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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第十二章 誇り高き漢

 例えばここに、二つの武器があるとする。


くろがねの剣[剣]

攻撃力:40
重さ:10

付加属性:なし
特殊能力:なし


打刀[剣・刀]

攻撃力:36
重さ:8

付加属性:なし
特殊能力:なし


 これらを同じキャラクターが使った場合、どちらがより大きなダメージを与えられるか。

 単純に攻撃力で選べば前者、『くろがねの剣』に軍配が上がる。
 しかし実際には後者、『打刀』の方が大きなダメージを与えられることが多い。
 これには武器の種類による補正が関係している。

 恐らく武器合成のシステムのためだろうか、同レベルの武器であれば、その種類に依らず攻撃力は同じくらいになる。
 いかにも破壊力のありそうな大斧も、いかにも貧弱そうな短剣も、数値上の攻撃力は大差がないのである。

 だが、実際に攻撃する段になれば、そこには大きな違いが生まれる。
 同じ攻撃力でも、短剣よりも大斧の方がはるかに大きなダメージを与えられるのだ。
 これが武器種による補正である。

 上記二つの武器の例を取れば、『剣』に分類される『くろがねの剣』よりも、『剣』の他に『刀』の分類を持つ『打刀』の方が、武器種補正によって攻撃力が高くなるという仕組みである。

 さて、一体何の話をしようとしているか、そろそろお分かり頂けただろうか。

 そう、これはどうして俺が十数匹ものマッドハウンドを一度に倒せるスキルが使えたのか。
 そしてなぜ、不知火が『間違いなく同レベル帯では最強の武器』と言い切れるのか。
 そのカラクリについての話である。



 主な近接武器の種類とその特徴をまとめると、こんな感じになる。


[無手]
文字通り無手、つまりは素手の熟練度。
ノックバックがつく技が多い。
キャラクター能力で補正がかかるため、高レベル時には下手な武器より強い場合もある。

[ナックル]
拳にはめる武器で、これを付けていても無手のスキルが使える。
攻撃回数の多いスキルが多い。
補正値は低め。

[短剣]
文字通り刃の短い武器。
トリッキーなスキルが多い。
補正値は低い。

[忍刀]
短剣の上位武器のため短剣と同じ長さ。
忍者、というかNINJAが使いそうな小さな刀。
隠密や暗殺などのスキルが多い。
補正値は普通。

[剣]
基本の武器。
バランスのよいスキル構成。
補正値は標準。

[刀]
剣の上位武器のため剣と同じ長さ。
片刃で剣よりも細くて軽いのが特徴だが、総じて入手難度が高い。
剣より攻撃力の高いスキルがそろっている。
補正値は高め。

[槍]
序盤で手に入る武器の中ではリーチが長い。
刺突系で攻撃範囲の広いスキルがそろう。
補正値はそこそこ。

[戟]
槍の上位武器のため槍と同じ長さ。
上位武器の宿命として、店売り品がほとんどない。
刺突に加え斬撃系のスキルも覚えるため、多数の敵を攻撃出来る。
補正値は少し高め。

[斧]
……斧。
スキルのリーチは短く速度も遅いが、威力は高い。
補正値も高い。

[大斧]
大きい……斧。
速度は遅いが、大威力のスキルがそろう。
補正値も当然高い。

[大剣]
成人男性と同じくらいの大きさを持つ巨大な剣。
高威力の単体攻撃スキルに、防御系のスキルを併せ持つ。
補正値は非常に高い。

[大太刀]
三メートル近い長さを持つお化け武器で、鞘から抜くのが大変。
大太刀が手に入るのはストーリー後半になってからで、その全てがレアかつユニーク。
ただでさえ強いのに、スキルを使うと更にアホみたいに強い。
補正値は極大。


 と、ここまでくればもうはっきりと分かっただろう。
 念のため、もう一度不知火のデータを引用する。


不知火[剣・大太刀]

攻撃力:91
重さ:8

付加属性:なし
特殊能力:なし


 つまりまあ、そういうことなのだ。
 この不知火という刀、分類を[剣・刀]とするべき所を、何を血迷ったか[剣・大太刀]なんて明らかにありえない設定にしてしまった、ある種のバグアイテムなのである。

 ……うん、まあ。
 『刀』と『大太刀』、似てるっちゃあ似てるよね、気持ちは分かる。
 それでも普通は間違えないけど。


 ではこのミスによって一体何が起きるか。
 まず、武器補正によって、攻撃力が異様に高くなる。

 『刀』と『大太刀』では、武器補正が天と地ほども違う。
 ただ、刀と比べて大太刀は入手が困難で、最短でも中盤の最後にしか手に入らない。
 おまけに長い分重く、両手持ちでなくてはとてもではないが扱いきれないし、狭い場所では使いにくい。
 あと、腰に差していると壁に引っかかったりして地味にイラッとくる。

 だが、不知火ならそんな心配はない。
 見た目には普通の刀なので使いやすく、攻撃すれば大太刀並の攻撃力が出る。
 ぶっちゃけ最強である。

 その上で更に、分類上は大太刀であるので、大太刀のスキルが使えてしまう。
 そして『猫耳猫』において、スキルの攻撃範囲は武器の長さに影響されない。
 となれば……。

 なんと不知火で大太刀スキル(例えば大太刀の基本スキル『横薙ぎ』など)を使った場合、見た目的には一メートルにも満たない刀を振っているのに、その攻撃範囲は三メートル近い大太刀のもの、という奇妙な現象が起こるのだ。
 すなわちこれが、『インビジブル・ブレイド』の正体である。

 つまり不知火は、刀の扱いやすさと大太刀の攻撃力を備え、更に必要な時だけは大太刀と同じ範囲を攻撃出来るという、あからさまなチート武器だと言える!



