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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四十八章 アーケン家の人々

 結界の部屋に行くと、そこにはすでに俺とリンゴ以外の全員が集まっていた。
 ちらりと、部屋の隅に目を落とす。
 そこには俺が傷をつけて作った「未」の文字がきちんと彫り込まれていた。

「これで、みなさんそろいましたね。
 では念のため、今一度ここで指輪と結界が無事かどうか確かめてみましょう」

 シズンさんが提案するとみんながうなずいたが、一人だけこれみよがしに悪態を吐いた人間がいた。

「チッ! めんどくせえなぁ!
 考えてみりゃ、指輪がなくなったらどうせ一番年上のオレが次期当主になるんだろ?
 このままでもどっちみち当主はオレなんだから、別に盗られてもいいじゃねえか」

 声の主は、くわえタバコのやさぐれた風貌の男。
 長男のファイだった。

「お兄様!!」

 ファイの暴言に、長女のミズーが喰ってかかるが、ファイはにやにやと笑ったまま、

「んだよ、何か文句あるのか?
 不満だったらよ、オマエが今すぐ、一人で結界解いてみせろよ」
「そ、れは……」

 むしろ、ミズーを煽ってすらみせる。

「実力が同じなら長男が家を継ぐのは当然だろぉ?
 それが不満だってんなら、今すぐ二属性使ってみろよ!
 ほら、やれって! やれるもんならよぉ!!」
「く、そんな品性下劣なお兄様だから、わたくしは安心して当主を任せられないのです!
 どうしてあなたはそうも……」


「――やめないか!! 二人共!!」


 だが、言い争う二人をシズンの一喝が止めた。

「もし仮に指輪が盗まれても結界は残るはずだ。
 当主の選びの基準は変わらない。
 それに、誰も二つの属性を使いこなせなかった時は、わたしがわたしの判断で当主を選ぶ」

 断固とした口調でそう言い切ると、子供たちを促した。

「それよりも今は、お前たちにはやるべきことがあるはずだぞ」
「……チッ! 分かったよ」
「お父様がそう言うのなら、仕方ありませんわね」

 ファイとミズーは渋々といったようにうなずくと、前に出る。
 そこに、アスとフウ、残り二人の子供も続いた。

 結界を解除するには、それぞれ四つのクリスタルに反対属性の結界魔法を浴びせるしか手段はない。
 火属性のファイが青のクリスタルに、水属性のミズーが赤のクリスタルに、地属性のアスが緑のクリスタルに、風属性のフウが黄のクリスタルの前に、それぞれ移動する。
 そして、それぞれが目の前にクリスタルに向かって力を集中させ始めた。

 結界魔法は設定上、アーケン家の血を引く人間にしか使えない魔法だが、アーケン家の人間なら誰でも簡単に使える訳ではない。
 ほんの数秒で結界魔法を完成させたシズンさんと違い、子供たちの魔法構築速度は遅い。

「……っく!」
「……ん、んん」

 特に、長男のファイと次女のフウは少し苦しそうに顔を歪めている。
 だが一方、長女のミズーと次男のアスはまだ余裕があるようだ。

「出来ましたわ」
「……僕もできたよ!!」

 まず、一分ほどかけてミズーとアスの魔法が完成し、それからさらに一分くらいかけて残り二人の魔法も完成する。

「では、やってください」

 シズンさんの指示で、四人が同時にクリスタルに向かって魔法を撃ち出す。
 相容れぬ属性の力に抵抗するようにクリスタルは一瞬だけ強く光り、しかし最後には魔法の輝きに押されるようにしてその光を失った。
 同時に、柱と柱の間に張り巡らされていた結界も解ける。

「……では」

 シズンさんが代表として円柱に近付いて、その上に置かれている指輪を手に取った。
 それを部屋にいる全員に見えるように掲げてから、じっと指輪を眺め、

「……間違いありません。
 確かに、これは本物の『不死の誓い』です」

 そう断言して、丁寧に指輪を柱の上にもどす。

「では、結界を」

 シズンさんの指示で、四人が場所を移動する。
 ファイが赤、ミズーが青、アスが黄、フウが緑。
 それぞれが、今度は自分と同じ色のクリスタルの前に移動して、ふたたび魔法を使う。

