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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四十五章 誓いの結界

「これから指輪のある部屋までご案内いたします。
 どうかわたしの後をついてきてください」

 神妙な顔のシズンさんに言われてたどりついたのは、ほかの部屋よりも立派な錠のついた扉だった。

「エルムさん。見張り、ご苦労様です」
「もったいないお言葉です」

 シズンさんは扉の前に立っていた男に一言声をかけると、懐から鍵を取り出し、大袈裟な錠を開けて中に入っていく。

「さぁ、皆さんもどうぞ」

 促されて部屋に入る。
 全員が入ったところで、バタン、と大きな音を立てて扉が閉まった。
 誰かが押さえていないと、自動的に扉が閉まる仕組みらしい。

 床、壁、天井、全てが真っ白なタイルで張られたその場所に、家具の類は一つもない。
 この部屋にある唯一の装飾品。
 それはその部屋の中央に伸びるだった。

「わぁ!」
「ほう。これは……」

 それに目を止めたイーナは歓声を上げ、ミツキは目を細める。

 その部屋の中央には、上下から同じ形の細い円柱が伸びていた。
 いや、二つの柱は全く同じ物なのだから、一本の柱の真ん中が切れていて、そこに数十センチの隙間が空いている、と言った方が分かりやすいだろうか。

 だが、変わっているのはその後。
 本来何もないはずのその柱と柱の間には、虹色の幕がかかっている。
 そして、まるでその虹のカーテンを守るように、色とりどりの四つのクリスタルが、その周りに浮かんで(・・・・)いた。

 さらによくよく目を凝らすと、その赤、青、黄、緑の四つのクリスタルからキラキラとした光の粒子が飛んで、それが円柱と円柱の隙間に集まって虹色の壁を作っているのが見えた。
 みなが言葉を忘れたように中央の柱とクリスタルに目を奪われる中、シズンさんが誇らしげに口を開いた。

「この柱とクリスタルが、当主たる資格を試す、『誓いの結界』です。
 そしてあの虹のカーテンの奥に、盗まれると予告された指輪、『不死の誓い』が置かれているのです」


 ――『不落の要塞』の異名を持ち、アーケン家初代当主でもある英雄、ロード・アーケン。

 彼は、結界魔法の精髄を極め、無敵の防御を手に入れた。
 その結界はいかなる物理、魔法攻撃をものともせず、彼はその絶対の守りで多くの戦場を渡り歩き、その全てから無傷で生還した。

 だが、絶対に思えたその結界も、一つだけ欠陥を抱えていた。

 ――状態異常。

 いかに鉄壁の守りを持つ彼であっても、毒や麻痺といった状態異常に対する抵抗は完全ではなかった。
 魔物の中にも高い知能を持つ個体は稀に存在する。
 その内の一体が、その弱点に気付いてしまったのだ。

 知恵を持つ魔物の指示で、毒、麻痺、混乱、睡眠、石化、ありとあらゆる状態異常が彼に降り注ぐ。
 しかし、彼は耐えた。
 毒を喰らってふらついても、麻痺を喰らって痺れても、混乱を喰らって認識力が低下しても、睡眠を喰らって立ったまま眠っても、石化によって身体が動かせなくなっても、その場に立ち、攻撃を耐え続けるという彼の強い意志は揺るがなかったのだ。

 だが最後に、ある状態異常が彼を襲った時、無敵のはずの男はついに膝をつく。

 ――即死。

 それだけは、いかな鋼鉄の精神力を備える彼であっても堪え切ることは出来なかった。
 命を刈り取られれば、どんな英雄もどんな豪傑も、そのまま倒れるよりほか、道はない。

 無念だった。
 死への耐性さえあれば、こんな終わりは迎えずに済んだ。
 死への耐性さえあれば、こんな奴らに後れを取るはずはなかった。
 死への耐性さえあれば、こんなところで倒れることなどありえなかった。
 死への耐性さえあれば……。

 その強い想いが、奇蹟を生んだ。
 死に至った身体が完全に動かなくなるまでの、ほんの数瞬。
 その間に彼は、自らの指輪に自分の最後の魔力を注ぎ込んだのだ。

 指輪は黒く輝き、彼が地に伏し、その身体が消え去った後も、傷一つつくことなくその場に残った。
 その指輪は彼の妻子の許に届けられ、偉大なる英雄の生きた証として、彼の子孫が今でも大切に守り続けている。



「――それこそが、我が家に伝わる完全なる死への耐性を持つ指輪、『不死の誓い』なのです」

 長い語りを終えて一息ついたシズンさんに、仲間たちがほぉーと感心の声を上げた。
 よくよく聞いてみるとツッコミどころ満載な気もするが、英雄譚として成立していなくもない。
 それに、目の前に当の子孫がいて、話に語られた指輪があるのだから、その感動もいや増すというものだ。

