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幻想再帰のアリュージョニスト 作者:最近

第2章 もしサイバーパンク世界の住人がオカルトパンク世界に転生したら

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2-15 そんなことよりゲームをしよう

 

 
 よく誤解されるんですけど、【停止】とか【略奪】とか、四大体系の邪視とか世界観の拡張とか、あと血も凍る吸血鬼とか、そういう理屈の結果として凍結が起きてるんじゃないんですよ。全部逆で、後付の解釈なんです。氷血のコルセスカって、まず一番最初に【氷属性】があるんです。

 そう。【冬の魔女】。おとぎ話に出てくる――こういう言い方をすると妙な感じですけど――伝説上の人物です。架空か実在か、という判別はこの場合とても難しくて――史実と誇張が渾然一体となって拡散しているような感じですね。神話ってそういうものなんです。多分貴方の世界との違いは、誇張すら実体となって史実を改変してしまう所、でしょうか。

 おわかりかと思いますが、私は人間ではありません。かといって【下】の住人というわけでもない。似た存在があまりいないので比較に困るのですが、しいて挙げるならあの聖騎士が侍らせていた五人――五つの神滅具ですね。手法だけじゃなくて、来歴も同じなんですよ。古代の覇王メクセトが神を滅ぼす為に作り上げた千を超える呪具の数々。それがあの五つの武具と――【氷血のコルセスカ】の正体と言われています。

 私は仮想的な映像を武器の周囲に投影して、呪力によって外界に干渉し、呪力のはたらきによって思考する、架空の生命。全身に呪的テクスチャを張り巡らせることによって実体を獲得した、質感の怪物。

 私は、人であり武器でもある存在。人でなく武器でもない存在。神話の中に登場する、伝説の武器を擬人化したもの。あるいは、その派生先もしくは派生元としての魔女伝説の具象化。【氷の神滅具】の伝承が先だったのか、【冬の魔女】という神話が先だったのか、それか全く異なる来歴の伝説が混淆して同じものとして見なされるようになったのか――様々な見解があるようですが、それはここでは置きます。事実として、私はそうした神話群をリソースに【星見の塔】で創造されました。情報によって構成された呪的生命。それが私。

 これだけ非実在の存在のように語って申し訳無いんですけど、生身の肉体もちゃんとあります。私という生き物の血と肉と臓器の細部に至るまで、この世界の基盤――万象の根源たる紀元槍アカシックレコードに精確に記述されているのです。それは存在するのと同じこと。余りにも精彩な幻影は、この世界では実体を有する。伝承、空想、歌物語、そして神話。私はそれを体現する、擬人化と神話の魔女なんです。

 気がついた時、私は存在していました。それが物心がつくということだったのか、それともその瞬間に私が誕生したのかはわかりません。覚えているのは、こちらを取り囲んで見下ろす八人の女性の姿。そして、微かな記憶の中に何度も登場する、小さかった私よりも更に小さな、赤い髪と緑色の瞳をした妖精のこと。それだけです。

 ええっと、とりあえず自己紹介はこんな感じです。もっと早くしておけばよかったですね。長らく正体不明でさぞ不審な人物に見えたことでしょう。けれど、これ一応【塔】の最高機密なので。【塔】の関係者以外に話すのは、貴方で三人目です。

 さて、私にも子供時代はありました。転生者といっても、その頃は前世の記憶なんてほとんど自覚がなかったんです。曖昧な光景を、夢か何かだと思ってたんでしょうね。おかげで夢見がちな子供だったと思います。

 ――クレアノーズお姉様に与えられた本や漫画やゲームの中に、よく氷血のコルセスカという魔女が登場しました。最初は私と同じ名前に少しびっくりして、それから気付きました。私の名前は、この魔女から取られているんだと。過去の人物から名前をいただくというのはよくあることですからね。それは半分正解で半分間違いでした。

 ゲームの中の氷血のコルセスカは対戦系だとリーチの長い氷の槍使いで、私はよくトリシューラをさんざん負かせて最後にはつかみ合いの喧嘩になりました。その頃は私の方がずっと大きかったので――何しろ彼女は私の掌に収まるようなサイズですから――トリシューラが泣いて私が悪者というのがいつものパターンでした。一人用のロールプレイングゲームだと氷血のコルセスカは物理攻撃力と魔法攻撃力が高くて炎攻撃に弱いというのが多かったですね。私はいつもレベルを限界まで上げて、たとえ苦手な炎属性の敵が出てくるダンジョンでも無理に連れ回していました。自分の分身のつもりだったんでしょうね。主人公じゃないサブキャラとして出てきても、私にとって氷血のコルセスカは主人公だったんです。

