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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百五十六章 旅の結末

名前だけ借りました
(うーん。もしかして、指輪のことは黙っといた方がよかったのかなぁ)

 帰り道、俺はとぼとぼと歩きながら、そんなことを思った。

 ミツキの口ぶりから大体全部バレているものと思って白状したのだが、どうも反応を見る限り、ミツキが気付いていたのは『天の眼』消去までで、指輪の複製には思い至っていなかったようだ。
 だったら最後まで黙っておけば、なんてこともちょっと思ってしまう。

 最近分かってきたのだが、俺の『猫耳猫』プレイヤー的な問題解決法は、ゲーム慣れしていない真希や、ゲームなんて見たこともない俺の仲間たちには、少々ウケが悪いようなのだ。
 実際あの話をしてから、なんとなくだが仲間の俺を見る目に呆れが混じっている気がする。
 特に、真犯人だと俺を指差す真希を見て、リンゴまでうんうんとうなずいていたことには世の中の不公平を感じてしまう。

(俺の時は、人を指差しちゃ駄目、なんて言ってたのになぁ……)

 そんな風にアンニュイな気分にひたっていると、ミツキが声をかけてきた。

「それで、これからどうしますか?
 真っ直ぐに屋敷に戻ってしまって大丈夫ですか?」

 俺は、まずレイラの位置を確認して、必要があれば迂回をと言いかけて、冒険者鞄をちらりと見た。

(……そうか)

 あまり意識していなかったが、レイラの対策はもう出来ている。
 デスストーカーの脅威に怯える日々は終わったのだ。
 俺は、わざと明るい声で決断した。

「いや、まっすぐ帰ろう。みんなも疲れてるだろうから、あまり引っ張りまわしても悪いしな」
「しかし……」
「ほらほら、行くぞー」

 ミツキが難色を示しかけたが、俺はあえて無視して歩き出した。


 途中でモンスターに遭遇したが、王都周りのモンスターなど今さら俺たちの相手になるはずもない。
 俺たちは無事に王都にもどってきた。

「ふっ! リヒテルよ! 僕は帰ってきた!!」

 たった一日しか離れていないのに、サザーンが大げさに両手を広げて叫んだ。
 何を馬鹿な、とは思うが、実はちょっとだけ、その気持ちも分からなくもない。
 昨日一日に色々ありすぎて、俺も街が少しだけ懐かしいように感じてしまっていた。
 ただ、それとは別に一つ、思い出してしまったこともある。

「サザーン! そういやお前、俺の指ぬきグローブつけたまんまじゃないか!」

 それは、大きく広げたサザーンの手に装着された、真っ黒なグローブ。
 レイラのことがあってすっかり忘れていたが、これは俺が貸した掘り出し物アイテム、指ぬきグローブだ。

「な、何のことだ?」

 言いながら、両手を後ろに回すサザーン。
 分かりやすすぎる。
 他人の盗みは非難するくせに、自分は借りパクする気満々だなんて許せない。

「あ、ちょっ……いたいいたいいたい!」

 俺は素早くサザーンの腕をひねりあげると、その手を正面に晒した。
 さっき見たので当然だが、やっぱり両手に指ぬきグローブをつけていた。

「ほら、やっぱり持ってるじゃないか。これ没収な」
「や、やめろぉ! 我が半身、ダークシュナイダーを奪い取ろうとは……!」
「暴れるなって! あと人の物に勝手に意味の分からん厨二ネームをつけるな!」

 俺は無理矢理に指ぬきグローブを外そうとしたが、あまり乱暴なことは出来ない。
 指ぬきグローブのHPは40しかない。
 どんなに弱い敵を攻撃しても武器の耐久は必ず1は減るので、マックスでも40回しか使えないほど、このグローブは壊れやすいということだ。
 そんなもろいグローブを今の俺が力任せに引っ張れば、その先の未来は決まったようなものだ。

「くそ、こら! おとなしく渡せって! ほら、こちょこちょ……」
「貴様、何を……あひゃひゃ、だめ、やめ……あはひゃ、うひゃっ!」

 試しにくすぐってみたが、それでもサザーンはグローブを手放そうとしない。
 決して効いていない訳ではないようなのに、変な所で強情な奴だ。
 俺が半ばムキになってしばらくサザーンとの攻防を続けていると、イーナが心配そうに近寄ってきた。

