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幻想再帰のアリュージョニスト 作者:最近

第3章 特権者のヒロイック・シンドローム、さもなくばアズーリア・ヘレゼクシュの憂鬱

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幕間 『静謐なる多弁』






 やあ。
 また来たね、アズーリア。
 わかっているとは思うけれど、これで三桁目突入だよ。
 何度も繰り返すけれど、物事には流れというものがある。
 それに逆らうことなく、更なる速度を求めて疾走する――これは努力すればどうにか可能だ。無茶という程でもない。実はある程度までなら誰にでもできる。
 遅くするのはとても大変で、堰き止めるのはもっと大変。
 逆流するのは狂気の沙汰、というわけだ。
 え?
 なら聖女クナータはどうなんだって?
 うん、あれは例外中の例外。だからこそ火竜復活の鍵となりうる存在なんだ。
 魔将たちが血眼になって彼女の首を取りに来るわけだよね。首というか眼球か。
 彼女の【時十字の瞳】もまた紀元槍の制御盤ってやつなんだよ。
 君のフィリスと同じようにね。
 つまり、君たちは揃って狂人というわけさ。
 だからこそ、こんな事ができるわけだ。
 しかしまあ、君も諦めが悪いね。
 思えばついこの間、僕が君を見つけた時にも諦めの悪い事をしていたよね。興味深かったから思わず手助けしちゃったけど。
 確かにえこひいきが過ぎるかもしれないね。ロディニオの向こうまで放逐してしまったのはちょっとやり過ぎだったかもしれない。
 だからといって責任転嫁はよしてくれよ。君の意思でやったことじゃないか。
 いい気味だって思っただろ?
 実は僕もさ。
 けれど、彼も大概意地の悪い――というか大人げない真似をしていたから、丁度バランスはとれていると思うよ。うん、あの白い女の子は災難だったよね。同情して共感した君の気持ちはよく分かる。
 なにせ僕たちは類推と共感しかできないからね。
 さて。
 僕の世界でフィリスを使ったせいだろう。
 あの時、僕と君は繋がった。
 僕が伸ばした手足であり分身である子供たち――四種に分かれた中で最も純粋な『影』である君たちは普段僕のことを認識することはできない。せいぜい夢の中で深層意識の泡が微かに触れて、それを『神託』とか『お告げ』とか言って言語化する程度だ。
 こんな風に直接会話のようなことができているのは、君がフィリスで紀元槍にアクセスしているからだ。世界の上位構造をここまで明確に『翻訳』して意味や言葉の形にできるのは、君が呪文使い――語り直す力を持った人だからだよ。
 【紀】を無理に引っ張ってきた挙げ句強引に物質的な拳に翻訳して殴ったり、凍らせて自分の掌握下に置くような乱暴者たちよりも君が理性的な証拠さ。
 平和で大変よろしい。
 その分だけ、君は乱暴者たちよりも多くの情報に触れることができる。
 この僕を介してね。
 というわけで、全知全能とは言わないまでも、それなりに万知万能である僕から可愛い子供たちの一人であるアズーリアに忠告だ。
 諦めなさい。
 どうやってもプリエステラは死ぬよ。
 いや、死んだ方がマシな結果になる、かな。ここで助かってもロクな結果にならないんだ。もっと酷いことになる。
 ついでにティリビナの民たちも死んでいるけれど、まあ彼らはついでみたいなものさ。実のところこの時間流の中で本当に重要なのは彼女だけなんだ。
 彼女が死ぬ機会は何度もあっただろう?
 君たちやイルスといった別の強い流れが合流したお陰で延命出来ていたみたいだけど、本当なら彼女は死んでいるはずだったんだ。
 何度も全滅してるのは君が彼女を諦めないせいだよ。
 普通にやればプリエステラを含めたティリビナの民は全滅する。
 上手にやればプリエステラだけ死んで終わりだ。
 今回の理不尽な出来事、つまりはカタルマリーナとビークレットの亡霊が君たちを襲うという災厄はね、彼女を消す為に世界の修正力が働いた結果なんだ。
 大抵の不運というやつは、そういう運命の帳尻合わせが露骨過ぎて可視化された結果なんだな。
 彼女が生きていると、とても不都合な事が起きてしまう。
 世界そのものを揺るがしかねない――それこそ、この世界を引き裂いて滅茶苦茶にしてしまうような天災が起きてしまうんだ。
 このどうしようもない繰り返しを抜け出す方法は一つだ。
 アズーリア。プリエステラを見捨てるんだ。
 全ての状況で、プリエステラは囮になってティリビナの民や仲間達を逃がそうとするだろう? あれが自然な成り行きなんだ。彼女はあそこで死ぬ運命にある。
 君は仲間の死を乗り越えて前に進む。
 前と同じさ。
 いや、キール隊の全滅が必然だったのに対して、今回は一人の死だけが必然だから、まだ易しい状況とも言えるね。
 ――これだけ言っても、君は聞く耳など持たないんだね。
 まあわかってたよ。
 仲間の為なら古き神であろうと敵に回すような子なんだ。
 たとえそれが自分の生みの親であっても関係は無いだろうと思ってはいたさ。
