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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四十六章 疑心暗鬼

 シズンさんに頭を上げてもらい、結界の部屋を出る直前、

「あ、ちょっと待ってくれ」

 俺はふと思いついて、床の端に剣で傷をつけ、目印をつけることにした。
 苦労して不知火を細かく動かして、不格好ながら「未」という文字を作ることに成功した。
 その出来栄えに、よし、と小さくガッツポーズを取る。

「…ソーマ?」

 扉の前でいぶかしげに振り返るリンゴに何でもないと首を振って、俺は最後に部屋を出た。


 部屋を出た俺を待っていたのは、ミツキの疑心に満ちた視線だった。

「……何をしていたのですか?」
「え? あ、ああ。少し、部屋の端に目印をな。
 ちょっとした思いつきで、別にそんな、大した意味はないぞ?」
「成程。目印ですか」

 ミツキは一応納得したようにうなずいたものの、その目はあいかわらず俺を冷たくねめつけている。
 そのままの状態をしばらく続け、たっぷり俺に居心地の悪い思いをさせてから、ミツキはしゃべり出した。

「あの『不死の誓い』という指輪は、即死に対して耐性を持つようですね」
「あ、ああ。そう、みたいだな」
「つまり、あの指輪があれば、貴方はレイラに怯える必要もなくなるという訳ですか。
 まさか、とは思いますが、どうせ誰かに盗まれるなら、いっそのこと自分が、なんて事を思っては……」
「め、滅多なこと言うなよ!」

 危ないことを口走りそうになるミツキを、あわてて止める。
 前を歩いていたシズンさんが不思議そうに振り返るが、俺は全力の笑顔でごまかした。
 シズンさんがふたたび前を向いたのを確認して、俺は小声でミツキに抗議する。

「言っとくけどな! あの指輪をつけてもレイラの一撃死は防げないぞ!」
「……そう、なのですか?」

 レイラの『うわきものに死を!!』の一撃死は、特殊攻撃やスキルではなくて、もっとシステム的なものだ。
 即死への耐性を完全にするくらいで防げるようなら、あんなに恐れられていない。

「それに、あそこから指輪を取って自分の物にしちゃったら、それはもう普通に泥棒だろ?
 心配しなくても、俺はそんな馬鹿なことはしないよ」

 素直なところを口にすれば、あの指輪は欲しい。
 ゲームが現実化したせいでレイラの一撃死を防げるように仕様変更されている可能性もゼロではないし、それがなくても即死を防げるのは嬉しい。
 ほかの状態異常への抵抗力がなくなるのは厳しいが、アクセサリー枠に余裕がある現状、打つ手がないということもない。

 例えばだが、即死以外で一番優先度が高く、危険な状態異常は石化だ。
 全く身動きが取れなくなる上に自然回復しにくい石化は、そうでなくても最優先でケアしたいところだが、石化状態になっても普通に動けるようになる『ガーゴイルの円環』という対抗装備が一つあるだけで問題は解決出来る。

 だから指輪は欲しい。
 欲しい、が……。
 しかし、そんなことよりも、もっと大切なことがある。


「――だってそんなことしたら、あの指輪が盗品になっちゃうだろ!!」


 他人の物を盗めばそのアイテムには盗品マークがつく。
 そして、盗品マークのついたアイテムを持っていることがバレたら犯罪者ルートまっしぐら。
 そんな無用なリスクは冒せない。

「……ようやく、納得しました」

 不本意そうに猫耳をびゅんびゅんやりながらも、ミツキはうなずいてくれた。
 息詰まる視線から解放されて、俺もほっと息をつく。

 だから、だろうか。
 続くミツキの確認に、

「つまり、貴方にあの指輪を奪う意志があっても、『ゲーム』による制約でそれは不可能だという事ですね」
「え? ああ、いや。犯人に盗まれた後で犯人から奪えば盗品にならないって抜け道もあるんだけど」

