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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第十七章 垂れ下がる蜘蛛の糸

「きょーうはなーにが、つっれるかなー」

 俺は優雅に鼻歌を歌いながら、釣りを楽しんでいた。

「……ソーマさん。ずいぶんと、うれしそうですね」

 どこか恨みがましい雰囲気の知り合いの声が聞こえた気もしたが、所詮気のせいだと思うので気にしない。

 俺のご機嫌の理由は単純だ。
 ゲーム世界ではシステム的に入手不可能だった超お役立ちアイテムを、こんな序盤で手に入れることが出来たことである。
 今は俺の鞄の中に納まっている一本の松明。
 それが俺のご機嫌の主な理由である。

 なんだ松明ごときか、などと侮ってはいけない。
 俺が手に入れたのは、そんじょそこらの松明ではないのだ。

 これこそが『猫耳猫』における明かりアイテムの頂点にして、もっとも有名な松明。
 数多くのヘビー『猫耳猫』ユーザーがお世話になった、HP自動回復能力を持ったレベル250のスーパー松明、通称『たいまつシショー』である。


 こいつがたかが松明の分際で師匠とまで呼ばれるのはなぜかというと、それはこのアイテムが武器の熟練度上げに最適だからだ。

 そもそもなぜ俺が、あの封印の洞窟に向かったのか
 流石に今のレベルで地下迷宮の敵に敵うはずがないし、それ以前にアイテムなしでは封印の扉の中に入ることも出来ない。
 それでも俺が地下に行ったのは、この『たいまつシショー』目当てだったのだ。

 武器熟練度の上げ方については、以前に話したと思う。
 武器による攻撃を当ててダメージを与えた回数だけ熟練度は上がり、相手とのレベル差があるとそこにボーナスがつく。
 要は、『出来るだけレベルの高い相手』に、『出来るだけ多くの回数』『1以上のダメージを与える』ことが熟練度上昇の近道だということだ。

 なので武器熟練度を上げるには、動きの遅い高レベルモンスターを弱い武器で延々と殴り続けるのが主流だったのだが、ある時変わったことを試した奴がいた。
 モンスターの代わりにアイテムを攻撃して熟練度を上げようとしたのだ。

 一部の武器や防具、それにランプや松明などの破損が起こるアイテムには、レベルだけでなく耐久値としてHPまでが設定してある。
 対象にダメージを与えることだけが武器熟練度を上げる条件なら、レベルとHPのあるアイテムを殴っても熟練度は上がるのではないか。
 彼はそう予想し、実際にそれは正しいことが証明された。

 モンスターの代わりに無抵抗なアイテムで熟練度を上げる。
 これは、一見名案のように思えた。
 しかし、実際にはこれはあまり効率のよくない方法であることが分かった。

 まず、キャラクターよりもレベルの高いアイテムというのはそうそう落ちていない。
 特に武器防具のレベルは、大抵がそれを手に入れられるキャラクターのレベルより少し下くらいに設定されていたため、あまり作業効率が上がらなかった。
 唯一、ギガル山にあるクエスト用の吊り橋だけは序盤から見つけることが出来るHPのある高レベルアイテムだったが、これを攻撃するには周りのモブ共を倒しておかなければならず、結局は高いレベルを必要とした。

 また、仮に高レベルな装備を手に入れたとして、今度障害になるのは修理費である。
 アイテムのHPはあくまで耐久値であり、無茶なことをしなければほとんど減ることはない代わりに、モンスターなどに比べるとずいぶんと低い。
 なのに、それを修理するとなるとレベルに比例した大量のエレメントを必要とする。
 武器熟練度のためにわざわざアイテムを攻撃するのは、色々な意味でナンセンスだった。

 そうしてこのような二つの要因から、アイテムによる武器熟練度上げは非効率だと断じられることになる。
 ……あの日、『たいまつシショー』が発見されるまでは。


 裏ダンジョンの封印の扉の前に松明があるということは、当然ながら隠しダンジョンまで進んだプレイヤーなら誰でも知っていたが、それに気を配る人間はほとんどいなかった。

 だがある時、一人の名無しさん(仮名)が松明の前でふと立ち止まり、首を傾げた。

 他のダンジョンでの照明装置は、ほとんどが照明としてオブジェクト化されている物で、簡単に言えばプレイヤーが干渉出来ない地形の一部になっていた。
 しかしここでだけ、地形としての松明ではない、アイテムとしての松明が使われていたのだ。