 もう止めないよ。
 ――このやり取りも何度目だろうね。
 方法なら一応あるよ。
 同じだけの強い運命を保有する誰かが代わりに死ねばいい。
 幸い、君とその仲間たちはそうした資質に恵まれている。
 そんなことは許容できない?
 だろうね。そう言うと思ったよ。
 ――そして、その答えも予想済みだ。
 アズーリア。君が犠牲になることは許さない。
 当然だろう。可愛い子供が死のうとしているのを止めない親はそういないと思うよ。僕は結構過保護なんだ。
 そもそも君が死んでしまった後、残された人達はどうするつもりだい?
 大切な妹を救い出すっていう目的を見失ってはいけないよ。
 いざとなったらその覚悟を決められるのが君の強さじゃなかったのかな。
 それともあれは口先だけの安い覚悟だったのか。
 違うというのなら、それを証明してみせることだよ。
 ――決意は揺るがないんだね。
 ああ、わかったよ。また力を貸してあげればいいんだろう。
 構わないけれど、僕はいわば蛇口から水を注いでやることしかできないんだ。僕の力をどう使うかは君次第。失敗すればまたここに来ることになるし、その度に残された機会は失われていく事を忘れないでね。
 フィリスに浸食されたぶんは巻き戻らないんだから。
 特異点としての性質が強まるから僕から力を引き出しやすくなるけど、他の神格からも干渉されやすくなるってことも覚えておいてくれよ。
 聞き飽きたって?
 僕も言い飽きたよ。
 おや、そろそろ行くのか。ああ、彼女をこれ以上待たせるのも悪いからね。
 僕がよろしく言っていたと伝えておいてくれ。
 ねえ。
 後悔するよ、アズーリア。
 君は必ず後悔する。
 彼女がここで死んでおかなかった為に、これからどれだけの血が流れ、どれだけの嘆きが広がり続けるのか。
 それでもいいと君は言うけれど、それでもプリエステラが死ぬくらいならと君は言うけれど、とうに覚悟はできていると君は言うけれど。
 この先、君を待ち受けているのは、死よりも過酷な運命なんだよ。
 ああ、こんな事を言っても脅しにはならないか。
 実感が伴わなければ想像もできない。
 残念だ。
 君がもう少しだけ穏当に彼と再会できればと思ったのだけれど。
 え?
 意味深な事ばかり言うなって?
 わからないように言っているんだから当たり前じゃないか。
 文句が多いよ、アズーリア。
 本当はここまで干渉するのもかなりルール違反なんだ。口うるさいラヴァエヤナあたりに見つかったら大目玉だよ。
 仕方無いな、なら頑固な子供に僕からわかりやすい忠告だ。
 危険を恐れず、今までやらなかった事をやってみなさい。
 あり得ない結果を生むために、一番あり得ない手に縋るんだ。
 もうわかっただろう、アズーリア?
 それがこの状況を全員無事に抜け出せるであろう、恐らく唯一の可能性だ。
 多分君にとっては賭けになるだろう。
 そして今までに無いほど巨大な代償を支払うことになる。
 だが、覚悟はできているんだろう?
 それならいい。
 素直な君に、もうひとつおまけだ。
 第五階層に送り出したティリビナの民たちに、しっかりと気を配っておくんだ。
 いいかいアズーリア。
 関わったからには最後まで責任を持ちなさい。
 パレルノ山から護送して『はいおしまい』とはいかないよ。
 彼らとの縁はこれからも続く。
 全員救うと決めたのなら、プリエステラもティリビナの民も。
 ガロアンディアンもシナモリ・アキラも、全員きちんと救ってあげなさい。
 それができなければ、君はただ無責任に災厄を撒き散らしただけの大馬鹿者になってしまう。
 自分の子供たちがそんなことになってしまうのは、親として心苦しいからね。
 どうかしっかりやっておくれよ。
 君がプリエステラを救うことで定められてしまう時間流――その果てに待つ第五階層の言震を、見事その左手で解体してみせるがいい。
 さあ、時間だ。
 ほら、泡ができたよ。
 さっさとこんな深みから浮き上がって仲間たちの所に行きなさい。
 僕の身体の一端で持ち上げてあげるから。
 ――ねえアズーリア。
 僕は彼女の死を必然と言ったけれど。
 同じように、君が諦めないのも必然なのかもしれないね。
 世界の修正力すら押しのけてしまう、君という世界観の修正力。
 この世界に抗い得る異界を内包する者――グロソラリアとゼノグラシア。
 人の子は似たものに共感を覚えてしまう。
 摸倣と複製を習性とする僕の子供たちは特にね。
 その定めからは君も逃れられないということかもしれない。
 レルプレアの依り代であるプリエステラに、君は強く共感してしまうのだろう。
 おや?
 もしかして気付いていなかったのかい?
 僕とこうして直接感応して、この『夜』から記憶を持ち帰ることが出来ているのが、本当にフィリスの力だけだとでも?
 君はプリエステラやクナータと同じものだよ。
 珍しくも無い。どの眷族種にも一人は必ずいるんだから。
 色々あったせいで、覚醒が少しばかり遅れてしまったけれど。
 君は紛れもなく、僕の依巫よりましだ。






