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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百八十章 闇魔法と黄金の魔術師

だらだら続けてたら、とうとうクッキーの実績100%を達成してしまった……
もうゴールしてもいいよね?


「協力は、する。条件次第だが、してやっても、いい」

 元通りに腕輪をつけたサザーンは、俺を見て不機嫌そうにそう言った。
 その表情は仮面で隠れていて分からないが、俺の帰還を快く思っていないのは明らかだった。

「だが、そもそも元の世界にもどるのに攻撃魔法が必要だというのはどういうことだ?
 僕の力が必要だというのなら、きちんと説明をしてもらおう」

 ずいっと身を乗り出し、あいかわらずの上から目線で訊いてくる。
 ちなみにだが、興奮したせいか、さっきまでずっと腕の前で組んでいた腕は今は下ろされている。
 なんとなく視線がそこに集中した。

 お湯の中なので遠近感が狂っていてはっきりとは見えないが、特におかしなところはない。
 不自然に腕を組んでいたので、またスノパオン級の隠し事でもあるかと疑っていたのだが、流石に邪推だったようだ。
 というか、その下のスノパオンにちらちらと視線が行ってしまって、集中出来ない。

「貴様、人が真剣に話を聞いている時に余所見など……ひやぁあああ!!」
「どわっ!」

 俺の視線が下を向いているのに気付くと、サザーンはこっちがびっくりするほどの勢いで身体を返し、俺から身を隠すように背中を向けた。

「……み、見たのか?」

 そして、その薄い背中越しに俺を振り返って焦った声で訊いてきたが、それはあまりにも今さらだろう。

「見たのかって、お前のその……スノパオンのことか?」
「なぁっ!!」

 予想外の返事だったのか、サザーンがさっきと負けず劣らずな素っ頓狂な声をあげる。
 まさかスノパオン全開だったことに気付いていなかった、なんてことはないとは思うが、サザーンのことだから分からない。

「ぐ、うぅ……」

 何がそんなに気に食わないのか、サザーンはギリギリと歯ぎしりをしながら凄い目つきで俺をにらみつけていたが……。

「そ、そうだ。その、スノパオンのことだ」

 しばらくして、認めたくない何かを必死に呑み込もうとするような態度でそう言った。
 よく分からないが、実はスノパオンは見せたくなかった、ということでいいのだろうか。
 ……まあ、それはそうか。

「なんというか、お前も色々、大変なんだな」

 同情混じりに言ってやると、なぜか「うるさい!」とキレられた。
 最近の若者は怒りやすくて困る。

「それより、さっきの質問の答えはどうしたんだ!
 話を逸らさないでさっさと答えろ!!
 攻撃魔法を手に入れて、それでどうやって元の世界にもどるって言うんだよ!」

 呆れ顔の俺に、サザーンがわめき散らす。
 むしろ話が逸れたのはこいつのせいだと思うのだが、追及しても時間の無駄だろう。

 俺は表情を引き締めると、端的に答えた。

「――元の世界にもどるために、合成禁術デスフラッシュを使う。
 それには、この世界の最強魔法『スターダストフレア』が必要なんだ」



 その殲滅力の高さから『全滅魔法』という別名を持つ魔法、スターダストフレアは、その大仰な名前に恥じないとてつもない性能を備えた魔法だ。
 範囲極大、複数回攻撃、ランダム着弾、魔法防御無視という凶悪な特性を持ち、最強の対人魔法として名声をほしいままにしている。

 しかも、スターダストフレアが凄いのはその威力だけではない。
 空から大量の星を降らせて次々に爆発させるこのド派手な魔法は、そのエフェクトの凄まじさから、『処理落ち四天王』筆頭の座をも手にしているのだ。
 それを、レイライベントで入手可能な魔法『バブルチェイン』と同時に放つことによって膨大な処理を発生させ、VRマシンの安全装置を作動させて強制ログアウトを引き起こす。
 これが『合成禁術デスフラッシュ』である。

「……話は、なんとなく分かった」

 俺の説明を、サザーンは体育座りからちょっと足を開いたような体勢で聞いて、小さくうなずいた。
 どうでもいいが、足を開いているせいであいかわらずスノパオンは全開だ。
 足を閉じたらスノパオンが足にぶつかってしまうからだとは思うが、こいつはスノパオンを隠したいのか隠したくないのか、どっちなのかと言いたい。

 しかし、あいかわらずスノパオンに気を取られている俺に、サザーンはあくまで真面目に問いかける。

「だが、本当にそれでうまくいくのか?」

 めずらしく真剣なサザーンの態度に、俺も気を引き締める。
 しかし、そのサザーンの問いかけには、俺は明確な答えは返せなかった。

「正直に言うと、分からない。ただ、可能性はあると思ってる」

 メニュー画面が使えなくなったのは、それがあまりにゲーム的であり、この世界を「一個の独立した世界」とする上では邪魔になるからではないかと俺は考えている。
 ゲーム的と言うならスキルや魔法もゲーム的ではある。
 ただそれらは『猫耳猫』の作中世界の人間も認識し、利用している技能であり、メニュー画面から使う機能とはそこに決定的な違いがある。