 物語に出てくるコルセスカは色々な性格や背景を持っていて、色々な結末を辿りました。クールで頭脳明晰なコルセスカ。無口ではにかみ屋なコルセスカ。冷酷非情の悪役キャラというのもありました。伝説の武器とか魔獣というパターンも幾つか。戦ったり死んだり恋したり、異なる可能性を沢山見せられて、私は違う人生を歩んでいるような錯覚に浸りました。私はこの頃から夢見がちで、異世界に召喚されてその世界を救う妄想とかもしてました。オリジナルの言語や魔法を作ってみたり、歴史を改変した小説を書いたり、創作神話を作って遊んだり。

 ですから、実を言えばアキラのことをとても興味深いと思っていたんです。実際に異世界からやってきたこの人は、どんなことを考えているのだろう、と。今でも少し思います。貴方の世界に私が転生したらどういう事になるんだろうって。その世界は私が思い描くような異世界なんだろうか。胸の躍るような冒険やドラマが待ち受けていたり、はっとするほど目を見張る光景があったりするんだろうか。貴方を誘ったのも、本当は転生者ゼノグラシアがどうとかは関係無くて、そんな夢見がちな関心が先にあったのかもしれませんね。

 でも私はそういう空想が本当は実現しないって知っていました。私はただ、最後の魔女になるために生まれてきた存在だって、大きくなるにつれて分かってきたからです。段々と『前世』の記憶も甦ってきたということもあります。思えばお姉様が私に氷血のコルセスカ絡みのフィクションを与えてきたのは、そういう自覚を促すためだったのかもしれません。それか、私の前世の記憶というのは実は単なる妄想で、フィクションに耽溺してきた結果として形成された『何かそれらしい氷血のコルセスカ像』なのかもしれません。きっとどちらでもいいんでしょう。

 私の使う邪視呪術が意味するのは世界観の拡張。知覚や認識、現実世界に於ける価値判断に関わる呪術で、多くは光学的な情報を処理することで発動します。その効果は自らの主観的世界を他者の主観的世界に押しつけること。つまり客観的な世界そのものの改変です。妄想を具現化する技術と言い換えてもいいでしょう。

 私は小さい頃から数多くのフィクション、小説や漫画や映像作品やゲームに熱中して育ちました。お姉様たちの英才教育によって、邪視の適性を高めるために、日本語で言うところのオタクとして鍛え上げられたのです。この言葉、二人称が名詞化しているんですね。どういう成立過程なんでしょうか。興味深いです。

 話がずれがちですね。すみません、話し下手で。

 ――重要なのは、私が【冬の魔女である氷血のコルセスカ】という大昔にいたらしい、物語の中に今も生き残っている存在になるために生まれてきたということです。キュトスの姉妹の末妹、最後の魔女【氷血のコルセスカ】。そのために生まれてそのために育てられてそのために夢見がちな今の私という人格がある。自分が歴史上の、あるいはフィクション上の登場人物だと考える誇大妄想狂を生み出すためだけにあった今までの、そしてこれからの人生。そのことを考えると、寒気がする思いでした。本当は寒さなんて生まれてこのかた感じたことが無いのですけど。

 生まれた時から一緒だったトリシューラも同じような境遇でした。似たような悩みを抱えていた。そう思っていた。でも違った。ある程度成長した私に合わせて製造された小さな義体に縋り付いて、泣きながらお互いの恐怖を語り合っている時、私は『違う』と気付きました。トリシューラと私の抱えている恐怖は似てはいても違うものなのだと。

 トリシューラの目的は『自分になること』です。あるのかどうかも分からない自分を、自力で見つけてそこに向かって走って行かなくてはならない。きっと途方もなく困難な試練でしょう。

 けれど、私は違う。私の目的は『氷血のコルセスカになること』で、既にある神話や伝説をなぞって似たこと、同じようなことを演じていけばいい。レールが既に敷かれている私と舗装すらされていない獣道しか用意されてないトリシューラ。雲泥の差だと、そう思いました。トリシューラの苦しみの前では、自分の悩みなんて大した事ではないように思えて、もの凄く惨めになりました。私がその時抱いた感情が罪悪感などであれば少しは救いがあったかもしれません。けど違った。私は彼女への劣等感にうちのめされていたんです。矮小な、取るに足らない悩みに苛まされる、更に矮小な自分。それどころか、自分の悩みさえ否定されたような気がして、彼女を逆恨みさえしました。以来私はトリシューラに苦手意識を持つようになりました。今も、少しだけ苦手です。