 途方もなく巨大な存在が、私の中から離れていくような感覚。
 それは心地良い親の手から引き剥がされたような不安感をもたらしたけれど――やがてすぐに慣れた。
 これが、普通の事。
 どこまでも続く闇の中。
 頼りになるのは上空の夜月だけ。
 下を見ると、闇がわだかまったような触手が一本だけ、深みへと沈んでいくのが見えた。
 私は大いなる父祖にして太母たる存在に左手で簡素な礼を示して、青い翼をはためかせて天に昇っていく。
 影の中は実世界とは時の流れ方が異なるとはいえ、余り猶予は無い。
 後ろ肢で虚空の影を蹴って、影の触手を回転させてアストラルのうねりを作り出して加速する。
 何しろスキリシアの最深層にまで潜っていたのだ。かなりの距離を飛翔しないと実世界には戻れない。
 やがて、私は待たせていた人の所に辿り着いた。
 翼をばたばたと動かして制動をかけた。
 無数の触手が霊長類型の影に戻っていく。
 天の果てに輝く実世界との境界――夜月の手前で待っていたその人に、私は声をかける。

「ごめんサリア。遅くなった」

「貴方のその姿、もう何度も見てるけど――やっぱり調子狂う」

「お望みなら霊長類体に変身するけど?」

「それはそれで調子狂うからいい。どうせすぐ上に戻るでしょ」

 交わす言葉は、もうすっかり気安い。
 この繰り返しを始めて以来、もう随分と長い時間を共有しているように思う。
 実際には、短い時間しか積み上げていないのだけれど。
 私の青い牡鹿鳥としての姿が実世界とは異なっているように、探索者サリアの姿もまたこの影の世界では変化している。
 細いシルエットの漆黒の全身甲冑と、肩から背中へと流れる厚みのないマント。
 軽装の実世界とは正反対の、影の重武装。
 彼女は古代の夜の民が作り出した『実体が存在しない呪具』を己の影に装備しており、その力によって私と同じように自在にスキリシアに侵入できるのだ。
 尤も、私と違って浅い層までのようだが。

「わかってるとは思うけど、世界からの反動が怖いから時間遡行したことはちゃんと誤魔化してね。不自然な言動は慎んで」

「整合性がとれない言動はしない。大丈夫、覚えた」

「本当かな――あの時みたいなことはやめてよね?」

 あれは何回目の試行だっただろう。
 もういっそ皆に何もかも打ち明けて事態を乗り切ろうとした途端だった。
 まるで銃を撃った時のミルーニャのように――あるいは未来を回想し過ぎた時のクナータのように、私は全身をずたずたに引き裂かれて血の海に沈んだ。
 頭の中に異物が入り込んだような激痛で動けなくなってしまって――サリアが助けてくれなかったら危ないところだった。

