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取り替えられたお姫様【ハッピーエンド】

作者: みぃ

 ある国の国王夫妻が待望の子どもを授かった。暖かな陽気に恵まれたある春の日に、お姫様は誕生した。国王夫妻はもちろん、家臣や召使い、国民も皆、お姫様の誕生に喜んだ。そして、春の神や精霊達からも、美しい金髪の巻き毛を持つ、たいそう可愛らしいお姫様に祝福が与えられた。リーナ姫の誕生である。


 お姫様が誕生したのと同じ日、同じ時刻に、森深くに住む魔女も1人の女の子を出産した。魔女によく似た黒髪の可愛らしい女の子だ。魔女は女の子にレイナと名前を付け、たいそう愛しんだ。


 でも、魔女は知ってしまった。愛しいレイナと同じ日、同じ時刻に産まれたリーナ姫の存在を。レイナの誕生には誰も駆けつけてはくれなかったのに、リーナ姫にはたくさんの祝福が与えられたことを。



 魔女はレイナを愛していた。レイナを手放すことなど考えられない。しかし、それよりも国への憎しみの感情の方が強かった。国はいつも私を除け者にしてきた、そう思い込んでいた。そして、ある行動を起こしてしまった。


 月の隠れた暗闇が支配した夜のこと、魔女はレイナを抱きかかえ、王宮に忍び込んだ。王宮に忍び込むことなど、魔女にしてみれば容易いことであった。流石に姫の部屋には護衛が付いていたが、呪いで眠らせた。


 魔女は姫の部屋に入ると、スヤスヤと眠る姫の隣に愛しいレイナを寝かせた。そして、怪しい呪いを唱え始めると、あっという間に姫とレイナの姿が入れ替わってしまったのだった。


 姫の姿に変わったレイナを最後に一度抱きしめると、魔女はレイナの姿となった姫を抱きかかえ、森深くへと帰って行った。


 取り替えられたことに誰も気づかなかった。護衛は眠りについてしまったことで、軽いお咎めがあったが、お姫様には『何事もなかった』のだから。



 リーナ姫改めレイナは、王宮で優しい両親や乳母のもと、何不自由なくスクスクと成長した。多少わがままに。


 レイナ改めリーナ姫は、魔女の元で森深くの小屋に住むことになった。我が子の姿であって、我が子ではないレイナを、魔女はあまり構うことはなかった。レイナの姿をしているから、成長に必要な衣食は用意したが、愛情はかけなかった。しかし、それでも子どもは成長する。レイナもスクスクと成長した。神や精霊達からの祝福のもと、伸びやかで素直な森を愛する少女へと。



 さらに少女達が成長し、16歳の誕生日を迎えようという頃、異変は起こった。長年呪いを使い続けた魔女は、その力が徐々に弱ってきていたのだ。そして、少女達の姿を入れ替える呪いも解けてしまい、お互いに元の姿に戻ったのだった。


 姫は皆に囲まれた中で、レイナは森で動物達と触れ合っている途中で。魔女は滅多に小屋に戻ってこなかった。だから、自分の呪いが解けたことに気づくのが遅れた。レイナは髪色が変わったことには驚いたが、顔の作りまで変わったことには気づかなかった。髪の色の変化を不思議には思ったが、動物達と触れ合うことの方が楽しく、気にはとめなかった。


 リーナ姫の方はそうはいかなかった。国王夫妻や、国内の貴族を集めた会食中の出来事だったからだ。目の前で突然姿が変わったことに、会場は当然のように騒然となった。リーナ姫自身も、自分の髪の色が変わったことに驚きを隠せなかった。


 一体何事が起こったのか、調査が行われた。魔術師が集められ、リーナ姫から僅かながら呪いの痕跡を見つけた。黒髪で呪いを使う者といえば、森深くに住むという魔女だという話になった。黒髪の姫に魔女の面影があると言う貴族も現れた。国王夫妻は混乱する場を収め、とにかく森に出向き魔女に会うことを決めた。小さな行き違いが重なり、いつしか人を避け森深くに隠れるようになってしまった魔女の元へ。