「『不死の誓い』については分かりました。
 ですが、さっき話されていた『誓いの結界』とは何なのですか?」

 一人だけ、シズンさんの話に眉一つ動かさなかったミツキが尋ねると、彼は深くうなずいた。

「あのクリスタルと光のカーテンがそうなのですが、これは実際にお試しになった方が早いでしょう。
 どんな手段を使っても構いません。
 今からあの結界を破って指輪を取ってきてくれませんか?」

 彼の言葉にミツキは猫耳をぴくん、と動かすと、冷たい目でシズンさんの方を見た。

「どんな手段を取っても構わない。その言葉に二言はありませんね?」
「ええ。もちろんです」

 シズンさんの返答が終わるか終わらないか、というタイミングだった。

「っふ!」

 何の予備動作もなく、ミツキが突然抜刀した。
 柱まで少しだけ距離があったが、そんなものはミツキにとって何の障害にもならない。
 瞬きの間にミツキの愛刀『月影』は銀光を閃かせ、虹の防護へと迫り、

「……成程」

 あっさりと、受け止められた。

「え、えぇえ!」

 ミツキの恐ろしさを一番知るイーナが、驚きの声をあげた。
 だが、当のミツキに動揺はない。

「――ならば」

 たった一度攻撃しただけでその守りは破れないと見切ったミツキは、そのターゲットを変える。
 次の目標は、結界そのものではなく、それを生み出していると思しきクリスタル。
 ミツキの次なる一刀は確実に目標を捉え、

「ほぅ……」

 ガン、と硬質な音を立てて、止まった。
 ミツキが剣を引いても、空を浮かぶクリスタルに傷一つなく、小揺るぎもしていなかった。
 最後にミツキはついでのように円柱を切りつけ、それにも何のダメージも与えられなかったのを確認すると、刀を納めた。

「お分かり頂けたでしょうか?」

 それを見ていたシズンさんが、どこか自慢げな顔をしてミツキに近付いた。
 ミツキは猫耳を一度不愉快そうにふるっと震わせたものの、表情にはまったく出さずに平然と答えた。

「ええ。大した物です。この結界は正攻法以外では破れないようですね」

 そう口にしたミツキの言葉に間違いはない。
 ミツキの攻撃力は、NPC随一。
 いや、俺ならやり方次第ではもっと高威力の攻撃は出せるが、たとえそれが出来たところで関係はない。

 ここにある仕掛けは全て破壊不可能オブジェクト。
 壊すことは出来ないのだ。

「はい。この結界を解除するのは、結界魔法を使うしかありません」

 そう言うとシズンさんはミツキと入れ替わるように前に出て、まず赤いクリスタルに手をかざす。

「ハァッ!」

 気合の声を出したかと思うと、彼の手の平から青い光が飛び、赤のクリスタルを直撃した。
 青い光を浴びたクリスタルは光を失い、黒く変わった。

「理屈は単純。それぞれのクリスタルに相反する属性の結界魔法を浴びせてやればいいのです」

 言いながら、シズンさんは隣の青いクリスタルに赤い光を飛ばす。
 光が届いた瞬間、青いクリスタルもまた光を失い、同時に、

「あっ! 結界が……!!」

 虹色の結界が消滅した。

「このように、四つのクリスタルの内、二つを停止させれば結界は消えます。
 これで、指輪が取れるようになったはずです」

 その言葉を受け、その場の全員が柱の間に注目した。
 二つの円柱の間、下から伸びた円柱の上に、確かに真っ黒な指輪が置かれていた。

「こ、これが、『不死の誓い』、なんですね」

 一番柱の近くにいたイーナが、代表して指輪を手に取った。
 感動の面持ちで指輪を眺めるイーナに、俺は悪戯心を出して忠告する。

「絶対に落としたりするなよ。それ、売ったら300万Eくらいになるらしいぞ」
「さ、さんびゃくまん!!」

 イーナの指輪を持つ手が緊張に震えた。
 ……これは、討伐大会で俺たちが8000万の賞金を手に入れたことは言わない方がよさそうだ。

「しかし、これは当主の証なんだろう?
 貴様がはめていなくていいのか?」

 一方、あまりお金には執着がないのか、特に動揺もなく訊いたのはサザーンだ。
 サザーンらしからぬまともな質問に、シズンはこともなげに答えた。

「ああ。それは構いません。というより、はめてはいけないんです。
 だってそれ……一度つけたら外せなくなってしまいますからね」

 シズンさんの言葉に、指輪を持つイーナが「ひぅ!」と跳び上がって指輪を落としそうになる。
 サザーンもこれはスルー出来なかったのか、

「な、なぁ。それ、呪われてるんじゃないか?」

 イーナの方を不気味そうに見ながら、そう尋ねた。
 だが、シズンさんはさわやかな顔で首を振る。

「いえいえ、まさか。単に、装備した指輪をなくさないようにという、ご先祖の親切心の表れでしょう。
 それに、ちゃんと教会でお金を払えば外してもらえますし」
「完全に呪われてるじゃないか、それ!!」

