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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百四章 神をも恐れぬ蛮行

 男として凄く大事な物を失った疑惑のあるアベル、ビート、クリフの3人組だったが、

「あら、そんな! アタシはそんな素敵……もとい、無法なことはしてないわよぉーん」

 バカラさんいわく、誤解らしい。

「ほら、この子たちとは村に来る途中一緒だったでしょ?
 それで、出てきた邪教徒ちゃんたちの身体つきがこの子たちそっくりだったから、ちょっと服を剥いで確かめてみただけなのよ!
 も・ち・ろ・ん、ちょっとした役得は味わわせてもらったけどねぇん」

 そう言って、パチン、とウインクをしてくる。

「はぁ。な、なるほど……」

 どうやら本当に何もなかったようだ。
 いやー、安心安心。
 俺は懸案が一つ片付いて胸を撫で下ろした。

 ……うん。
 単なる役得程度の行為で、あんなこの世の物とは思えないおぞましい何かに遭遇したかのように白目を剥いて、半開きになった口からダラダラとよだれを垂らしながら、さながら悪夢の中にいるようにピクピクとひっきりなしに痙攣する状態になるのかはほんのちょっとだけ疑問だったが……まあ長い人生、稀にそういうこともある!!

 俺は心の底から一片の疑いもなくバカラの説明を信じると、この一件を頭の隅に追いやった。
 なんにせよ、『生贄の迷宮』で死亡者0というのは誇ってもいいことだろう。
 そう自分を納得させ、バカラに事情を説明した。

 邪教徒たちの企みとそのカラクリを話すと、バカラは俺の説明に大げさに驚いてみせ、

「まぁ怖い!」

 とかわざとらしく身体をくねらせていたが、残念ながら怖いのはどちらかというとその姿だった。
 大体なまはげと同じくらいのトラウマ度だ。
 子供が見たらたぶん泣く。

 ただ、バカラという男はそれだけの人間ではない。

「それにしても、あなたもすごいわねーぇ。
 邪教徒の企みを、そんなにも完全に見切っちゃうなんて。
 ア、タ、シ、尊敬しちゃうわーん」

 気持ち悪くシナを作ってみせるが、今回のは半分以上擬態だろう。
 俺が不自然に多くを知っていることを警戒して、ことさらに頭が悪いように振る舞って探りを入れているのだ。

 この男はオネエ系でありながら同時に完全な肉食系だ。
 油断したら喰われる。
 ……たぶん、色んな意味で。

 想像したら、本当に気持ち悪くなってきた。
 背筋に生まれた悪寒を顔に出さないように注意しながら、

「まあ、偶然色々と予備知識があって、それがうまくはまったんだよ」

 当たり障りのない答えで何とかその場をごまかしたのだった。


 とりあえず、別れたみんなの所にもどることになった。

 気絶したアベルたちは全員、バカラが運んでくれると申し出てくれた。
 まあ正直、自分で運ぶのはごめんこうむる。

 わー、なんて親切な人なんだー、そうしてもらえると助かりますー、的なことを言って、アベルたちの運搬は任せることにした。
 それを告げた時、バカラが獰猛な獣のような仕種で舌なめずりをした気がしたが、きっと見間違いだろう。

 一心不乱に急いだため、現在位置が少し怪しくなっていたが、ミツキがいればはぐれたり迷ったりする心配はない。
 移動中、そのミツキが、

「……後ろからあの男が貴方の尻を凝視しているのですが。
 鬱陶しいので斬っても構いませんか?」

 目をやけにギラつかせ、猫耳も「ほんきだぜー」とばかりにシャッキリさせてそう提案してきたのがちょっと怖かったが、おおむね問題なくライデンたちと合流出来た。
 さらに、

「…おかえり」

 自力でここまで踏破してきたのだろう。
 リンゴも集団に合流していた。

(これで、当面の危険は去ったか)

 アベルやビートたちの腕輪は勝手に壊させてもらった。
 これでこいつらが目を覚ましても暴れ出すこともないだろう。

 ただ、こいつらには色々と前科がある。
 ちょっと不安だったので、バカラに3人の監視を頼んだら二つ返事で引き受けてくれた。
 これでアベルたちが厄介事を起こす可能性はほぼなくなったと見ていいはずだ。

 まだ腕輪や首飾りをつけている人はいるが、それはイベント進行妨害用。
 事情自体ははっきりと説明しているから、こちらも問題なし。
 クエスト参加者同士の争いが起こる可能性はもはやない。