 リーナ姫には黒髪の魔女と聞いて、思い当たるところがあった。物心ついた頃から、時折黒髪の女性を見かけることがあったのだ。廊下であったり、庭の片隅であったり。しかし、何故だか自分以外には見えていないようでもあった。初めは怖さもあったが、その女性の視線からは悪意ではなく、むしろ慈しみの感情を感じ取ることができた。いつしか見かけることが楽しみにもなっていた。


『もしかしたら、あの女性は母なのでは?』とも思ったが、はっきりするまではと、その思いは自分の胸の内に隠しておくのだった。



 魔女の探索に騎士達が訪れた時、魔女が住むとされる小屋に、魔女は不在だった。しかし、そこには美しい金髪の巻き毛を持つ、美しい少女が住んでいた。素直な彼女のこと。話を聞くと、知っていることを話してくれた。この小屋で魔女と生活していること。魔女はごくたまにしか帰ってこないこと。ついこの間まで、黒髪であったのが、金髪に変わってしまって驚いたこと。


 小屋を訪れた騎士達は、この少女こそがリーナ姫だと確信した。今まで姫だと思っていた少女にそっくりだったのもあるが、何よりも彼女の周りには光り輝く精霊達の煌めきが見えたからだ。精霊の祝福を受けた少女、この少女こそリーナ姫であると。


 自分達が事情を説明しても混乱させてしまうと感じた騎士達は、とにかく少女を王宮へと連れ帰ることを決めた。少女は魔女に何も告げずに出かけることを躊躇ったが、置き手紙を書いておけば大丈夫と説得され、それならばと了承したのだった。



 王宮に着いた少女は国王夫妻と対面を果たす。国王夫妻もこの少女こそが、我が子だと感じるのだった。少女は突然の両親との対面に混乱していたが、自分にそっくりな王妃に抱きしめられ、初めての愛情を注がれると、それを受け止めたのだった。


 今までリーナ姫だと思われていたレイナも、そのことを受け止めた。多少わがままには育っていたが、魔女のように頑なではなかったのだ。黒髪の女性に対する、親しみの気持ちも多いに関係していた。


 魔女の手によって取り替えられていたレイナには罪はない。レイナも王宮でそのまま生活することとなった。王宮でまた魔女の訪問を待つのだ。できれば、自分が1人の時に来てくれたらとレイナは思っていたが、そうはならなかった。


 力が弱ってしまった魔女には、密かに王宮に入り込むのは難しかったのだ。魔女は潔かった。ばれてしまったのなら仕方が無い。自分はどんな罪でも受けるが、レイナに罪はないのだからと、正々堂々と正門から王宮を訪れ、国王に直訴した。


 元は小さな行き違いが重なって疎遠になり、国への恨みを持つようになってしまった魔女。そのことについては、歴代の国王も懸念していたのだ。いつしか、元のように友好な関係を築けないだろうかとも願っていた。


 確かに姫は奪われた。だが、リーナ姫は害されることなく、伸びやかに素直な少女へと育っていた。そして、我が手に戻ってきており、そのリーナ姫も魔女への恩赦を願い出ていた。また国王夫妻は、16年間我が子と信じて成長を見守ってきたレイナのことも、大切に思っていた。そのレイナは、本当の母親と共に生活したいと願っていた。レイナの気持ちも尊重したい。そして、国王は決断を下した。



 王宮にて、リーナ姫とレイナの目の届くところで、罪を償うようにと。



 実質、罪は問わないのと同義であった。負の連鎖はいつか断ち切らなければならない。国王はここで断ち切ることにしたのだ。魔女はまた我が子を抱きしめることができたことに感涙し、国への恨みも晴れていった。



 こうして国王夫妻とリーナ姫、魔女とレイナは共に王宮で幸せに暮らしたのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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