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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第十六章 諦めぬ者の頭上に

「高い……」

 天井のことだ。
 穴まで軽く三メートル近くはある。
 普通に登るのは無理だろう。

「何か、道具は?」

 一応トレインちゃんにもそう尋ねたが、

「そういう物があったら、こんなに困ってません」

 すげなく首を振られてしまった。
 もう一度、上を見上げる。

 やはり、とてもではないが生身で登るのは無理だ。
 かといって、今持っているスキルでどうにかなるかというと、その答えは否だ。
 ステップは斜面を登ることは出来るが、垂直に移動することは出来ない。

 結論としては、現状、この洞窟から逃げ出す手段はない、ということだ。

「ソーマさんでも、どうしようもないんですか?」

 藁にすがるような心細い声音で、トレインちゃんが尋ねてくる。
 心強い答えを返したい所だが、

「……まあ最悪の場合、階段の横に穴を空けて、地上に向けて掘っていくしかないな」

 これが、今の所の俺の精一杯の答えだった。

「穴を掘る道具とか、持ってるんですか?」

 という期待を込めた問いには、無言を通した。
 シャベル、壊れちゃったしね。

(全く手段がないってこともないと思うんだけど)

 地上へのトンネルを掘るか、逆に上までの足場を作るか、ストレートに上まで飛び上がるか。
 それなりにやりようはある気がする。
 ただ、時間がかかりそうな物しかすぐには思いつかない。

 とりあえず、出来る所からやっていこうか。

「作業するには、ここはちょっと暗いな。
 まずは、明かりでも持って来ようか」
「……はい」

 すっかり意気消沈した様子のトレインちゃんをトレインして、封印の扉まで戻る。
 扉についている松明は二つ。
 一本抜いて行ったって、誰も困りはしないだろう。
 俺は右側にあった松明を引っこ抜いて……あれ?

「ぬ、抜けない……」

 どうやら俺はこの世界を侮っていたようだ。
 ゲームの中では松明は壁に固定されていたため持ち運び出来なかったが、現実になった今はすぐに持って行けるだろうと高をくくっていた。

「ぐ、ぐうぅ!」

 全力で抜こうとしても、びくともしない。
 どうも、単に松明を金具にはめ込んでいるのではなく、金具を松明本体に食い込ませるようにして固定しているようだ。

 ……困った。
 せっかく苦労してここまで来たというのに、これじゃあ松明を持っていけない。

(いや、発想の転換だ)

 名案を思い付いた俺は、松明を前に、おもむろに不知火を抜いた。

「えっ!? な、何してるんですか、ソーマさん!」

 突然の俺の乱心に動揺するトレインちゃん。
 だが、これはきちんとした考えがあってのことだ。

「抜けないのなら、切ればいいかと思ってね」

 これがピンチをチャンスに変える発想力だ。
 時間はかかるかもしれないが、やっぱりこれが一番確実だろう。

 唯一の問題は、切られた後の松明がきちんと使えるかということだが、最悪失敗しても松明はまだもう一本ある。
 成功したらこの松明が手に入るし、失敗してもリスクは大きくない。
 試してみる価値は十分にあるだろう。

 俺は軽い気持ちで不知火を構えて、ひょいっと振って、

「あ、あれ?」

 カン、という木が立てるとは思えない音がして、不知火は弾かれた。
 ダメージが入ったのかどうかすら、よく分からない。

「いや、もう一回な」

 ちょっとだけ動揺しながら、俺はもう一度、今度は全力を込めて松明に向かって剣を振るう。

「うっ!」

 今度はガツ、という音がして、俺の一撃は松明の表面で止められた。
 どうだろう、きちんと攻撃は入っているのだろうか。
 分からない。

「……全然、ダメじゃないですか」

 後ろから、ぼそっとつぶやかれる声。
 俺はちょっとだけ本気になった。

「下がってくれ」

 そう言って彼女を下がらせ、俺自身も松明から距離を取る。
 もちろん、その理由は一つ。
 それは今、俺が使える最強の一撃を出すために。

 抜き打ちの姿勢で不知火を構え、裂帛の気合と共に刃を走らせる。


「インビジブル・ブレ――」

 ――ガキン!!


 やけに硬質な手応えがして、不知火を半ばまで振り抜いた所でスキルの発動は止まった。

 もちろんスキルが発動しなかった訳じゃない。
 スキルは発動したが、目標とした物があまりに堅過ぎて、そこでスキルが中断させられてしまったのだ。

「……全然、ダメじゃないですか」

 トレインちゃんが、後ろからまたぼそっと言ってくる。
 だが、全然全然ダメじゃない!

