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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百七十章 仕組まれた街

「イー、ナ?」

 地面に倒れたまま、身動き一つしないイーナの姿に、全身の血が冷えるのを感じた。
 俺はあわててイーナに駆け寄って、そのぐったりとした身体を抱き起こすと、

「てやっ!」

 その顔面に向かってポーションの瓶を全力で投げつけた。
 すると、


「――ぷおっ!?」


 およそ女の子があげるとは思えない声をあげて、イーナは目を覚ました。

「ふぇ? へ? あ、あれ? わ、わたし、どうして……」

 倒れてからほんの三秒ほど。
 実にスピーディーな復活劇だった。



「すまなかった、イーナ。俺のせいだ」

 思い起こせば、イーナは外に出てくる前から、しきりに疲労を訴えていた。
 一度はふらついて、俺の肩によりかかってきたこともあった。
 なのに俺は、そのサインに気付いてやれなかった。

「え、ええ!? そ、そんな、調子が悪いのを素直に言わなかったわたしが悪いんですし!」

 俺が深く頭を下げると、イーナは焦って両手をばたばたとさせた。
 それから無理矢理に俺の顔をあげさせると、不器用に話題を変える。

「そ、それより、何だか鼻が痛いんですけど、どうしてか分かりますか?」

 その申告に目を凝らすと、イーナの鼻の頭が赤くなっていた。
 もちろん、心当たりはある。

「受け身も取らずに前のめりに倒れたからな。きっとそのせいだ」
「そうなんですか? あ、そういえば、目が覚める直前に顔にすごい衝撃があったような気がしたんです。
 もしかすると、それだったのかもしれませんね!」
「ああ。たぶんそうだろうな」

 いくらレベルをあげて超人的な肉体を手に入れても、転倒のダメージというのは軽減出来ないものらしい。
 実に不思議仕様だ。

「…ポーション」

 後ろからリンゴがぼそっと何かを言っていたが、それについて考える前に、ミツキが割って入ってきた。

「イーナさんに大事がなくて何よりですが、だとしたら尚更、この状況の打開に努めるべきでしょう。
 今のこの街の有様は、はっきり言って何もかもが異常です。
 何が起こっているのか見当もつきませんが、貴方には心当たりがあるのではないですか?」

 流石はあのアサヒさんの娘。
 ミツキの耳はいつもと比べても威厳たっぷりにキュピーンと直立し、使命感に燃えているようだった。

「……分かった。順を追って説明するから、一度図書館にもどろう」
「それは助かりますが、そんなに悠長な事でよいのですか?」

 片耳をぴこっとさせて尋ねるミツキに、俺は首肯して返した。

「ああ。やばい状況なのは間違いないが、すぐに命の危機がある類の危険じゃないはずだ」

 おかしな言い方になるが、イーナが倒れてくれて状況がはっきりとした。
 ここは一度、腰を落ち着けて状況を整理した方がいいだろう。

「それに、レイラやセーリエさんを中に置き去りにする訳にもいかないだろ?」
「……分かりました」

 俺が重ねてそう説得すると、ミツキもうなずいてくれた。

「なら、早く戻りましょう」

 ミツキはよっぽどこの異常事態の解決に燃えているらしい。

「分かった、分かった。じゃあ……」

 せっかちに入り口に歩き始めるミツキに苦笑しながらも、俺も小走りで図書館の入り口……の横の壁に駆け寄って、

「夢幻蜃気――ぐぇ!」

 スキルを使おうとしたところでミツキに首根っこをひっつかまれ、入り口に引きずられた挙句、強制的に入館料を徴収された。
 最近、ミツキの俺への当たりが厳しい。

 ……その後、ぼそっと「壁から入った方が色々早いのに」とつぶやいたら、ミツキからゴミを見る目で見られた。
 早くしろと言われたからそうしただけなのに、この世はとかく不条理だ。



 セーリエさんは俺たちが図書館にもどっても目を覚まさないままだったが、俺がその身体を起こしてポーションの瓶をあてがい、少しずつ中身を飲ませてあげたらすぐに回復した。
 それを見たイーナが、

「な、なんででしょう。理由は分からないのに、すごく釈然としない気持ちが、こう……」

 と身をよじっていたが、それはともかく。

「みんなそろったようだから、あらためて今の状況を説明する」

 図書館の一番大きなテーブルについた俺は、同じように周りに集まった仲間たちを眺めた。
 リンゴ、ミツキ、イーナ、真希、サザーン、レイラ、セーリエさん、さっきまで本に埋もれていた僧侶の人。
 ……なんか一人だけ、全然関係ない人が交じっている気がするが、まあ、よしとしよう。

「まず、結論から言うぞ。俺たちは、いや、この街全体が、今、MPドレインの攻撃を受けている」

 そう口にした途端、さっきまでの弛緩した雰囲気がぐっと引き締まった。
 同時に、仲間たちの幾人かの顔に動揺が走ったのも見て取れた。
 イーナが焦ったように声をあげる。

「じゃ、じゃあ、この図書館の倒れてる人たちは……」
「ああ。ここにいる人たちは、眠ってる訳じゃない。
 MP残量ゼロになって、昏倒してるんだ」

 MPがゼロになると行動不能になるのはゲームの仕様だ。
 だが、継続的にMPダメージを与えるような攻撃はゲーム中にもそうそうなかったから、思い当たるまでに時間がかかってしまった。