「あの、ソーマさん。ここは人目がありますから、そういうことは……」
「まるで俺がいかがわしいことしてるみたいに言うなよ!」

 とは言ったものの、俺たちが人の注目を集めているのも事実だった。
 別に愛着がある訳でもないが、英雄のイメージを損なうのもよろしくはないだろう。
 俺が迷っていると、絶妙のタイミングでミツキが助け船を出してきた。

「とりあえず、武器屋に行くのはどうでしょう。
 もしかすると、掘り出し物でまたそのグローブが売られているかもしれませんし、サザーンさんが気に入るような別の武器が見つかるかもしれません」
「そう、だな……」

 俺は仕方なくサザーンを解放すると、サザーンにあてがう武器を見つけるべく、武器屋に向かった。



「おう、いらっしゃい! いい武器入ってるぜ!
 この機会に武器を新調したらどうだい?」

 武器屋に入った途端、威勢のいい声に迎えられる。

(……って、言われてもなぁ)

 今の俺たちの武器は、最低ラインが肉切り包丁でそろえられている。
 これ以上の武器は王都の店では売っていない。

(ただ、これで満足してるかって訊かれると、そうでもないんだが……)

 相手の防御力に比べて武器の攻撃力が低いと、武器の消耗が大きくなる。
 それは、キャラクターの能力で補い切れない武器の限界だ。
 特にパラメーターにインフレが起きる終盤に、その問題は顕著になる。
 格上に多段スキルを連発していると、武器なんてあっという間に壊れてしまう。

 しかし、肉切り包丁以上の武器となると、とっさに思いつく物は少ない。
 『金剛徹し』はもう使っているし、やはりここは隠しダンジョンに眠る最強の鎌『ソウルイーター』を取ってくるか、あるいはゲームでは未実装だった神殺しの剣、『絶対神剣アルティヘイト』でも探してみるか、なんてことを考えて、

「ああ、そうだ兄ちゃんたち!」

 店主の声に、我に返った。

(そんな強い武器なんてそろえて、俺は一体、何をしようって言うんだ?)

 自分自身に苦笑する。

 もう魔王は倒れた。
 今必要なのは、強力な武器などではなく、現実世界にもどる手段の方だろう。
 俺は一度首を振ると、店主に向き直る。

「実はよ。今は王都全体でミスリル不足みたいなんだ。
 ミスリル製の装備があったら譲ってくれないか?
 いつもより高く買い取ってやるからよ」

 いつかの防具屋と同じ台詞だ。
 どうやらまだ、ミスリル不足は終わっていないらしい。

「それ、前にも違う店で聞きましたけど、そんなにミスリルが足りないんですか?」

 俺の質問に、店主は何度もうなずいた。

「ほんと、ひどいもんだぜ。ミスリル製品なら何でも高騰してるのは当然、家の建材に使ってたミスリルの盗難事件も二件、出たそうだ」
「そりゃ、気合が入ってますね」

 適当な返事をしながらも、俺の内心は穏やかじゃなかった。
 以前にイーナと防具屋に行った時にも思ったが、ミスリルを集めるイベントが本格的に進行している可能性がある。

 ミスリル収集イベントは、魔術師ギルドのイベントの中盤に発生するものだ。
 そして魔術師ギルドのイベントは、最後まで進めると、国が滅ぶ(・・・・)

 色々あってすっかり忘れていたが、これは早めに手を打った方がいいかもしれない。
 ほかに手がかりはないかと、ついでとばかりに尋ねる。

「それ以外に、最近何か変わったこと、ありますか?」
「うん? そうだなぁ。大聖堂への参拝客が減ったとか、あー、それと、最近はミスリル以外にプロテインも品薄だって誰かが言ってたような……」
「プロテイン…?」

 聖堂への参拝が減ったのは、魔王が倒れて世界が平和になったからだろうか。
 しかし、それ以上に気になるのはプロテインだ。
 この世界のプロテインは単純なたんぱく質ではなくて、戦士キャラが愛飲する謎のゼリー状飲料のアイテム名だ。