 神話の時代、氷血のコルセスカは創世竜の一角、炎帝メルトバーズを氷漬けにして地獄の奥底に封印したと言われています。今、地獄の軍勢は地上へと侵攻し、聖女を生贄にして炎の竜を復活させようとしている。私が神話の魔女になるのであれば、地上の敗北と火竜の復活を待って再び竜の封印を行えばいい。

 そういうずるくて嫌なことを沢山考えて、自己嫌悪でうずくまって、ひたすらフィクションの中に耽溺していきました。ゲームの中で、ヒットポイントの低いコルセスカをドーピングアイテムでひたすら強化していけば、私も少しは打たれ強くなれる気がして、延々とやり込みプレイをし続けました。実際は、上限一杯まで上昇しても現実の私は弱いままでしたけど。――すみません、変な喩え方ばかりして。異世界から来たアキラには何言ってるのかさっぱりわからないですよね。

 私は私のことが嫌いでした。かろうじて肯定できるのは、氷血のコルセスカという曖昧な、でもヒロイックなキャラクターのイメージ。引きこもりながらひたすらゲームをクリアして世界を救い続けてきた私は、彼女ならこうするだろうという確信を得て、探索者になりました。自分が迷宮を攻略して、地獄の火竜を倒すんだと決意できたのは、皮肉にも私をこんな風にしたフィクションのおかげです。

 けれど探索者になってもそう上手くはいきませんでした。自分の世界観を表出させるのが邪視の呪術ですから、自分の事が嫌いな私が使う呪術はとても攻撃的で、自分も周囲の人もみんな傷つけてしまうようなひどいものでした。氷血のコルセスカの伝説が、他者に犠牲を強いる呪われたものだったことも影響していたと思います。

 私の周りには誰も寄りつかなくなりました。それでいいんだと、半ばいじけながら一人きりで迷宮を進んでいたある時、変な二人組と出会いました。
 そのうちの一人は底抜けに頭が悪くて、私の周囲にいると命の危険がある事を知った後でも、傷つきながら私に近付いてきて笑いかけるような人でした。もう一人も、文句を言いながら何だかんだで命がけで私の傍を離れようとしない。二人をこれ以上傷つけられないと思いました。

 何度も何度も離れようとして、その度に追いつかれて、気がついたら彼女たちから逃げられなくなっていました。私の目的は、二人を失わない為に戦うことに切り替わりました。二人を傷つけずに傍にいるために、自分を肯定できるようにならなくてはいけなかった。私自身の力で彼女たちを殺してしまわないように、自分自身との戦いが始まったんです。

 色々な事があって、色々な人に出会いました。引きこもって沢山のフィクションに浸っていた時と同じように、無数の『私のものじゃない』物語が私の前を通り過ぎていきました。そうしているうちに、気付いた、というかある人に指摘されて気付かされました。現実も物語も同じなんだって。物語の中の登場人物はみんな自分の人生を必死に生きていて、現実に生きている人たちも自分の人生を必死に生きている。私はいつだって物語と共にあった。
 物語の中、歴史の中の氷血のコルセスカもそうで、トリシューラも、きっとそう。だとすれば、今、ここにいる私だってそれは同じなんだって、そう思いました。そうしたら、トリシューラに対する劣等感も消えて無くなりました。だって本当は、私の勝利条件も彼女と同じ『自分になること』だってわかったからです。言葉の上で違う目的であるかのように表されているだけ。私達は、本当は同じ目的に向かって進んでいたんです。

 伝説にある氷血のコルセスカ、神話の中の冬の魔女。昔語りから抽出されて編集された、架空の存在を模倣して生まれたのが私。

 けれど、そんなことはどうだっていい。私は、今ここにいる私はたった一人。何かを参照して作られただけでは不十分だというのなら、今ここにいる私が参照されるくらいの存在であればいい。私が新たな神話を紡いでみせればいいんです。

 ――いいえ、殊更に神話を生み出してやるなんて宣言は必要ない。今、ここに生きている私こそがこのゲームのプレイヤーなんです。神話なんてものはその後に吐き出された残骸リプレイデータでしかない。かつて存在したかもしれない氷血のコルセスカも、きっとただ目の前の現実と戦っていただけ。神話の再生? 私固有の模倣ミミクリー? いいでしょう、それがゲームのルールだというのなら、私は私なりのプレイスタイルでそれをクリアして見せます。過程がどうであれ、最後の魔女エンディングを目指すのがプレイヤーとしての作法でしょうから。だから、私は迷った時、どうしようもなくなった時には高らかに宣言して、目的を再確認するのです。結局の所、私にはそれしか無いから。

