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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第百二章 始まるカウントダウン

 意味不明な言動をして突然逃げ出した真希を何とか捕獲し、これからの方針について話し合った。
 意外なことに、

「うーん。このまま放っておくと、この世界は大変なことになっちゃうんだよね?
 だったらそーまがよかったらだけど、わたしは帰るより先に、この世界をなんとかしていきたいかな。
 あのゲームと違って、城の人たちはすごくいい人ばっかりだったから、あの人たちが死んだりケガをしたりしないようにしたい」

 真希も帰還よりもゲームクリアを優先することを主張した。

 もちろん俺もその意見には全面的に賛成だった。
 むしろ、真希がすぐに帰りたいと言った場合、どうやって説得しようかと考えていたくらいだ。

「だけど、いいのか?」

 そうは言っても、真希には真希の生活があるだろう。
 俺よりも向こうでの友達は多いはずだし、休んでもある程度はリカバリーのしやすい大学とは違い、高校でのブランクがいかに大きな意味を持つかというのは俺にでも分かる。

「それはもちろん、よくはないよー。
 だけど、わたしもそーまを探すために冒険者をやってみて、この世界の人たちが本当に必死で、がんばって生きてるのがわかったんだ。
 それこそ、いつ死んでもおかしくないような状況で、ずっと命を懸けて生活してるんだよ」

 真希は、どこか遠くを見るような目をして言う。
 しかしその考えは、俺にも分からなくもない。

 この世界では、命の危険がずっと身近な場所にある。
 例えば時に極端に聞こえるミツキの発言などは、それを端的に表しているように思う。

 実際、この『猫耳猫』世界ではちょっとした間違いで人は死ぬし、町は滅ぶし、人類は滅亡する。
 そして、それを止められるのは……。 

「すっごく上から目線なことを言っちゃうけど、わたしたちいま、ちょっと強いでしょ?
 だからここの人たちのために、何かできることがあるんじゃないかなーって思うんだ」
「真希……」

 いつの間にか、真希も立派なことを言うようになった。

 ……まあ、ゲームの中でその守るべき『ここの人たち』からアイテムを強奪したり、問答無用で虐殺したりしていなかったら、もっと感動的な台詞だったのだが。

「よし、分かった!」

 だが、真希がそこまでの覚悟を決めているのなら、俺が反対する理由もない。

「とりあえずは、この世界を平和にするために動こう。
 出来るだけたくさんのモンスターを倒して、最終的には魔王を倒すっていうのも確定にしたいな」
「うんっ!」

 元気よくあいづちを打つ真希。

「ただ、魔王を倒すためのイベント管理は結構大変なんだ。
 ストーリーイベントをほぼ全部こなす必要があるし、それには膨大な時間と手間がかかる。
 それに、今ならいくつかの条件をショートカット出来る可能性もある」
「ん、んー? どういうこと?」

 真希が話題についてこれず、首をかしげた。
 無理もない。
 これは俺の説明不足だ。

「あー、つまり、魔王を倒すために色々な準備をしなくちゃいけないんだ。
 というか、このゲームの本筋の話は、詰まる所全部魔王を倒すための準備につながってくるんだよ」

 魔王を倒すのがこのゲームのクリア条件。
 ならそれだけの能力があればいつでもゲームがクリア出来るかというと、そうではない。
 単純な能力やレベルでは越えられないシステム的な障害が、プレイヤーの前に立ちはだかってくるのだ。


 例えば、魔王城上空に漂う魔王の力の化身たる黒い雲。
 対策をせずにプレイヤーが魔王城に近付くと、暗雲から飛び出した闇の雷が一瞬にしてプレイヤーのHPを0にしてしまう。

 あるいは、魔王城の周りで煮え立つ血の池。
 闇の雷を何とか切り抜けたとしても、プレイヤーは城の周りの池をシステム的に越えることが出来ず、特定のクエストアイテムを手に入れるまで、城に渡ることすら出来ない。

 そのほかにも城の迷宮を突破するのに必要な石や、隠された階段を見つけるための鏡、魔王を弱体化する宝石など、各種クエストアイテムがなければ魔王を倒すことは出来ないとされている。

