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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百三十五章 彼女の真価

 叙勲式は昼からだが、その前に外に出て、イーナに街を案内しようということになった。
 ただ、そのまま外に出たらまた水没王子祭りが始まってしまう。
 街の人に顔を知られている俺とミツキは、指名手配をされていた時のようにスキルを使って姿を隠すことにした。

 やはり変装用のアイテムを使おうかという意見も出たのだが、この中の誰かに化けてしまったら確実に同じ人が二人いることになるので、それはそれで間違いなく目立つ。
 お互いが同時に変身アイテムを使えば姿を入れ替えることは出来るのだが、それでは全く意味がない。
 ついでに一度使ったら二十四時間解除されないなど問題点が浮き彫りになり、やっぱり断念された。

 そういう訳で、俺は前回と同じように『隠形』のスキルを使っている。
 スキル効果で仲間からも見えなくなってしまうのでは、と心配したものの、杞憂だったようだ。
 ゲームではずっとソロだったために気付かなかったが、このスキルは隠身と同じで使用前に姿を捕捉している相手には効果がないらしい。

 一番の心配事が片付いた俺たちは、見送りの人形たちに手を振って屋敷の外に出た。

「これが、わたしの冒険者としての新しい一歩になるんですね!!」

 やたらと元気なのは、おのぼりさんであるイーナだ。
 無駄に感動した様子で彼女の言うところの「冒険者としての新しい一歩」を踏み出して、

「ひゃっ!?」

 見事にすっ転んだ。
 ダメージはなかったようで、イーナはすぐに起き上がり、

「あ、あはは。ちょ、ちょっと勢いよく足を踏み出しすぎちゃいました」

 と照れ笑いで誤魔化そうとしたが、それがこれからのイーナの行く末を暗示しているようで非常に不安だ。
 意外と面倒見のいいリンゴがイーナの服についた土を払っているのを見ながら、俺は隣に立つミツキに、呆れた声でささやいた。

「まったく、あいつのそそっかしさにも困ったもんだ。
 悪いけど、道中はそれとなく気を配って……ミツキ?」

 しかし、ミツキからの返事はなかった。
 ミツキの目は、イーナに向けられている。
 一見ミツキの顔に変化はないが、しかしその頭の上の猫耳ちゃんの表情は複雑だった。
 ムムムッと後ろに身体を傾けて、何か気がかりがある様子だ。

「昨夜、彼女に何かしましたか?」
「え? ……いや、特に何も」

 ミツキの無表情な目が、俺をじっと見つめた。
 なんか怖い。
 これは俺を疑っている目だ。

「今朝からの彼女の動きは不自然です。
 あの歩き方、まるで……」
「まるで…?」

 俺が訊くと、ミツキは、いえ、と言って視線を逸らした。
 何だか煮え切らない。
 第一、俺が何をどうすればイーナの歩き方を不自然にさせられると言うのか。

「初めての王都で、緊張してるんじゃないか?」

 代わりに、もっと現実的な推測を口にする。
 何しろガイドブックを買うほどのおのぼりさんだ。
 テンションが上がって失敗してもイーナならおかしくはない。
 そんな風に小声で話し合っていた俺たちだが、

「全く、貴様らは本当に愚図だな。
 さっさと僕に続け! すぐに街に出るぞ!!」

 なぜかテンションが上がっているサザーンに急かされ、なし崩しに街に繰り出すことになったのだった。


 まだ昨日の余韻が残っているのか、いつになく騒がしい王都を人を避けて歩く。
 テンションが上がっているせいか、イーナの歩きは異様に速く、ついていくのも大変だった。
 サザーンなんて早速迷子になりかけていたが、くまをお目付け役に任命したので大丈夫だろう。
 だいぶ後ろの方でくまに引きずられているサザーンを確認して、俺は隣を歩くイーナに話しかけた。

「イーナのレベルは、確か74だったっけ?」

 うろ覚えではあるが、別れた時のレベルはそのくらいだったはずだ。
 一人では試練の洞窟でのレベル上げも出来ないし、ラムリック周辺にはレベル70以上の敵なんていない。
 レベルは変わっていないだろうと思って訊いたのだが、その質問にイーナは不敵な笑顔を浮かべた。