 俺はついうっかり、口を滑らせてしまった。

「やっぱり、貴方は……」

 ふたたびの疑惑の眼差しに、俺はあわてて首を振った。

「いやいやいや! 今回は本当に依頼達成を優先で行くから!」

 確かに、初期の初期の段階において、使い道の分からない紋章より指輪を手に入れた方がいいと考えた『猫耳猫』プレイヤーは、わざと事件を解決せず、犯人から指輪を奪ってそのまま逃げることも多かった。
 だが、それはほんの最初だけの話。

 紋章が隠しダンジョンの扉を開くのに必要だと分かった途端、二つのアイテムの重要度は反転。
 すぐに使い勝手の悪い呪われた指輪を選ぶ人間はいなくなった。
 今の俺は特に隠しダンジョンに行く必要性を感じてはいないが、どちらの優先順位が高いかで言えば紋章に軍配が上がる。

 それに、問題の本質はそんなところにある訳ではないのだ。
 俺は久しぶりにミツキの頭の上ではなく目をしっかりと見つめると、切々と訴えた。

「考えてもみてくれ。諍いの種になってるとはいえ、あの人たちから大切な家宝を奪ってさ。
 そんな後ろめたさを抱えたまま、俺が胸を張ってそれを使えるような人間に見えるか?」

 ミツキはたぶん、俺という人間を誤解している。
 目的のために手段は選ばない『猫耳猫』プレイヤーの中でも俺は穏健派。
 人が傷つくようなことを嬉々として行うような最低な人間じゃない。

「……そうですね。実に説得力のある言葉です」

 だが、ミツキはあいかわらずの冷たい声で答えると、視線を横にスライドさせた。

「…ん?」

 その目線の先には首を傾げたリンゴがいて、その腰には脇差(ただしその中身はヒサメ家の家宝『金剛徹し』)がしっかりと収められていた。
 俺の額から嫌な汗が流れ落ちる。

「い、いや、時には例外もあるかもだけど、基本的に俺はみんなが幸せになれるように頑張ってるんだぞ?
 ミツキの家に行った時だって、死人が出ないようにっていう配慮の許に、だなぁ……」

 俺が必死に弁解していると、不意にミツキがふふっと笑って、突然表情を緩めた。

「ミツ、キ……?」

 その急な変化についていけないでいる俺に、ミツキは小さく頭を下げた。

「申し訳ありません。あまりに状況が整い過ぎていたので、つい邪推をしてしまいました。
 ですが、貴方がどんな時でも最良の結果を得ようと努力をする方だという事は、私が一番よく知っています」
「あ……」

 どうやらミツキも俺が本当にそんなことをするとは思っていなくて、少しカマをかけていただけだったらしい。
 俺はほっと息をついた。

「安心しました。道に外れた事を考えていたとしたら、どんな手段を使っても止めなければと思っていましたから」

 言いながらなぜか刀の柄を撫でるミツキに、止まったはずの冷や汗がふたたび湧き出てくる。

「あ、安心してくれて何よりだよ」

 考えてみれば、ミツキは父親が殺されても世界の全員が敵にまわってもずっとプレイヤーの味方でいるほど情の深いキャラクターだった。
 俺が何かやらかしてもレイラみたいに殺されたりはしないと思うが、彼女から逃げるのは簡単ではない。
 ミツキはレイラ以上の探索能力、戦闘力、人脈、財力、猫耳を持っている。

 ……最強ヤンデレ予備軍はもしかすると身近にいたのかもしれない。

「あの、二人ともどうかしましたか?
 一足先に家の人たちに事情を説明してくるって言って、シズンさん、先に行っちゃいましたけど」

 恐るべき未来に俺が一人で震えていると、先を歩いていたはずのイーナたちが心配してもどってきた。

「そうか。シズンさんには気を遣わせちゃったかな」

 もしかすると、何か俺たちで秘密の相談があるかもしれないと席を外してくれたのかもしれない。
 そうだったとすると申し訳ないと思うが、この際それを利用させてもらうか。

「俺は今回、みんなの行動に制限をつけたりはしないつもりでいる。
 だけど一つだけ、絶対に注意してもらわないといけないことがある」

 俺が真剣な口調で話し始めると、そこにこもった気持ちが通じたのだろうか。
 みんなも真面目に俺の話を聞く体勢に入ってくれた。
 さっきからずっと考え込んで、一言も発していなかった真希まで顔を上げる。
 それを確認してから、話し出す。