 そして、そのクエストアイテムを手に入れる唯一の手段が、ストーリークエストの達成なのだ。

(だが、この世界はもう現実と変わらない)

 行動の自由度は広がり、プレイヤーへの理不尽な制限はなくなった。

 今なら空の雲を強風で吹き飛ばせるかもしれないし、血の池をエアハンマーと瞬突で渡ることが出来るかもしれない。
 城のギミックも壁を壊したり城の外壁から侵入することで回避出来るかもしれず、弱体化なしで魔王を倒すことは元より不可能ではない。

 どの仕掛けがショートカット可能で、どのイベントが必須なのか。
 その辺りをもっと考えてみないことには、無駄足を踏むことにもなりかねないのだ。

「それについては俺ももうちょっと考えてみる。
 だから今は、元の世界にもどれる……かもしれない方法を、使えるようにしておきたいと思う」
「もどる方法、あるの!?」

 これには真希も強く食いついてきた。
 やっぱり真希も『もどりたい』という気持ちは強いのだろう。
 ここは胸を張ってあると答えたいところなのだが、

「……本当にもどれるかは分からないし、うまくいかないと最悪の場合死ぬかもしれないが、一応考えてることがあるにはある」

 到底確実と言える方法ではないし、危険だ。
 この程度の答えに留めた。

「ううん、十分すごいよー! それで、どうやるの?」

 それでも、希望を見つけた真希の目はキラキラしている。
 しかし、

「詳しい方法については、準備が整ってから話すよ。
 けどそのために、真希にやってほしいことがあるんだ」

 俺はその瞳から少しだけ目を逸らし、その具体的な手段については明言を避けた。

 不確かな内に話すのもどうかと思ったし、何より真希のことだ。
 やり方を教えたら先走って何をするか分からない。
 最悪、「そーまにそんな危ないことをさせられない!」とか息巻いて、自分一人で実験をしてしまうかもしれない。

 少なくともこの方法は、あのゲームの情報を持っていない人間があてずっぽうで見つけられるような物じゃない。
 ギリギリまで真希には教えるのはやめようと密かに心に決める。

「その方法を試すには、二つ必要な物があるんだ。
 一つは俺がゲームの中で手に入れたことがある物。
 もう一つは、これから手に入れようと思っていた物。
 どっちも用意するのは楽じゃないが、俺は一度手に入れた方に当たろうと思ってる。
 だから……」
「うん、わかった」

 皆まで言う前に、俺の言いたいことを察し、真希が力強くうなずいた。


「わたしもそーまについていって、全力でサポートするよ!!」
「いや、ちげえよ!」


 全然察していなかった。

「そうじゃなくて、今、真希はお姫様やってるんだから、人脈使い放題だろ?
 その力を使って、もう一つの方に当たってほしいんだよ!」
「ええー?!」

 不満そうな声を出す真希。
 だが、そっちには俺が行けない。
 行きたくない理由がある。

「この街にいるレイラってキャラのイベントで必要なアイテムが手に入るはずなんだが、色々厄介なんだ。
 だから、俺が直接行くのは避けたい」

 クリアはしたことがないが、あれが非常に危険なイベントだということは身をもって理解している。
 いや、イベントがというか、まあ、とにかく危険だ。

「だけどあれは男性PC専用イベントだったから、万が一にも真希なら問題ない。
 ただまあ出来ればその人とは直接接触せず、騎士団を通じてその人と交渉して、何とか必要なアイテムを手に入れてきてほしいんだ」
「んー。ぴーしーとかよくわからないけど、そーまがやれって言うなら、がんばるけど……」

 不満そうながら、一応は納得してくれたようだ。

「注意点をまとめて紙に書くから、それが終わったら別れて行動しよう!
 そうだ、リンゴたちも呼んでこないとな!」

 俺は真希の気が変わらない内にと、たたみかけるようににそう言って、鞄から紙とペンを取り出した。



 ミツキとリンゴはすぐにやってきた。

「ようやく出発ですか?
 待ちくたびれてしましました」

 ミツキは我関せずの態度を崩さず、つんと澄ましているが、猫耳がぴく、ぴくっと真希の方に折れて、興味津々さを表している。
 何が気になっているのか知らないが、話しかけたいならそう言えばいいのにと思わなくもない。