 そして、冒険者が死ななければ『あのお方』とやらが復活する心配もない。
 これでほとんどの懸案は片付いたと言ってもいいだろう。

(いやいや、待て待て)

 今までの経験から言って、『これで安心だ』と思った時こそ大きな落とし穴にはまったりするものだ。
 全て片付いた訳でない以上、まだまだ油断は出来ない。
 俺はいまだ白目を剥いたままのアベルたちを物珍しそうにツンツンとつつくくまを見ながら、考える。

 残った問題は、リファとサイガ村。
 一度迷宮に潜った人間がサイガ村に行くとイベントが進行しないとも限らない。
 村の邪教徒は真希に任せて、リファを確保するのが最善だろう。

 問題はリファの居場所だが、まあ、心当たりがないでもない。
 俺は集団から離れて、リファを捜索することを決めた。

「ミツキ、リンゴ、ついてきてくれ」

 そう声をかけて、ミツキとリンゴ、それから一応くまと共に、ある場所へと向かった。



「……懐かしいな」

 俺は目的地、迷宮の中心部の大きな大きな扉を前にして、そんな感慨を漏らした。
 『この奥に生贄の祭壇がある』という情報を信じて、この扉を開けようと何度も何度も、色々な方法を試したものだった。
 しかし、実際はこの奥のマップは実装されておらず、その努力の全ては徒労だった。
 このことについては、どんなに『猫耳猫』スタッフを恨んでも恨み切れない。

「ミツキ、この近くに人の反応は?」

 ただ、別にわざわざ恨み言を言うためにここに来た訳じゃない。
 クエストにおいて、リファと遭遇するのが一番多かったのはこの付近だ。
 きっとこの辺りにいるだろうと思ったのだが、

「……反応なしです。少なくとも、すぐ近くには誰もいないようですね」

 どうやら外れだったようだ。
 クエストが始まってから、ずいぶん時間が経ってしまっている。
 俺の想像以上に移動してしまったのかもしれない。

「では、もう少し奥を探してみますか?」

 俺の心当たりが不発だったのを見て取って、ミツキがそう提案してきたが、俺は首を横に振った。

「いや、ちょっと待ってくれ。
 その前に、試してみたいことがある」

 正面、ゲームで俺を苦しめた、大きな扉をにらみつける。
 扉には、光で『+ |L』の文字が刻まれている。
 何もかも、ゲーム通りの光景。

 ――だが、この世界はゲームそのままではないと、俺は知っている。

 この世界の現実としてのリアリティを保持するためだろうか。
 ゲームでは設定だけあって実装はされていなかった場所が、こっちの世界にはきちんと存在している場合があることを、俺はもう知っている。
 だからこの奥、『生贄の祭壇』は、この世界にはきちんと存在している可能性が高い。

 そして、ゲームでは壁や扉のような地形やオブジェクトは、特別にHPが設定されている物以外、絶対に破壊不可能だった。
 しかし、それもまた、この世界では違う。
 どんな壁や扉も、破壊力さえ足りていれば破壊することが出来る。

 つまり……。
 この世界でなら俺は、この扉を破壊し、その奥の祭壇にまで到達出来るかもしれないのだ。

「……ふぅ」

 まず、気分を落ち着かせる。
 スキルの行使はタイミングが命だ。
 煮立った頭では、失敗する恐れがある。

「よし!」

 気持ちが落ち着いたのを自分で確認して、あらためて扉と向かい合う。
 パワーアップの呪文を詠唱、発動予約。
 そして、『王都襲撃』でも活用した、あのコンボを使う。


(――朧斬月、ハイステップ、ジャンプ横薙ぎ!!)


 すなわち、朧十字!!
 壁などの地形の防御力は、ダンジョンのレベルに比例する。
 低レベルなこのダンジョンの扉など、このスキルコンボの威力の前にはひとたまりもない。

 放たれた縦と横の斬撃は、見事に扉を捉え――


「あ、あれ…?」


 ――はしたものの、扉はびくともしなかった。


 その後も色々と技を試したのだが、扉は全く壊れる様子はなく、それどころか傷一つつきはしなかった。
 初めの内はミツキたちもそれを見ていたものの、途中で飽きたのか、

「それでは私達は周りを探してきますので」

 みんな連れ立ってどこかに行ってしまった。

 だが、俺はあきらめなかった。
 むしろ仲間がいなくなった方が、気兼ねなく色々な技を使えるというもの。
 そう心の中で負け惜しみを言って、ひたすらに扉に挑む。
 挑み続ける。

