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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百十章 彼方からの呼び声

まじひろいんちゃん、まじ……
 ハンターと化したミツキの狂乱は、怯えたリファがリンゴの後ろに隠れて泣き出すまで続いた。
 流石のミツキも子供に泣かれるのはダメージがあったのか、そこでようやく正気に返ってくれた。

 それからしばらく、みんな(含む俺)はミツキから心持ち距離を取っていたが、何しろポーカーフェイスには定評のあるミツキのことだ。
 当の本人は、

「すみません。少し、取り乱しました」

 なんてしれっと言って、あっという間にいつもの超然とした態度を取りもどしていた。
 ただ、その頭の上では猫耳が「わぁああ!! はずかしくて、もうみんなに耳向け出来ないよぉ!!」と後ろにぺたんと伏せられて動かなくなってしまっていたので、内心かなり落ち込んでいるのかもしれない。

 そんなミツキを生暖かい視線でやや遠巻きに見守りながら、俺たちはまず、ヒサメ道場に向かった。



「ぜったいぜったい、遊びに来てね!
 ソーマおにいちゃん、リンゴおねえちゃん、それに……くまさん!!」

 そう言って道場の入り口からぶんぶんと手を振るリファに、

「ああ! またな!」
「…ん」

 俺たちは大きく手を振り返した。
 やはり狩人化して泣かせてしまったのが響いたのか、ナチュラルに無視されたミツキの猫耳が一層しおれてしまったが、まあ自業自得だろう。

 ……そう。
 身寄りをなくしたリファは、ヒサメ道場に預けることになった。
 流石に俺たちの旅に連れて行けないし、どこかに預けるとなると、大所帯で子供も多いらしいこの道場が最善の場所として候補に挙がったのだ。

 アサヒさんも事情を話すと快く賛同してくれた。
 顔は怖い人だが、顔ほど悪い人ではないのできっとリファにもよくしてくれることだろう。

 こんな短い間に何度も親をなくした彼女はつらいとは思うが、ここから俺たちが出来ることは少ない。
 ヒサメ道場になじんで……いや、出来ることなら、あの道場にはあまり染まらずに、でも楽しく過ごしてくれればいいと願うだけだ。

(これで、よかったんだよな……)

 王都にもどる帰り道。
 リファのことを思い出してしんみりとしていると、ようやく耳を立ち直らせたミツキが声をかけてきた。

「何をしょぼくれた顔をしているのですか?」
「え? いや、その……」

 戸惑う俺に、ミツキは語る。

「この世界にいる全ての人間に手を差し伸べる事なんて出来ません。
 どこかで線引きや、割り切りは必要です。
 時には大きな何かのために、小さな犠牲を認めなくてはならない日が来るかもしれません。
 けれど……」
「けれど?」

 気の抜けたような俺に向かって、ミツキがめずらしく、本当にめずらしく、唇の端を吊り上げて小さく笑みを見せる。

「それで、貴方の行為の価値が減じる訳ではありません。
 あの彼女の姿こそが、今回の貴方の勲章です。
 それは、誇ってもいい事ですよ?」
「ミツキ……」

 それは意外な言葉で、だからこそ、嬉しい言葉だった。

「そう、か。そうだよな……」

 俺の力には限界があるし、誰も彼もと助ける訳にはいかないだろう。
 俺が世界の唯一の主人公だった、ゲーム時代とは違う。
 この世界の全ての出来事に関われる訳じゃないし、それで誰かを助けられなかったからと言って、それを悔やむというのは筋違いで、ただの傲慢だろう。

 だけどそれは、他人に手を差し伸べてはいけないということじゃない。
 自分の限界を知って、潰れない程度に自分を抑えて、それでも他人に手を差し伸べるというのなら、それは認められるべきことだろう。
 ミツキはそれを、俺に教えてくれたのだ。

 俺も釣られてミツキに笑顔を返すと、不意に、

「ん?」

 ミツキとは反対側の手が、くいっと引かれるのを感じた。
 振り返ると、リンゴがびっくりするほど思い詰めたような目で俺を見ていた。

「どうしたんだ? 何か……」

 俺が心配して訊こうとすると、なぜかリンゴはあわてたように首を振った。

「ち、ちがう。いまのは…………く、くまが」
「え? くま?」

 リンゴの肩に乗っているくまに目を移すと、くまも「えっ?」みたいな顔をしていた……ような気がした。
 位置的に考えても、絶対リンゴだったと思うのだが、まあいい。
 気を取り直してもう一度ミツキの方に視線をもどすと、