 一方のリンゴは、

「え? わ、わたしになにか用?」

 こちらは自らの欲求を隠そうともせず、じーっと真希を見つめていた。
 しかし、真希に問いかけられてもリンゴは何も答えようとはしない。
 ただ、じーっと、じぃぃぃっと真希を見つめ続けていた。

 なぜか場に満ちる緊迫感。
 それはさながら、戦場でにらみ合う二人の武将。
 息詰まるような緊張感は、しかし、

「――ッ?!」

 当のリンゴによって、急速に崩された。
 その無表情なはずの顔に一瞬驚愕の色を浮かべたリンゴが、

「……えだげ」

 おなじみの言葉を口にしたのだ。

 しかし、その声音はいつもとは正反対。
 俺の枝毛を見つけた時の、淡々とした中にも歓喜をにじませる口調とはまるで違う、敗北感すらうかがえる物だった。

「え、なにー? どうしたのー?」

 事態の急変に追いついていない真希を残し、リンゴはそのまま悄然と肩を落として、俺の後ろに隠れてしまった。

「いや、その、リンゴ?」
「………ソーマ」

 俺が声をかけると、すがるような目つきで俺を見てくる。

(いや、そんな目で見られても……)

 とは思うものの、振り切るにはしのびない。
 どうしようかと迷っていると、何を思ったか、

「…ん」

 リンゴは俺に、自分の頭を突きだしてきた。
 錯乱したリンゴの突然の頭突き攻撃!……では、もちろんない。

「もしかして、俺に枝毛探せって言ってるのか?」

 俺が尋ねると、リンゴの頭がうなずいた。

「いや、でもな……」

 ゲームキャラには枝毛がないので、探しても見つかるはずがない。
 俺は助けを求めるようにほかの二人を見たが、

「…?」

 真希は状況が全く飲み込めていないし、

「……遅いですね、くま」

 ミツキは「何も気付いていませんよ」とばかりにそっぽを向いている。
 猫耳までが横を向き、「な、なにも見てないよー!」と必死のアピールをしている。
 逆に分かりやすいが、ともあれ助けてはくれそうにない。

「まあ、あんまり期待するなよ?」

 俺は仕方なく、リンゴの髪を凝視して枝毛を探す。
 しかし、元よりリンゴに枝毛なんてあるはずもない。
 それでも真面目にやってるアピールのため、たまに髪をかき分けたりして探してる感を出してみた。

(しかし、これはなんか……やばいな!)

 何がやばいのかは分からないが、とにかくやばかった。
 なんというか、さらさら過ぎる。
 手ですくようにして指を差し込むと、ほとんど手応えもなくするりと流れてひっかかりもない。
 よく分からないが、なんかすごい。

 これはリンゴが特別なのか、このゲーム世界のキャラはみんなそうなのか。
 いや、でもイーナの髪とかはいかにも元気そうな癖っ毛だったような気もするし、手でとこうとしたらひっかかりだらけだろう。
 やはり元王女は格が違ったということだろうか。

「…ん」

 リンゴがくすぐったそうに身じろぎするのに妙にドキドキしながら、

「じゃあ、今度は後ろを調べてみるぞ?」
「…わかっ、た」

 俺はリンゴの後ろに回って、本格的に髪を調べる。

(ああ、やっぱりだ)

 この髪のすごい所は、手触りだけではない。
 現実ではありえない青い髪なのに、安っぽい感じがしない。

 むしろ少しだけすくって光に透かすと、とても綺麗に映える。
 極上の絹糸なんて物は見たことがないが、そういった物にも全くひけは取らないような気がする。
 これを使って服を作れば、水の羽衣くらいは簡単に出来そうだ。

 いや、リンゴの髪の魅力はもちろんその程度では留まらない。
 分かるだろうか、この……。


「――さっきから何をしているのですか、貴方は」


 と、そこでなぜかミツキに怒られた。
 しかし、そのおかげで我に返る。

「…ソーマ」

 視線を落とすと、ちらりとこちらを振り返るリンゴの顔が、かすかに赤くなっているのが見える。
 俺はあわててリンゴから離れた。

「そーまは何かに夢中になると、すぐに周りの状況とか常識とか忘れちゃうところがあるよね」

 真希には呆れたようにそう言われる。
 いや、状況はともかく、常識は忘れたりはするような物じゃないと思うのだが、ここで反論しても無駄そうなので口をつぐんで耐えた。

 ミツキは真希よりさらに腹を立てているようで、

「次の目的地に出発するのではなかったのですか?
 そもそも途中から目的を見失っているようでしたし、毛並であれば私だって負けません」

 いつも以上にきつい言葉でそう言われた。
 猫耳も「どうだっ!」とばかりに毛先を立てて、その上等な毛質をアピールしている。
 お前はどこに対抗意識を燃やしているのかと言いたい。