「見てみますか?」

 そこでイーナが取り出したのは、レベル鑑定紙だ。
 手早く自分の腕に押し付けると、文字の浮かんだそれを俺に見せてくる。


『イーナ・トレイル : LV78』


 意外にも、四つもレベルが上がっていた。
 俺の驚きを見て取ったのか、イーナは自慢げに胸を張った。

「もちろん、ソーマさんがやってくれたあの魔法みたいなレベル上げにはおよばないですけど。
 でも、ティエルさんと二人でがんばって、なんと、たった二週間でここまで上げたんです!」

 すごいでしょ、ほめてほめてというオーラを全開にして、キラッキラの目でこっちを見てくる。
 その圧力に屈した訳ではないが、俺は素直に賞賛の言葉を口にした。

「いや、正直自力でここまでレベルを上げてくるなんて思わなかった。
 俺がいない間にも、イーナは頑張ってたんだな」
「え、えへへへ」

 へにゃっと、イーナの顔がだらしなくとろける。
 ただ、ラムリック周辺でどのようにしてレベル上げをしたのか。
 その方法については、一人の『猫耳猫』プレイヤーとして気になった。

「それで、どうやって王都に来るまでにここまでレベルを?」
「あ、それはですねぇ……」

 イーナの話によると、古い文献にイーナくらいのレベルの人間がラムリックの周辺に出るとあるレアモンスターを倒してレベルを上げた話が載っていて、それを実践したという。

「でも、何でそんな本を……」
「ソーマさんのことをもっとよく知るためです!」
「俺の…?」

 俺がこの世界にやってきてからまだ数ヶ月も経っていない。
 古い文献なんて調べても仕方がないと思うのだが。
 当然のごとくそんな結論に至るのだが、イーナにとっては俺が理由に思い当たらない方が不思議なようだった。
 小首を傾げて確認してくる。

「だってソーマさん、『封印の守護者』、なんですよね?」
「――ッ!!」

 すっかり忘れていたところにその名称(黒歴史)を聞かされて、思わずせき込みそうになった。
 まだあんな適当設定、信じていたのか!!

「…ふういんの、しゅごしゃ?」

 すぐ後ろを歩くリンゴが釣られるように首を傾げた。
 まずい!
 リンゴにまで聞かれたら死ねる。

「そ、そうか! うん。でも、その話はまた今度にしようか!!」

 無理矢理、話題を転換させる。
 イーナは不思議そうな顔をしていたが、ふたたび顔を明るくして俺に問いかける。

「そういえば、ソーマさんたちは一体何レベルくらいになったんですか?」
「えっ?」

 その質問に、一瞬平穏にもどった空気がすぐさま凍りつく。

「たしか王都に来る前は、実はわたしよりレベルが低いって言ってましたよね。
 でもソーマさんのことだから、またすごいことをしてレベル上げとかしてそうですし……。
 もしかしてもう、ひゃ、100レベルを超えてしまったりとか……」

 問いかけるその目は、何も言わずとも「あんまり差がついてないといいなー」と語っていた。
 俺(レベル178)はリンゴ(同じくレベル178)と目を合わせると、

「おっ! あっちに防具屋があるぞ!!」
「…ぼうぐは、だいじ」

 結託してもう一度、話題を変えることにした。
 ほら、あんまり一度に色々言うのも、心臓に悪いしね。

「あ、あれが王都の防具屋ですか!
 わたし、一度は行ってみたいって思ってたんです!」

 そしてあっさり引っかかるイーナ、マジチョロインちゃん。



「あ、ちょっと待ってください」

 防具屋に突撃する勢いだったイーナだが、その直前でぴたりと立ち止まった。

「どうしたんだ?」

 俺が尋ねると、ちょっと顔を赤くして、鞄をごそごそやり始めた。

「あの、魔封船代でお金を使い切っちゃったので……」
「ああ、そうか……」

 考えてみれば、イーナが一人でここにやってきたのは、ティエルの分の魔封船代が出せなかったからだ。
 王都の装備品を買うお金があるはずもない。

「あ、でも、実は一つだけ。ものすごい宝物があるんです」
「宝物?」

 聞き返すと、イーナは突然ちらりちらりと周りを気にし始めた。

「ちょっと、近くに寄ってもらってもいいですか?」
「いいけど……」

 俺が顔を寄せると、イーナは声を潜めて話し始めた。

「今から見せるのは、わたしたちが偶然見つけたレアアイテムです。
 すごくめずらしいアイテムで、ものすごーく高価な品でもあるので、もしかするとソーマさんでも見たことがないかもしれません」
「そんなに?」