 

 

 
 長い、あまりにも長い語りが、氷の中で終わりを告げようとしていた。締め括る言葉は、いつか差し伸べられた掌にも似て。

「――私はこの迷宮ゲームを最速で踏破クリアして、火竜メルトバーズを今度こそ殺してみせる」

 それは。

「おとぎ話の魔女として、そして今この世界に生きる探索者として。荒ぶる竜を討ち滅ぼし、猛る世界の残酷を、人の摂理に基づきまつろわせる」

 あまりにも荒唐無稽で、馬鹿げたスケールの。

「そうして私は、現実を更新する。神話なんて、私の後ろを追いかけてくればそれでいい」

 俺の運命だった。

 ようやく俺は、『コルセスカ』と出会った。

 俺は見た。そのアシンメトリーな異相を、深い青の左目を、氷のような右目を、白雪のような肌を、白銀の髪を、隠された両腕を、その身を包む黒と白の衣服を、光沢を湛えた氷の靴を、氷細工のように煌めく姿を、怜悧な仮面の奧に燃え上がるような意思を秘め隠しているその表情を、過酷な運命を乗り越えようとするその力強い抗戦を。

 俺は、コルセスカを見た。
 言葉が選べない。拙い言葉が、何かを壊してしまいそうで怖かった。
 壊したくないと、思ってしまった。
 荒々しい静寂が辺りを包み込み、

(ちょっと待ったぁぁっ! 何それ何それ何なの今の、ねえちょっとアキラくん聞いてる?!)

 シューラの時のコピペってどういうこと! というちびシューラのマジギレ声が頭の中でガンガンと響き渡る。

 何故こいつがここにいる、という疑問は、瞬時に文字情報としての知識が視界に流れて解消される。ちびシューラは死んだり消滅したりしたわけではなく、今までは単に敵の攻撃で休眠状態であったこと。回復後も空気を読んで静かにしていたこと。そしてずっと俺の思考を監視していたこと。

 こいつは脳内のマイクロチップ内に潜んでいたわけではなく、よりにもよって脳細胞そのものに刻印された呪術式が電気的な情報のパターンを形成することで生起される存在だということ。

 つまり、脳そのものが物理的に損壊しない限り、ちびシューラは殺せないのだ。キロンの攻撃によってマイクロチップは破壊されたが、彼女は生存していられたのはそれが理由だった。

(はあああぁぁっ?! はあああぁぁっ?! 信じられない! 意味わかんない! 一体全体どういう心理が働いてそうなったの?!)

 やかましい。凄まじい煩さだった。懐かしいほどの鬱陶しさにちょっと涙が出そうになる。それにしても、どういう心理も何も無い。力を失ったらあっけなく掌返して放り出したくせにさも自分が裏切られたような態度は心外である。捨てた相手の心変わりを責めるか普通?

(シューラ、心の中のすごく大切なものを穢された気分だよ! あれはシューラに対する特別な感情じゃなかったの?! ああいうのはシューラだけなんじゃないの普通! 誰にでも思うことじゃないよね!)

 精神的につらい状況で優しくされたりすれば、それだけで心が揺らぐのはごく普通のことなのではないだろうか。頭の中の騒音に顔を顰めて対処している俺を、コルセスカが不思議そうに見ている。彼女にはちびシューラのことを話してもいい気がする。考えてもみれば、わざわざ隠しておくような事でも無い。

(へえええええそうなんだアキラくんは誰にでもこういうこと思っちゃうんだ例の店員さんのこともそうだったけど要するにアキラくんは誰でもいいんだね雰囲気がそれっぽければ簡単に流されちゃうんだ)

 否定はしない。しないが、釈然としない。なぜこっちが悪いみたいな感じになっているのだろう。そして、同時に妙な違和感。頑なに俺の事を以前の俺と同一視して呼ぼうとしなかったトリシューラだったが、こちらのデフォルメイメージは変わらずに以前の名前を口にしている。

(不潔! 男子ってサイテー! もうアキラくんの言うことも考えてることも何一つ信用できない!)