「そうは言っても、くまが来ないんだからしょうがないだろ?
 全く、あいつは一体どこに……」
「…きた」

 そう口にした時ちょうどくまがやってきたらしく、リンゴが俺の服の裾を引く。

「やっと来たのか。くま、お前は……くま?!」

 その姿を見て、俺は絶句した。
 階段の踊り場に現れたくま。
 その姿は、以前と全然違った。

 無数の人形たちを後ろに控えさせ、目の覚めるような真っ赤なマントを羽織り、階段の一番上に立つくまには王者の風格すら感じられた。
 くまは俺たちを見つけると、

 ――ニタァ。

 凄みを感じさせる笑みを見せて階段を下り始め、

「あっ!」

 一歩目を踏み外し、階段の一番下まで転げ落ちていった。

 しかも途中で大きなマントが身体に絡まり、巻き込まれ、地面に落ちる頃にはくまは赤い布に包まれた謎の物体と化していた。
 地面に落ちた真っ赤な布が必死でもがく。

「…あ」

 それを見たリンゴが、小さく声を上げた。

「どうした?」
「…これ、あかいへやの、ベッドのシーツ」
「……ああ」

 そういえば、赤い部屋に元々あったベッドは、確かシーツも真っ赤だった。
 そんなでっかい物をもってきて身体に巻けば、こんな事態に陥るのも当然だろう。

「くま……」

 そこまでしてかっこつけたかったんだろうか。
 俺が複雑な気持ちでうごめく赤い布を見ていると、傍に来ていた真希が呆然と尋ねた。

「……ええっと、そーま。なんなの、これ?」
「俺の仲間……かなぁ?」

 自信なさげな俺の言葉に真希がうなずき、

「あー、うん。類は友を呼ぶってほんとだねー」
「私をそこに含めないで下さいね」

 ミツキが猫耳を尖らせて、釘を刺したのだった。



 くまを救出した後、すぐに全員で屋敷を出発した。
 外に出たところで、真希が訊いてくる。

「それで、そーまはこれからどーするの?」
「それよりお前はどうしてまだついてきてるんだ?」

 逆に問い返すが、真希はまるで堪えない。
 むしろ、仲間になりたそうな目をしてこっちを見てくる。

「まあまあ、もうちょっとだけいっしょにいてもいいでしょ?」
「うーん。じゃあ、途中までな」

 別に真希の仲間になりたそうな目にやられた訳ではないが、そんなに急ぎの用事がある訳でもない。
 王女である真希が俺とあんまり長い間一緒に行動するのは困るが、この街を出なければしばらくは構わないだろう。

「それで、そーまはこれからなにをするの?」

 あらためて発せられた質問に、俺は自分でも分かるほど苦り切った顔をして、答えた。

「言ったろ?
 俺は俺で、出来ることをするよ。
 気は進まないが、もう一度、あいつと会うしかないだろうな」
「あいつ?」

 問いかける真希に、俺は重い気分でうなずいた。

「世界最強クラスの魔法の使い手にして、この世でもっとも傍迷惑な魔術師。
 最強天才アホ魔法使い、サザーンだよ」



 残念ながら、ミツキはサザーンとの面識はないらしい。
 代わりにサザーンと組んでいたと思われるライデンの場所を探ってもらったのだが、

「今は……街よりも随分北西にいますね。しかも、これは移動中かもしれません」

 ライデンは王都を出ているようだ。

 サザーンも一緒なのだろうか。
 魔王城はここから真北なので、北西に進んだのなら魔王を倒しに行ったのではないだろう。
 だとしたら、何かのクエストでも受けているのかもしれない。
 それはそれで結構面倒だ。

