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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四十二章 天眼

 ロイクと姿を入れ替えることによって、レイラの追及をかわすという、俺の乾坤一擲の作戦、『偽りの白馬の王子様』作戦は失敗した。
 それも、ただ失敗しただけでなく、結果的にレイラの段階を進めてしまった上、『天の眼』まで受け取ってしまうという最悪の形で決着させてしまったのだ。

 我に返った俺は、そんな大事な物は受け取れないと『天の眼』を返そうとしたのだが、

「あ、ご、ごめん。これ、気に入らなかった?」

 レイラは本当に申し訳なさそうに謝った後、

「で、でも、本当にごめんね。これ、特別な魔法がかかってるから、一度渡しちゃったら私にもどうにも出来ないの」

 衝撃の事実を明かしてきた。

 いや、充分に予想はしていたことではある。
 渡し直すことが出来ないアイテムだと想定していたからこそ、俺はロイクを身代わりに仕立て、最悪でもこの『天の眼』だけは受け取ってもらおうとしていたのだ。

 だが、実際にその事実を突きつけられると、その衝撃はかなりのものがあった。
 ショックのあまり顔色が悪くなった俺を心配し、レイラが俺を解放してくれたのは怪我の功名だが、その時点で俺の心は完全に打ちのめされていた。

 自分で言うことでもないが、俺の意気消沈ぶりは凄まじく、俺へのサポートをばっくれて逃げ出したはずのサザーンが屋敷で平然とお茶を飲んでいるのを見ても、ほんの数秒のアイアンクローで許してやったほどだ。


 作戦が失敗したのは純粋に俺の考えが甘かっただけで、ロイクに何の罪もない。
 俺は最後の気力を振り絞ってロイクにお礼を言って送り出し、その後、心配そうに俺の周りに集まってきたリンゴたちに事情を説明した。

「……そう、ですか。しかし、私は少し安心しました」
「ミツキ……」

 がっくりと座り込んだ俺の肩に、ミツキは優しく手を置いてくれた。

「やはり、あのように人を騙し、その心を弄ぶ策はあまり好きません。
 貴方にはもっと正々堂々……人を真正面からおちょくるような策が似合ってます」
「……いや、それ、どっちにしろ正々堂々じゃない気がするんだが」

 しかし、実直なミツキにそう言われると、少しだけ心が慰められた。
 顔を上げれば、ミツキの猫耳もめずらしく凪いだように静かで、「いいんだよ。それで、いいんだよ」と言ってくれているようだった。

 俺が少し持ち直したところで、今度はリンゴが口を開いた。

「…わたし、なら」

 無表情ながら、少し申し訳なさそうに言う。


「――たぶん、ソーマがへんそうしてても、わかる」


 作戦を話した時に言いかけてたのはそれか!
 きっと、リンゴは自分だったら変装を見破れそうだから、この作戦の成功が信じられなかったのだ。

(……そういえば)

 レイラの二つ名に『魂まで見通す者(ソウルアイ)』という物があった。
 それが名付けられた経緯は知らないが、ゲームでも俺と同じような作戦を立てて失敗した奴がいたのかもしれない。
 ゲームでは効果のなかった変身メガネで一般の人は騙されていたので、そこで安心してしまったのが今回の敗因だった。

「ああ。それは私も分かります。
 貴方の動作には癖がありますからね」

 さらに、反省する俺に追い討ちをかけるようにミツキがすかさず追従して、

「え!? わたしはぜんぜん分からないけど?」

 二人の発言に、真希が驚いた顔をした。
 お前、仮にもこの中で俺と一番付き合い長い奴だってのに……。

 そう思った俺が、真希にちょっと呆れた視線を送ると、真希はムッとした顔でそっぽを向いた。

「……ふーんだ! どーせわたしは美人じゃないし、一緒に買い物行っても人生初にもなれないどーでもいいやつですよーだ!」

 なぜいきなりそんな話になるのか。
 こいつの腹を立てるポイントはどこにあるか分からない。
 しかし真希は大変ご立腹の様子で、傍目にも分かりやすくすねてしまっている。
 長年の経験から鑑みるに、冗談めかしてはいるが、これは結構本気で怒っているようだ。