「くれぐれも、さっきの部屋に長居するのはやめてくれ。
 特に、犯人が来ないかどうか待ち伏せするのは最悪だから絶対にしないように。
 そんなことをして、もし運が悪ければ……」
「う、運が悪ければ…?」

 怯えた瞳で尋ねたイーナの眼を見据え、俺ははっきりと宣言した。


「――消える。この世から」


 それを口にした途端、イーナがひぅっと息を飲み、真希が眉をひそめ、サザーンが「ば、バニシング・ザ・ワールド!」と破綻した言葉を口走り、いつも無表情なリンゴやミツキもわずかに驚いたような顔を見せた。

 だが、この情報は嘘じゃない。
 それがこの安全安心にして、超お手軽クエストと呼ばれた『アーケン家の指輪』クエストに後に追加・・された危険、『突然死の部屋』である。



 実はこのクエスト、デメリットが少ない上に解決も容易だった。

 相手の土俵でまともに犯人を探すのは鍛え抜かれた『猫耳猫』プレイヤーの流儀ではない。
 一応イベントの流れ的に、犯行予告の時間は部屋の中には入れないようになっていて、結界の部屋には鍵がかけられているのだが、そんなものは壁抜けバグの前には無力。
 夢幻蜃気楼であっさり部屋に入り込むと、そのまま適当にスキルでも使って身を隠し、犯行時刻まで張り込んで犯人を見つける、というのがこの事件の一番多い解決策だった。

 それ以外にも、部屋を出る前に映像記録器を仕掛けて犯行の瞬間をばっちり録画したり、部屋の中にトラップやモンスターを仕掛けて犯人を殺してしまったり、髑髏を仕掛けて通行不能にしたり、プレイヤーはやりたい放題だった。
 その全てが実を結んだ訳ではないが、wikiにも「このゲーム屈指の簡単過ぎるクエスト」などと書かれるほど、このクエストは舐められていた。

 それに激怒したのが『猫耳猫』スタッフだ。
 まだ直さなくてはならないバグも数多く残る中、最新のパッチで「クエスト難度を上げる」という正気とは思えない変更を行った。
 館の中でのスキル使用を禁止して壁抜けバグを防ぐなどの数々の修正がかかったが、一番の変更は何と言ってもこの『突然死の部屋』だろう。

 これはパッチ導入直後に一時期話題になった書き込みだが、あるプレイヤーが結界の部屋で張り込みをしていると、何の前触れもなく突然目の前が真っ暗になったと思ったら、いつのまにやら最後に立ち寄ったモノリスの前に立っていた、と言うのだ。
 これは明らかに死亡した時の演出だが、その原因が分からない。

 周りにモンスターも何もいなければ、プレイヤーを殺しにかかってくるNPCや罠もない。
 ならばなぜ、結界の部屋にいたプレイヤーは死んだのか。
 その答えは、パッチの修正履歴にあった。


・サブクエスト『アーケン家の指輪』で、本来のイベント進行を妨げる不正規な干渉をリセットするように修正


 何を言っているのか分からない文面だったが、この文章をヒントにした検証によってその実態が判明した。
 なんと、この事件の犯人が行動に移る直前、結界の部屋にある異物が全て削除・・されるという調整が入れられていたのだ。

 正確に言うなら、部屋単位でのマップの初期化、再生成とでも呼ぶべきだろうか。
 その部屋に本来ないはずのものや変化しているものは全て犯行の直前にリセットされるため、今まで『猫耳猫』プレイヤーたちがやっていた裏ワザ的解決法はほとんど無意味になった。

 特に、この部屋にプレイヤーが直接張り込んでいた場合は致命的だった。
 このシステム的な処理に対して、プレイヤーは抵抗する術を持たない。
 いかに強力なキャラであろうと、即死耐性を備えていようと、デリートを喰らってしまったらひとたまりもない。
 ここで待ち伏せしていたプレイヤーは即死の憂き目にあうことになったのだ。