 俺の問いに、はい、とイーナはためらいなくうなずくと、ずっと鞄に突っ込んでいた手を抜いた。
 そして、周りを気にしながらそっと手を開いて、そのアイテムを見せた。


「――これ、です」


 それを見た瞬間、俺は驚きのあまり声を上げそうになった。

「これは、まさか……」

 かつて感じたものと同種の衝撃が、俺に走る。
 イーナの手にあったのは、金色の輝きを放つ、一枚の硬貨。


「はい。レアモンスター、『ゴールデンはぐれノライム』が落とす超レアアイテム、『ノライム金貨』、です」


 あまりの出来事に頭が真っ白になった俺に、いそいそと金貨をしまったイーナが解説をする。

「実はこのアイテム、普通に売っても高いそうなんですが、王都にある『バウンティハンターギルド』という場所に持っていくことで、なんとなんと、10万Eで引き取ってもらえることがあるそうなんです!」

 小声ながら、興奮した様子でイーナは話す。

「もちろん納品依頼が出てる時でないとダメだそうなので、無条件ってワケじゃないんですけど、それでも10万ですよ、10万!!
 それを知った夜はわたし、緊張して眠れなくって……。
 あ、でもソーマさんはこれが何だか知ってたみたいですね。
 前にも見たことあるんですか?」
「……うん、まあ、ちょっと」

 まあ、ちょっとだけ、ほんの74枚ほどならね。
 という言葉を、俺は胸の奥に飲み込んだ。

 しかし、これでイーナがレベル78になった理由が分かった。
 ノライム金貨を手に入れたということは、イーナがレベル上げをしたレアモンスターというのはゴールデンはぐれノライムのことだったのだろう。

 俺の記憶が正しければ、ゴールデンはレベル50~100のポップポイントに低確率で出現するよう設定されている。
 ラムリック周辺にも、確か一箇所か二箇所くらいこいつらが出没するポイントがあったはずだ。
 ゴールデンはぐれノライム自体はレベル100程度のモンスターなので、うまく倒すことが出来ればレベルが70を越えていたイーナでもレベルアップが可能だろう。
 討伐大会でゴールデンを使ってレベル100近くまで上げた俺たちが言うのだから間違いはない。

「そうですか、さすがソーマさんですね!!」

 無邪気に感心するイーナを前に、俺たちは目配せを交わした。
 とりあえず、討伐大会のことは黙っていよう。
 俺、リンゴ、ミツキの間で瞬間的にそんな取り決めが成立した。

 もちろんイーナはそんなアイコンタクトには全く気付かず、楽しげに提案をする。

「ですから、防具屋に行く前に、ハンターギルドに行ってみよ――」
「それは駄目だ!」

 イーナの言葉を、食い気味に遮る。
 一度はノライム金貨で破産寸前まで追い込まれたバウンティハンターギルド。
 そこに金貨の納品依頼があるとも思えないし、持っていったら喧嘩を売っているとも取られかねない。

