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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四十一章外伝 偽りの白馬の王子様

一応本筋ではあるので迷ったのですが、ソーマよりもロイク君の方が主人公みたいになっているので、外伝という扱いにしました

グロ注意とかゲロ注意とかは特にないので、お気軽にお読み下さい
「……ソーマ?」
「――ッ!?」

 控えめに呼びかけられたその涼やかな声に、俺はハッと我に返る。
 横を見ると、思ったよりもずっと近くに、澄んだ色をした青い瞳があった。

「…なにか、あった?」
「い、いや。問題はない、ぞ。……り、リンゴ」

 疑問の声に、俺はあわてて首を振ってみせた。
 あまりに衝撃的な光景に、つかのま意識が飛んでいたようだ。

 頭で理解するのと、それを実際に目にするのとは違う。
 そんな当たり前の事実を、俺はあらためて思い知らされていた。

 アイツ……本人いわく、『白馬の王子ロイク』は、街の広場で今回の目標である女性、レイラの姿を見つけると、いきなり彼女の前へと躍り出た。


『――レイラさんですね。あなたのことを、ずっと待っていました』


 そして、俺なら絶対に言えないキザな台詞と共に、男の俺から見ても完璧な仕種で花束を差し出す。
 打ち合わせ通りではあるから覚悟はしていたはずだったが、あの顔であんなことをされるのは、想像以上の衝撃を俺に与えた。

 しかも、事もあろうにアイツは、そのまま戸惑う彼女の手にキスをしやがったのだ!
 作戦が始まる前は「女の人と話すのは、あんまり得意じゃないんだけどな」なんて言ってた癖に、完全にノリノリだった。

 というか、どう考えてもやりすぎだろう。
 好き勝手にやった結果、作戦が終わった後に苦労するのは誰なのか、全く考えていないに違いない。
 やっぱりアイツのことなんて信用するんじゃなかったと、今さらながらに後悔の念が湧いてくる。

 思えばそもそも、作戦前の衣装合わせや打ち合わせの段階からおかしかったのだ。
 なぜそんな物を持っていたのか、

「これが、俺の持ってる中で一番白馬の王子にふさわしい服だと思う」

 などとうそぶきながら騎士風の衣装を身にまとうと、

「そうだな。作戦の間は、俺のことは『白馬の王子ロイク』とでも呼んでくれ」

 と真顔で言ってきやがった。
 正直頭がおかしいとしか思えない。

 しかも話を聞くと、それはちゃんとした防具ではなく、アイテムショップで売っている扮装用のアイテムで、ハリボテ紛いの防御力しか持たない服らしい。
 情報では、これから行く予定のダンジョンはレベル130。
 英雄様の力というのがどれほどのものなのかは知らないが、決して油断できるような場所じゃないはずだ。

 俺はもちろん、リンゴをはじめとした仲間たちもそれは危ないと口をそろえて言ったのに、しかし本人は平気な顔で、

「大丈夫、大丈夫。いざとなったら、そこの凄腕猫耳剣士様に守ってもらうさ」
「……微力は尽くしますが、私が助けた後で刺されても知りませんよ」

 と、件の猫耳剣士、ミツキに嫌な顔をされていた。
 最初に会った時、ほんの一瞬でもアイツがまともなヤツかと思った自分が嫌になる。


 ――などと、俺が回想に浸っている間にも、『白馬の王子様』の攻勢は止まらない。

「だから、これから俺を見て、信用出来るかどうか見極めてほしいんだ」

 今も真剣な顔で、レイラに詰め寄っていた。

 昨夜、ほとんど夜を徹して行われた作戦会議の結果、レイラには最初からある程度目的を明かす段取りになった。
 だから、アイツはレイラに、

・自分には遺跡にあるアイテムが必要なこと。
・そのために遺跡に詳しいレイラに探索に協力してほしいこと。
・遺跡探索が終わったら故郷にもどらなくてはならないこと。
・だからレイラとは探索が終わったら別れなくてはならないこと。

