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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百二十九章 与えられし称号

時系列の 法則が 乱れる!
 魔王を倒して、イーナも無事に呪いから解放された。
 全て万々歳、のはずだったのだが、イーナと街の北門で再会してから、屋敷に帰るまでが意外と大変だった。

「そ、それ以上、近付かないでください!
 ソーマさんには、ゆ、指一本ふれさせません!!」

 ようやく俺から離れたイーナは、手にした脇差と懐かしのもう一本のたいまつシショーでミツキ(・・・)を牽制したのだ。
 武器を握る手は震え、足も生まれたての小鹿状態だが、俺の前に立ってミツキから俺をかばうようにしている。
 ……うん、意味が分からない。

「いやいや、落ち着けってイーナ。
 あとミツキ。お前はイーナになんて言ってここまで連れてきたんだよ」

 俺の言葉にイーナはきょとんとした表情を見せ、ミツキはまるで怒られた子猫のように、耳をぺたんと後ろにくっつけた。
 そして……。

「説明不足にもほどがあるだろ……」

 事情を聞いた俺は、その場で地面に座り込みそうになった。
 何でもミツキは、時間がないからと屋敷の中で人形たちに追われていたイーナを問答無用でさらい、当然のように暴れ出すイーナの耳元にこうささやいたらしい。


「――大人しくして下さい。彼と会えなくなっても良いのですか?」


 どこをどう聞いても悪者確定である。

 しかも最近は忘れそうになってしまうが、ミツキは最初、敵として俺たちの前に出てきた。
 その後、色々あって仲間になったものの、イーナは俺とミツキが和解したことを知らないのだ。
 俺は呆れた視線でミツキをとがめたが、

「私も全ての事情を把握してはいません。
 どうせなら説明は貴方に一任しようと考えただけです」

 ミツキは予定通りというように、あくまで平然とした顔でそう言い切った。
 うん、それで猫耳が「や、やばいよー!」と小刻みに震えてさえいなかったら、完璧だったのにな。

「……はぁ。まあ、いいけど」

 ミツキが気をきかせてイーナを連れてきてくれたのは確かだ。
 それに、イーナに隠しておきたいこともない訳じゃない。

「ど、どういうことなんですか!?」

 いまだ動揺が抜け切れていない様子のイーナを見る。
 俺は感動の再会をしていたつもりだったが、イーナからすれば、誘拐されて犯人のアジトに行ったら、知り合いが人質として捕まっていた、みたいな状況だったのかもしれない。
 混乱するのも無理はない。

「何から説明したものかな……」

 そして、どこまで説明したものか。
 追いついてきた俺たちの仲間を振り返った俺は、まずは王都に来てから出来た、俺の仲間を紹介することにした。


 途中途中でイーナが、「ええっ!? 王女様っ!?」とか、「ど、どうしてぬいぐるみがっ!?」とか、お決まりのリアクションを見せたものの、自己紹介はつつがなく終わった。

 それから俺は、あらためて今回の経緯をイーナに説明した。
 イーナが俺に連絡をしていたあの時、偶然・・魔王が呪いをかけてイーナたちの時間が止められてしまったこと。
 それを治すために、俺たちが魔王を倒そうと決めたこと。
 魔王城を水攻めにするという計略により、俺たちは計算通り(・・・・)に魔王を倒したこと。
 など、大まかに言うとそのくらいだ。

 最後、俺が見事な知略で魔王を倒したくだりでみんなの俺を見る目が氷点下になっていた気がするが、一応話し終えるまで口をはさまずにいてくれた。
 ……ま、まあ、少しくらい見栄を張るのはご愛嬌、ということで。