「え? だ、ダメって、何でですか?」

 そんな事情を知らないイーナは、俺の剣幕に少し怯えていた。
 そこに、リンゴとミツキのフォローが入る。

「…きょうは、ひがわるい」
「一枚だけ持っていっても相手にされないでしょう。
 納品依頼とは大抵複数個のアイテムを求められるものです」
「な、なるほどぉ」

 リンゴの台詞はともかく、ミツキの理屈には説得力があった。
 イーナも納得する。

「だけど、そうなるとわたし、防具なんてとても買えないですね。
 ……違う場所に、行きましょうか」

 本人は隠しているつもりらしいが、防具屋に未練たっぷりなのが見ていて分かる。
 どうしようか、と思った時、ミツキが意外な提案をした。

「だったらそれは、私が買い取りましょう」
「え? で、でも……」

 戸惑うイーナに、ミツキがたたみかける。

「その代わり、値段は9万Eにして下さい。
 貴女はすぐにお金が手に入って、私は後で1万Eの得をする。
 悪くない取引だと思いますが」
「え、えっと……」

 イーナが判断を仰ぐように俺を見た。
 俺はイーナの背中を押すようにうなずいてやる。

「じゃ、じゃあ、お願いします、ヒサメさん」
「ミツキで構いませんよ、イーナさん」

 ほのぼのしたやり取りをしている二人に、俺は胸を撫で下ろした。
 脳筋の代表格かと思われたミツキだが、ここまでの気遣いが出来るようになっていたとは、純粋に驚きだ。

 もちろん二人の取引は問題なく行われ、イーナは9万Eの臨時収入を得て、意気揚々と防具屋に乗り込んで行った。


 しばらくはへーとかほーとか言いながら店内を見て回っていたイーナだが、そこを防具屋の店主に目をつけられた。

「もしかしてお客さん! お客さんがつけてるのは、ミスリル製の防具じゃありませんか?!」
「は、はい。そう、ですけど……」

 そのあまりの勢いに何だか不安そうにうなずくイーナに、店主のおじさんは破顔した。

「やっぱり! それ、こちらで買い取らせて頂けませんか?」
「……へ?」

 店主の話では、数日前からこの街にはミスリルが不足気味で、ミスリルの値段が高騰している。
 そのおかげで今、ミスリル製の鎧は下手な上位素材の防具より高値で取引されているらしい。

「ついでにここで防具を買って頂けるなら、さらにお値段もお勉強いたしますので!」

 ここぞとばかりに売り込む店主。
 商魂たくましいとしか言えないが、それはイーナにとっても渡りに船だろう。

「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします!」

 一も二もなく飛びついたイーナの横に、気配の遮断をやめたミツキがつく。
 顔が広く王都でも有名なミツキが横にいれば、イーナが騙される心配もないだろう。
 それはいいのだが……。

(……しかし、ミスリル不足、か)

 ゲームでのイベントを知っている俺としては、何とも不安になる状況だ。
 本来プレイヤーが参加しなければ発動しないイベント、『ミスリル収集イベント』が自動進行している可能性もある。
 気は進まないが、今度あそこ(・・・)に顔を出してみないとな、と考えをまとめた時、

「じゃあ、これにします!」

 ちょうどイーナの買う物も決まったようだった。
 元気なイーナの声に、顔を上げる。

 イーナの指差した先、そこには……。



「やった! やりましたよ、ソーマさん!」
「あ、ああ。やったな」

 喜びのあまり飛び跳ねそうなイーナに、俺は引き気味の返事を返す。

「こんなすごいことがあっていいんでしょうか!
 王都に来てまだ二日目なのに、まさかあの憧れの、オリハルコンの防具を手に入れてしまうなんて!!」

 街の雑踏の中、楽しげにステップを踏むイーナの身体には、見慣れた魔法金属が光っている。
 そう、防具屋でイーナが選んだ防具というのは、オリハルコン製の軽鎧だった。

「ミスリル製の防具があんな高値で売れるなんて、わたしはもしかすると、今日この世界で一番幸運な人間かもしれません!」
「そ、それは……よ、よかった、な」

 気まずい気持ちでイーナから目を逸らし、リンゴと視線を交わす。
 防具屋でうきうきるんるんと上機嫌に注文をするイーナに、俺たちは何も言うことが出来なかった。
 「オリハルコンの軽装備なら前に使ってたのが二組余ってるから、一つ貸そうか?」なんて、とても言える雰囲気じゃなかったのだ。

 ま、まあ、あんまり俺たちが手助けしすぎるのもよくない。
 そう思い直し、前を進むイーナに追いつこうと歩きかけて、そこでイーナが武器屋をスルーしようとしているのに気付いた。