「――状況を確認するけど。まず私ね。コアから預かった呪力はもう完全に枯渇してる。アズーリアが引き出してくれてる古き神の呪力を使ってどうにか遡れるって状態ね」

「私は、フィリスの浸食率がかなり不安ですけど金鎖そのものは状態が巻き戻るので暴走はまだしばらく大丈夫。【万色彩星ミレノプリズム】でサリアの時間遡行能力を複製して同じ『距離』だけ遡れる」

 ――始まりは、【未来回想】だった。
 意味の分からない、無数の幻視映像。
 あり得るかも知れない未来、起こり得る状況、必然を中心とした偶然の羅列。
 分岐し続ける膨大な記憶に、私の頭は割れそうになった。
 それはどこかの未来で私が再現した聖女クナータの【未来回想】で、それによって未来の情報を過去の私に強制的に送信したのだとしばらくして理解できた。
 それは『失敗した私』『何も出来なかった私』の最後の悪足掻きだった。
 未来の私は何も出来ずに終わることを良しとせず、あらゆる失敗の映像を見せて私により良い手段を選択させようとしたのだ。
 プリエステラとティリビナの民たちがどうやっても悪運に見逃して貰えない。
 けれど、私は全ての運に見放されているわけではない。
 むしろ私は幸運だった。
 サリアと出会っていなかったら――この時間遡行能力者がいなければ何もかも終わっていたに違いないのだから。
 幾つかの未来記憶で見た『サリアが時間遡行をする瞬間』を解析して【万色彩星】を発動し、過去に遡行できるようになった私は、同じように何度も時間を遡って状況を打破しようと足掻いていたサリアと合流し、共闘することになった。
 サリアはそうしようと思えば自分だけ生き延びることだってできたはずだ。
 なのに独りきりで戦い続けてくれていた。
 能力の制約ゆえに、誰にもその事実を打ち明ける事ができないまま。
 それが一度引き受けた依頼は必ず遂行するという一流の探索者としての誇りによるものなのか、彼女の優しさによるものなのか、一度訊ねてみたけれど、答えは返ってこなかった。
 何となく、両方であるような気がした。
 あまりにも巨大な力を有するがゆえの責任感――こんな事を言えば、きっとサリアは『馬鹿馬鹿しい』と一蹴するだろうけれど。
 彼女もまた、紛れもない英雄なのだと私は理解していた。
 そういうわけで、私たちは何度も時間を巻き戻って同じ時間を戦い続けている――のだが。

「手詰まりね」

「手詰まりだよね」

「私が単独突撃して片方を足止めするパターンはもうやり尽くした。その間にもう片方に襲われて全滅してるし」

「カタルマリーナさんに静謐を使うと静謐で打ち消されるし、ビークレットさんは総体が巨大過ぎる上に意味が流動してるせいで上手にフィリスで捉えられないし」

「アルマを連れてこられればいいんだけど、事情説明できないのがきついな――あの子、ティリビナの民に遭遇する可能性が僅かでもあるだけで嫌がるから」

「そこまでなの?」

 その割に、プリエステラを見ても平気そうな反応だったけれど――サリアに訊いても事情は言えないの一点張りだった。
 冬の魔女の仲間の片割れを頼りにするのは諦めた方が良いらしい。

「なら、コルセスカさんに連絡してみるのは?」

「――それは何度かやった。けど、これから仕事で人と会うとかで忙しそうだったから」

「アルマさんと違ってどうしても来れないってわけじゃないんでしょう? 事情は言えないけど困ってるとか、何か事情をでっち上げれば来てくれそうじゃない」

 そう言うと、何故かサリアは苛立たしげに腕を組んで、

「あのね。そもそも本来ならコアとは『繋がり』があるから遡行した事を隠す必要すら無くて全部伝わってるはずなの」

「それなら何で」

「その――今、ちょっと喧嘩してて『繋がり』切っちゃってるの。だからこっちの事も伝わりにくくなってるし――ちょっと怒らせちゃったからあっちも苛ついてるみたいで、どの周回でも口論みたいになって」

「はあ」

「で、最後には弾みで『仕事と私とどっちが大切なの』とか『そんなに冷たい人にはもう吸わせてあげない』とか。コアはコアで『どうせ私は冷たくて氷のような魔女です』って。口調は静かだったけど、あれは激怒してる声だった。ああもう、なんであんなこと言っちゃったんだろう」

 もしかして私は、痴話喧嘩の愚痴を聞かされているのだろうか。
 サリアは『連絡したら絶対に拗れて嫌われるから呼びたくない』などと強く主張しているが、ええとこれふざけてるわけじゃなくて真剣な話なんだよね。
 第一印象はもの凄く格好良かったのに、めんどくさいなこの人。