 だからこそ、

「それにしても、ほんとすごいです!
 あんな数のマッドハウンドを一撃で倒すなんて!」

 トレインちゃんのキラキラとした目が余計に胸に突き刺さるのだ。

 何しろあの攻撃はほぼ100%武器の力で、種さえ知っていればトレインちゃんでも同じことが出来るだろう。
 かといって、実はこれ、アイテムの設定ミスを利用したバグ技で……などと説明する訳にもいかない。
 悩ましい所である。

「あ、自己紹介が遅れました。
 わたしは、イーナ・トレイルって言います。
 一応冒険者で、得意武器は短剣です」

 正直、本名までは覚えていなかったが、

「やっぱりトレインちゃんか」
「あ、あの、トレイル、ですけど……」
「いや、こっちの話」

 怪訝そうな顔をするトレインちゃんに、手を振ってごまかす。
 それで何とかなったと思ったのだが、彼女がなぜか、俺の顔をじっと見ているのに気付いた。
 一体なんだ?

「ええと、どうかした?」

 俺の疑問に、彼女はおずおずと答えた。

「あの、名前、教えてもらっても?」

 上目遣いにそう言ってくる。
 ああ、そうか。
 さっきのはそういう催促の眼差しかと合点する。

(しかし、どうするか……)

 おぼろげな記憶だが、確かトレインちゃんを助けた後の会話次第では、彼女が仲間になるイベントにつながるはずだ。
 もちろんそんなイベントがあったからといって、プレイヤーが誘わない限り仲間として連れて行く必要はなかったのだが、それはゲームでの話。
 現状の彼女がきちんとした『人間』である以上、自分の都合だけで仲間にしたりしなかったりという訳にはいかないだろう。

 ゲームでは基本的に、必要な時以外にはソロを通してきた。
 バグのおかげで敵を倒す手段には事欠かず、そうなると経験値が分散しないソロの方が、入手出来る経験値が多くなるからだ。
 ……決してゲームの中ですら友達が出来なかった訳ではない。
 いや、これは本当に。

 しかし、ここはゲームであって、ゲームではない。
 死んだらどうなるか分からない以上、用心に用心を重ね、仲間を作って一緒に行動するのは悪い選択ではないように思える。
 その点を考えると、人格的に信頼のおけるこのトレインちゃんがもしも最初の仲間になってくれると言うなら、それは願ってもないことだろう。

(ただ、なぁ……)

 一方で、ずっと一人での冒険をやっていたのだから、そのスタイルを貫いた方がいいのではないかと考える自分もいる。
 他人には秘密にしたいことも多いから下手に仲間を増やしたくないという思いもあるし、トレインちゃんの尊敬を勝ち取ったのは所詮武器の力だ。
 こんなもので仲間を増やすのはあまりフェアじゃないのではないかというためらいも当然ある。
 ついでに言えば、トレインちゃんには仲間になってもらうより、トレインをしてもらった方が俺のレベル上げにも役立つかな、という下心もあったりする。
 そうすると、やはり……。

「あの……ダメ、ですか?」

 考えに沈む俺に、不安そうな顔でトレインちゃんが問い掛けてくる。
 その顔を見て、俺は思わず固まってしまった。

「うっ……」

 女の子のこういう表情は反則だ。
 正直何も答えずに逃げ出すことを考えていたのだが、ここまでくれば何も名乗らずに帰るというのは不可能だろう。

(だから仕方ない、よな)

 誰にともなく、言い訳をする。
 少しばかり後ろめたい思いを抱えながら、彼女の視線に流されるように、俺は決断した。
 出来るだけ真剣な表情を作って、ゆっくりと話し出す。

「その前に一つ、言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。
 俺は、君が考えてるような優秀な冒険者じゃない」
「え、でも……」

 反射的に、言葉を返そうとする彼女を手で制した。
 驚くのは分かる。
 だが、ここは本当のことなのだ。
 驚く彼女を諭すように、話を続ける。

「そもそも俺は、厳密に言えば冒険者なんかじゃない。
 さっきのモンスターたちを倒せたのもただ武器の力で、俺は昨日まで、ろくに剣を握ったこともなかった」
「そんな……。で、でも、だったらあなたは何者なんですか?」

 やっぱりそういう質問が来るか。
 だが、その質問を予想していた俺は、厳かに口を開く。
 答えるべき名前は、一つしか思い浮かばなかった。

 俺は精一杯のキメ顔を作って、名乗りを上げる。


「俺は、ラインハルト! 誇り高き商人の、ラインハルトだ!!」


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