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この世界がゲームだと俺だけが知っている 作者:ウスバー
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第九章 狩り

「しゃー!」

 奇声を上げながら、ゴブリンが三匹、俺に向かって襲い掛かってくる。
 が、俺に危機感はない。
 はっきり言ってこんな相手、スキルを使うまでもない。

 ――ざくっ!

 まず一番手前、右手にいた相手を不知火で一刀両断。

「ぐふっ!」

 続いて左、突き出されたナイフを無視して、ゴブリンの腹にパンチをぶち込む。
 苦しそうにうめき、よろめいたゴブリンに、追撃。

 ――どむっ!

 思い切り蹴りを喰らわすと、

「ぎゃん!」

 情けない悲鳴を上げてゴブリンは転倒する。
 しかしその時、背筋にぞっくと悪寒が走る。
 続いて、衝撃。

 ――ずご!

「っく! こざかしい!」

 油断から攻撃を喰らったものの、ダメージはない。
 むしろ返す刀で切りつけて、焦りをごまかすように唇を湿らす。

 ――ざくっ!
 れろっ。

 残ったのは蹴りで倒れた一体だけ。
 剣の腹で思い切り殴りつけると、

 ――がん!
 ――だむっ!

 地面で一跳ねした後、そのまま消滅していった。


 一応三体の敵を倒した訳だが、ドロップアイテムはなし。
 『クリティカルポイント』と呼ばれる弱点を狙ってトドメをさせばドロップ判定にプラス修正がつくのだが、ゴブリンのドロップなんて無理に狙う必要もないだろう。
 その点に不満はない。

 ただ……。

「ちょっと、ふざけすぎたか」

 こんな戦い方を続けていたら、何が起こっても文句は言えない。
 以後、自重しよう。

「狩り場を変えるか」

 俺は自分の言葉にうなずくと、その場を後にした。




 俺はあの幼い少女にすっかり心を折られた後、失われた自信を回復するためにフィールドに出る決意を固めた。

 防具屋に飛び込み、ラムリックの店売り最強品である、ミスリル系の軽装備一式を買う。
 まあそこでも、初心者装備の俺がミスリル製品を買うなんて言ったせいか店員が怪訝そうな目を向けたり、せっかく買ったはいいものの防具の付け方が分からずに店員に手伝ってもらったり、鎧の間に紙を挟んで生存率を上げようと小細工してみたり、着替えた後で鏡を見てちょっとポーズを取ってみたり、と色々あったことはあったのだが、無事に買い物は終了。
 本当はアクセサリーや回復アイテムなんかもそろえてから出発するべきだったのだが、気が急いていたのだ。

 しかし、心配する必要はなかった。
 町の近くで一番敵の弱い北側の平原に行き、先程出て来たゴブリンや、『猫耳猫』における最弱モンスターの『ノライム』や、その亜種である『ノライムブス』という色々な意味で訴えられそうな名前のモンスターと戦ったのだが、これがまた弱かった。

 不知火は当たれば敵を一撃で倒すし、店売りとはいえ序盤の高級品であるミスリル装備は、ノライムの攻撃など物ともしなかった。
 攻撃すれば一発KO、攻撃が当たってもノーダメージ。
 正に一方的だった。

 どうやら俺も、モンスター相手なら罪悪感なしに倒せることが分かったのは収穫だったが、流石に危険が全くないモンスターと戦っただけでは、肝心な時に自分がどの程度戦えるか分からない。
 もう少し敵の強い場所に移動して、今度は本気で戦ってみることにした。

 俺が戦っていたのはラムリックの北、『初心者の平原』と呼ばれている場所で、レベル3程度の敵が出て来る最弱エリア。
 ここから更に西に行けばレベル5、6の敵が出現する『始まりの森』があるが、この調子ならそこでも全く苦戦しそうにない。
 俺は町を抜けて南、『封魔の台地』と呼ばれるレベル25くらいの敵が現れるエリアに向かった。

 今の俺はレベルも武器熟練度も低いが、装備だけはいい。
 体感としてだが、攻撃力はスキルなしでもレベル40相当。
 防御力も20レベルくらいの冒険者と同等程度はあるはずだ。
 レベル25のモンスターも、決して格上とは言えない。

 もちろん、ここで無理をするつもりはない。
 さっきの平原で、エンカウントの仕様がゲームとほぼ同じだというのは理解した。
 相手に目視されなければ、襲い掛かってくることはない。
 俺は町の壁沿いにモンスターに見つからないように歩きながら、獲物を物色する。

 二、三体以上で固まっている敵はスルー。
 一体だけではぐれているモンスターを探す。

「……いた」

 頭の赤い帽子を除けば、さっきのゴブリンとほぼ同じ容姿のモンスター『レッドキャップ』。
 ただ、ゴブリンよりもずっと好戦的で、レベルも高い。
 そのレベルは確か……24だったか。

(実力を試す相手としては、申し分ないか)

 おあつらえ向きに一匹で、しかもこちらに背を向けている。
 俺は不知火を握り直し、背後から足音を盗んでそっと近づく。
 ある程度まで近付いた所で、

(……今だ!)

 俺は一気に動く。
 レッドキャップ目掛けてステップを発動。
 そのステップをロングキャンセルして、スラッシュのショートキャンセルを挟み、再びステップ。

「…ギ?」

 そこでレッドキャップが反応するが、もう遅い。
 その時には既に、その赤い帽子は俺の不知火の間合いに入っていた。

「くらえ!」

 今度こそ気兼ねなく声を出し、スラッシュを発動。
 もはや悲鳴も出ない。
 不知火は何の抵抗も許さずにレッドキャップの身体を両断する。

 敵を切る感触は、ゲームとほぼ同じであまり生々しい感じがしないのが救いだろうか。
 切り付けられたレッドキャップは、振り向く姿勢のまま固まり、光の粒に変わっていく。
 一方の俺は、剣を振り抜いた所からステップで後ろに跳んで距離を取り、その様を眺めていた。

 少なくとも『猫耳猫』においては、敵が完全に消えるまで安心は出来ない。
 そのための用心だった。

 やがて、レッドキャップの姿が完全に消失する。
 そして、レッドキャップがいたはずの場所に、そのトレードマークである赤い帽子が残った。
 初めてのドロップアイテムだ。
 やはり、この辺りの仕様はゲームの通りらしい。

「……ふぅ」

 やはり、スキルの連続使用はきついものがある。
 俺は大きく息をついた。
 だが、格上の敵を倒したことで、身体に力がみなぎるのが分かる。
 レベルアップだ。

 ついでに言えば、このランクの敵ならスラッシュを使えば一撃で倒せることが分かった。
 幸先の良いスタートだ。

「じゃあ、次はあえて正面から戦ってみるか」

 俺は次なる獲物を求めて歩き出した。
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