「は、話が大きすぎて、すぐには実感がわかないですけど……でも、大変だったんですね」

 しかし、そこはチョロイン筆頭であるイーナ。
 何の疑問も差し挟むことなく、ころっと騙された。

「ありがとうございます! ソーマさんは、いえ、ソーマさんたちは、わたしの命の恩人です!」

 以前にも増してキラキラとした眼差しで、俺を見てくる。
 正直、この視線は苦手だ。
 俺は微妙に顔をそらしながら答える。

「いや、城まで行って水入れてきただけで、別に大した苦労はしてないから……」

 実際問題、屋敷を出発してからまだ半日も経っていない。
 俺自身はモンスターともほとんど戦ってないし、MPポーションのおかげで魔法を使った疲労もない。
 ちょっとしたフィールド探索に出ていたようなものだ。
 口には出さないが、それまでの準備の方が千倍大変だった。

「……それもどうかと思いますが」

 いまだに魔王が溺れ死んでしまったことに釈然としない思いを抱えているらしいミツキが、ぼそっと言う。
 そりゃあ一族の悲願を溺死で叶えてしまったとしたら、すぐには納得出来ないだろう。

「で、でも、魔王の城の近くにはとても強いモンスターが出てくるって聞きました。
 そんなところに行くなんて、それだけで……」
「……失礼」

 イーナが何か言いかけた時、ミツキが動いた。

「え? へ?」

 何が起こったのか分からないでいるイーナの横を一瞬で通り抜け、ミツキが向かった先には、モンスターがいた。
 まだここは野外フィールドだ。
 モンスターは出てくるし、当然近くにいれば俺たちを襲ってこようとする。

「話の邪魔です。空気を読んで下さい」

 それらのモンスターたちを、ミツキは腰に差した刀、『月影』の一太刀で全部倒してしまった。
 『憤激の化身』を使い、さらに3倍の速度でスキルを使えるようになってから、俺の動体視力は以前よりも上がったような気がする。
 それでもミツキの攻撃は見えるか見えないか、といったところだ。
 あいかわらずのチート仕様である。

「え、えっと……」

 抜き身の刀を手にしてもどってきたミツキを見て、イーナは黙ってしまった。
 ぶっちゃけた話、ミツキ一人いれば魔王城までの道中なんてハイキングと変わらない。
 イーナもそれが分かったのだろう。
 なんと言っていいものか迷って、口ごもった。

「…ソーマ」

 そこで助け船を出したのはリンゴだった。
 俺の袖をくいくいと引っ張ると、

「…はなしは、あとで」

 目線だけで、まずは街に入ろうと提案してくる。
 当然、俺に否やはない。

「ふむ。なら僕も、仕方ないからアレックズやライデンの様子でも見てきてやるか。
 ……し、心配ということはないが、誰のおかげで助かったのか、奴らにも教えてやらなくてはならないからな!」

 サザーンもなんだかんだで仲間が無事か心配しているようで、街の方に足を向ける。
 さらに真希も、

「そうだよねー。わたしも家の人に黙って出て来ちゃったから、バレない内に早く帰らないと」

 何だか空恐ろしいことをさらっと言って、元気よく門の方に歩き出す。
 もしかして、今日魔王城に行くこと、王様や王妃様に全く相談してなかったなんてことないよな?

 戦慄する俺の肩にくまが飛び乗ってきて、なんとなく帰還モードになったところで、イーナが俺を呼び止めた。

「あ、あの、ちょっと待って下さい。
 最後に一つだけ、か、確認させてもらっても、いいですか?」
「確認? いいけど、どうした?」

 妙に緊張した態度に俺が首を傾げながら問うと、イーナは顔を赤くした。

「え、ええっと、ですね。あの、あれです。
 魔王の声が聞こえる直前のこと、ですけど……」

 無駄に手を振りながら、わたわたとイーナは言葉をつむぎ、そして……。



「――わ、わたしとソーマさんが結婚したの、夢じゃないですよね?」



 その言葉が放たれた瞬間、

(……ん?)

