紛らわしい話
あるところに少年がいた。
少年は、これまで起こした悪事の代償に、大嫌いな読書を、それも一日に何十冊も読むよう強制されていた。
来る日も来る日も活字を読み続ける少年は思った。
本なんて全部消えてしまえばいいのに!
その翌日。
少年の目に本が映る事はなくなった。
同時に、少年が光を見ることもなくなった。
失明したのだ。
夜遅く、ある男が酔っ払って家に帰りついた。
男の妻はかんかんに怒り、帰ったばかりの酔っ払った男に、数時間にも及ぶ説教を食らわせた。
「遅いから心配したじゃない!」
鬼のような妻に悪かったよ、と謝りながら、男は正座で痺れた足をもぞもぞと動かした。
「もし私が何日も帰って来なかったとしたら、貴方だって心配するでしょ!?」
「そりゃ天国だ」
げっそりと疲れた様子から一転、男が生き生きとした笑顔で答えた。
翌日、男が妻を見ることはなかった。
「せんせいっ」
先生の話を聞き終えた男の子が、元気良く手を挙げた。
「その男の人もしつめいしたってことですか?」
男の子の質問に、先生は笑って答えた。
「先生は一度も男が失明しただなんて言ってないよ。それは先入観って言うんだよ、太郎くん」
「じゃあどうしたの?」
「先生には聞かないでくれ」
なぜか瞼のひどく腫れた男の先生は、遠い目をして言った。
かんかんに怒った妻に殴られた傷痕だった。 |