「――だから、絶対にあの部屋で張り込みなんてしないように」

 俺が詳しい説明を終えて仲間の顔を見渡すと、みんな流石に神妙な顔をしてうなずいた。
 ゲームの話だから納得してもらえるか心配だったが、事が命に関わることだけに、全員きちんと聞いてくれていたらしい。

 ちなみにこれは余談だが、この改悪とも言える変更に対して、当然『猫耳猫』プレイヤーは憤った。
 ……と思いきや、クエストをいじりすぎたせいかフラグ管理がおろそかになり、クエストクリア後にパッチを当てるともう一度同じクエストが受けられる『物忘れの多い騎士団長』バグなんてものが発見され、プレイヤーたちは大歓喜したというオチがつく。

 残念ながらパッチ適用の手段もなく、そもそも最新パッチ適用後らしいこの世界ではこのバグを利用することは出来ないが、もしこのクエストが二回出来るなら、一周目で犯人から指輪をかっぱらい、二周目で普通に解決して紋章をもらうことで労せずして二つのアイテムを手に入れられる。
 プレイヤーを苦しめるための改変で逆にプレイヤーたちに益をなしてしまうとは、実に『猫耳猫』らしいと言える。

「だいじょうぶ! そんなの心配しなくてもいいよ!」

 突然の命の危機発言で心持ち沈んだ空気の中、元気に発言したのは真希だった。
 今まで黙っていたのが嘘のように、溌剌としゃべり出す。

「それに、それはせっかくのミステリーなのに、そういう邪道な解決法をやろうとしたその『ぷれいやー?』さんたちが悪いと思う!
 わたしたちは正々堂々と犯人をみやぶろうよ!!」

 そう言って真希はぐっとこぶしを握りしめ、意欲を見せた。

「そ、そうですよね。ズルはいけませんよね、ズルは!」
「フッ。絡め手になど頼らずとも、我が魔眼、デーモニックエアーアイに見通せぬモノはない」

 それにイーナとサザーンの二人も同調する。
 そして、そんなやる気を具体的な方向にまとめるのがミツキだ。

「そうですね。犯人を見つける方法ですが、犯人になりそうな相手が六人で、こちらの人数も六人です。
 ここはそれぞれが一番怪しいと思う相手に密着し、一対一で監視をするというのはどうでしょうか」

 ここに来て初めて、実効性のある案が出される。
 それに真っ先に賛同したのは意外にもリンゴだった。

「…わかった。ぜったい、めをはなさない」

 いつになく強い語調で言い切って――


「へ…?」


 ――近くにいた俺の腕を、がっちりとつかんだ。

 えっと……どういうこと?
 俺が物問いたげな視線を向けると、リンゴもこちらを見た。

「…いちばんあやしいのは、ソーマ」

 平然とそんなことを言う。
 いや、それどころか、

「ま、待て待て待て! いや、それはおかしいだろ!
 これはちゃんとした事件で、犯人は普通に……」

 俺の必死の抗議に対し、リンゴは俺以上に真剣な目でこちらを見返して、こう言い切ったのだ。

「――わたしがソーマを、まにんげんにする!」

 ……と。

 ここは自分がろくでなし扱いされたのを悩むべきか、それともようやく人間扱いしてくれたことに安心するべきか。
 だが、その答えが出る前に、

「ダメー!!」

 真希がやってきて、リンゴを俺から引きはがした。

「……真希?」

 俺が突然の真希の奇行に戸惑っていると、

「あ、あの、今のはそーまにくっつくのがダメってことじゃなくて、それもダメなんだけど、その……ミツキさんの考えには賛同できません!!」

 目をぐるぐるさせた真希が、ミツキを指差してそんなことを言い出した。

 当のミツキは「え? 私?」みたいな顔で目を見開いている。
 真希はごほん、と咳払いをして、もう一度きちんとリンゴを俺から遠ざけてから、マシンガンのようにしゃべり出した。