 なぜだか周りから音と動きがなくなり、世界が凍りついたような気がした。

 だが、そんなはずがない。
 一瞬違和感を覚えたが、目の前に真っ赤になって不安そうにこちらをうかがうイーナがいるのだ。
 彼女を待たせる訳にはいかない。

「あ、ああ。夢じゃないぞ」

 俺はそう言ってうなずいた。
 そしてそれを契機としたように、俺の周りで異変が連鎖する。
 始まりは、俺の隣でまだ服の裾を握りっぱなしでいたリンゴだった。

 ――ぎゅっ!

 俺の服をつかんでいたリンゴの手に、力がこめられ……。

 ――カラン。

 ミツキが抜き身のまま手に持っていた愛刀を取り落とし……。

 ――バタン。

 街に向かって歩いていたサザーンが足を滑らせ……。

 ――ぐにぃぃ。

 真希が「あれ? これって夢?」とつぶやきながら自分の頬をつねり始め……。

 ――ニタァ。

 くまがどうにでも取れる笑顔を浮かべ、俺の鞄の中に飛び込んだ。
 というか、たぶん逃げた。

 周りを見回すが、誰も動かない。
 この状況を作った当のイーナですら、「結婚、ソーマさんと結婚……」と身もだえするばかりで、動こうとはしない。
 それぞれがそれぞれの状態のまま、どうしようもなく硬直している。

「え、ええっと……みんな?」

 言ってから、そういえばイーナにプロポーズをしたことを誰にも話してなかったな、と思い出した。
 この世界で結婚がどの程度の重さで扱われているのかは分からないが、仲間が突然結婚宣言していたらそりゃあ驚くだろう。
 ただ、その場に居合わせてある程度事情を知っているはずのリンゴまで硬直してるのは……。

 などと、呑気に考えていられたのはそこまでだった。

「説明を、要求します!」

 現実逃避をしていたはずの真希が、突然血走った目で俺に詰め寄ってきたのだ。

「え、いや、説明ったって……」

 どこまで話せばいいのか、とっさには判断がつかない。
 状況だけを話すなら、俺が告白してイーナが了承した、というだけで終わりだ。
 しかし一方、この結婚の話を突き詰めるなら、『魔王の祝福』イベントのこと、ひいては俺にゲーム知識があったことをどうしても説明しなければならない。
 俺がためらった、その時、

「ああ、そういえば……」

 完全停止していたミツキが、唐突に再起動を始める。
 落ちた刀に目をくれぬまま、ぽんと手を打った。

「約束がありましたね。魔王を倒して帰ってきたら、貴方の秘密を聞かせてもらうと」
「あ、ああ……」

 そうだ。
 いささか一方的だったが、ミツキには俺のことをきちんと説明すると約束をした。

 もう、この世界で最大の脅威だった、魔王はいない。
 今後の身の振り方を考える上でも、リンゴやミツキに本当のことを話すのは……。

「その権利、今使いましょう」
「……は?」

 しかし俺のそんな思索は、ミツキの言葉で全て吹き飛んでしまった。

「ですから、あの約束で結婚についての話を伺いたいと言っているのです」
「え? い、いや、だけど、その約束はもっと大事な……」

 訳が分からず俺が反論しようとすると、ミツキにまでぐい、と詰め寄られる。

「これも、大事な、話です」
「え? や、でも……」
「非常に重要な、話です」
「……はい」

 なぜか押し切られてしまった。

「そうそう! そーまには、『せつめーせきにん』があるよ!!」

 後ろでは真希が適当なことを言ってうなずいている。
 そしてリンゴは……。

「リンゴ?」

 リンゴは、動かない。
 顔をうつむかせ、何かを堪えるように強く唇を引き結びながら、しかし何も言おうとはしなかった。
 ただ、俺の服を握る手には、指が白くなるほどの力が込められている。