「待ってよ! だったら大丈夫な人とそうじゃない人が出てるのは?」
「最大MPの差だな」

 真希の言葉にも、俺はあっさりと答えてみせる。
 HPと同じようにMPも時間経過で回復するが、その回復量はキャラクターの最大MPの値に比例する。

 感覚の鋭いミツキが異常に気付かなかったのは、MP最大値が高く、MPの自然回復量がMPダメージを上回った結果、事実上攻撃が無効化されていたからだ。
 ポーションでMPを補っていた様子の魔術師の男はともかく、僧侶の女の人が無事だったのも、おそらく彼女がそこそこのレベルの魔法系のキャラクターで、最大MP量が多かったせいだろう。

 俺たちのパーティで言うと、魔法馬鹿のサザーンは言わずもがなだが、物理寄りでも高レベルな俺にリンゴ、真希、それにたぶんギリギリでレイラまでは影響がなかった。
 一方、脳筋キャラでMP最大値の低かったセーリエさんや、パーティの中で一番レベルの低いイーナにはMPダメージが入ってしまったと考えるのが自然だろう。

「うぅぅ。やっぱりわたし、この中で一番弱いんですね……」

 落ち込むイーナだが、まだ事が終わった訳じゃない。

「攻撃が始まった正確なタイミングは分からないが、セーリエさんが倒れたタイミングからして、おそらく俺たちが図書館に入る前。
 たぶんまだ続いているから、セーリエさんとイーナは特に気を付けて少しでも異常を感じたらMPポーションを飲むようにしてくれ」

 俺が注意を促すと、セーリエさんはうなずきの代わりに眼鏡のブリッジをくいっと押し上げ、イーナはぶるっと震えてコクコクと何度も頭を縦に揺らした。

「……方法は?」

 そこで、今まで黙って話を聞いていたミツキがその無表情な顔に一匙の困惑をにじませて尋ねた。

「話は、分かります。MP不足が彼らの倒れた原因とすると辻褄も合う。
 ですが、街全体に及ぶ攻撃の手段など、私は聞いた事もありません。
 一体どうやって……」
「魔法陣だ」

 ミツキの言葉をさえぎり、俺は端的に答えた。

「魔法、陣……?」
「ああ。サザーンから聞いた。大聖堂の天井にあるステンドグラスの模様。
 あれは、周りにあるエネルギーを中心に集める効果があるらしい。
 おそらくだが、その魔法陣を利用したんだ」

 勲章を受け取りに大聖堂に行った時、サザーンはあの魔法陣について色々と話してくれた。
 それがなければ、俺もこの仕掛けに気が付くことは出来なかっただろう。
 サザーンに感謝するなんて何だか癪に障るが、こればかりはサザーンのおかげだ。

 だが、俺の言葉に今度は当のサザーンが異を唱えた。

「ま、待て。それは、『集魔の陣』のことか?
 だけどあれは、せいぜい魔法陣の上にある物から魔力を集めるくらいの効果しかない。
 あんなに小さい魔法陣じゃ……」
「でも、もっと大きな魔法陣なら何とかなるだろ?」

 俺が気楽に言い放つと、サザーンは強く反発する。

「それこそ滅茶苦茶だ! そんなに大きな魔法陣が描かれていたら、街の人間が気付く!
 それに、魔法陣を描くには、ミスリルみたいな特別な魔法物質じゃないと十分な効果が……」
「だけどその魔法陣が、もうずっと昔に、この国が出来た時から描かれている、と言ったら?」
「な、何を言っているんだ! そんな、バカなことが……」
「嘘じゃないぞ。ほら、ここに」

 絶句してしまったサザーンに、『じゃしん大戦 ~英雄王のたんじょう~』を突きつける。
 見せたのは、昔の王都が描かれたページ。
 建国当時からほとんど変わらない街並みが、そこには広がっていた。

「ただの街の地図じゃないか! 魔法陣なんて、やっぱりどこにも……」
「本当に、そうか? もっとちゃんと見てみろよ。
 ……なぁ、この形、どこかで見た覚えがあるんじゃないか?」

 言いかけるサザーンに、俺は念を押すように問いかける。

「たて、ものが……」

 一番に気付いたのは、リンゴだった。
 彼女はそっと本に指を伸ばすと、その街並みをなぞる。

「なに、を……。あ、ああっ!」

 続いて、誰よりも魔法陣をよく知るサザーンも気が付いた。
 途中で言葉を詰まらせたサザーンが、目を丸くして俺を見る。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 結局、どういうことなの?!」

 話についていけず騒ぎ出す真希に、RPG的に考えればすぐに答えは出るだろうに、と思いながらも、追加でヒントを出してやる。

「なぁ、イーナ。前に二人で屋敷にもどった時、俺たちは建物の屋根を伝って移動してたよな」
「え? あ、はい。魔王を倒したすぐあとのことですよね?」
「その時、屋根が何で出来ていたか、見たよな? 覚えてるか?」

 唐突な話題に戸惑いながらも、イーナは必死に頭をひねって、

「ええと、たしか、ミスリル……あっ!」

 そして、彼女も気付く。

「そう。この街の屋根はほとんどがミスリル製。
 魔法の触媒や魔法陣の構成にもっとも適した、ミスリルで出来ている。
 ……ここまで言えば、もう分かるよな。
 魔法陣を作っている線は、この街の建物の屋根。
 つまり――」

 驚愕に彩られる仲間たちの顔を見渡し、俺は言った。

「――この街自体が、一つの巨大な魔法陣なんだ!」

異様に説明が長くなったので、分割
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