 だがまあそれは、隠しダンジョンだということで気合を入れて作ったのだとか、リアルな光が欲しかったとか、いくらでも理由がつけられる。
 彼が不思議に思ったのはそのことではない。

 問題なのは、『どうしてこの松明は、いつ来てもずっと燃え続けているんだろう』ということだった。

 そもそも松明やランプにHPがあるのは、使用時間に制限をつけるためだ。
 だから松明もランプも、使っている内にHPが少しずつ減っていき、HPがなくなると同時に壊れてしまうのだ。
 しかし、この隠しダンジョンの松明だけは違った。
 ゲームプレイの初めから、恐らくずっと火がついているにも拘わらず、いつまで経っても壊れない。

 そのことを不思議に思った彼がその謎を解明しようといくつかの検証を行った結果、その松明が普通の松明とは比べ物にならない膨大なHPとHPの自動回復能力を有していること、更に、隠しダンジョンに合わせたのか、250レベルという超弩級の高レベルを誇っていることが分かったのである。


 この発見に、『猫耳猫』プレイヤーたちは狂喜した。

 ラスボスの魔王が250レベルでその直前の雑魚が200レベル程度なので、大体クリア時のプレイヤーのレベルは200前後でまとまっている。
 ストーリークリア後限定とはいえ、レベル差が50もあるアイテムで熟練度上げが出来るなら、これは非常においしい。
 しかもHPが多く、更にHP自動回復能力がついているのなら修理にエレメントが必要になることもない。
 ネットを中心にこの情報は広まり、地下迷宮の『神松明』はすぐに『猫耳猫』の常識になった。

 隠しダンジョンの入り口はあっという間にクリア直後の武器熟練度上げポイントになり、多くのプレイヤーがその『神松明』の許に日参し、思い思いの武器でこれを攻撃し始めた。
 ゲームの中では簡単にアイテムのパラメータが見れるので、傷がついたかどうか確かめる必要はない。
 画面を見て1でもダメージを与えていたらそれを続行すればいいだけなので、簡単なものだ。

 特別な操作は必要なく、ノーリスク。
 しかも作業効率は他の追随を許さないとくれば、人気が出ないはずはない。
 『神松明参拝』はすぐに『猫耳猫』の一大ムーブメントとなった。

 一方、既に隠しダンジョンをクリアしてレベルが250を超えてしまっていた最速攻略組は、この事実に地団太を踏んで悔しがったという。
 ちなみにソースは俺。

 やがてこの地下迷宮の入り口は『たいまつシショーの地下道場』と呼ばれ、稼ぎ時がクリア後から隠しダンジョン攻略前にほぼ限定されるものの、ラムリックの町の『マリみて道場』と比肩されるほどの人気スポットとなった。
 俺なんかわざわざこのために魔王を低レベル(レベル183)で倒し直して、がっつりと武器熟練度を上げさせてもらったくらいである。


 もう分かっていると思うが、地下に閉じ込められた俺が延々と松明を攻撃していたのは、松明を切るためだけではなく、この『たいまつシショーの地下道場』を再現して脱出に使える新しい技を覚えるためだった。

 トレインちゃんに松明のことを話すことは少しだけ考えないでもなかったのだが、松明を切るだけで武器熟練度が凄い勢いで上がるなんていうのは常識的に考えれば怪しいし、それに何だかまあ……ずるいというか、せこい。
 だからトレインちゃんには俺がムキになって松明を切ろうとしていると誤解させて、ひたすら武器熟練度を上げ続けていたという訳だ。

 何しろ、現在俺と『たいまつシショー』とのレベル差は240近くある。
 切りつける度に恐ろしい勢いで熟練度が上がっていくのがなんとなく分かって、つい止め時を見失うほど興奮してしまった。

