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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百十一章 永遠のイーナ

「イーナ…?」

 初めは、信じられなかった。
 いや、信じたくなかったのかもしれない。

「どうかしましたか?」
「…ソーマ?」

 突然一人で声を上げた俺に対して、仲間から怪訝そうな表情が向けられるが、そちらに注意を割く余裕もなかった。
 だって、このタイミングでの、イーナからの連絡。
 それじゃ、まるで、本当に……。

(……いや)

 『通信リング』は三分間だけ、登録した相手と会話が出来るようになるアイテムだ。
 それを持っているイーナが、俺に連絡をしてくること自体は不思議なことじゃない。
 タイミングだって、ただの偶然だとしても説明がつく。

 無理矢理にそんな風に考えて、動揺する気持ちを何とか立て直す。

「イーナ? イーナなのか?」

 それでも問いかける声が少し上ずったのは、仕方ないことだろう。
 そんな俺の言葉に、

『は、はい! イーナ、です。
 その声はソーマさん、ソーマさん、ですよね?
 あの、その、お久しぶり、です。
 また、声が聞けて……うれしい、です』

 感極まったような声が返ってきた。

 その声には純粋に俺と話が出来る喜びにあふれていて、とても危険な場所にいるようには思えない。
 そもそもイーナがリザミス荒野にいるなら、こんな風に通信なんて出来るはずがない。

 イーナのトレインモードはラムリック周辺でしか起こらないし、王都まで出て来なければあれ以上のレベル上げは事実上不可能。
 今のイーナはちょっと足の速いレベル70そこそこの冒険者に過ぎず、敏捷な四足獣が多いリザミス荒野に放り出されれば、おそらくは一分と持たずに殺されてしまうはずだ。

 きっと何かの勘違いだった。
 俺はそう考えて、それでも一応は確かめてみようと口を開いて、

「イーナ、お前は……」
『はい! なんですか、ソーマさん!』

 やたらと明るいその声に、続く言葉が勢いをなくす。

「……いや。どうして、もっと早く連絡してこなかったんだ?」

 結局、俺の口は勝手に動いて、当たり障りのない質問を発していた。

『あ、それ、は……』

 イーナの、ちょっと困ったような気配。

『だ、だってわたし、約束しちゃったじゃないですか』
「何を?」
『この、指輪。「一生大切にする」、って』

 その言葉を聞いた瞬間、頭を殴られたような衝撃があった。
 俺からの他愛ない贈り物を、それだけ大切にしてくれていたというのもそうだ。
 でもそれ以上に、その言葉の持つもう一つの意味に気付いてしまった。

 イーナが『一生大切にする』と誓ったその『通信リング』は、使用してから三分で効果が切れ、そのまま壊れてしまう。
 それを今、使ったということは……。

 最悪の予感に、喉がひりつく。
 それでも俺は、声を絞り出した。

「イーナ。正直に、答えてくれ」
『は、はいっ!』

 その次の言葉を口にするのは、勇気が必要だった。
 それでも、これ以上うやむやには出来ない。
 俺は、襲い来る胸の痛みに耐えながら、とうとう決定的な言葉を放った。

「お前は今、リザミスにいるんだな?」
『ッ!?』

 反応は、劇的だった。
 それはもう、これ以上の言葉が必要ないくらいに。
 だが、一度放たれた言葉は止まらない。

「今、王都のモノリスの前にいるんだ。
 そこで逃げ出した商人たちから、墜落した魔封船にお前が乗ってるって話を聞いた」

 核心を突く俺の言葉を、

『ち、違います! ラムリックです!
 ラムリックの町で、懐かしいからつい、ソーマさんに連絡してしまって……』

 イーナは必死で否定した。
 しかし、そのあわてようが既に、俺の言葉の正しさを証明してしまっている。

「それは、嘘だろ」

 重ねた言葉に、イーナは答えられない。
 代わりに出て来たのは、

『……ごめん、なさい』

 そんな言葉。
 意味が分からない。

『言いつけを破って、ごめんなさい。
 手紙には来るなって書いてあったのに、でも、どうしても会いたくなって、だけど、こんな……』
「そんなことはどうでもいい!!」

 気が付くと、俺は大声で叫んでいた。

「言いつけとか約束とか、そんなのはもう、どうでもいいんだよ!
 そんな物より、今はお前が生き残ることが大切だろ!!」
『ソーマ、さん……』

 周りを気にせず大声を張り上げて、怯えたようなイーナの声を聞いて、少しだけ冷静になる。
 リザミス荒野の情報を頭の中に思い浮かべる。
 イーナが生き残れるような対策を考える。