「なんでそんなことに」

「アンタのせいでしょうが!」

 がしっと漆黒の籠手が私の角を掴んだ。止めて欲しい。

「そもそも! アンタが! あの子に余計な事を言わなければっ!!」

 そのまま私の足をしつこく蹴ってくる。軸足を開いて関節部を狙うしっかりとした下段蹴りである。痛い痛いやめてやめて。

「でも、だって、そうしないと私もコルセスカさんも後悔すると思ったから!」

「その結果がこれよ! 私の後悔の責任をとれっ! このっ解体して鹿鍋にでもしてやろうか! 味が鶏肉に近いのかどうか確かめてやろうかっ」

「やめて! 私おいしくないよ! 嫌、羽をむしるのはやめてー!」

 私の足や影をぐりぐりと踏みつけてくるサリアから命からがら逃げ出すことに成功した私は、彼女の手が届かない深みまで飛んでいく。
 荒く息を吐きながら、どうにか落ち着いてきたのかサリアは言葉を繋げた。

「そもそも、私は本来コアを守る使い魔なんだから。状況が切迫してるからといってもコアを頼るなんてできない。立場が逆でしょ」

「めんどくさいなー」

 というか、私は彼女を見倣うべきなのだろうか。
 実を言えば、私とハルベルトが末妹候補とその使い魔候補であることは既に話してしまっている。
 しかし、場合によっては敵対するかもしれない相手を前にしても、サリアは全く態度を変えなかった。
 曰く、『どうせコアと私たちが負けるはずがない』だそうだ。
 凄い自信だが、あながちはったりという訳でもないのが怖いところだ。私は正直、時間遡行能力を持つサリアを敵に回して勝てる気がしない。
 松明の騎士ソルダを相手にした異獣たちの気分だった。
 けれど、私だってハルベルトと力を合わせれば負ける気がしないのは同じだ。
 師弟という関係が最初にあったためか、私はハルベルトに頼る事に余り躊躇いが無い。
 魔女とその使い魔という在り方としては、サリアのような考え方が正しいのかもしれない。

「アズーリア、この状況を切り抜けたら仲直り用のプレゼント見繕うから付き合いなさい」

「え、まさか奢れとか言わないよね」

「言うに決まってるでしょうが。まさかタダで時間遡行能力を盗めると思ったわけじゃないでしょ?」

「あ、はい。もちろんです」

 顔を覆う兜の切れ目から僅かに覗く眼光が私を竦み上がらせる。怖い。

「――話を戻すわね。要するに問題はあのプリエステラって子なわけよね。どの周回でも全員を守ろうとして自己犠牲に走る――仲間という関係性に至上の価値を見出す使い魔系統の典型。まあ嫌いじゃないけど」

「なんか、世界の修正力とか運命とかよく分からないことを言われたよ」

「古き神の言うことなんて話半分に聞いておいた方がいいわよ。アルマの奴もピュクティエトの神託なんてほとんど無視してるし」

「そうなの?」

「あいつらは結局、人間を手駒にして自分の都合のいいように世界をねじ曲げたいだけ。節操なく祝福者を作り出してるペレケテンヌルあたりと比べればアンタの所の神様はおとなしいけれど、だからといって信用出来るかどうかは話が別」

 なにより、と彼女は自らと私を交互に指差して、どこか得意げに言った。

「ここには運命を破壊し得る強力なグロソラリアが二人もいる。一人ぶんの『死の必然』くらいどうにでもできるに決まってる」

「――うん、そうだね」

 私は頷いた。ずっと抱き続けてきた心強さは揺らいでいない。
 サリアがいれば何とかなる。繰り返される戦いの中で、私の心が折れなかったのはきっと彼女という頼もしい味方がいてくれたからだ。

「あのね。まだ、試してない手段があるの。普通に考えたらあり得ない手だけど」

「ふうん? 言ってみたら。後回しにしてたってことは、大方ロクでもない策なんだろうけど。まあ試すだけ試してみればいいでしょう」

 こうやって、無茶な作戦を出し合うのもいい加減慣れてきた所だ。
 翼を広げ、私は彼女に近付いていく。そして、囁くように告げた。
 私の考えた、あり得ない奇策。
 それは、

「ガルズ・マウザ・クロウサーとマリー。あの二人が倒される前に接触して、協力を仰ぐ」




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