 最後には刹那五月雨斬りまで使ったのだが、それもただ不知火の耐久力を削っただけの結果に終わった。

(なんて、硬さだよ……)

 もはやここまでくると、憎らしいとかいう気持ちを越えて、敵ながらあっぱれという気持ちになってくる。
 俺は目の前にそそり立つ自らの好敵手を見据え、なんとなく語りかけた。

「……確かに、認めるよ。
 お前は、強い。
 それに、強いだけじゃなくて、デカくて、硬い。
 そこだけは、認めてやってもいい」
「…………」

 扉は何も答えない。
 なかなかに奥ゆかしい奴だ。

「だけどな。
 男の価値は、それだけじゃ決まらないんだ。
 人間の持ってる強さは、何も力だけじゃない。
 知恵や機転。
 そういう物を持っている人間が、本当に強い人間なんだ」

 やはり、扉は何も答えない。
 どこまでも寡黙な奴だ。

「攻撃スキルだけが俺の力だなんて思われたら心外だからな。
 見せてやるよ。
 お前に、本当の人間の強さを。
 力押しだけが、全てじゃないってことを!」

 そこまで言っても、扉は何も答えない。
 ……ちょっと恥ずかしくなってきた。

「これで、最後だ。行くぞ――」

 それでも俺は最後まで『ライバルに立ち向かっている主人公』の体を崩さずに、人類の叡智、その結晶を見せつけるべく、叫んだ。

「――プチプロージョン!!」



 その、10分ほど後。
 俺は扉を離れて迷宮内をさ迷っていたところをミツキたちに救助された。

 慣れたはずのダンジョンで迷子になってへこんでいるところに、

「つまり、散々スキルや魔法を喰らわせて、それでも結局、扉には傷一つつけられなかった訳ですね?」

 追い打ちのようにミツキの厳しい言葉が飛ぶ。
 一言くらい言い返したいところであったが、扉が破れなかったのは動かしがたい事実。
 俺はぐううと唇をかみしめた。

「しかも、その後で道に迷うとは……。
 完全に時間を無駄にしてしまいましたね。
 急いで戻って、人海戦術でそのリファという少女を探しましょうか」
「いや、待ってくれ!」

 しかし、ミツキがそう言ったところで、俺は口を挟んだ。
 確かに扉は壊せなかったしその後で道に迷ったりはしたが、俺だって全く成果が得られなかった訳じゃない。

「実はさっき、こんな物を見つけたんだ!」

 そう言って、じゃーんとばかりに俺は手に持っていた赤い石を差し出したのだが、

「……これが、何か?」

 ミツキは訝しげに猫耳を立てるだけ。

「…あ、リンゴ?」

 リンゴに至っては食べ物と勘違いした。

 まったくこいつらは、と思ったが、考えてみれば二人ともリファの姿を一度も見ていなかったことに気付いた。
 これでは話が通じるはずがない。
 一から説明する。

「この石を見た時、似た色をどこかで見たことがあるなと思って、すぐにピンと来たんだ。
 リファは赤い石のついた首飾りをつけていた。
 だけど、そんなアイテムはほかでは見たことがない。
 だからあれはもしかすると、この迷宮にしかないような『特別な何か』を使ったアイテムなんじゃないか、ってさ」

 俺の自慢げな言葉に、ミツキは猫耳を難しそうに傾けた。

「その少女の首飾りが、この迷宮固有の鉱石か何かで出来ているという事ですか?
 しかしそれが分かったからといって、彼女を探す役には……」
「いや、役に立つんだ」

 言いかけるミツキを制する。
 むしろ、ここからが本題なのだ。

「この石を持ってると、なんとなくだけど何かに引かれるような感じがあるんだ。
 これとリファの赤い首飾りが同じ素材なら、お互いが引き合っているのかもしれない。
 つまり、この石の導く先に進めば、そこにはきっとリファがいる!!」

 俺が力強く言い切ると、くまが「おおー」という感じに拍手をしてくれた。
 手の素材的に残念ながら音が鳴らなかったが、それでもなんか嬉しい。
 ただ、それを見てリンゴが、

「…あまやかしちゃ、だめ」

 と、くまを叱っていて、なんか切ない気分になった。

「と、とにかく、みんな俺についてきてくれ!」

 それを振り切るように、俺はことさらに大きな声で号令を出す。
 俺は迷子から一転、みんなを先導する立場となって、先頭に立って歩き始めた。
 いざ、リファの許へ!