「あれ? 武器屋はいいのか?」

 俺が尋ねると、イーナはこくんとうなずく。

「個人的に興味はありますけど、武器は使い慣れたものの方がいいですし、この脇差だって充分強いですから」
「ああ。そういえばそれだけはドロップ品だったな」

 同レベル帯のアイテムでも、モンスタードロップの方が店売りよりも強い場合が多い。
 武器種はレアな忍刀だし、レベル70の鎧騎士のドロップなのだから、王都の武器の中でも中堅以上の強さはあるだろう。

「それに、ソーマさんも武器を変えてないみたいですから、ちょっと安心かなって。
 ほら、ソーマさんが持ってるのは前と同じ刀だし、リンゴさんが持ってるのは、わたしと同じ脇差ですよね?」
「……あ」

 言われて、自分たちの武器に目を落とす。
 確かに見た目は以前と同じ不知火と脇差に見える。

 ただ、実体には天と地ほどの開きがある。
 俺が持っているのは不知火の外装に強力なボスドロップ『肉切り包丁』を合成した物だし、リンゴの脇差に至っては、その性能は最強の槍『金剛徹し』のものを継承している。
 たかだかレベル70の雑魚ドロップ品とは質が違う。

「あー、いや、その、な……」

 それをどうやって説明するか迷っていたが、その前にイーナが別の話を切り出してきた。

「あの、まだ時間ありますよね。最後に、行ってみたい場所があるんですけど」



 イーナが希望した場所は、デウス平原だった。

「せっかく街を案内してくれると言っていたのに、ごめんなさい。
 でも、わたしの力がここでも通用するか、それをどうしても確かめておきたいんです!」

 そう話すイーナの目は、決意に燃えている。
 この王都周辺には、デウス平原以上に攻略が簡単な場所はない。
 逆に言えば、ここに出てくる敵にさえ勝てるのなら、いつでもレベル上げが可能だということ。
 確かにここを攻略出来る力があれば、王都でやっていくことは不可能ではないだろう。

 そんなイーナの熱意を後押しするように、

「あ、あそこ! あそこにいるの、もしかしてゴールデンはぐれノライムじゃありませんか!?」

 門から出てすぐの場所に、金色のノライムが出現していた。
 しかも、周りにほかの冒険者の姿はない。
 今なら俺たちだけで狩りを行うことが出来るだろう。

「すごい! 今日は本当に、すごい日です!
 あ、あの! わたしが後ろから追い込みますから、逃がさないようにお願いします!」

 イーナは狂喜乱舞して、ゴールデンを中心に大回りに後ろへ向かう。
 その動きは躍動感たっぷりで、途中急ぎすぎて転んだことも含め、溌剌とした活力に満ちていた。
 ただ、やる気をみなぎらせるイーナとは対照的に、俺は複雑な思いを抱いていた。

(どうしたものかなぁ……)

 ここまでの半日を過ごして痛感させられたのは、一般的な冒険者と俺たちとの違いだ。
 たぶんイーナは、この世界の冒険者としては異例の速度で成長をしてきた。

 この『猫耳猫』でも同レベル以上の敵を倒し続ければ、そこそこの頻度でレベルは上がる。
 そう考えると二週間で四レベルなんて遅いと思ってしまうが、そんなことはない。
 ぶっちゃけるとこのゲーム、難易度が高すぎて普通に戦っているだけでは自分と同じレベルの敵に勝てるはずがないからだ。

 そこを知恵と根気と情報力で乗り切るのが訓練された『猫耳猫』プレイヤーだが、死んだからと言ってリセットも出来ず、バグ技やスキルキャンセルも使えないNPCに同じことが出来るはずもない。
 同レベル帯の敵と戦うなんて自殺行為であり、ソロで戦うなんてもってのほか。
 安全に戦おうと思えば、結局は数人のパーティを組んで、自分より10や20もレベルが下の相手に挑むしかないだろう。
 しかしそれでレベルを上げようと思ったら、それには気が遠くなるほどの時間がいる。
 同レベルどころか格上を撃破し続けてガンガンとレベルを上げ続けている俺たちの方が、この世界では異常なのだ。