「イーナ、よく聞いてくれ。
 確かにリザミスの敵は強くて速い。
 そこのモンスターから逃げようとしても、平地ではまず逃げ切れない。
 だけど、そこには安全地帯がある」

 そう、あそこには安全地帯がある。
 だから大丈夫だ。
 不安を紛らわすように、しゃべり続ける。

「木に登るんだ。
 そこにいるモンスターは獣型ばかりで木には登れない。
 だから何とか、木に登りさえすれば……」
『ソーマさん』

 俺の言葉を途中でさえぎって、困ったように、イーナが言う。

『今、わたし、木の上にいるんです。
 そうじゃなきゃ、こんなにたくさん、ソーマさんと話せないです』

 小さな、笑いの気配。
 これで何とかなるかもしれない。
 俺も少しだけ、安心する。

 だが、

『でも、ダメなんです。
 モンスターが、どんどん木に体当たりしてきて、その度に、木がぐらぐら、ぐらぐらって、揺れるんです。
 たぶん、もう……数分持ちません』

 そんな俺の希望は、無残にも打ち砕かれた。

 そうだ。
 この世界ではゲームと違い、木や岩などのオブジェクトも破壊可能になった。
 もはや木の上は、決して安全地帯にはならない。

 思わず言葉を失った俺に、イーナは明るく語りかける。

『だけど、いいんです!
 死ぬのはちょっと、やっぱりちょっと、こわいですけど。
 だけど最後に、ソーマさんの声が聞けただけで、それだけで……』
「そんなことっ!!」

 激昂して叫びかけて、ようやく気付いた。

 明るく振る舞っていたのも、今はラムリックにいるなんて嘘をついたのも、全部、俺に心配をかけないため。
 自分の死に俺が責任を感じないように、俺がイーナを助けられなかったと悔やまないように、自分の状況を隠して、本当にただ『最後に話をする』ためだけに通信をしてきたのだ。
 自分はもうすぐ死ぬかもしれないのに、空気が読めないくせに、うざいくらいにまとわりついてきたくせに、最後だけ、そんな……。

「バカだよ、お前は」
『あ、はは。わたしも、そう、思います』

 気丈に振る舞っているように思えたイーナの声も、よく聞けばかすかに震えている。
 だってそれはそうだ。
 死ぬのが、怖くないはずがない。

(お前は、何で、そんな…!!)

 あふれ出る感情に、思わず叫びそうになった時、

「ッ!?」

 取り乱す俺の肩が、ぐっと引かれた。
 ミツキだ。

「話の相手、イーナさんですね。
 ラムリックで貴方と一緒にいた人。
 彼女なら、追跡出来ます」
「だけど、リザミスまでは……」

 俺の言葉を、ミツキはさえぎった。

「どんなに急いでも、二時間はかかります。
 間に合う事は期待しないで下さい」
「だったら……」
「貴方のそんな顔を見て、何もしないという訳には、行きません」

 ぐっと、胸が詰まった。
 押し殺して、頭を下げる。

「……頼む。俺はここから、動けない」
「任されました」

 その言葉を残し、ミツキは躊躇なく走り去っていく。
 間に合ってくれればいいと思う。
 だが、状況は絶望的だ。

 残り時間は、もう少ない。
 それでも、揺れる心を落ち着かせるように、俺は問いかけた。

「……なぁ、イーナ。
 どうして、魔封船なんか乗ったんだ?
 お前はそれ、嫌いだったはずだろ?」

 イーナが馬車で来るかもしれないと思ったのは、魔封船の乗り場に行った時、イーナが魔封船に強い拒否反応を示したからだ。
 なのに……。

『ごめんなさい。それ、ウソです』
「嘘…?」

 イーナの答えは、簡潔だった。

『わたし、ソーマさんが、魔封船に乗ってどこかに行ってしまうのがいやで。
 どうしても、ソーマさんを引き留めたくって。
 だから……』

 ……ああ。
 思い返せば、あの時のイーナの言動は不自然だった。
 あれはつまり、俺を行かせまいとして、必死で俺を引き留めようとしていたのか。

「だけど、どうしてそこまでして……。
 お前にだって、仲間が出来たんだろ?
 だったら……」
『それだって、ティエルさんが仲間になってくれたのだって、ソーマさんのおかげなんです』
「俺の? だけど……」