 四人の魔法によってクリスタルは元の色を取りもどし、指輪は結界に遮られ、ふたたびその姿を隠した。
 それから結界の部屋にしっかりと鍵をかけると、見張りにエルムさんを残し、俺たちは居間にもどることになった。


 だが、一階にもどる途中、

「ソーマさん。これ、どうしましょう……」

 涙目のイーナに、呼び止められた。
 その手には、見覚えのある色の壺……いや、もはや壺というか、「?つぼ」か、下手をすれば「?きみょうなかたまり」としか言えないレベルの、でこぼこした物体があった。

「う、うーん」

 さすがに『猫耳猫』にも、壺を壊して接着剤で直すなんてイベントはなかった。
 俺が答えあぐねていると、横からひょいっと大きな胸が……いや、駄メイドが姿を見せた。

「心配しなくても大丈夫ですよ!
 どうせまた落として壊しますから、その時に綺麗に作り直せばいいんです!」
「え、いや、えぇぇ……」

 笑顔で最低なことを口走る駄メイドに、イーナは微妙な表情を浮かべた。
 そんなイーナの手を取って、駄メイドは力強く言う。

「それにわたし、信じてます。
 イーナさんなら絶対、すぐに上達するって!」
「あ、ありがとうござ……って、待ってください!
 それってまた、わたしが壺を割るってことですよね!?」
「はい! わたし、イーナさんには負けませんからね!」
「ち、違いますよぉ! わたしを仲間にしないでください!!」
「大丈夫! この調子で経験を積めば、取っ手の外れたカップも割れたお皿も欠けた壁も変なところで割れちゃった割り箸も、全部接着剤で元にもどせるようになりますから!」
「だから、話を聞いてくださいよぉ!!」

 などと二人が微笑ましいやりとりをしていると、


「――あなたたち、ちょっとよろしいかしら」


 背後から、冷たい声がかけられた。
 アーケン家の長女、ミズーだ。

「はう! わ、わたし、用事を思い出しましたー!」

 それを見て取った駄メイドは、一秒の躊躇も遅滞もなく、即座に脱兎のごとく逃げ出した。
 駄メイドが廊下の陰に消えた直後、何かが階段をゴロゴロと転がり落ちていく音が聞こえたが、俺は無視してミズーに向き直った。

「全く、あの子は……」

 苛立たしげに漏らしたミズーの言葉に、自分が壊してしまった壺を抱えたイーナはびくっと震えた。

「あ、あの、これ……」

 イーナがおずおずと壺を見せると、

「貸しなさい。捨てますわ」

 ミズーはそう言って手を伸ばした。
 それに対してイーナが反射的にあとずさったのを見て、ふんと鼻を鳴らす。

「あなた、あの子が昨日割った食器の数を知ってまして?
 お皿一枚と、グラス二個の合計三つ。
 なのに、今日はもう壺二つと花瓶一つ、皿三枚、それにカップを一組割っているの。
 このペースは、あなたたちが来てはしゃいでいるせいかしらね」
「ご、ごめんなさ……」

 そして、あわてて謝ろうとしたイーナの頭に、

「……ありがとう。あの子と仲良くしてくれて」

 ぽん、と優しく手を置いた。

「あの子、お父様が街から連れてきた子で、あれで色々と苦労をしていますの。
 もっと甘えてくれればいいのに、父に雇われているという関係か、わたくしたちには少し遠慮があるようで」
「あ、あの、でも、つぼ……」