 をはっきりと伝え、その上で協力を要請するという形になったのだ。
 これなら騙すには変わりないが、多少はフェアと言える……ような気もする。

 それより、この条件でレイラを説得するなんてできるのか、俺はそっちの方が気にかかっていたのだが、それは無用な心配だったようだ。

「……わ、私も、遺跡探索の人手はほしいから、それくらい、なら、いいけど」
「ありがとう、レイラ!」
「べ、べつに、まだ連れていくって、決めたワケじゃない、から」

 押し一辺倒で攻めるアイツに、レイラは傍で見ていても分かるほどタジタジになっていた。
 恐るべきことに、出会ってほんの数分で二人の間の距離はだいぶ近くなっている。
 物理的な距離はもちろん、最初は敬語だったアイツの口調も、昨日の作戦会議の時と同じような言葉遣いに変わっている。

 つまりアイツは、ほとんど自然体で彼女と仲良くなり始めているということだ。
 やっぱりアイツはとんでもない女たらしだ、と俺が認識を新たにしたところで、

「……ソーマ」

 ふたたびリンゴに声をかけられた。

「な、何だ、り、リンゴ。何か、あったか?」

 答える声には、動揺が混じる。
 この青髪の少女は、俺がこっちに来てからなんだかんだで一番長く一緒にいる相手かもしれないが、この澄んだ瞳でまっすぐに目をのぞきこまれると、いまだに落ち着かない気分になる。

「…めだちすぎ」
「あ、ああ。悪い」

 アイツの観察に夢中になって、前に出過ぎていたらしい。
 俺はあわてて後ろに下がる。

 作戦の第一段階における俺の役割は、主にアイツの所に女性が近付かないようにここで人の目を引きつけ、危険そうな相手を足止めすることだ。
 一応今の俺は、『救国の英雄、水没王子ソーマ』ということになっている。
 実態を考えると騙しているようで心苦しいが、仕事と割り切って街の人たちの相手に徹する。

 本気で感謝や激励に来るおじいちゃんおばあちゃんには罪悪感も湧くが、純粋にヒーローに憧れる少年少女を見ると、幼い頃の自分を見ているようで、何だか微笑ましい気持ちになる。
 そんな風に考えていると、ちょうど道の奥から満面に笑みをたたえた小さな女の子が、一生懸命に走りながらこっちに色紙を差し出してきた。

「ゆうしゃのおにいちゃーん!
 サイン、サインちょうだーい!」

 その純真すぎるお願いに心がぐらつくが、サインなんて練習していない。
 というか、いくらなんでも俺みたいなヤツがサインとか、それはさすがにダメだろう。

「悪い。サインは、ちょっとムリだ」

 幼い子供の願いを無下にするのは気が咎めたが、短い言葉にできるだけの誠意を込めて断った。

「…………へぇ。そう、なんだぁ」

 だが、そんな俺の気持ちは、やはり小さな女の子には伝わらなかったらしい。
 その子は一瞬だけ冷たく目をすがめて、ちらりと横に視線をそらした。
 俺は自分の口下手を呪いながら、あわてて言葉をつぐ。

「い、いや、別に君にサインをしたくないというわけではなくて……」

 しかしその前に、その女の子はにこっと笑うと、

「ううん、おにいさんはぜんぜんきにしなくていいよ!
 ほんとうは、ゆうしゃのおにいちゃんのサインなんてなまゴミいかのかちだとおもってるから!」
「……え?」
「それじゃあおにいさん、これからもがんばってねー!」

 ぱたぱたと小さな足を動かして、走り去ってしまった。
 やっぱり、どんなに小さくても俺に女性の相手は荷が重いのかもしれない。

 俺ががっくりとうなだれる、その一方で……。

「なるほど! レイラの話はためになるな!」
「そ、そんな、の……」
「いや! 正直に言うと、遺跡の話なんて今まで全然興味なかったんだ。
 だけど、レイラから遺跡の年代と罠の種類の関係を聞いて、なるほどと思ったよ!」
「それ、なら、よかった、けど」