 ……めんどくさいが、仕方ない。
 今回は世話になったし、一応フォローを入れておく。

「いや、真希はほら、美人っていうより、か、かわいい……感じだし、俺が家族以外と生まれて初めて買い物に行ったのって、お前とだろ?」
「ほ、ほんと?!」
「こんなことで、今さらお前に嘘なんてつかないって」

 俺が請け負うと、真希はむふーっと鼻息も荒く、

「ふ、ふーん。なら、許してあげよーかなー」

 すげえ上から目線でそんなことを言い出した。
 こんなことになるから、こいつのことはほめたくないんだが。
 そもそも許す許さないとか、美人がどうとか、どうしてそんな話になっているのか分からない。

 しかも……。

「あの、ソーマさん!」
「え、イーナ…?」

 一難去ってまた一難。
 今度は横から声がかけられて振り向くと、餌をねだる雛鳥みたいな目でイーナがこちらを見上げていた。
 いや、どうしろってんだよ、俺に。

「ま、待てって! 話が逸れてる!
 今はこんなことしてる場合じゃないんだよ!」

 混沌としてきた状況を一度リセットするべく、俺は声を張り上げた。
 ほとんど話をごまかすための方便だったが、実際に悠長にしていられないのは本当だ。

(というか、何で俺は今まで呆けてたんだよ!)

 激しく自分を叱咤する。
 こんな時こそ迅速な対応をしなくてはいけないのに、大きく後れを取ってしまった。
 作戦失敗のショックで働くのをやめていた頭が、ようやく回転を始める。

「ミツキ! 今、レイラがどこにいるか分かるか?」

 レイラに『天の眼』があるように、こっちにはミツキの『探索者の指輪』がある。
 しかも、『探索者の指輪』の方が『天の眼』よりも使い勝手は数段上だ。
 そこにまだ活路がある。

「……王都の中心、やや北寄り。動きは、ないようですね」
「北? 自宅、か?」

 ミツキの返答に、俺は最後の希望がつながったことを知って、ほっと息をついた。

「とりあえず、すぐにこの家を出るぞ!」

 どういう仕組みなのかは知らないが、探索系のアイテムは相手のいる方角と距離が分かるらしい。
 それに加え、ミツキはチートじみた空間認識力とほかの人間との相対距離を合わせ、相手の居場所を建物単位で把握してしまうが、レイラにそんな芸当が出来るとは思わない。

 今の段階では、俺が王都の南側のどこかに留まっているということは分かっても、建物まではまだ特定されていないはずだ。
 俺たちがこの屋敷に住んでいることは人に聞けばすぐに分かるが、バレていない可能性があるのなら危険は冒したくない。

 慌ただしく屋敷を後にしながら、俺は頭の中で善後策を考える。

(とにかく、この『天の眼』をどうにかしないと……)

 しかし、破壊不可能属性がついていて、捨てても六時間で手元にもどってくるこれを破棄するのは、はっきり言って至難の業だ。
 一縷の望みにすがって不知火で斬りつけてみたが、傷一つつかなかった。

 パッチが入る前であれば、事は簡単だった。
 同じフィールドに置かれたアイテムの数が膨大になると、最初に置かれた物から順に削除される。
 これを利用すれば破壊不可能なはずのアイテムもいくらでも消去出来たので、クズアイテムをたくさん用意するだけで『天の眼』も消去出来たのだ。

 しかしそれはパッチによって修正され、今では貴重品属性、破壊不可能属性が入ったアイテムは削除対象にならなくなってしまった。
 あの『謎の紙切れ』をはじめ、イベントアイテム紛失バグについては苦情が多かったせいか、猫耳猫にしては真面目な対応がされているのだ。
 それ自体は喜ばしいことなのだが、今だけはそのスタッフの真剣な対応を呪わずにはいられない。

「サザーン!」
「な、何だよ! い、言っとくけどな!
 僕はむしろ貴様のためを思って……」

 怯えた様子のサザーンが何やらまた言い訳を始めるのを遮って、俺は『天の眼』を差し出した。

「お前、転移魔法が使えたよな。
 とりあえずこれ、お前が飛べる一番遠い場所に行って、置いて来てくれないか?」
「……いいけど。それをやったら、今回のこと、帳消しにしてくれるか?」