「まさか、本当に見つかるとは……」

 ミツキが猫耳をばたんきゅー、させて、呆然とつぶやいた。

 石に引かれるままに進んでいくと、本当にその先にリファがいたのだ。
 今も彼女の首飾りは赤い光を放ち、俺の手の石もまるで呼び合うように光っている。
 俺の仮説が大正解した形だ。

 俺は内心勝ち誇りながら、出来るだけそんな様子は出さないようにして、生贄の少女、リファに大まかな事情を説明した。
 意外に聡明な子だったようで、ざっと状況を話すとすぐに理解してくれた。

 これなら全部を話しても大丈夫かもしれない。
 そんな判断の許、サイガ村の村人が全員邪教徒であることや、サイガ村の村長、彼女の『おとうさん』が悪魔であることも告げた。
 信じてはもらえないかとも思ったが、やはり思い当たる節はあったのだろう。
 ショックを受けながらも、事実を受け入れてくれたようだ。

 ただ、残念ながら彼女の首飾りを外すことは出来なかった。
 この世界でも解除不可能、破壊不可能な装備品となっているらしい。

 リファを見つけたことで心配事は一つ減ったが、クエストが進行すると彼女が祭壇に送られてしまう危険性は依然として存在する。
 騎士団が村を制圧してくれることを信じて、今は迷宮の中で待つしかない。

 リファと会話をしながら、のんびりと冒険者たちの所にもどろうとしていたのだが、

「――?!」

 歩いている途中、突然ミツキの耳が異変を察知して鋭くとがった。
 そして、同時に、

「ソーマ、かべが…!」

 リンゴに促されてそちらを見ると、今まさに、壁に書かれた文字が切り替わるところだった。
 『+ |L』だった壁の記号が、『+ ±』に変わる。
 分かりにくいが、これは漢数字の『十八』と『十七』をそれぞれ意味している。

 この数字は邪教徒たちが望む『あのお方』復活までに必要な死者の数であり、強制ゲームオーバーまでのカウントダウンでもある。
 この数字がゼロになった時、『あのお方』の復活は果たされ、強制ゲームオーバーが発動する。
 いや、それよりも、この壁の数字が減ったということは……。

「誰かが、この迷宮の中で殺された?」

 俺が呆然している内に、壁の数字はめまぐるしく変化していく。

 『十六』から『十五』へ。
 また減って『十四』になったかと思えば、一瞬にして『十二』へ。
 異常な速度で数が減る。
 人が、死んでいく。

(まさか、また冒険者同士の殺し合いが始まったのか?
 だけど、説明は充分にした。
 それにいくらなんでも、この勢いは……)

 惑う俺に、ミツキが鋭い声で言った。

「微かですが、西の入り口の方から戦いの音がします。
 あそこで何かが起こっているようです」
「入り口!?」

 冒険者たちがいる側とは逆方向だ。
 つまり、この異常はクエスト参加者とは無関係に起こったことになる。
 俺はすぐに決断した。

「リンゴ、くま! 二人はリファを連れてライデンたちの所にもどってくれ!」
「………ん、わかった」

 いつもより少し長い沈黙の後、リンゴがうなずく。
 たぶん一緒に行けないことを寂しがっているのだと思うが、リファを一人で放り出す訳にもいかない。
 機動力を考えても、この選択肢しかないのだ。

「…きをつけて」

 というリンゴの声に見送られて、俺とミツキは迷宮内を駆け抜ける。

 リファを探している内に、ずいぶん入り口近くまでもどっていたらしい。
 もう少しで入り口が見えるという所で、俺は意外な人物に出会った。

「真希!?」

 どうして真希がこの中に、と疑問に思う暇もなかった。

「大変だよ、そーま!!」

 真希がめずらしく焦った様子で、こっちに向かって駆け出してくる。
 そしてその口から、とんでもない事実が告げられた。


「――村にいた邪教徒たちが全員、迷宮に入って自殺を始めたんだよ!!」


 『生贄の迷宮』クエストは、まだまだ終わらない…!!
また一万字越えたので分割





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八十四章の後書きでちらっとだけ触れた『ぼっちの僕が願うこと』という作品を公開しました
あまりなろう向きな作風ではないですが、趣味が合いそうな方は読んで頂けると嬉しいです
+注意+
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