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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百五十一章 事件の夜

予想した通り、そろそろ感想欄が……

ここから解決まではあまり待たせないつもりなので、回避推奨
 それからは誰も居間から離れることなく、穏やかな、しかし俺限定で針のむしろのような時間が過ぎた。
 変化が起こったのは午後八時。

「では、あの子に少しお灸を据えてきますわ」

 瞳に静かな怒りを湛えてミズーが席を立ち、約十分後。

「や、やっともどってこれましたぁ」

 駄メイドが帰還する。

「ああ。おかえり、リルム」
「あっ、ソーマさん! ただいまです!!
 ひどいんですよ、聞いてください!
 交代でやってきたはずのミズー様が、いきなりわたしにお説教を……」
「あー、うん。それは、大変だったな」

 直接の被害者としてはあまり駄メイドの味方は出来ない。
 適当に流して、本題に入る。

「ところで、部屋の様子はどうだった?
 異常はなかったか?」
「部屋? ああ、結界の部屋ですか?
 ミズーさんもわたしも、部屋には入らなかったので、あんまり細かいところまでは……。
 それが、どうかしたんですか?」

 不思議そうな顔で首をかしげる駄メイドに、俺は首を振って笑った。

「いや、何もなかったんならいいんだ。
 うん。よかったよかった」

 なぜか、俺の言動は複数の人間に監視されている。
 あまり突っ込んだ話をすると、変に思われるだろう。

 ここで頑張らなくても、いくらでもやりようはある。
 俺はあっさりと引き下がった。



 駄メイドが見張りからもどってからの一時間、合計二組が居間を出た。

 一組目は駄メイドと真希。
 帰ってきた駄メイドが早速汚名挽回、名誉返上とばかりに気合を入れて紅茶を淹れて運ぶ途中、

「ひゃわっ! あーれー!!」

 わざとらしい悲鳴を上げてすっ転び、メイド服に大きな染みを作って着替えに向かった。
 一応真希も部屋の前まで付き添い、十分ほどでもどってきた。


 二組目はフウとイーナ。

 もじもじとしたフウが手を上げて、

「あ、あの、おてあらい……」

 と申告し、イーナがついていった。
 二人とも、こちらは五分足らずでもどってきた。

 それ以外は仲のいい相手と雑談をしたり、俺の監視をしたり、ひたすら目をつぶってその場に立っていたり、俺の監視をしたり、不機嫌な顔でたばこをくゆらせたり、俺の監視をしたりで、全員おとなしく居間で思い思いの時間を過ごしていた。



 そして、午後九時。
 再度の見張り交代の時間。

「それじゃー、今度は僕の番だね!」
「あ、ちょっと待った!」

 俺は見張りに行こうとするアスを呼び止めると、子供が喜びそうなちょっとした光り物を握らせて、あることを頼んだ。

「え? うん。いいよー!」

 周り中から視線が突き刺さっているのを感じるが、背に腹は代えられない。
 俺は一刻も早く安心したいのだ。

「じゃ、行ってくるねー!!」

 幸いアスは誰にも呼び止められることなく、見張りに向かっていった。
 これで一時間後には結果が分かる。

 俺がほくほく顔をしていると、ミツキが横に並んできた。

「さっき、彼に何を頼んでいたのですか?」
「いや、ちょっと部屋の様子を見てくるように頼んだだけだよ。
 ……別に、本人に確かめてもらってもいいぞ」

 俺が言うと、いえ、と小さく首を振ってミツキは離れていった。
 本当に、みんな疑り深い奴らばかりである。


 ミズーさんがもどってきて、リンゴを連れてどこかに行く。
 それから五分ほどして、ファイさんが、

「チッ! ヤニが切れた」

 と言って、エルムさんと一緒に自分の部屋へ。
 何気にこれで結界魔法の使い手三人が同時に部屋から出ていったことになる。

 これはいいのかと俺はちらりとミツキに視線を送ると、

「問題ありません。全部視えて(・・・)いますから」

 即座にそんな返事が返ってきた。
 心強すぎて、もはや怖い。

 四人は途中で合流したのか、ファイさんたちが部屋を出てから五分ほどでもどってきた。



 ――午後十時。
 ファイさんが出ていき、待ちに待っていた報せが届く。

 見張りからもどってきたアスがこっちに駆け寄ってきて、俺に結果を耳打ちをした。

「よし!」

 俺は周りの目も気にせず、拳を握りしめた。
 アスはそんな俺を見て、「へんなのー」と言いながら去っていき、途中でエルムさんに何かを尋ねられていたようだが、もう興味はない。

 これで万事がうまく行く……はずだ。



 十時を回り、そろそろみんなに疲れが見え始める。
 そんな中、アスとサザーンがお腹が減ったと騒ぎ出し、エルムとミズーが厨房へ。
 俺もついていく。

 残った食材をほとんど全部使い切ってしまったようだが、調理に火属性の魔法が込められたジェムを使い、二人はほんの十五分ほどで夜食を仕上げた。

 ちなみにその夜食をアスはぺろっと平らげ、サザーンは半分以上残した。
 ……小食なんだったら、見栄張って腹が減ったとか言うなよ。


 それからしばらくして、午後十時四十分を回ったところで、俺は密かにこの後に控えるイベントに向けて準備を始める。
 まだ俺に周囲の視線は集まっている。
 時計を見ているとあからさまなので、出来るだけ自然体でいるようにしながら、これから起こるイベントに向け、魔法を予約しておく。