 どっちかというと、不信感を露わにして激怒するのは俺の方ではないだろうか。あちらにやられてしまうと、かえってそういう心情が薄れていくのが不思議であった。ちびシューラがあまりにしょうもない騒ぎ方をしているせいかもしれない。幼稚すぎて腹も立たないのである。

(知りたくなかった。こんな残酷な真実を知ってしまうくらいなら、人の心の中なんて覗くんじゃなかったよう)

 他人の思考を読める、というのは普通に考えればこの上なく巨大なアドバンテージだ。しかし人の技術や英知は時にこうして使い手にその牙を剥く。過度の情報化は知りたくない事、知る必要のない事までも明らかにしてしまう。幻の涙を流して夫の浮気を知ってしまった妻のように泣き崩れる二頭身の身体。

 相手をするのが馬鹿馬鹿しくなって、俺は現実のほうに意識を傾ける。そちらはそちらで、なんだか思っていたのよりも深刻さの方向が違うようだったが。

「じゃあ、メクセトの神滅具は全て自分が集めるっていうのは、因縁があるから義務感や使命感に駆られてってわけじゃなくて」

「我ながら困った性分ではあるのですが、フルコンプしないと気が済まないのです。因縁があるアイテムだったらなおさら思い入れだって湧き上がりますからね。可能な限りやり込んで、アイテムも仲間も全て回収。トレードオフの関係にあるものは一回性の体験として潔く諦めますが、これは私の譲れないプレイスタイルです」

「すると俺は何か。仲間キャラだから加入イベントの為に必死に助けようとしている、と?」

「ええ。私は貴方が、中盤に加入する暗い過去を背負った武術家クラスの仲間キャラだと確信しています。丁度、前衛も強化したかった所ですし。更には私と似て非なる転生者。これは間違い無く新しい仲間のイベント開始のフラグだと私の経験が告げていました」

「そうか。そんなコルセスカにクソオタの称号を献げよう」

「あの、それは罵倒なのですか賞賛なのですか」

「強いて言うなら敬意を払っている」

 引きこもりとクソオタをこじらせた果てに主人公として覚醒するとか一体どういうことだ。何だこいつ面白すぎる。

(アキラくん、女の子を魅力的だって思うポイントおかしいからね?)

 何もおかしくは無い。おかしいのは手放したモノに何時までも張り付いて独占欲丸出しにしているちびシューラである。

「でも、最初の頃はそれなりに距離を置いて接していたと思うんだが、その時点で仲間にするって決めてたのか? 気のせいでなければ、なんかぐいぐい来てた覚えがあるんだけど」

「そうですね、正直な所、頑なで攻略が難しそうだなとは思っていました。ですが、私はそういうタイプの男性を数多く見てきました。そして彼らのうち、最終的に私に対して心を開かなかった相手はいません。こう見えて私は百戦錬磨の女です。男性と結婚エンディングを迎えたことも十や二十ではきかず、果ては九人同時に攻略して全員を囲ったことまであります」

 ああ、うん。何か分かってきた。トリシューラが言っていたのはこういうことだったのだ。確かに俺はコルセスカの事を何一つ理解していなかった。こいつはつまり。

「着々とイベントを消化してきた筈なのに、なぜか上手くいかなかったのは競争相手が参加したせいでしょうね。対戦では私が勝ち越してきましたが、このジャンルはいつも一人でプレイしていたので横殴りは想定外だったのです」

 俺をゲームの攻略対象キャラクターとして認識している。やばい。今まで全く気づけなかったが、コルセスカはトリシューラに負けず劣らず、というか輪をかけて頭がおかしい。そしてものすごく面白い。

 他人と一緒にいて楽しいと思えたのは久しぶりである。俺にはコルセスカから離れようとしなかったという二人の気持ちがわかるような気がした。確かにこれは、色々な意味で目が離せそうにない。

「先程、トリシューラに対して貴方は言いました。トリシューラが自分を押し通していく様が見たい、それが愉快なのだと。その理屈を、私に対しても適用できないでしょうか。トリシューラには不評でしたけど、私はあの言葉に、ちょっと感心していたんですよ。確かに、今までの貴方らしくはなかったけれど」

 コルセスカが口に出す言葉に、一切の衒いやごまかしが含まれていないことを理解して、俺は胸を突かれるような気がした。押さえるための腕すら無いことが、その感情を証明しているようで、身体がうち震える。

「貴方やトリシューラはヒロイックな言動に照れや誤魔化しがあったり茶化したりしているようですが」

 細い眉を少しだけ下げて、氷の表情が柔らかく溶けていく。現れたのは、雪の重さにも折れることのない、力強い高山植物の顔。純白の笑顔。

「私は好きです。格好いいものは、きっと当たり前に格好いいんです」

 何もかもが砕けて原形を留めていない残骸の悪足掻きを、それでもいいと肯定して。その意思すら押し通せない情けなさと弱さを見て、それでも諦めないと宣言して。氷の魔女は、失敗した試行をやり直す。