「……街の方が少し、騒がしいですね」

 ミツキが街の方向を見て厳しい顔をしていた。
 猫耳も、「何かあったのかなー?」と斜めに傾けられている。

 なんとなく、新たな騒動の予感がした。


 全員が急ぎ足で駆けつけると、西門のモノリスの辺りに人だかりが出来ていた。

「何か、あったんですか?」

 手近な一人をつかまえて、問いかける。
 その商人風の男は、興奮した様子で事情を話してくれた。

「墜落だよ、墜落!
 わしの乗っていた魔封船が落ちた!
 おかげで貴重な転移石が……ちくしょう!」

 商人は、魔封船が墜落すると転移石で脱出する。
 どこかで魔封船が墜落して、そこに乗っていた商人たちは目的地だったこの王都のモノリスまで転移石でやってきたのだろう。

 問題は冒険者だ。
 俺も経験があるが、魔封船に乗った冒険者は転移石なんて持っていないことが多い。
 もしそこに冒険者が乗り合わせていたら……。

 そんな俺の懸念は、残念ながら現実の物になってしまった。

「あ、あんた、冒険者だろ! あの子を助けてやってくれないか?!」

 俺が話しているのとは別の若い商人が俺たちの所まで駆けてきて、そう頼み込んできたのだ。

「あの子? もしかして、墜落した魔封船に、誰か残っていたんですか?」
「そう、そうなんだ!
 魔封船で知り合った冒険者の子なんだが、転移石を持っていないって言うんだ!
 今回の便では、予備の転移石を持ってる人は誰もいなくて、俺のを使ってくれって言ったんだけど、わたしは冒険者だから大丈夫だからって言って……」

 興奮のあまり話は要領を得ないが、非常事態なのは分かった。
 あまり他人に入れ込み過ぎるなと言われたばかりだが、入れ込むのと手を差し伸べるのは違う。
 違う、はずだ。

 ミツキと目が合う。
 小さくうなずいてくれた。

「もしかすると、力になれるかもしれません。
 魔封船は、どこに落ちたんですか?」

 場所によってはすぐに行けるかもしれないし、低レベルの場所なら救出の必要すらないかもしれない。
 俺の言葉に、その商人はつらそうな顔をして、ぼそりと言った。

「リザミス。……リザミス荒野だ」
「リザミス、荒野」

 その言葉に、俺ばかりでなく、ミツキまで言葉を失ってしまった。
 あそこのフィールドレベルは145。
 王都の南にあるフィールドの中でも屈指のレベルを誇る、危険地帯だ。

 その冒険者のレベルが150以上あるというのでもなければ、一人で生き残れるような場所ではない。
 しかも、

「ここから、遠すぎる」

 どんなに急いでも、救出が間に合うとは思えない。
 あの場所の近くに転移石で移動出来るポイントはないし、どんなに速い移動手段を使っても、たとえ魔封船に乗って向かったとしても、おそらくその冒険者が殺される方が早い。
 いや、もしかすると、今この瞬間にも、もう……。

「だ、ダメなのか? 助けられないって、そう言うのかよ!」

 若い商人が俺の肩をつかんで揺さぶるが、こればかりは仕方ない。
 いくら高レベルでも、距離の壁は越えられない。
 ミツキに視線を送ったが、ミツキも無言で首を横に振った。
 つまりは、そういうことだろう。

 まさか、あんな話をした後ですぐ、本当に手遅れな事例に出会うとは思わなかった。

「すみませんが、無理です」

 後味の悪い思いをしながらも、俺はそっと、商人の手を外した。

「そん、な……」

 激昂していたはずの彼が、急に力を失って足元に崩れ落ちる。

「……すみません」

 もう一度、頭を下げる。
 割り切ると決めたはずであっても、苦い思いはぬぐえない。

 しかし、実際にその冒険者と知り合いだった商人の気持ちはこの程度ではないのだろう。
 彼は行き場のない苛立ちをぶつけるように、地面を殴りつけた。

「ちきしょう! なんでだよ!
 あの子、ラムリックから出るの初めてだって言ってよぉ。
 王都で恩人に会うんだって、あんなに楽しそうに話してたのに、なのによぉ!」

 その、言葉に……。

 なぜだろう。
 心臓が、どくんと跳ねた。

「その、その子の名前……」
「え?」

 自分でもびっくりするほどのかすれた声で、俺は訊いた。

「その子の名前は、なんて言うんですか?」

 口に出してしまってから、自分の想像力の豊かさに呆れたくなる。

 あいつは、あいつは、大の魔封船嫌いだった。
 だから、そんなことは、ありえない。
 あるはずがない。

 そう思うのに、最悪の想像が止まらない。
 胸がぐっと縮み、鼓動が暴れて抑えが効かない。

 そして、商人の答えを待つ、俺の耳に、


『――えますか?』


 突然、声が届く。

 周りを見渡しても、声の主の姿は見えない。
 なのに、まるで耳元でささやかれるような声が、


『ソーマさん、聞こえますか?』


 あまりにも懐かしい、その声がして、

「イー、ナ?」

 俺は思わず、そうつぶやく。
 そして、


「そうだ、思い出した!
 たしか、イーナ。
 イーナ・トレイルだ、彼女の名前!」


 耳に届いたもう一つの声に、俺は足元が崩れ去っていくような心地がした。

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