「わたしもちょっと迷ったけど、やっぱりそんな作戦はダメだと思う。
 だってね、事件を解決するだけだったら簡単だよ?
 ミツキさんに館の全員をとっつかまえてもらって今晩だけ全員外に強制退出させるか、あの指輪を結界の部屋から出して、ミツキさんがゴックンってやって胃の中にでもしまえばいいよ。
 犯人をつかまえたいのでも同じ。ミツキさんに館の人たちをちょっとえぐい感じにこらしめてもらって、さっさと自白させればいいんだよ。
 でもそんなの、ぜんぜんミステリーじゃないでしょ!?」
「いえ、話の内容はともかく、なぜ私ばかりが汚れ役をする予定になっているのですか?」

 引き合いに出されたミツキは憤慨し、ほかの人は総じてドン引きしていたが、ミステリー好きの血が暴走した真希は止まらなかった。
 ミツキの抗議などなかったように、さらに自説を展開する。

「あのね、ミツキさん。推理小説で、たまに盗難予告のある品物の前で全員が手をつないで輪になるとか、明らかにトリックを仕掛けてくださいと言わんばかりの無理がある備えをしてたりするよね?
 これは、何でだと思う?」
「いえ、それは……私には分かりかねますが」

 流石のミツキも、こんな相手にどう対処していいか分からないようだ。
 言いよどんだミツキに、真希が我が意を得たりとばかりにうなずく。
 そして、


「――フェアプレイ精神だよ!!」


 訳の分からないことを、自信満々で言い切った。

「ミツキさんだって、決闘をするときは相手に全部の力を出し切って戦ってもらいたいと思うでしょ?
 それと同じだよ! まず相手の土俵に立って、犯人がトリックを仕掛けてきてからそれを叩き潰す!!
 これが古今から続く、ミステリーの醍醐味なんだよ!」
「そ、そう……なのですか?」

 いえ、絶対に違うと思います。
 なんて俺の心の声が聞こえるはずもなく、真希の演説は続く。

「だから探偵は、そんな不自然な対策を言い出したやつが犯人とつながってる可能性が高いと分かってても、あえてその対策を採用するんだよ。
 なのに、そうやって総当たりみたいな小ズルいことをするなんて、そんなのミツキさんらしくない!
 そんなのせこいよ!! 卑怯だよ!!」

 暴走したテンションのままで、一気にミツキを説得しにかかる。

「ええと、私は卑怯……なのでしょうか」

 めずらしくミツキが戸惑いを見せ、目線だけでこちらに助けを求めてきた。
 だが、俺は首を横に振った。
 こうなった真希を止めるのは容易ではない。
 それに……。

「――分かりました」

 俺の返答がトドメになったのだろう。
 ミツキは耳をへちゃこんとしぼませると、

「……なら、この作戦はなしにしましょうか」
「やったー!!」

 真希に降伏宣言をした。
 流石のミツキも、泣く子と真希には勝てないらしい。
 肩を落とすミツキと喜ぶ真希というめずらしい取り合わせの二人を眺めながら、俺は口元ににやりと笑みを浮かべたのだった。



 そうしてとりあえず、「流れに身を任せる」というあってないような基本方針を定めた俺たちは、ようやく最初に通された部屋、この屋敷の居間にもどってきた。

 ――そんな俺たちを出迎えたのは、七人の男女。


「ああ。遅かったですね。こちらはもう、全員そろっていますよ」

 館の主人であり、恰幅のいい中年男性であるシズンさん。

「…………」

 無言で一礼する、先ほどまで結界の部屋を見張っていた壮年の執事。

「あ、あ、あの! お客様におかれましては、本日はお日柄もおよろしく……」

 テンパるあまり、花瓶に紅茶を注いでいるメイド。

「チッ。あんたらがスパークホークさんの代理かよ。本当に使えるんだろうなぁ」

 真っ赤な髪をした、ガラの悪い男。

「くれぐれも頼みますわ。あの指輪は、いずれわたくしの物になるのですから」

 深い青色の長髪を後ろに流した、気位の高そうな女。

「へへ! ジョーダン言うなよな! あの指輪は僕のものさ!!」

 元気よく金髪を跳ねさせる、ワガママそうな少年。

「あ、あの、わたし、ケンカは、よくないと……」

 そして、短い緑髪を気弱に揺らす、線の細い少女。


 ――不仲な家族の見本市に出せそうな、曲者ぞろいの容疑者たちだった。
+注意+
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