「私は氷血のコルセスカ。火竜を殺す冬の魔女。アキラ、私の使い魔になって下さい」

 俺は居住まいを正して、正面から彼女に向き合う。氷の奇眼と青く美しい左の瞳を見据えて、彼女なりの真摯さをそこに感じ取って、ゲーム感覚の台詞選択による告白を受け止めた。

「ああ。俺を、コルセスカの仲間にして欲しい」

 頷いて、その重さに背が震えそうになる。両腕を失っても、まだ脚だけは残っている。それならば、進むべき場所、立つべき位置くらいは、自分で決めることができるはずだった。

 俺の言葉を聞いたコルセスカは、一瞬言われた内容を理解できなかったようにきょとんとしていたが、やがてその意味がゆっくりと浸透していったのか、ゆるやかに表情が喜色を浮かべていく。そして。

「いただきます!」

 その脳内で、なにがどういう文脈で接続されたのか。鋭利な牙を伸ばした魔女にして吸血鬼という少女が、勢いよく俺の首に齧り付いてきたのであった。
 絶叫が、氷の室内で反響した。

 

 
「正直、望み薄だと思っていたんですよ? 最初に出会った時、貴方には既に二つの注釈と、敵性マーカーが付けられていました。付けられたのは揃って半年ほども前のこと。ああ、他の魔女にもう唾を付けられているのだと、あの段階でほぼ確信していたんです。――実のところ、他の候補者からの刺客という可能性も疑っていました。【公社】からの依頼も不自然でしたし」

 だから今、達成感で満たされていますと満足げに口にされて、先程の暴挙を咎める気が失せてしまう。そもそも、驚きから叫んでしまったが、痛みは最初の一瞬だけでその後はむしろ、なんというかその。

(気持ち良かったんでしょう。相手が苦痛で抵抗しないように、セスカの体液には呪的な快楽物質が含まれてるんだよ。常習性もあるらしいから気をつけた方がいいよ。――ああ、それでも構わないって? へー。サイテー。いやらしい。そのまま貧血で死ねばいいのに)

 ちびシューラのありがたい解説は、どこかやる気が無い。妙に虚ろな目で俺とコルセスカを眺めて、アンニュイに溜息などを吐いている。

 それにしても、コルセスカの言葉に引っ掛かりを覚える。敵性マーカーというのは、世界槍における審判役ヲルヲーラにつけられた【上下双方の敵】という理不尽なレッテルのことだろう。だが、二つの注釈とはなんだろうか。訊ねると、コルセスカの表情に陰が差した。

「――あまり言いたくないです。後追いの私では、入る余地が無くなりそうで嫌ですから」

「入る余地も何も、今この瞬間に俺と一番近い位置にいるのはコルセスカだろう」

(おーい、シューラは?)

 無視。俺の返答に、コルセスカは安心を取り戻したように雰囲気を柔らかくして、その先を続ける。

「そう、そうですよね。もう、何があっても大丈夫になったんでした」

 そう言って、くすくすと少々不気味になるほど朗らかに笑う。見ようによっては可愛らしいのだが、一抹の不安がよぎる。何かこう、逃げられなくなってしまったような――。

「注釈というのは、貴方の魂に書き込まれた呪的な情報のことです。それなりのレベルの呪術師にしか読み取れないようになっていますが、逆に言えばそのレベルの呪術師に対するメッセージでもある。二つとも別々の人物が、それもほぼ同時期に付けたものですね」

「情報って、どんな?」

「ええとですね。『この者、シナモリ・アキラの世界槍内部における行動の全責任を、アズーリア・ヘレゼクシュが負うものとする』という、免責事項に関する注釈です。――貴方からこの名前を聞いて、なるほど、と腑に落ちた気分でした。貴方が、この人物に執着する理由も含めて。私が保証しますよ。この人は芯から善人です。貴方に対して呪術を使った時、何かあれば貴方を丸ごと引き受けるという気でいたのでしょう」

 俺は、ただその言葉を聞いていた。感情は遅れてやってくる。たとえ【E-E】が健在だったとしても遮断できないのではないかというほどの、凄まじい激情。

「そっか――ずっと、守られてたんだな、俺は」

 明かされた事実は、一つの責任を俺に自覚させた。俺の振る舞いは、全てあの気高い恩人の背にのし掛かってしまう。であれば、俺はアズーリアに迷惑はかけられない。しかし俺が選んだ道は【騎士団】とは相容れないものだった。最善の行動がわからないまま、俺はもう一つの注釈が何かという問いを発した。

「それがですね。――『わたしの』」

「は?」

「ですから、『わたしの』という一言だけです。所有代名詞のみ。誰が付けた注釈か、この頭の悪さと幼稚さから何となく察していただければ幸いです」

(誰の頭が悪くて幼稚だってっ!?)