 そして、午後十時四十五分ちょうど。
 突然、世界から光が消える。

「な、なんだ!?」
「何事ですかっ!?」

 暗闇から聞こえる誰かのうろたえた声。
 だがそんな中、ゲームでこのイベントを体験していた俺だけは冷静に動けた。

 暗闇の中、ためらいなく手を伸ばし、冒険者鞄の中に手を突っ込む。
 アイテムボックス系の収納空間での操作は、視覚に依らない。
 俺の手は暗闇の中でも悠々と動いて、造作もなくアイテムを取り出して……。

「く、くらいのこわいぃ!!」

 突然、腰にぶつかってきた何かにバランスを崩した。

「ちょ、誰だ! 離れろって!!」
「くらいのはやだ! くらいのはやだぁあ!」

 パニックになっているのか、まるで会話にならない。
 俺はそいつを引き離すのをあきらめ、何とかアイテム操作を続け、

「くっ! ライト!!」

 数秒後、シズンさんが光魔法を使った時には、こちらも何とか冒険者鞄からランタンを取り出していた。
 ファイアの魔法を使って、ランタンに火を入れる。

「くそ……本当は俺が、一番に明かりをつけるはずだったのに」

 愚痴をこぼしながら俺は視線を下に移して、

「……お前のせいだからな、サザーン」
「ふぇ?」

 そこにしがみつく自称闇の大魔法使いに、恨みの言葉を贈ったのだった。



 部屋が急に暗くなったのは、現代で言う停電が理由だった。
 屋敷に魔力を送る装置の不具合だったらしく、特に何もしなくても五分ほどで復旧した。

 明かりがついてすぐ、フウがいないと騒ぎになったが、テーブルの下で震えていただけだった。
 しっかりしているようで、その辺りは年相応でかわいらしい。
 年齢不相応なサザーンとはえらい違いだ。

 ここまで来ると、もうあまり部屋の外に出る者もいない。
 停電が終わるとすぐに十一時になり、一人だと怖いと言い出したフウに、イーナが連れ添って見張りに向かう。

 二人と入れ替わりで、ファイがもどってくる。
 特に会話はない。

 十一時から十二時の間にはもうほとんど動きもなく、しかし今まで一度も動かなかったシズンさんが、エルムさんを伴って、五分ほど外に出た。

 監視が消えたが、それを喜ぶような気分でもない。
 特に何をするでもなく、漫然と時間を過ごす。

 ゆっくりと、時間が過ぎていく。
 その時間が近付くにつれ、なんとなくみんなが落ち着かなくなっていくのを感じる。

 だが、それももうすぐ終わる。
 じっと、その時を待つ。



 そして、待ちに待った、午後十二時五分前。

「……それでは、参りましょうか」

 シズンさんが重々しい口調で口を開き、部屋にいた全員が、無言で後に続いた。



「あ、おとう、さん……」
「ソーマさん!」

 結界の部屋の前で、フウとイーナの二人と合流。
 シズンさんの鍵で部屋を開ける。

 軋みを上げて扉が開かれ、そして……。


「……よかった。結界は、まだありますね」


 シズンさんが、安堵の吐息を漏らす。
 そこから、「ケッ。そんなことだろうと思ったぜ」とか、「やはり悪戯でしたか」などという声が続いた。

「おとうさん。いちおう、たしかめた方が……」
「ああ、そうですね。一応、中も確かめてみましょうか」

 だが、シズンさんはフウの言葉に思い直したようにうなずいて、自分の手で結界魔法を作り、それを赤と青のクリスタルに順に当てていった。
 段々と『不死の誓い』を守護する結界が薄れていき、その奥には……。


「ば、バカな……!!」


 指輪など影も形もない、何も載っていない柱があった。

「指輪が、ない……!?」

 後ろからそれをのぞき込んだファイが、信じられないという表情で、そう口に出した。
 そこから波紋のようにざわめきが広がっていく。

「ありえ、ません。私はずっと、この屋敷にいる全ての者の位置を把握していました。
 この部屋に一分以上留まった人間は、誰もいないのに……」

 呆然とつぶやくミツキの言葉を聞きながら、俺は視線を横に投げかけた。

 ……部屋の右隅。
 かつて俺が不知火で彫ったはずの「未」という文字は、綺麗さっぱりなくなっていた。







真希のメモ

退室記録
【18:00~19:00 見張り:エルム】

・18:20~18:30
ファイ ソーマ

・18:40~19:00
ソーマ リルム 真希


【19:00~20:00 見張り:リルム】

・19:10~19:15
ソーマ エルム

・19:35~19:45
ソーマ ミツキ エルム リンゴ 真希


【20:00~21:00 見張り:ミズー】

・20:30~20:40
リルム 真希

・20:45~20:55
フウ イーナ


【21:00~22:00 見張り:アス】

・21:05~21:15
ミズー リンゴ

・21:10~21:15
ファイ エルム


【22:00~23:00 見張り:ファイ】

・22:05~22:20
ソーマ ミズー エルム

・22:45~22:50
停電


【23:00~00:00 見張り:フウ+イーナ】

・23:15~23:20
シズン エルム

・23:55~00:00
全員
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