 特に、マッチョ系のNPCにプレゼントすると友好度が一気に2も上がるような、ガチムチ系戦士御用達のアイテムだった。
 そしてガチムチ系戦士と言えば、どうしても戦士ギルドを思い出さずにはいられない。
 それが品薄ということは、戦士ギルド関係にも動きがあるということだろうか。

 魔術師ギルドのイベントも、戦士ギルドのイベントも、本編攻略に支障が出るほどの影響を発生させる、大がかりな物だった。
 ただ、ゲームでなら全てのイベント終了後、メニュー画面から『ギルドイベントを戻す』を選択するだけで簡単にその影響をリセット出来た。
 逆に言えばそれは、あの『猫耳猫』スタッフでさえ、パッチでリセット機能をつけるようなイベントだということ。

 それがメニュー画面の使えないこの世界で起きた時のことを想像してしまって、思わずぞっとした。
 しかも、そんなイベントが二つ同時に進行しているかもしれないとなると、嫌な予感しかしない。

(これじゃあ、しばらくは元の世界にもどるどころの話じゃないな)

 帰ったらすぐに対策を考えなければいけない。
 そう思って内心やれやれと肩をすくめていると、それをイーナが見咎めた。

「あれ? ソーマさん、何かいいことありましたか?」
「え?」

 思いがけない言葉に俺が動きを止めると、その横からリンゴまで顔を出した。

「…ソーマ、ちょっとわらってた」
「俺、が……?」

 そんな自覚は全くなかった。
 ただ、もしそれが本当だとすると……。

「そ、それより、掘り出し物を探さなきゃな!」

 何だかその事実を直視してしまうのはまずい気がして、俺はあわててごまかした。
 店の端に並ぶ魅惑の掘り出し物たち。
 その無数のガラクタたちを見るにつれ、俺の戸惑いも遠くに消えていった。


 掘り出し物のエリアでは残念ながら指ぬきグローブを見つけることはかなわなかったが、代わりにいい物を見つけた。
 俺はそれを即座に購入すると、一人だけ店の前で待っていたサザーンに突きつけた。

「サザーン! これを見ろ!」

 そう言って俺が突き出したのは、五つの穴が開いた、真っ黒い金属製の物体。
 その名も、ブラックナックル。
 やはり厨二病患者が大好きな武器、ナックルダスター(しかも黒)である。

「これとその指ぬきグローブ、交換ってことでどうだ?」

 俺は自信満々でそう切り出したのだが、サザーンは怪訝そうな顔をするだけ。

「何だ? その訳の分からないしょぼくれた物体は」
「え……?」

 やっぱりつけているところを見ないと分からないのかと俺が装備してみたが、それを見てもサザーンの反応は今一つ薄かった。

「要らん! そんな物、我がダークシュナイダーと比べるのもおこがましい!」
「いや、ほら、これだって『呪われし暗黒の連環カーズドブラックリング』とか言えばそれっぽいだろ?」
「全然違う!!」

 どうやら気まぐれではなく、完全に受け付けない様子だ。
 一括りに厨二病と言っても、その中でそれぞれの好みというのはあるらしい。
 ……全く、めんどくさい奴だ。

 しかし、通用しないなら仕方ない。
 俺は、別方向からの説得を試みることにした。

「あのな。それつけてると、ほかの武器を装備出来ないんだぞ。
 お前魔法使いなのに、杖持たないでどうするんだよ」

 杖やロッドなど、魔法職用の装備には魔法攻撃力が設定されている。
 魔法を使う時は、本人の魔力はもちろん、装備の魔法攻撃力が大きな意味を持つ。

 一方、指ぬきグローブの魔法攻撃力はゼロ。
 なのに一応武器扱いされるから、その間は剣や杖を持っても武器として判定されない。
 それを両手にはめているサザーンは今、魔法攻撃をしても素の魔力でしか攻撃出来ないことになる。
 自分の魔法にこだわりを持つサザーンなら、これは看過出来ない問題のはずだ。

「それは……って、魔法攻撃力がないのはそっちのナックルでも同じだろ!」
「ちっ」

 一瞬騙せそうだったのだが、ギリギリで気付かれてしまった。

「そ、そこまでして僕のつけた手袋を欲しがるなんて、やっぱり……。
 だ、だから貴様は油断ならないヘンタイだと言うのだ!
 ダークシュナイダーは、絶対に渡さないからな!」