 脳内でちびシューラが激昂する。語るに落ちていた。

「このポンコツぶりとガラクタぶりから察していただければ幸いです」

(セスカ、言ったね! 言ってはならないことを言ったね! もう泣いて謝っても許してあげないからね!)

「全く、何が『わたしの』ですか。ていうか冷蔵庫の氷菓子じゃないんですからっ! もうちょっとまともなこと書いて下さい、先のアズーリア・ヘレゼクシュの注釈と並べられると姉として恥ずかしいことこの上ないんですよ!」

(セスカは名前書いても勝手に食べるから嫌いっ!)

 半ギレで捲し立てるコルセスカとちびシューラ。俺の視点からは二人が苛烈な舌戦を繰り広げているようにも見えるが、実際は各々勝手に喚いているだけである。

 ――しかし、トリシューラの注釈。独占欲、所有欲か。今となっては虚しく馬鹿馬鹿しいものにしか見えないが、彼女の感情の在処、その本当の所は、どうなっているのだろう。

 俺に向けた視線は底冷えするような低温で、その失望は取り返しのつかない関係の破壊を示しているように思えた。その一方で、ちびシューラは子供のように駄々をこねて、俺の感情を波立たせようとしている。

 トリシューラという存在が、俺には未だに理解できていないのだろう。俺がコルセスカをまるで理解できていなかったように。

 意を決して、コルセスカに訊ねてみた。トリシューラというもう一人の魔女のことについてを。他の相手への質問に気を悪くするかとも思ったが、むしろこちらの気持ちを察するようにしてコルセスカはゆっくりと自分とトリシューラの事について話し始めた。その語りを、安心感のようなものが取り巻いているような気がした。

「この目が義眼だという話は、前にしましたっけ」

「したような、初耳のような。記憶が流れ込んできた時にその知識も入ってきたかもしれない」

 言葉だけは、一番最初の三日という期間の中で数多く積み重ねてきた。そしてあの吸血。情報を吸い取り、また与えていく双方向性の行為は、喩えるなら血と生身による零距離の会話だ。

「私の本物の右目は、昔トリシューラに抉られたのです」

「それは、――なんというか衝撃的な過去だな」

「まあ、それ自体はちょっとした行き違いと言いますか、私の方にも落ち度があったので、仕方の無い事だと思っています。それよりもですね、今お話したいのはその後の事でして」

 本人が大して気にしていないようなので、俺は深く追求しないことにした。二人の過去はけっこう気になるが、恐らく積み重ねてきたであろう膨大な時間を一つ一つ振り返っていては夜が明けてしまうだろう。

「今は気にしていないといっても、あの当時はとてもそんなことは考えられず、私はずっと右目を抉り出された恐怖でトリシューラと顔を合わせることが出来ずにいました。それでもあの子のことは気になって、度々様子を見に行ってはやっぱり怖くなって途中で帰ってきてしまって」

 言葉とは対照的に、彼女は遠い日々を追想しながら、どこか楽しそうに頬を緩めた。その思い出が、尊いものであるという確信を抱く。

「そんなある日、私は彼女がなにやら熱心に呪具を作っているのを見つけました。呪具の作成は、当時から彼女が私に勝っていた数少ない分野だったから、ちょっとした対抗心もあって私はその様子を覗きました。そうしたら、彼女は何を作っていたと思います?」

「話の流れからすると、その右眼?」

「正解です。邪視を擬似的に再現する義眼。邪視系統が苦手中の苦手のくせに、必死になって作っていたんです。けれど、いくら彼女が呪具作成の天才だからといって、苦手分野の邪視を再現する呪具というのは当時の彼女には荷が重すぎました。何度も失敗して、その度に項垂れて、最後にはぐったりとして、まあちょっと見るに堪えない状態に陥ってしまいました」

 その光景を思い出しているのか、ちょっとおかしそうに、そしていとおしいものを見るように、その左の瞳が柔らかな光を宿す。おそらくは、無機質に見える右の義眼の奧にも似たような輝きが湛えられている。そんな気がした。