 だが、おかげで本来はクリア前後くらいで覚える剣スキル『天覇無窮飛翔剣』を覚えられたばかりか、ver1.09からは武器の熟練度がきちんとスキルの攻撃力にも影響するようになったおかげで、以前とは比べ物にならないくらいの攻撃力を得た。
 鞄の中の『たいまつシショー』があれば、どこにいてもいくらでも熟練度上げが可能だし、これからが実に楽しみである。

 しかし、そうだな。
 とりあえずは武器よりも……。

「ソーマさん!」

 俺の思索は、トレインちゃんの大声に打ち切られた。
 見ると、涙目のトレインちゃんがこちらを見上げて睨み付けていた。

 それを見て、やっと思い出した。
 そうだ、俺は釣りをしていたんだ。

「わたしは、ソーマさんが良い人なのか、悪い人なのか、今でも分かりません。
 ……でも、一つだけ分かりました」

 もちろんそれは、ただの釣りじゃない。
 釣り糸は町で買ってきたロープで、釣り場所は『封魔の台地』。
 そして釣ろうとしているのは――


「ソーマさんは、意地が悪い人ですっ!!」


 ――そんな風に俺に向かって叫ぶ、穴の下のトレインちゃんである。


 穴から脱出した俺は、仕方がないので町に行ってトレインちゃん救出用のロープを買ってきた。
 それを地面の穴に垂らして、トレインちゃんを引っ張り上げようと思ったのだが……。
 俺がロープを垂らしてトレインちゃんの近くに寄せる度、

「もうちょっと! あともうちょっとです!」

 と、彼女がぴょんぴょん飛び跳ねるのが面白くて、ついからかって遊んでしまっていたのだ。
 意地が悪いと言われても仕方のない、正に外道の所業である。

「あー、やっぱりロープの長さが足りないなー」

 とか適当なことを言いながら、俺はロープを彼女の手がギリギリ届かない高さでふらふらさせる。
 トレインちゃんは猫じゃらしを突きつけられた猫のように、あっちこっちに手を伸ばしていた。
 そしてそれを見る俺がにやにやと笑っているのに気付き、

「あと、性格とか人とか性質とかも悪いです!」

 また下からそんなことを叫んで寄越した。
 あれ、分かったの一つだけじゃなかったのだろうか。

 流石にいつまでも遊んでいては悪いので、頃合いを見て引っ張り上げてやった。
 俺のゲーム的腕力によって無事救出されたトレインちゃんは、

「い、一応、助けてくれたことにはお礼を言います。
 ありがとうございました。
 で、でも、まだソーマさんのこと、信じた訳じゃありませんから!」

 と最後にもう一度叫んで、一目散に町に逃げ帰っていった。
 もう二度と会わないことを願うばかりである。


「流石に今日は、疲れたな」

 ゲーム生活二日目は、俺が思っていたよりヘビーな一日になった。
 本当はもう一度町に繰り出してまだ行っていない施設を回りたかったのだが、それは明日に回すことにした。
 おとなしく宿に戻る。

 もう顔なじみになってしまった宿屋の主人に、シャベルを壊してしまったので弁償させて欲しいと謝ると、彼はごつい顔をにやっと歪ませて、

「気にするな。なぁに、お前さんが今後ともこの店をひいきにしてくれるってんなら、そんなもんおつりが来るってもんだ」

 と豪快に笑い飛ばしてくれた。
 顔に似合わずナイスガイである。
 俺は明日、町で新しいシャベルを買ってくることを心に誓った。

「もうちょっとで夕食が出来るから、30分くらいしたら降りてこいよな!」

 という言葉に背中を押されながら、俺は一度部屋に戻った。


 『たいまつシショー』がきちんと使えることや、不知火が今の所壊れる様子がないことなどを確かめてから、一階に戻ってくる。

 食堂に行くと、宿の主人と昨日の宿泊客とは別に、明らかに見たことのある人影が俺を待ち構えていた。
 そいつは俺を見つけると、満面の笑みで駆け寄ってくる。

「今日からここに泊まることになった、イーナ・トレイルです!
 これから色々とよろしくお願いします!」

 俺はしてやったりな顔をしている彼女を無視して、宿屋の主人に向き直った。

「すみません。俺、やっぱりここをひいきには出来ないみたいです」
「なんでですかっ!」



 それでは、今日の教訓。

 ――トレインちゃんからは、逃げられない!!
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