 別に俺は、何もしていない。
 俺がそう口にする前に、イーナは言った。

『怪我をして治療院に運ばれた時、その時の治療をしてくれたティエルさんが話してくれたんです。
 わたしと同じように治療院に運び込まれてきて、杖を置いていった男の人の話を』
「それは……」

 確かに、それは俺だ。
 ティエルにはゲーム時代、ゲルーニカという杖を渡すと心に決めていて。
 だからラムリックを発つ直前、ティエルに治療代と称してその杖を渡した。

『その話がきっかけで、わたしはティエルさんと仲良くなれたんです。
 だからそれも、ソーマさんのおかげ、です』
「それは、そんなのは……」

 ただの偶然で、こじつけで、思い込みだ。

 ティエルに杖を渡したのだって、単なる感傷、自己満足だ。
 決して褒められるようなことをした訳じゃない。

 なのにそんな俺がまるで英雄でもあるかのように、イーナは熱に浮かされたみたいに語る。

『だって、ソーマさんのおかげで、全部が変わったんです。
 ソーマさんのおかげで、ティエルさんと会えて。
 ティエルさんと出会えたおかげで、お母さんの病気を治す方法まで分かって。
 ソーマさんがレベルを上げてくれたおかげで、そのためのアイテム集めも、ティエルさんのレベル上げも、すごくうまくいって。
 それで本当に、お母さんの病気を、治すことが出来て……』

 俺の中で、最後のピースがはまる。

(ああ、そうか……)

 病気の母親を抱えたまま、イーナが王都に来るはずはないとは思っていた。
 だが、イーナにも当然、キャラクターイベントがある。
 ゲームでイーナを仲間にしなかった俺は、そのイベントをやったことがなかった。

 しかし、イーナに病気の母親がいるというのなら、キャラクターイベントにその病気を治す物があってもおかしくはない。
 ティエルと組んだイーナが必死で冒険をしていたというのは、おそらくそのイベントをこなして、母親の病気を治すためだった。

 だけど、それをそこまで急いだ理由の一つは、おそらく……。

『ティエルさんと、話してたんです。
 お母さんの病気が治ったら、一緒に王都に行って、ソーマさんに会いにいこうって。
 ……だけど、ティエルさん。
 母さんが元気になった時に、わたしにお金を渡してくれて。
 このお金で魔封船に乗って、一足先にソーマさんに会ってきてくれ、って』

 ティエルはきっと、イーナが自分以上に俺に会いたがっているのを知っていた。
 だからイーナを喜ばせようと思って、こっそりと一人分の魔封船代を貯めたのだろう。
 それはとても綺麗な話で、本当だったら喜びと共に迎えられるはずの話で、しかし……。

(くそ! 何でだ! どうしてこうなった!)

 巡り合わせの不運を呪うが、これは俺にだって責任の一端がある。
 イーナが俺を追いかけてくるかもしれないということは、俺にだって予想はついていた。
 だけど、その可能性を知りながらも、俺は何の手も打たなかった。

(何で俺は、こんなことになるまでイーナを放っておいたんだ!)

 今さらながらに自分の不明を恥じるが、今はそんなことを悔やんでいる場合じゃない。
 このまま放置すれば、確実にイーナは死ぬ。

(死ぬ? イーナが?)

 思い浮かべた言葉のあまりの衝撃に、息が詰まる。

 ぼっちな自分に悩んで、うざいくらいの騒々しさで俺に絡んできたあいつが……。
 俺にまとわりついて、ミスばっかりして、それでもいつも明るく笑っていたあいつが、死ぬ?


 ――そんなこと、認められるはずがなかった。


 だが、流れる時間は残酷で、無慈悲だった。
 そう長くない内に、たぶんあと数十秒もすれば、終わりが来る。

 リングの効果は切れ、イーナは殺されて、俺は二度とあの笑顔に出会えなくなる。

(何か方法があるはずだ!)