 イーナは俺たちが魔王を倒したことは知っているはずだが、なまじ魔王の討伐方法とミツキの強さを知っているだけに、俺がどれだけ強くなったのか、うまく想像出来てないらしい。
 まあ、一ヶ月にも満たない間にレベルを150上げて反則級の装備をそろえてドーピングまでして、魔王を倒せるくらい強くなりました、なんて、普通の人だったら信じられないというか、誰かに言われなければ想像すらしないだろう。

 俺たちは今日、イーナに自分たちの実力がバレそうになる度に、適当に誤魔化してしまった。
 だが、いつかは話さなければならないことだ。


 イーナは序盤こそトレインモードという特異性を持つが、基本的にはミツキやリンゴや真希、あと一応サザーンなどとは違って、極端な能力補正を持たない普通のキャラクターだ。
 実は高レベルになると凄く強くなるのでは、とか、実は専用のアイテムが最強で、とか、そんな甘いこともおそらくは起こらない。

 俺は個々のキャラクター情報には疎いが、仲間キャラの性能比較のページくらいは確認したことがあるし、飛び抜けて優秀なキャラであれば絶対に話題になる。
 トレインちゃんを最終メンバーにしているという人もいるにはいたが、強キャラだと言っているのは聞いたことがない。

 素のステータスの話をすれば、俺、つまりプレイヤーだって特に補正はついていない。
 それでもやり方次第では誰よりも強くなれるのだから、強キャラでないと絶対に駄目、なんてことは言わないが、レベル差が大きい状態で連れまわせるような人材ではないのだ。
 無理にそんなことをすれば、イーナは遠からず死んでしまうだろう。

(これが終わったら、イーナに俺たちの実力を正直に明かそう)

 最初にイーナに会った時ならまだしも、今の俺たちには色々な意味で余裕がある。
 もしイーナが望むのなら、イーナがモノになるまで集中的に鍛えることも出来るだろうし、別行動を望むとしても、もちろん屋敷を追い出そうとは思わない。
 とにかく、全てはイーナの選択次第だ。

 そう結論付けて、俺がイーナの動きに目線をもどした時だった。
 俺たちの逆側に移動したイーナが、意外な機敏さでゴールデンに迫る。

「あれ、思ったより速いな」

 焦りすぎて時折バランスを崩してはいるが、かなりの速度だ。
 そのおかげか、ゴールデンまであと一歩の距離まで近付くが、そこで流石に気付かれた。
 だが、これは計画通りだ。

 あわててゴールデンが逃げようとしている方向には、俺にミツキにリンゴ、あと一応サザーンもいる。
 普通の冒険者ならはぐれノライム系には1しかダメージを与えられないところだが、俺やミツキならゴールデンの防御を突き破って一撃で倒すことも出来るし、リンゴはゴールデンの防御を破るのは不可能でも、多段攻撃である雷撃でゴールデンのHPを一気に削れる。
 サザーンは、ええと、サザーンも……魔法の効かないゴールデンに広域破壊魔法をぶつけて、辺りを火の海にすることが出来る。

 サザーン以外に来たら確実にゴールデンを仕留められる、最強の布陣。
 そこに確実に追い込むための駄目押しとして、

「飛び込み斬り!」

 イーナが短剣スキルを発動し――


「……は?」


 ――次の瞬間、ゴールデンはぐれノライムは真っ二つになった。


 ……何が起こったのか分からない。

 いや、何が起こったのかは分かる。
 逃げるゴールデンをはるかに越える速度でイーナがゴールデンに追いすがり、斬撃を浴びせたのだ。
 そして、その一撃を受けたゴールデンは、何の抵抗もなく両断された。

 それははっきりと見えていた。
 だが、なぜそんなことが起こったのか、分からない。
 説明を求めて、みんなの視線がイーナに集中する。

 するとイーナは俺たちを見て、真っ二つになったゴールデンはぐれノライムを見て、また俺たちを見て、


「――なんか、切れちゃったんですけど」


 泣きそうな顔で、どこか聞き覚えのある台詞を放ったのだった。
+注意+
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