 ただ、あのパーティメンバーは連携はともかく個々の能力は異様に高い。
 おそらくどんな状況に陥っても帰還出来るだろう。
 そういう意味では安心出来るが、どのイベントに関わっているかで対応は変わる可能性がある。

 あれだけ目立つメンバーなら、街の人が何か知っているかもしれない。
 俺はライデンたちを追いかける前に、街で彼らの情報を集めることにした。



 そして、この街で情報を集めようと思ったら当然、

「おばちゃん、リンゴ三つ!」

 八百屋のおばちゃんの所に行くに決まっている。

「あんたもほんとよく来るねぇ……まいど!」

 150Eを渡して代わりにリンゴ三つを受け取って、リンゴたちにリンゴを渡す。
 うん、久しぶりにややこしい。

「そりゃあもう、いつもお世話になってます。
 それで、今日も知りたいことがあるんですけど、サザーンって知ってますか?」
「サザーン……ああ!
 あのやたら目立つ冒険者たちのパーティの、気持ち悪い仮面付けてる魔法使いだろ?
 そりゃあ知ってるさね!」

 流石おばちゃん、話が早い。
 しかも、サザーンがアレックズたちとパーティを組んでるということもこれで裏が取れたっぽい。

「それじゃ、そのパーティがどこに行ったか知ってますか?」

 俺の次の問いにも、おばちゃんはよどみなく答えてくれた。

「北の方ででっかい仕事があるらしいからね。
 それに行ったんじゃないかい?
 北の村の地下でモンスターが暴れ出したとか、邪教徒に女の子がさらわれたとか、よくは知らないけど色々噂にはなってるようだよ」
「北の村、地下、邪教徒に、少女誘拐…?」

 聞き慣れたタームの連続に、俺の頭の隅で警鐘が鳴る。
 おばちゃんはそんな俺の様子に頓着せず、

「あたしもそこまで詳しい話は知らないけどね。
 そんなに気になるなら、大通りの酒場に行って訊けばいいんじゃないかねぇ?」
「酒、場…?」

 遠くにかすかに見える、この街一番の規模の酒場を指差した。

(あ……)

 それを見た時、俺の頭の中でカチッと、パズルのピースがはまるような音が聞こえた気がした。
 頭をよぎるのは、勲章をもらいに城に行くまでに見た、冒険者の群れ。

 なぜ、気付かなかったのだろう。
 冒険者が街にあふれていたのは、王都襲撃イベントの余波だけが原因ではなかった。
 少なくとも西門以外に向かっていた一団。
 彼らはあの酒場をスタート地点とする、『ある大型クエスト』に挑戦する冒険者たちだったのだ。

「そうですか。ありがとう、ございました」

 口は勝手にお礼の言葉を吐き出していたが、思考はもう目の前の事象を離れ、これからの動きを模索している。
 とにかくもう、一秒たりとも無駄に出来ない。
 俺はおぼつかない足取りでおばちゃんから離れ、仲間たちの許へともどる。

「あ、そーま。そのザザーンとかって人は見つかったー?」

 暢気な声で尋ねてくる真希に、俺は自分でも分かるほどの硬い声で答えた。

「……真希、今すぐ城にもどって、騎士団を今から言う場所に派遣してくれ」
「そーま?」

 怪訝そうな真希の声。
 だが、説明をしている時間はない。

「残念だけど、遊びの時間は終わりだ。
 俺たちは少し、のんびりしすぎた。
 もう手遅れかもしれないが、これから全力で動くしかない」

 彼らが向かったクエストは、『生贄の迷宮』。
 『ミハエルの青い鳥』クエストと双璧を成すほどの悪辣なあのクエストは、しかし『ミハエルの青い鳥』とは決定的に違っている点がある。
 それは、クエストの危険度だ。

「急がないと、大変なことになる。
 あいつらが向かったクエストには――」

 基本的にプレイヤーが危機に陥ることのない『ミハエルの青い鳥』とは違い、『生贄の迷宮』には高いゲームオーバーのリスクがある。
 戦闘を伴うクエストなため、NPCだけでなくプレイヤーが殺されることがありえるし、何よりあのクエストには――


「――プレイヤー死亡以外の、強制ゲームオーバーがある!」

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