 だから俺は、いつものように、考える。
 逆転の一手。
 何も失わずに済む方法を、何も犠牲にしなくて済むような、そんな手段を探す。

(何か、何か、ないのか?)

 考える。
 考える、考える、考える。

 地形の条件、バグ技、モンスター特性、イベント状況。
 全ての情報を洗い出して、最善手を探す。

 だが、しかし、けれども……。

(――無理、だ)

 イーナは、イーナがいるのは、王都から遠く離れたフィールド。
 あと数分の内にそこに向かうのは、たとえ魔封船があったとしても不可能だ。

『何も失わずに生きていける人間なんていねえ』

 ライデンの言葉が、今さらながらに胸に突き刺さる。
 ただの音の連なりのはずのそれが、確かな質量を持って俺を苛んだ。

『この世界にいる全ての人間に手を差し伸べる事なんて出来ません』

 確かな暖かさを持っていたはずのミツキの言葉が、冷然とした事実として俺の前に立ちふさがる。
 個人という枠の、限界。
 どんな優れた人間も、この世全ての悲劇を止められる訳じゃない。

 俺が事態を知った時点で、状況はもう詰んでいた。
 イーナの名を聞いた時にはもう、ハッピーエンドへの道なんて、とっくに絶たれていた。


(無理。そう、無理、なんだ)


 そんな風に、悟ってしまった。

 だから俺は…………あきらめた。
 あきらめて、しまった。

『ソーマ、さん? どうして、何も言ってくれないんですか?』

 考えることを。
 この状況に、抗うことを。

『何か、何か、言ってくださいよ!
 もう、最後なんですよ?
 もうソーマさんとお話、できないんだから……』

 生きているなら、何かを失うこともある。
 犠牲は、避けられない。

『お、お願いです、ソーマさん!
 こんな、こんな最後は、いやです。
 死ぬ時までひとりぼっちなんて、そんな……』

 それはもう、仕方のないことで、俺くらいの力では、防ぎようのないことで。

『お願いだから、見捨てないでください!
 ソーマさんに見捨てられたら、わたし、もう、何も……』

 自暴自棄になった俺の耳に、それでもイーナの声は届く。
 震える声が、すがるようなその声が、俺の耳を打つ。

『ソーマ、さん。お願い、おねがい、ですから……』

 だけどそれすらも、だんだんと弱々しくなって。

『……ごめんな、さい』

 そして最後に行き着いたのは、やっぱりそんな、力ない言葉で。

『わたし、最後まで、うっとうしかったです、ね。
 でも、これだけ、言わせてください』

 そんな彼女のかぼそい声を意識から締め出すように、俺は、

『ソーマ、さん。今まで、ありがとう、ござい、まし、た』

 目を、閉じた。















































 そして俺は、ゆっくりと目を開ける。

 ――覚悟は、決めた。

 優先順位だとか、割り切るだとか、そんな出来もしないことは全て脇に蹴り飛ばす。
 どんなに考えたって、この結論は変わらない。
 変わるはずがない。

 この選択がどれだけ取り返しのつかない結果を生んだとしても、それでも構わない。
 どれだけの犠牲が出ても、それを甘受しようと心に決める。

 もう時間がない。
 いつ指輪の効果が切れるか分からないし、いつ木が倒れてしまうか分からない。
 これ以上迷っている余裕なんて、俺たちにはない。

 だから俺は彼女に告げる。
 始まりの言葉を。


「イーナ。君に、『大事な話がある』んだ」


 その言葉が、イーナの中の見えないスイッチを押す。
 トレインモードと同じ、破滅を呼び込む特別なスイッチ。

『ソーマ、さん…?』

 かすれたか細い声で、それでもイーナは俺の言葉に答えてくれた。
 その声からは、うまく『進行』しているかはうかがい知れない。
 だが、うまく行っていると、そう信じる。

 この王都の、モノリスの前という場所。
 イーナの指にはまっている、俺が贈った『通信リング』。

 条件は整っている。
 整っている、はずだ。

 大きく、大きく息を吸う。
 萎えそうになる気力と、震えそうになる声に力を込めて、言葉を紡ぎ出す。

「聞いてくれ、イーナ。俺は……」

 覚悟は決めたはずなのに、その言葉を口にする前に、わずかにためらった。
 それは、これから起こることへの不安ではなくて、俺にこの言葉を口にする資格があるかという逡巡。
 だが、

(たとえ資格がなくたって、構うものか!)