 話の流れについていけず、イーナがそう言うと、ミズーはくすりと笑った。

「ああ。これのことなら気にしなくて結構ですわ。
 どうせ、一個100Eもしない安物ですもの。
 あの子が触る場所に、そんな高価な物を置いておくはずないでしょう?
 外に出してるのは安物か、落としても壊れない丈夫な物ばかり。
 本当に高い物は、きちんと倉庫にしまってありますわ」
「な、なるほどー」

 イーナが感心したような声を漏らす。
 いや、どう考えてもめちゃくちゃな話なのだが、あの駄メイドを見た後ではそれも納得してしまう。

「ここしばらく、あの子があまり元気がなくて心配していましたの。
 あの子、一昨日は家の物を二個しか壊さなかったんですのよ!?
 二個! たったの二個だなんて、信じられまして!?」
「は、はぁ……」

 どちらかというと、二個で少ないと言われる駄メイドの方が信じられないが、この家では常識なのだろう。
 ミズーは本当に心配そうな表情をしていた。
 だが、その顔もすぐに明るくなる。

「でも、あの子にもようやく仲間が出来て、これでわたくしも安心できますわ」
「な、仲間、って……?」

 嫌な予感に顔を引きつらせるイーナに、ミズーは見惚れるほどの笑顔で答えた。

「あら、だってあなた、あの子のドジ仲間でしょう?」

 そして、


「――わ、わたしは、ドジなんかじゃありませ……あぁぁ!!」


 イーナの叫びと同時に地面で響いたカシャンという音が、彼女の言葉を証明したのだった。



 ふたたびバラバラに割れた壺を手っ取り早く廃棄処分にし、しょんぼりとしたイーナの手を引いて居間にもどると、シズンさんがこれからの予定について説明を始めた。

「これから夜の十二時まで、六時間あります。
 そこで、わたしを除いた六人で、交代で部屋の扉を見張ってもらおうと思います」

 シズンさんが提示した見張りの予定はこうだ。


午後六時  執事エルム
午後七時  駄メイド
午後八時  長女ミズー
午後九時  次男アス
午後十時  長男ファイ
午後十一時 次女フウ


「この順番で扉を見張って、夜の十二時ちょうどにもう一度指輪が無事か確かめます。
 異常がなければこの逆の順番で、また見張りを開始する。
 それでも何も起こらなければ、犯行予告は悪戯だったと考えてもよいでしょう」

 そこで言葉を切ったシズンさんに、すかさず真希が訊いた。

「あの部屋の鍵は、誰が管理するんですか?」
「基本的に、鍵はわたしが持つこととします。
 ただし、交代の時には鍵を持っていってもらい、その場の二人で部屋の中を確かめてもらうつもりです」

 例えば、執事エルムと駄メイドが見張りを交代する場合、エルムのところに鍵を持った駄メイドが行き、その場で鍵を開けて中の様子を見る。
 それで問題がなければ、今度はエルムに鍵を預け、シズンさんのところに持ち帰る、という方法を取るらしい。