 さすがに今のリンゴに声をかけることはためらわれた。
 俺は仕方なく、最後に残った一人。
 ようやく立ち上がった仮面の魔術師に助けを求める。

「な、なぁサザーン。お前からも何か……」
「うひゃえ?!」

 だが、俺が声をかけると、サザーンはどこから出してるのか分からないような変な声を出すと、唐突に仮面に手をかける厨二っぽいポーズを決め、

「ふ、ふふ、何、け、けっこん、けっこん……血痕だと?
 確かに血液というのは良い魔術触媒になるため、我が邪滅の儀式魔法を行う時にも重宝しているぞ。
 そも陣の作成には魔法金属であるミスリルが適していると言われるが……」

 いきなり魔法薀蓄を話し始めた。
 あまりに自分と縁遠いワードを聞いたせいで、テンパっているようだ。
 あいかわらず使えない。

 その間にも、ミツキと真希からの圧力は続いている。
 俺の服をつかむリンゴの指も、一向に緩む気配がない。

「わ、分かった。話す。全部話すよ」

 俺は両手を上げて降参の意を示した。
 そうするしかなかった。

「ただ、ちょっと俺にも時間をくれ。
 長い話になるだろうし、俺だって話すことを整理したい」

 街や俺たちが落ち着くまで、まだ時間はかかるだろう。
 俺は少し考えて、結論を出す。

「そうだな。明日の夜、屋敷の中で話そう。
 それまで、この話題は禁止だ。
 ……それでいいな?」

 俺の宣言にその場にいた全員がうなずいたのを見て、俺は肩の力を抜いた。

「じゃ、とりあえず帰ろうか。懐かしの我が家、って奴にさ」

 そうしてようやく、俺たちは街の門をくぐることが出来たのだった。



 肉体的には全く疲れていないのだが、精神的には消耗した気がする。
 冗談ではなく、猫耳屋敷が恋しい。
 これは一刻も早く帰って休もうと、そう思っていたのだが……。


「あー! 『すいぼつおうじ』のおにいちゃんが、かえってきたー!!」


 俺たちが街に一歩踏み入れた途端、どこか聞き覚えのあるあどけない雰囲気の声が聞こえた。
 そして、それを皮切りに、

「おお! あれが魔王を倒した……」
「ありがたや、ありがたや」
「なるほど、あの人が『水没王子』様か」
「たしかに、水没しそうな顔をしているわっ!」
「うん。あの時の手配書で見たのと同じ顔だな!」
「みんなー! 英雄のご帰還だぞー!!」

 街の人々が俺たちを遠巻きにしながら、口々に何かを言いだした。

 これは、魔王を倒した影響だろうか。
 ゲームでは魔王を倒しても街の人たちの会話パターンは全く変わらなかったが、やはり現実ともなるとちょっと違うらしい。
 でも、素直に喜べない感じがするのはなぜだろうか。

「あ、あの、どんどん人が集まってきますよ!」

 イーナの声に辺りを見回すと、どこから湧いて出たのか、次々と野次馬は増えて、北門前の通りは人でいっぱいになっていた。
 しかも、その全員がこっちを見て笑顔を浮かべている。

 やがて、集まった群衆たちの中から、自然とある言葉が叫ばれ始めた。
 初めは小さかったその声は、どんどんと人々の間に浸透していき、大きなうねりとなった。


「「「水没王子! 水没王子! 水没王子! 水没王子!!」」」


 ……いや、なんだこれ。
 意味が分からない、と言いたいところなのだが、コールをしている全員が、なぜか()を見ているのは偶然なのだろうか。

 水没したのは俺じゃないし、俺に王子要素はない。
 普通に考えれば俺が『水没王子』なんて、そこはかとなく悪意が混じったような二つ名をつけられることはないはずなのだが……。

 と、熱狂的かつ意味不明な謎のコールに戸惑っていたのだが、その群衆の中に、ある人物(・・・・)の姿を認めた時、俺は確信した。

(このあだ名広めたの、絶対あの子じゃねえか!!)

 押し寄せる歓喜の波の中で、俺は、


「ねーねー。おにいちゃーん。おにいちゃんは、『ゆうしゃ』だよー!!」


 最前列で一際楽しげに笑う毒舌少女を、にらみつけたのだった。
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