 より強い気持ちの前に、そんなためらいは吹き飛んだ。

 その思いをそのまま、言葉に乗せるように。
 俺はとうとう、その台詞を口にする。



「――俺は、イーナが『好き』だ。俺と、『結婚して』ほしい」



 遠く離れた場所で、イーナが息を飲む気配を感じる。

 『モノリスの前』で、『指輪を贈った相手』に対して、『キーワード』を口にする。
 プロポーズイベント発動の条件は、全てそろっているはずだ。
 だから後は、イーナの友好度、つまりは気持ち次第。

 イーナと一緒にいた時間は、あまりにも短い。
 この世界が純粋なゲームだったのなら、お話にもならないくらいに。
 だけどこの世界でなら、気持ちが数値を左右するこの世界なら、あるいは……。

 だからただ、待つ。

 心臓が、うるさいくらいに暴れ出す。
 胸が、ギリギリと締めつけられる。
 それでもただ、祈るような気持ちで、彼女の返答を待つ。

 短くて長い、沈黙の時間。

 やがて口にされた、イーナの答えは……。



『――はい、よろこんで!』



 涙と喜びが混ざり合ったその震え声に、安堵のあまり俺まで泣き出しそうになる。
 でも、まだ終わりじゃない。

「誓いの言葉、一緒に、言ってくれるか?」
『ソーマさん、でも、わたしは…っ!!』

 イーナが、何かを言いかける。
 だけど、それは最後まで言わせない。

「イーナのためじゃない。俺が、言ってほしいんだ」
『……はいっ!』

 泣き濡れた、けれど嬉しそうな声で応じるイーナは、たぶん想像もしていないだろう。
 この行為の先に、どんな事態が待っているのか。
 世界を滅ぼしかねない選択を今自分がしているなんて、考えもしていないに違いない。

 だったら、それでいい。
 そのままで、最後まで押し通すと決めた。

「ソーマ・サガラと……」
『イーナ・トレイルは……』

 だから俺たちは、最後の言葉を口にする。
 取り返しのつかない、誓いの言葉を。


「『唯一神レディスタス様の名の下に、永遠の愛を誓います』」


 二人の言葉が終わった、その瞬間、だった。

 モノリスに向かって、空から光が舞い落ちる。
 神々しくも禍々しい、魔の光。

(――ああ、知っている)

 俺は、この光景を知っている。


《おめでとう! 実におめでとう!》


 酩酊に似た浮遊感と、後ろめたい達成感の中で、俺は天からの声を聞く。
 この声の正体を、俺は知っている。
 これから何が起こるかを、俺は知っている。


《汝らの素晴らしき愛に、祝福を与えよう》


 ゲーム中最悪とも言われた『魔王の祝福』イベント。
 祝いと呪い、善意と悪意の反転。
 最愛の人を物言わぬ彫像へと変える、時間凍結の呪い。


《この地におわする唯一神であらせられる、邪神ディズ・アスター様の眷属、この終末呼ぶ魔王が、な!》


 哀れで愚かな犠牲者に対して、無限の嗜虐と愉悦の心で宣言する、魔王の言葉。
 だがその宣告は、今の俺にとって、



《――花嫁に、不老不死の祝福を授けよう》



 正しく、祝福の言葉だった。






 その日。
 突如降り注いだ雷光によって、王国の主だった人物はことごとく呪いを受けた。

 光の勇者アレックズ、筆頭騎士スパークホーク、神出鬼没のジェーン、不死身のライデン。
 誰よりも輝き、誰よりも生を謳歌していたはずの彼らは、魔王の呪いによって生きることも死ぬことも許されぬ彫像と化した。

 数十人にも及ぶその被害者リストの中には、俺のよく知る人物、ラムリックの治療院で発見されたティエル・レンティアや、王国騎士団に所属していたジェシカ・クレチア、そして……。

 ――リザミス荒野の樹上にて発見された冒険者、イーナ・トレイルの名前もあった。

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