 そして、そんな俺とは対照的に、我らが『白馬の王子様』の方が、順調にお姫様との仲を進展させているようだった。
 アイツとはまだ十数時間の付き合いなので何とも言えないが、どこかタガが外れているというか、『白馬の王子』という仮面を得て、抑圧された何かが解放されているようにも見える。
 傍目にも実に活き活きとしているのが分かる。

「……でも、私なんかといて、本当に、楽しい?」
「ああ。最近戦いばっかりで、純粋に買い物を楽しんだ経験なんてなかったしな」
「そう……なの?」
「それに、レイラみたいな美人と二人きりでショッピングをするなんて、たぶん人生初だよ」
「美人、じゃ、ないのに……」

 少し離れた場所に立っているだけで、何だか背中がかゆくなる会話が漏れ聞こえてくる。
 俺は意味もなく叫び出したい衝動に駆られ、直後、

 ――ドォン!

 まるで鈍器で思い切り地面を殴りつけたような音がどこからか響いた。

 俺以外のサポート要員がむずがゆい会話に我慢できず、八つ当たりでもしたのかもしれない。
 仮にも王女様であるマキが人前でそんなことをするはずがないから、同じくサポートに回っているミツキの仕業だろう。

「おい。どうかしたか?」

 そして、こちらにも様子がおかしいヤツが一人。
 俺の隣にいたリンゴが、胸の辺りをぎゅっと押さえ、いつもの無表情をわずかに歪めていた。

「…だい、じょうぶ。……ソーマ、は、きにしないで」

 その様子を見て、やっぱり、と思った。
 アイツの女性に対する影響力の強さは……いや、もうはっきり言うと、アイツがどれだけ女にモテるのかは、作戦が始まる前にすでに分かっていた。
 こっちに来るまでほとんど人と触れ合うことのなかった俺だが、男女の機微というものが全く分からない訳じゃない。

 ――あまり認めたくもないことだが、今、俺の隣にいる青髪青目の神秘的な少女、リンゴは、俺の見立てではおそらくアイツに惚れてしまっているのだ。



 リンゴは特に指示をされたわけではないのにアイツの傍に行って何くれと世話を焼いているし、アイツに言葉をかけられただけでうれしそうな仕種をする。
 あれでリンゴがアイツに惚れてないと言われたら、逆に驚くほどだ。

 いや、リンゴだけじゃない。
 あの山の中の掘立小屋から王都にやってきて、半日。
 たったの半日だ。
 しかし、たったそれだけの時間で、はっきり分かるほど、アイツは仲間たちに好意を持たれているようだった。

 仲間全員、ミツキもマキも、今は拠点の屋敷で留守番をしているイーナという少女も、気が付くとアイツに熱っぽい目を向けていた。
 それどころか、あのおかしな仮面をつけた男、サザーンも妙にアイツに……という想像は恐ろしいのでやめておくが、信じがたいことにアイツは仲間全員に惚れられているようなのだ。

 ここまで見せつけられると、もう羨ましいや妬ましいを通り越して、感心するしかない。
 世の中には、俺の想像もつかないようなモテ男というヤツが存在するようだ。


「――ソーマ!!」


 短い声が、三度俺の鼓膜を打つ。

(しまった!!)

 考え事に夢中になって、またしても前に出過ぎていた。
 しかも最悪なことに、二人はこっちに向かって移動中だった。
 アイツが俺の姿を見てまずった、という顔をするが、今さら方向を変えるのも不自然だと思ったのか、何事もなかったかのように俺の前を通り過ぎる。

(すまん!)

 目だけでそう謝る。
 それを受けて、向こうも、

(気にするな)

 と目で返してくれたような気がするが、問題はそこではない。
 この段階で俺の姿をレイラに見られるのは作戦の妨げになりかねない。

 頼むから気付かないでくれ、と念じたが、少し遅れて歩いてきたレイラの視線が、見事に俺とぶつかって――


(……あ、れ?)