 サザーンが自分の両手を抱え込むように動く。
 完全に意固地になってしまったようだが、あれが俺の物だというのも確かなのだ。
 ここで引き下がってしまうのも何だか腹が立つ。
 どうしたものかと俺が迷っていると、ミツキがとりなすようにサザーンに語りかけた。

「サザーンさん。返してあげたらどうですか?」
「え? い、いや、でも……」
「貴方の魔法の力を、皆頼りにしています。
 それなのに、貴方がいつまでもそのグローブをつけていては不安になってしまいます」
「う……」

 こんな風に説得されるとは思わなかったのだろう。
 サザーンが口ごもる。
 そして、

「わ、分かった。ダークシュナイダーは、返す」

 意外にもあっさりと、サザーンは折れた。
 俺もほっと息をつく。

「そうか! ありがとう、サザーン!」
「た、ただ、今すぐはダメだ!」
「え? なんでだよ」

 不可思議な言葉に俺が首をかしげると、サザーンは早口で言った。

「そ、その、これ、ずっとつけてるから、汗、とか染み込んでるし、だから、洗ってから返す!」
「えー。いや、いいって。気にしないから」

 俺が催促するように手を伸ばすと、サザーンは怯えたようにあとずさった。

「だ、ダメだ! ヘンタイにこんな物渡せるか!
 絶対、絶対洗って返すからな!」

 一体俺は、サザーンの中でどこまでハイレベルな変態になっているのか。
 サザーンの思いがけない神経質な面に辟易としながらも、俺は仕方なくうなずいたのだった。


 まっすぐ帰ると言いながら途中寄り道をすることになってしまったが、俺たちはその後、無事に猫耳屋敷までもどってきた。

「アーケン邸も立派でしたが、やはりこの屋敷も負けてはいませんね」
「…ん。わがやが、いちばん」

 ミツキとリンゴが、久しぶりの我が家にテンションを上げ、家に入っていく。

「とりあえず、何か食べなきゃねー」
「ふっ。その意見には賛同せざるを得ないな」

 真希とサザーンも完全に自分の家感覚で屋敷に入っていく中、

「……イーナ?」

 一人、イーナだけがどこか遠くを見ながら、立ち止まっていた。
 俺が声をかけると、イーナはハッとしたようにこっちを振り返った。

「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと、アーケン家のこと、思い出してて……」
「ああ……」
「わたし、あそこでフウちゃんやリルムさんと仲良くなって、その、うれしかったから……」

 イーナの瞳に、わずかに憂いが混じる。
 ずっと一人だったイーナは、友達になれそうだった相手と別れたことが、単純に寂しいのだろう。

「……大丈夫だって」
「えっ?」

 だが、それは心得違いというものだ。

「会いたいなら、また会いに行けばいいんだ。
 二人とも、イーナが訪ねてきたらきっと喜んでくれる」
「あ……」

 イーナの悲しげな顔に、光が差す。

「それに、リルムだったらまたすぐに会えそうだしな。
 案外、こっちが会いに行かなくても、どこかからひょっこり出てくるかもしれないぞ。
 何しろ……あの、リルムだからな」

 俺がそう言うと、イーナはすっかり元気を取りもどした顔で、ふふっと笑った。
 だから俺は安心して、イーナと一緒に屋敷の中に入って……。

「――どう、したんだ?」

 その異変に気付いた。

 先に入ったはずの仲間たちは、みんなその場で立ち止まっている。
 その奥を見ると、こちらに背を向けたまま、一心不乱にほうきを動かすメイド服姿(・・・・・)の女性が見えた。

(ま、さか……)

 ある予感に突き動かされ、俺は一歩前に出る。

 騎士団の侵入すら阻むこの屋敷に侵入者がいるなんて、普通はありえない。
 だが、障害を障害とも思わないほど鈍感で、凄腕の冒険者の実力を持つ彼女・・なら、あるいは……。

「……あら?」

 そこでようやく、彼女が俺たちに気付く。
 ゆっくりと振り向いた、その見覚えのありすぎる彼女の顔に、俺は驚きのあまり言葉を失った。

 しかし一方の彼女は、俺の姿を認めて屈託のない笑顔を見せ、本当に嬉しそうな声で、こう言ったのだ。


「――おかえりなさいっ! ロイク!!」

+注意+
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