 俺の一撃は、きちんと松明の木に食い込んでいる。
 近くに寄らなくては見えないくらいわずかにだが、松明に傷をつけているのだ!

 こうなればもう勝ったも同然だ。
 同じことを何度も繰り返せば、いつかはこの松明だって切れるようになるだろう。

「あの、明かりだったらわたしのアイテムを使っていいですから、もう行きませんか?」

 後ろで何かを言っているトレインちゃんを無視して、俺はもう一度不知火を振りかぶった。



「インビジブル・ブレイド!」

 叫びと共に不知火が振り抜かれ、松明に阻まれる。

 これでもう何度目になるかは分からない。
 だが、松明に入った裂け目は、もう普通に目視出来るほどにはっきりしていた。
 努力の成果は確実に出ている。
 1.09パッチ様々である。

 始めてしばらくは口うるさく文句をつけていたトレインちゃんも、諦めたのかもう何も言わなくなっていた。
 正直ありがたい。
 しかし同時に、新たな問題も浮上してきた。

(少し、飛ばしすぎたか)

 少々全力でやりすぎたらしく、松明もそうだが、不知火にもほんのわずかながらダメージが蓄積している様子が見える。
 こんなペースでやっていたら、両方すぐに駄目になってしまいそうだ。

 ちょっと休憩を入れて、それからスキルはもう使わないことにする。
 必要なのは、たとえわずかでもダメージを入れ続けることだ。
 何も派手な技を使って、一撃の威力を高める必要はない。

 幸い、このゲームを元にした世界では、どれだけ剣を振ろうとも疲れることはない。
 いや、スタミナゲージが減らないこともないのだが、それは自然回復で充分にまかなえる程度なのだ。

 今度はスキルを通常攻撃に切り替え、黙々と剣を振り始めた俺に、また背後から声がかかった。

「それ、たぶん無駄だと思います」

 ここしばらく、何も話していなかったトレインちゃんだった。

「無駄じゃない」

 俺はすぐにそう返したが、トレインちゃんは首を振った。

「さっきソーマさんがスキルを使ってつけた傷、もう消えてます。
 その松明、HP自動回復がついてるんだと思います」

 ……そんなことは、ずっと前から知っていた。
 確かに、俺がさっき『インビジブル・ブレイド』で作った切れ目はもう塞がっている。
 スキルなしでつけた傷は小さすぎて、つけた側からすぐに消えてしまう。

 それでも、ただひたすらに剣を振り続ける俺にトレインちゃんは近付いてきた。

「ね、ソーマさん。
 悪いことは言いませんから、そんなことやめてわたしと入口の方に戻りましょう?
 ほら、向こうに戻れば何かいい方法を思いつくかもしれませんし」

 マジ天使な慈愛顔でそんなことを言ってくるが、当然俺は聞こえないフリをした。
 そんな俺を見て、彼女は、

「もう、知りませんからね!」

 と言うと、その場に座り込んでしまった。
 知らないとか言う割には見守る態勢だが、とにかくもう口出しする気はないらしい。

 そんな彼女を尻目に、俺は黙々と松明を切り続け、最終的には、

「寝てるし……」

 俺が振り返ると、トレインちゃんは壁に身体を預けてぐっすりと眠っていた。
 図太いと言うべきか、危機感が足りないと言うべきか。
 呑気な彼女に呆れながらも、俺に出来ることはやっぱり変わらない。

 トレインちゃんの安らかな寝息を後ろに感じながらも、俺は右手を振り続けた。



 地下に潜ってから、何時間くらい経っただろう。
 松明を切るのもずいぶんと効率化され、今ではキャベツの千切りでも作るみたいに、小刻みに不知火を動かすだけになっていた。
 ただひたすらに、松明を切りつけるだけの行為。
 そんな作業を、延々と繰り返していると……。

「寝込みを襲ったり、しなかったんですね」

 後ろから、そんな声がかかった。
 俺は、驚いて振り返る。

「お前……」

 俺が何に驚いたかというと、もちろんトレインちゃんのその自分への自信に対してだ。
 自分が寝てたら俺に襲われるに違いないとか、どれだけ自信過剰なのか。

 俺は振り向いて目を覚ましたトレインちゃんの顔……の少し下を見た。
 ゲスい台詞を言わせてもらうと、彼女はどう見ても新幹線ではなく普通列車だった。
 ……もちろん足の速さの話だ。