 無駄な部分にばかりこだわる『猫耳猫』では、「こまめなセーブが大事だよ」とか、「武器はメニュー画面から装備を選ばないと効果がないよ」とか、そんなメタ的、ゲーム的なアドバイスをする人間は一人もいなかった。
 『猫耳猫』の作中世界の常識には、メニュー画面やセーブやロード、それにログアウトも存在していないのだ。

 ただ、作中世界の人間が認識していない物は全て存在を許されないかと言うと、そうでもない。
 明らかにこの世界の人間にはない発想であるバグ技や、オーダーやフォーカスによるスキル発動などは、この世界でもきちんと使うことが出来た。
 それなのにメニュー画面が封じられたのは程度問題というか、ゲーム的なものの中でも一番ゲーム的だったからだと思うのだが、そう考えると希望はある。

 メニュー画面の機能の一つだった『装備』は、武器や防具を直接身に着ける、という代替手段で達成出来た。
 ――だとしたら。
 もしメニュー画面を使わずにセーブやロード、ログアウトを行う方法があれば、それは成功するのではないか。
 願望混じりの希望的な観測ではあるが、俺はそう思っているのだ。

「そうは言っても何が起こるかは分からない。
 もちろん段階を踏んで実験していくし、真希が反対すれば違う方法を考えるつもりだ」
「お前が元の世界に帰りたがってるのは、やっぱりマキのためか?」

 意外に鋭いサザーンの言葉に、俺は一瞬言葉に詰まった。

「……一番大きな理由は、そうだ。でも俺自身、黙ってこっちの世界で暮らす訳にはいかないと思ってる」
「つまり、もし元の世界の人間と連絡を取れたら、貴様はこっちで暮らしてもいいってことか?」
「それは……」

 こいつ、本当にサザーンか、ってくらいに鋭く切り込んでくる。
 俺は、すぐには答えられなかった。

 だが、そんな俺の態度がなぜかサザーンのお気に召したらしい。
 ふむ、と一言つぶやくと、威勢よく言った。

「分かった。なら、僕が全面的に協力してやろう!」
「え? いいのか?」

 初めから協力してくれるとは言っていたが、どうして急にこんなに乗り気になったのか。
 俺が驚いた顔を見せると、サザーンは突然大声を出して俺に指を突きつけた。

「た、ただし! 元の世界にもどるまでで構わないから貴様も僕に協力しろ!」
「協力?」
「そうだ! 図書館にお前とマキだけが使える石版があったはずだ!
 元の世界にもどるまでにあれを最後まで見て、僕に内容を教えろ!」

 石版、というのは、邪神大戦の映像記録のことだろうか。
 そのくらいならお安い御用だ。

「ああ、分かった」

 俺が即断すると、なぜかサザーンは鼻白むような態度を見せ、

「そ、それと!」

 あいかわらず俺に力強く指を突きつけながらも、微妙に顔を逸らして言葉を続ける。

「お前が元の世界に帰るのは、僕も、協力する。
 協力してやるから、だから……もう一回こっちの世界にもどってくる方法も、考えろよ」
「サザーン?」
「か、勘違いするな! 僕はまだ、貴様を利用したりないだけだ!
 だからお前と別れるのが寂しいとか、そんなことは……」

 わたわたと、言葉を継ぐサザーン。
 ……まったく。
 素直じゃないが、反面誰よりも素直な奴だ。

「ありがとう、サザーン」
「なっ!」

 俺が礼を言うと、サザーンは焦ってパシャパシャと水面を叩いて動揺した。

「い、意味が分からないな! そ、それより、魔法!
 スターダストフレアとかいうのを手に入れるんだろ!
 どうするつもりなんだ?!」

 あからさまな話題逸らしだが、俺はそれに乗っかった。

「ああ。それにはあるイベントをこなさなくちゃいけないんだが、それにはお前が必要なんだ」
「僕、が?」
「正確には、強い闇属性の適性を持つ魔術師、だったが、それはゲーム中にはお前しかいなかった」
「闇属性、か……」

 その単語を耳にした途端、サザーンが顔をしかめた。
 さっきまでのテンションがどこへ行ったのか、というくらいのやる気のなさだ。

 そういえば、サザーンは散々闇の力がどうこうと言っている癖に、闇属性の魔法を使っているところはほとんどみない。
 大抵が火属性、あるいは水属性だ。
 何か闇属性の魔法にはトラウマでもあるのか、明らかに渋る様子を見せた。

「それは、本当に僕じゃなきゃダメなのか?
 闇属性って言うなら……ほら、レイラとか」
「いや、レイラは闇属性って言うより病み属性だろ。
 ……じゃなくて、ゲームではお前にしか出来なかったんだから、この世界でもお前以外には無理なんだよ」