「その鍵以外に、予備の鍵は?」
「これ一本きりです」
「ふむぅ。なるほど、なるほど」

 何が琴線に触れたのか、真希はしきりにうなってみせた。

「で、んなことよりオレたちは?
 自由にしてていいのか?」

 今度はファイが尋ねる。
 シズンさんは乱暴な言葉遣いに顔をしかめながら、その質問にも答えた。

「いや、出来る限り、みんな同じ部屋にいてもらう。
 特に、ファイ、ミズー、アス、フウ。
 君たち四人が用事でほかに行く場合は、必ず誰か付き添いをつけること」

 それを聞いてファイがチッと舌打ちをしたが、異を唱えることはしなかった。
 質問が一通りでそろったのを確認すると、シズンさんは表情を緩めた。

「……では、難しい話はとりあえず置いて、食事にするとしましょうか」



 その後、全員で食堂に移動する。

「執事のエルムが見張りに行く直前、みなさんの分の料理も作ってくれました。
 よろしければ、一緒に食べていってください」

 というシズンさんの提案に従って、俺たちも席につく。

「で、では、今はなきエルムさんに代わって、不肖このリルル、みなさんの料理を運ばせてもらいますね!」

 戦慄の台詞を吐いた駄メイドに素早く駆け寄ったのは、緑色の髪をした次女、フウだった。

「そ、それはだめ! ……じゃなくて、わ、わたしにやらせて、くれないかな?」
「ですけど、お食事を運ぶのはわたしたちの仕事ですし……」

 渋る駄メイドに、フウが必死でお願いをする。

「エルムさんがいると、いつもみんなはこんじゃうから。
 今日くらいは、わたしがお料理をはこんでみたいなって。
 だめかな、リルムおねえちゃん」
「……しょうがないですねぇ。フウちゃんが、そこまで言うのなら」

 駄メイドがうなずいたことで、食堂内の緊張が一気にほどけた。
 その場の全員が、料理の恩人であるフウに称賛のまなざしを送った。
 視線に気付いたフウは、えへへ、と照れくさそうに笑い、

「もう、そんなことで喜ぶなんて、ほんとうにフウちゃんは子供ですね」

 それを見た駄メイドにそんな台詞を言われて、照れ笑いを苦笑いに変えたのだった。



 出された料理は心持ち量が控えめだったものの、流石貴族の食卓と言える豪勢な物だった。

「ほぅ。これは、中々……」

 料理下手の割に意外に美食家らしいミツキが、耳をひゅんひゅん振り回して喜びを表明する中、

「すっごーい! 魔王たおしたのって、サザーンのにいちゃんの魔法なんだ!
 魔王ってすっごい強いんだろ! すっごい! ちょうすっごいよにいちゃん!!」
「ふふふ。このサザーン様の力をもってすれば当然だ」

 隣の席から、サザーンと次男のアスのバカでかい声が聞こえてきた。

「すっごいなー。それに、サザーンって名前もかっこいいよなー!」
「そうだろう! ふむ、貴様はなかなか見どころがあるな! ふふふふ……!」

 サザーンが子供になつかれるという、驚天動地の展開である。
 まあ、子供からするとサザーンの厨二ファッションはかっこよく見えるのかもしれない。
 めずらしい自分への賛辞に、サザーンはすっかり気をよくしているようだった。

「僕、ホントは自分の名前キライなんだよ!
 アスってなんか、のったりした感じがするじゃん?
 あーあ! どーせなら僕も、閃光のティルとか、遍在のフォウとか、そういうかっこいい名前がよかったなー」

 それはただ二つ名がかっこいいだけでは、と思ったものの、口には出さない。
 サザーンの対応はと様子を見てみると……。

「ふん! ないものねだりなどしても仕方がない。
 それよりも、自分の名前のイメージを変えるような功績を上げればよいのだ」
「そっか、すっごい! やっぱサザーンの兄ちゃんはすっごいよ!」
「ふふん。まあ、それほどでもある」

 話し方はともかく、案外まともなことを言っていて驚いた。
 せっかく有名になっても変な二つ名をつけられることもあるのでそこは要注意だが、非常に健全な提案と言える。

「どうしたら、にいちゃんみたいにそんなに強くなれるかな?」
「そうだな。まず、自分の目標を持つことだ。
 高い目標を持てば、自然と実力も身についてくるものさ」
「なら、僕にはもうあるよ!」

 アスは口から野菜の切れ端を飛ばしながら、大声で叫んだ。


「――僕は、にいさんよりもねえさんよりも、ううん、とうさんよりもすごい、この家でいちばんの結界魔法使いになるんだ!!」


 一瞬だけ、食堂の空気が止まる。
 だが、肝心の二人だけはそれに気付かず、楽しげに話を続けた。

「ほう。一番、か。いい響きだな」
「だよね! 僕はぜったいいちばんになる!
 ……だって、そうしたらにいさんとねえさんがケンカなんて」
「アス……」

 そこでほんのわずかに気落ちした様子を見せたアスに、焦ったサザーンがわざとらしく立ち上がって宣言する。

「ふ、ふふふ! ならばそんな貴様に、我が秘術を特別に見せてやろう!」
「え、ほんと!? 見せて見せて!!」

 元気づけてやるのはいいが、あいつが調子に乗るとろくなことをしない。
 いくらなんでも家の中で危ない魔法をぶっ放すことはないだろうが、一応気を付けておこうと俺は一人でうなずき、

