ? ここまで来て緊張してるのか?」

 からかうような、気遣うような相棒の声に、俺は少しだけ下を向いて、笑って答えた。

「まさか。これからここにいる奴ら全員の度肝を抜いてやるんだと思うと、楽しくなっただけだよ」
「貴様も言うようになったな」

 初めて会った時は疎ましくすら思ったような相手なのに、今はこんなやりとりが心地いい。
 リンゴとも、ミツキとも、イーナとも違う。
 こいつとだから出来る、独特の空気がそこにあった。

 俺はもう一度視線を下げて相棒の姿を眺めて、それからふとした疑問を覚えた。
 その、おしべとめしべというか、オスメスどっち、というか、要するに性別の話だ。
 これまで男同士みたいに会話してきたが、冷静に思い返すと、一度も面と向かっては訊いたことがない気がする。

「そういや、さ。ずっと気になってたんだがお前って……」
「ん?」
「いや、何でもないよ」

 だが、尋ねようとした言葉を俺は飲み込んだ。

(何を考えてるんだ、俺は)

 俺とこいつの関係に、性別なんて意味をなさない。
 俺は、こいつの相棒で、こいつは、俺の相棒だ。
 それだけで、いい。 

(どっちにしろ、何がどう転んでも、俺がこいつと恋愛するなんてことはありえないだろしな)

 つまらない冗談を頭の中だけで考えて、俺は喉の奥でくっくと笑った。
 そんな俺を、この心強くて口の悪い相棒は不思議そうに眺めていたが、

「……始まるぞ」

 会場の変化を敏感に感じ取り、低い声で俺を促した。
 その声に応えて手綱を握り直しながら、俺はにやりと笑った。

「ぶっちぎってやろうぜ、相棒!」

 俺の言葉に、期間限定の俺の相棒は、多くを語らなかった。
 ただ、初めて出会った時のようなイタズラっぽい目で俺を見て、わざとらしく一言いなないた。


「――ヒヒーン!」


 こうして俺と、リンゴと泊まったあの思い出の馬小屋からスカウトした俺の相棒、「神馬Gスピードキング」は二位に五十馬身差をつける大差で優勝を果たし、見事にメダルを勝ち取ったのだった。



 ……それから。
 待ち合わせ場所に餌を両腕いっぱいに抱えたサザーンにドヤ顔でメダルを見せたら、なぜだか凄い勢いで怒られた。

「お前はぁ! お前って奴はぁ!」

 やっぱり、餌を無駄にしちゃったのはまずかったらしい。
 涙目で餌を投げつけてくるサザーンから身を守りながら、俺はくまにサザーンの小遣いを増額を頼もうと密かに決意したのだった。



参考
サザーンでも出来る簡単馬育成法

1.駄馬を用意する
2.駄馬に同じ餌を毎日二回ずつ食べさせる
3.餌を食べさせる度に能力値が下がるが、能力値が0より下になることはないので、かまわず食べさせ続ける
4.最終的に体力999、速力0、のようになるはずなので、そこまで来たら餌を変える
5.二つ目の能力値が999まで行ったら、あとは餌で適当に能力バランスを整える
6.強い駄馬の出来上がり
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