 俺はそう言い切ったが、サザーンはまだグチグチと文句を続けた。

「だ、第一おかしいだろ! スターダストでフレアなのに闇属性とか!」
「そんなことを俺に言われても……」

 別に属性の設定をしたのは俺じゃないし。

「というか、どうしてお前はそんなに闇属性を嫌がるんだ?
 もしかして、闇属性の魔法は本当は使えないのか?」

 そんなはずはないと知りつつ問いかけると、プライドを刺激されたのか、サザーンは声を荒らげて答えた。

「そ、そんなことはない! ただ、その……わ、我が抱える闇の力はこの世に存在するには大きすぎるのだ」
「……はぁ?」

 突然の電波台詞に俺が不機嫌な声を出すと、サザーンはビクッとしてから、小声で付け足す。

「だ、だから、その……。昔、闇魔法を使ってたら、我を忘れて森を焼き払っちゃったことがあって……」

 当時のことを思い出したのか、体育座りのまま、居心地悪そうに右手をさするサザーン。
 その姿を見て、俺の脳裏にも閃くものがあった。

(――もしかすると)

 もしかすると、サザーンの中二病の原点、闇のなんたらとか封印されたなんたらとかいうのは、こいつの高すぎる闇魔法の適性にあるのではないだろうか。

 ただでさえ暴走気味のサザーンだが、闇属性の魔法の適性はさらに高いとすれば、その被害は計り知れない。
 制御出来ない闇魔法を使って暴走したせいで周りから疎外され、ひねくれた性格になったと考えれば、こいつが中二病に走ったことも理解出来る。

 それに、闇魔法の影響があったと考えれば、あの明らかに異常な股間のスノパオンにも説明が……。
 いや、流石にそれは無理があるか。

 ともあれ、サザーンの闇魔法嫌いは本物らしい。
 ただ、俺もここで引き下がる訳にはいかない。

「お前が闇魔法を使いたくないのは分かった。
 だったら、使うのは俺がやる。お前はただ、封印を解いてくれるだけでいいんだ」

 スターダストフレアの魔法は、その習得イベントに立ち会うことでプレイヤーも覚えることが出来る。
 これならいいだろう、と思ったのだが……。

「う、うぅん。しかし、そうは言っても……」

 それでもサザーンの返事は芳しくなかった。
 理屈を超えた部分で、闇魔法に忌避感を持っているのかもしれない。
 ここはとにかく、押していくしかないだろう。

「とにかく、お前だけが頼りなんだ。
 これはお前みたいな、優れた資質を持つ魔法使いにしか頼めないことだから、さ」
「ぼ、ぼく、だけ……。す、優れた、魔法使い……」

 むくれていたサザーンの態度が、俺の言葉で一気に軟化する。

「実は、このスターダストフレアの魔法を隠したマーリガン・スプライトって人は、『黄金の魔術師』とか、『史上最高の錬金術師』なんて呼ばれてる凄い人なんだ」
「黄金の……。史上最高……」

 何だか俺の言葉を鸚鵡返しにするだけのロボットみたいになっているが、サザーンの食いつきは本物だった。
 俺は一気にたたみかける。

「彼は、スターダストフレアをある場所に封印すると、その封印を解く三つのメダルを作った。
 闇属性魔法の優れた素質を持ち、心技体、それぞれの試練を乗り越えて三つのメダルを手にした選ばれし者だけが、唯一その魔法を手に入れることが出来るんだ」
「封印……メダル……試練……選ばれし、者!!」

 仮面の奥の熱にうかされたようなサザーンの瞳から、こいつの中二病に火がついたのを感じ取った。
 こうなればもう俺の勝ちだ。

「よ、よし分かった! ならその魔法、偉大なる暗黒魔術師サザーン様が手に入れてやろう!!」
「ありがとう! お前ならそう言ってくれると信じてたよ!」

 ――こいつ、やっぱりチョロいな!!

 そんな本心はおくびにも出さず、俺はサザーンに感謝の言葉を投げかけた。
 それに気をよくしたのか、体育座りのまま、サザーンが胸を反らす。

「ふ、ふふふ。この僕にかかれば、人の作りし脆弱なる試練など砂上の楼閣も同じ!
 僕の名が最強の魔法使いとして世に響き渡る日も近いな!」

 ……だが。
 そううそぶくサザーンは、まだ知らない。
 彼の行く手には、彼が想像もしていないおそるべき試練が待ち構えていることを。

 俺はそっと、試練の内容を思い返す。

 ――心の試練、丁半。
 ――技の試練、ポーカー。
 ――体の試練、競馬。

 そのどれもが等しく困難で、そして、そのどれもが等しく魔法とは一切何の関係もない。

 ……ちなみに、だが。
 スターダストフレアの魔法をとある場所に隠し、それを手に入れるための試練を作った男、マーリガン・スプライト。
 彼は『黄金の魔術師』、『史上最高の錬金術師』などの異名を持つ、偉大なるカジノ王であった。
異世界にコンプガチャの萌芽!



分割したので、次回更新は明後日の予定
……予定!
+注意+
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