「聞いて驚け! 見て震えろ! これが、魔王をも退けた僕の究極魔法!!
 行くぞ! タイダルウェイ……」
「はいストップな!!」

 光の速さでアホなことをし始めたサザーンの首根っこをつかんで、強制的に止めた。
 どうしてこいつはこんなに馬鹿なんだろうか。
 涙が出てくる。

「な、なにをするきさまー!」

 しかし、俺が暴れるサザーンを見てため息をついた時、さらなる厄介事が持ち上がった。

「――チッ! こんなまずい飯、食えたもんじゃねえ!
 食事は終わりだ! オレはもう行くぜ!」

 今までおとなしく食事をしていた赤い髪の男が乱暴に席を立つと、食事の乗ったプレートを手に食堂を後にしたのだ。

「お兄様!」

 ファイの暴言にミズーまで席を立つが、俺がそれを止めた。

「ファイさんには俺がついていきます。
 みなさんは食事を続けてください」

 それだけ言うと、誰かに反論される隙を与えず、間髪入れずにファイの後を追った。



 俺が追いかけると、ファイは自分の残した料理を別の皿に移し替えているところだった。
 ファイは俺の姿を認めると、チッ、と一度舌打ちして、独り言を言うみたいに話し出した。

「この家には、アンタら冒険者が使ってるような魔法の鞄だの袋だのってのはねえから、定期的にメイドが買い出しに行ってるんだよ。
 ちょうど買い出しが明日の予定で、もともと食材がなくなってきてたのに、アンタらが訪ねてきただろ。
 そんなんで材料が足りるはずねえんだ」

 手際よく料理を並べたり温め直したりしながら、ファイは苦々しげに言う。

「あのエルムの糞ジジイ。こんなまずい飯作ったんなら、自分も食わなきゃダメじゃねえか。
 だからオレは今からジジイの所に行って、残飯処理させてくる。
 テメエがオレを監視したいって言うなら、勝手にすりゃあいいさ」

 言いながら、お盆に料理を綺麗に並べるファイを見て、つい笑みがこぼれた。

「て、テメエ、笑ってんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!」

 終始ファイの悪態を聞きながら、俺は料理の半分を手に、結界の部屋までの道のりにつきあったのだった。


 そして食堂にもどる途中、

「……チッ」

 と言いながら腹を押さえたファイに、俺はさっき鞄を漁って見つけた串団子を差し出した。

「んだよ、これ」

 突然の俺の行動に、ファイが目を丸くする。

「見たら分かるだろ、みたらし団子だよ。
 鞄の中にたくさんあって邪魔なんだ。
 よければ、食べてくれないか?」
「……何で、オレが」

 それでも団子から目を離さないファイに、俺はさらに団子を突き出した。

「いいだろ。俺もあんたを見習って、残飯処理を頼もうかと思っただけだよ」
「テメエ……」

 俺の言葉に、ファイはどこか嬉しそうにチッと舌打ちをすると、

「……ありがとよ」

 小さくそう言って、ワイルドに団子に食いついた。

「しょっぺぇ。ちきしょう、しょっぺぇなあ!」

 言いながら、ファイはこっそり袖で目元をぬぐった。
 だが、みたらし団子がそんなにしょっぱいはずはないし、仮に少ししょっぱくても涙が出るほどなはずはない。

「……もう一本、どうだ?」
「いや、いらねえ! ほんといらねえ!」

 照れ隠しなのか、焦った顔で手を振るファイを見ながら、俺は、


 ――まったく、この家の連中は、ツンデレばかりで困る。


 なんてことを、思ったのだった。




イイハナシダナー
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