 ――すぐに何事もなかったように逸らされた。

 確かに目が合った一瞬、何かめずらしい物でも見たようにわずかだけ視線が引っかかったが、それだけ。
 何か騒ぎ立てる様子も、驚いた様子すらもほとんど見せなかった。

 そうして、密かに安堵の息をつく俺の前を、彼女がすれ違っていった、瞬間、


「あぁ、ロイク……」


 押し殺した彼女のつぶやきが耳に届いて、俺は身震いした。

 相手が好きすぎて殺してしまうなんて、話を聞いているだけでは全然実感できなかった。
 だが、骨の髄まで蕩け切ったような、空恐ろしいほど陶然としたささやきを聞いて、それを理解した。

 ……やる。
 あの女なら、やる。

 しかも、あれでまだあの女の感情は上がり切ってすらいないのだ。
 あの見るからに過剰な愛情を俺が受ける可能性もあることを知って、あらためて慄然とする。
 というか、

「あまり急いで、転んだりするなよ」
「そ、それは……あ、あの」
「ん?」
「その時は、あなたに、さ、支えてほしい」
「もちろん、俺が隣にいる間は俺がレイラを助けるよ。
 だけど、俺が近くにいない時に転んだらどうしようもないだろ」
「……だ、だったら、ロイクがずっと、私の傍にいてくれればいいのに」

 傍で聞いてもひやひやする、こんな地雷ばかりの会話を平然とこなしていく辺り、悔しいがアイツは大物だ。
 まさかこの会話の危険性に気付いていないということもないだろうし、英雄の資質というのは案外こういう場面にも出るのかもしれない。

(……やっぱり俺は、本物の英雄には程遠いってことか)

 方向性はともかく、アイツの胆力は本物だ。
 単純な強さや力だけでは決して届かない何かを見せられた気がして、俺は唇をかみしめた。

 だが、奇妙な敗北感に襲われながらも、不思議と嫌な気分ではなかった。
 むしろそれより、自分ではまだ届かない高みが存在しているということが分かって、うれしいくらいだった。

(だけど、今は……)

 この作戦を成功させることだけを考えよう。
 もう二度と失敗をしないよう、俺は自分に気合を入れ直すと、『王子様』の護衛にもどったのだった。


 そこからも、アイツは止まらなかった。
 鞄から数十個のプレゼントを取り出してそれを全てレイラに渡したり、なぜか突然街中を暴走してきた暴れ馬車からレイラをかばったり、突如絡んできたガラの悪い三人組(一応冒険者で、リーダーはアベルとかいう名前だった)の前で「彼女は、レイラは俺の恋人だ!」と毅然と言い放ったり。
 全て作戦会議で事前に決められていた行動ではあるのだが、それを目の前で鮮やかにこなされるともはや感心するしかない。
 中でも本屋でのやりとりは圧巻だった。

「見たい本があるから、ここでは別行動にしようか」

 と言い出し、本屋の中で『偶然同じ本を取ろうとして指が触れ合っちゃう』状況を作り出すなんて、いくら予定にあってもまともな神経の持ち主ならとてもできない。
 それに、どう考えても『洞穴型ダンジョンの変遷 ――洞窟の現在いま過去むかし―― 』なんて本で指が重なるとかおかしいだろ、と言ってやりたいが、すっかりのぼせ上がっている様子の彼女には効果がなさそうだ。

 そのやり方を尊敬できるかはともかく、アイツが八面六臂、獅子奮迅の大活躍をしたというのは、俺も認めざるを得なかった。


 そして、作戦開始から、ほんの一時間足らず。

「ほ、本当は、初めて会った時からずっと、あなたのことが気になってたの」
「え…?」

 呆れた視線で二人を見守る、俺の目の前で、


「わたし、あなたのこと、嫌いじゃないかも……」


 このクソッタレな作戦は、早くも第二段階へと突入した。


ロイクさんマジ常識人!

……と思えなかった人は、今回感想欄を見るのはやめた方がいいかも
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