「ち、ちがいます!」

 俺の邪な視線に気付いたのか、トレインちゃんが慌てて両手で身体を隠しながら叫んだ。

「そうじゃなくて、邪神の生贄的な物です!
 ほら、しょ……乙女の生き血を捧げると門が開くとか、そういうあれです!」
「ああ、うん。そういうあれね」

 こいつ、まだ俺が邪教徒だという疑いを捨ててなかったのか。
 俺を信じると言ったのはなんだったのか。
 なんか単に、居眠りしてしまったことをごまかそうと適当なことを言っているだけのような気もするが、つい意地の悪いことを言いたくなってしまった。

「その割には、ぐっすりと寝てたみたいだが」
「…寝ていたのは、演技です。
 わたしが寝たフリをした時ソーマさんがどうするのか、確かめようとしただけです」

 そう自慢げに語るトレインちゃん。
 だけど、悲しいかな。

「口元、よだれ垂れてるんだが……」
「そんな、嘘で……うぁ!」

 ハッとしてトレインちゃんが手の甲で口元を拭うと、手がべとーってなった。
 これは言い逃れ出来まいと思ったが、トレインちゃんはもう一度叫んだ。

「これはよだれの演技です!」
「……演技派なよだれなんだな」

 なんて謎のやり取りを交わしている間も、俺の手は休みなく動いていた。
 それを見咎めたトレインちゃんは、反撃とばかりに再び口火を切る。

「だ、大体、そんな風にずっと無駄なことをしてるような人には言われたくありません!」

 だが、

「ああ。もう終わりにするよ」
「……え?」

 そろそろいいだろう。
 俺は最初の時のように松明から距離を取ると、


「インビジブル・ブレイド!」


 気負いなく、その技を放った。
 そしてその一撃は、

「え、ええっ!?」

 今度こそ、松明を一刀の下に斬り飛ばす。
 下半分を扉の傍に残したまま、火のついた松明の上半分が、あっけなく地面に落ちた。
 ……成功だ。

(よし!!)

 俺は心の中でガッツポーズ。
 いそいそと、松明を手に取る。

 どうだとばかりにトレインちゃんを振り返ると、彼女はどこか不機嫌そうに言った。

「確かに、すごいとは思いますけど……。
 で、それでどうやって外に出るんですか?」

 ……あー、正直それは考えてなかったわー。



 なんてことは、もちろんあるはずもなく。
 当初の目的の通り、無事に松明を入手した俺は、トレインちゃんを連れて意気揚々と入口まで戻ってきた。
 せっかくなのでさっき取ってきた松明をかざして、天井に空いた穴を確認する。

「やっぱり狭いけど……まあ、これなら何とかなるかな?」

 剣がつっかえそうだが、それは強引に行けば問題ないだろう。
 俺が松明をかかげながら上を見てうなずいていると、

「穴の様子を見るだけなら、地上からの光もあるし、松明いらなかったと思うんですけど」

 トレインちゃんがいちいち水を差すようなことを言ってくる。
 あの素直だったトレインちゃんは一体どこに行ってしまったのか。
 そんなことを思いながら、俺は松明の火を消して鞄の中に入れると、

「えっ!? 松明、もう使わないんですか?!」

 トレインちゃんのリアクションはやっぱり無視して、不知火を抜く。
 穴の場所を見て、立ち位置を調整。

「ちょっと、離れててくれ」

 そう言ってトレインちゃんを下がらせると、不知火を構える。
 さぁ、ここからだ。

「行くぞ!」

 呼吸を整え、高らかにスキルを『オーダー』する。


「天覇――」


 言葉と共に不知火を振りかぶり、


「無窮――」


 そこから一気に跳躍!
 ステップをはるかに上回る速度で上昇する。

 その際、剣が穴の縁にひっかかるが、構わずに切って進む。
 穴の底から、一息で地上から数メートルの場所まで飛び上がった。
 一瞬の停滞、そして、


「――飛翔、剣!!」


 掛け声と同時に、架空の敵に向かって斜めに急降下。
 地を割る勢いで不知火を振り下ろす!

「……ふぅ」

 スキルの硬直が収まった時、俺は穴から少しだけ離れた地面に膝をついていた。
 脱出、成功だ。

「ふぃー。何とか出れたな……」

 またインチキくさい技を使って外に出たかと思われたかもしれないが、さにあらず。
 今のはキャンセルを使った訳でもバグを使った訳でもない、技名もそのままの素のスキルである。
 そのスキル自体だって、ちょっと空高く移動するだけで、他に変わった所のない、何の変哲もないスキルだ。

 ――そう。
 『天覇無窮飛翔剣』は、特別な攻略をしなくったって、剣をメインにして熟練度を上げて行けばゲームクリア前後くらいに普通に覚える、スラッシュから数えて12番目の剣スキルである。
+注意+
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