 めずらしくサザーンがツッコむ。

「そ、ソーマさん! こ、これ、これどうすれば…!」

 涙目になったイーナが救援を求めてくる。
 どうするも何も、普通にもどせばいいと思うのだが、パニックになって思いつかないらしい。
 あるいは高価な品だから、下手に扱えないと考えているのか。
 無駄に取り乱すイーナを見て、シズンさんが苦笑気味に告げる。

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。
 百歩譲ってもしそれが呪われていたとしても、つけたら外せないだけで、それ以外に悪さをする訳じゃありませんから」

 シズンさんのフォローに地獄に仏を見たイーナは、勢い込んで同調した。

「そ、そうですよね!! む、むしろ即死耐性ができて安心ですよね!!」
「ええ、そうですとも。……ああ、まあ、もっとも、即死以外の状態異常には無力になりますが」
「……へ?」

 さらっと口にされた雲行きの怪しい言葉に、イーナの顔がふたたび血の気を失っていく。

「ほら、だって、あのお話を聞きましたでしょう?
 ロード・アーケン様はほかの状態異常なら我慢できたので、即死耐性を完全にする代わりにほかの耐性を捨てられたのでしょうな。
 いやぁ、剛毅な方だ」

 楽しげに笑うシズンさんとは対照的に、イーナは顔を青くする。

「そういえば、昔の当主で指輪をはめたまま、うっかり毒キノコに触れてしまった人がいた、という記録が残ってましてなぁ。
 いやー、毒性は大したことなかったそうなんですが、あっさりと毒が回った上に何をやっても治らず、大変だったそうで」

 あっはっはと笑うシズンさん。
 そして、ガタガタと震え始めるイーナ。

「そ、それで、その当主はどうなったんだ?」

 震えて言葉を出せないイーナの代わりにサザーンが尋ねた。
 それに対して、シズンさんは優しく微笑んで、

「幸いなことに、毒であわてたのはほんの少しの時間だったそうです」
「と、いうことは、すぐに治っ……」

 希望を見出し、明るくなったイーナに向かい、いい笑顔で答えた。


「ええ。すぐに天に召されたそうです」
「いやぁあああああああ!!!」



 その後、残りHP1のはぐれノライム並みに震えるイーナを何とかなだめすかし、指輪を柱の上にもどした。
 イーナの手から指輪を取り上げると、イーナは「友好度大アップ!!」とテロップが出そうな目で俺を見て、

「ソーマさんはやっぱり、わたしの救世主です!」

 なんて叫んで安定のチョロインぶりを発揮していたが、それはともかく。

「では、結界を閉じます」

 指輪がもどされたのを確認したシズンさんが、クリスタルに近付いた。

「結界を起動させるのは、さっきと逆です。
 それぞれのクリスタルに、クリスタルの属性と同じ属性の魔力を送ります」

 シズンさんは赤いクリスタルに赤い魔力を、そして、青いクリスタルに青い魔力をそれぞれ送る。
 すると、光を失っていたクリスタルが輝きを取りもどし、そして、

「あ、結界が……」

 柱の間にふたたび虹のカーテンがかかった。
 真っ黒な指輪が見えなくなる。

「これでお分かり頂けたと思いますが、この『誓いの結界』は、最低でも二つの属性の結界魔法を扱えるようにならないと開けません。
 ですから、この結界の奥にある指輪を手にすることが、熟練した結界魔法の使い手の証明、ひいては当主の証になるのです」

 自分の言葉に俺たちがうなずくのを見て、シズンさんは厳かに告げる。

「そして……わたしの四人の子供たちは、いまだにこの結界を解けずにいます。
 長男が火、長女が水、次男が地、次女が風。
 それぞれ得意な属性がありますが、逆に言えばその属性一つだけしか、まだ満足に扱えないのです」

 そこで、シズンさんの顔が苦痛に歪んだ。

「このままなら、彼らの中で一番に二つ目の属性を扱えるようになった者が次の当主になるでしょう。
 そのために子供たちは必死に自らの技を磨いていますが、そのせいで兄弟の仲はよいとは言えません。
 誰か、兄弟の誰かが当主を継ぐ前に、指輪を奪ってしまおうと考える者が出ても、おかしくないくらいに……」

 唐突に明かされた、骨肉の争い。
 呆然と聞き入る俺たちに、シズンさんは突然の行動に出た。

「これが、わたしが内部犯を疑う第二の理由なのです。
 結界魔法が使えなければ、『不死の誓い』は手に入れられない。
 そして、結界魔法が使えるのは、わたしと、わたしの四人の子供たちだけなのです。
 ですから、どうか、どうかみなさん……」

 シズンさんはおもむろに両手両膝を地面につけると、そのまま頭を地面にこすりつけるようにして、叫んだ。


「この指輪を、守ってください!!
 そうして、どうかわたしの子供たちを、卑劣な罪から救ってやってください!!」


 ……あれ?
 これって、割とシリアスなイベントだったっけ?
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