 仮面の奥からちらちらと俺をうかがうようにしながら、サザーンがそんなことを言ってきた。
 どうやらこいつなりに、俺の手伝いをすっぽかしたことは罪悪感を持っているらしい。

「分かった。それで手を打とう」

 俺がそう言うと、サザーンの声がパッと明るくなる。

「じゃ、じゃあ、これからもこの呪われし異形共の棲みし屋敷を使ってもいいんだな!?」
「お前、ここに住みたいのか住みたくないのかどっちなんだよ」

 サザーンはアレックズパーティとのかけもちではあるが、こっちでも一応、準メンバーくらいには思っている。
 屋敷を使わせることには異存はない。

「あと、これからもここでタダ飯……ではなく、哀れなる生贄を喰らう闇の晩餐に参加するのも!?」
「俺たちが毎晩おかしな儀式を開いてるみたいに言うな!
 まあ、そのくらいならいいけどな」

 明らかにこの家にたかりに来ている思惑がダダ漏れだが、これも今さらな話で放り出すつもりはない。
 火急の事態だし、このくらいの要求なら全部呑んでやっても……。

「だったらついでに、この前から借り受けている、漆黒の夜空よりなお黒い、暗黒の祝福を受けしグローブを僕に譲っ……」
「それは駄目だ! ていうかいい加減返せそのグローブ!」

 俺が怒鳴るとサザーンは跳び上がり、急いで俺の手から『天の眼』をひったくって転移を始めた。
 呪文の詠唱が終わると同時に、サザーンの姿が消える。

「これで、とりあえずは時間が稼げるか」

 指貫グローブはまた返してもらえなかったが、流石に今は気にしていられる状況にはない。
 六時間経てばまた、『天の眼』は俺の許にもどってきてしまうのだ。
 所詮こんなもの、一時しのぎの策でしかない。

 ミツキが傍にいれば向こうの接近には気付けるが、デスストーカーまで段階の進んだレイラは、二十四時間プレイヤーを追跡することが可能らしい。
 いくら何でも夜は眠りたいし、いつも気を張りながら生活するなんて絶対にごめんだ。

 もちろん女性が傍にいなければいいのだが、俺のパーティのメンバー構成上、それは不可能。
 だからと言って、仲間たちと別れてレイラと二人で暮らすのも論外だ。

(……だったら、どうする?)

 やはりどうにかして『天の眼』を破壊するか、もういっそ『天の眼』で場所が分かってもたどり着けないような、絶海の孤島にでも移住するか。
 でも、そんな場所は……。


「――いや! あるじゃないか、孤島!!」


 その瞬間、俺の頭にあるイベントが思い浮かんだ。

(あれなら……行ける、か?)

 今度こそ抜けがないか頭の中で何度か確認して、うまくやれそうだと内心でうなずく。
 俺はグッと拳を握り締めると、心配そうに猫耳を揺らしているミツキを見た。

「ミツキ。城までレイラと鉢合わせしないようにたどり着きたい。
 先導を頼めるか?」
「……何か、思いついたようですね」

 ミツキが心なしか嬉しそうに言う。
 それに応えるように、俺は力強くうなずいた。

「ああ。いい避難場所を思い出した。
 城で話を聞くのはただの下準備で、それからそのままその場所に向かう。
 しばらく帰れなくなるから、今回ついてきてくれるかは各自の判断に任せる」

 城にいる、『物忘れの多い騎士団長』スパークホーク。
 彼の一言から派生するクエストに、絶好のものがあったのを思い出したのだ。

「しばらく帰れなくなるような避難場所、それに『孤島』ですか?
 人里を離れるというのであれば、相応の準備も……」

 言いかけたミツキの言葉をさえぎって、俺は答えた。


「いいや! これから向かうのは、王都から徒歩で数十分でたどり着ける、アーケン邸。
 ――指輪盗難予告でこれから陸の孤島になる、ただの屋敷だ!」


 騎士団長の台詞から発生するミステリー系クエスト、『アーケン家の指輪』。
 これに俺は、勝負を賭ける!!
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