「そこでようやく、私の恐怖も消え去りました。その時のトリシューラは、私にとって恐怖の対象ではなく、庇護すべき対象に思えたのです。私は彼女の手をとって、協力して呪具を作ることを提案しました。彼女はかなり長い間迷っていたようでしたが、最後には頷いてくれました」

 そうして出来たのが、この義眼というわけです。そうやってコルセスカは昔語りを締め括った。
 義眼は、二人の共同制作物。そのエピソードから俺に伝えようとしたトリシューラの人となりについて、もう一度深く噛みしめる。

「――無軌道で身勝手な行動ばっかりやらかす、傍迷惑で邪悪な魔女。今と変わらないな」

「ええ。人に黙って無茶ばかり。きっと今頃、無謀な準備をしているんだと思います」

 何を考えているのかわからない。その身勝手な横暴さを、我ながら酔狂なことに好ましいと思ってしまった。なら、見放されたことすらも「彼女らしい」と考えるのが道理だろう。感情的に割り切れるかどうかはともかくとして。余計な感情をすべて捨て去って、衝動のままに行動できればと、強く思う。

 コルセスカの表情には、強い決意が漲っている。やるべき事を見定めたという表情。俺は、もう一度自らに問い直す。彼女と共に進めるのか。本当に、恐怖を振り払えるのかどうかを。

「私は、もう一度キロンと戦います。偏執的な拘りだと分かっていても――私がやらなくては駄目なんです。この戦いは、私のゲームだから」

 その言葉の内側に『誰かの為』を押し隠して、コルセスカは己の為だと言い切った。彼女は戦いの性質を自らで決定した。ならば俺の関わり方も、自ずから定めていくのでなければならないだろう。それがきっと、共に戦うということだから。

「これだけ沢山、私のことを話したのは、私のことを知って欲しいからです」

 コルセスカは、俺との間にあった氷の卓を指の一振りで真横に移動させる。二人の間を遮るものがなくなり、ゆっくりとその身体がこちらへと近付く。

「知識を、感情を共有したい。私の感情に共感して欲しい――もしそれが叶わなければ、これは虚しい試みに終わるでしょう」

 その右の瞳が、赤い色彩に染まっていく。この様相は以前にも見たことがあった。吸血鬼としての彼女の側面が表出するとき、彼女の義眼は血の色に変わるのだ。

「貴方は共感を脳の誤作動だといいました。けれど、誤作動でも脳の――心のはたらきの一部でしょう? その価値を定めるのも同じ心です。悪意を持って共感作用を利用クラッキングすることができるなら、善悪を問わない利用ハッキングだって、可能なはずです」

 ふたつの上顎犬歯が、鋭く伸びていく。よく観察すれば、拡張された牙は氷でできた呪術の細工だ。俺の首筋に付けられた専用の吸血孔に、白い顔が寄せられていく。ぐっとアップになって迫ってくる細い白銀の髪と繊細な陶磁器のような横顔に、心臓が大きく脈打った。まるで、彼女に捧げるための血液を送り出すかのように。

「貴方の感情を、情動を、心を波立たせる全ての要因を――余さず奪って、凍らせる」

 それはすなわち、シナモリ・アキラの感情全てをコルセスカが引き受けるという宣言だった。俺の意思を挫いて揺るがせてしまう、痛みと恐怖、不安と絶望の全てを、彼女の牙が取り除く。

「成功すれば、貴方はあらゆるストレスに対して眉一つ動かさない、不動の心を持った戦士となる。けれど、恒常的に呪力の経路を繋ぎ、常に感情を流出させる術の性質上、満たさなければならない条件が一つあります」

 俺が耐えきれない痛みを、全て彼女に投げ出してしまえば、俺は楽になれる。凍った瞳の中の揺るぎない意思が、頼れと無言で告げていた。これを甘えと呼ぶならばそうだろう。依存と名付けるならばそれも適切だ。それでも、その約束を交わすことで俺が彼女の力になれるのであれば。俺はそうしたいと、思ってしまった。

「その、条件は――?」

「貴方が私に対して全てを委ねてくれること。心を開いて、私を受け入れてくれること。私に共感してくれること。そうでなければ、この試みは失敗に終わるでしょう」

 なんだ、と拍子抜けして、強張った肩を弛緩させる。代わりにぐっと胸を張って、姿勢を正して相手を迎え入れる態勢を作った。心の準備よりもまず、肉体の準備を先に済ませる。

「それなら、もう満たしてる」

 目を瞑って、その全身を目の前の少女に委ねた。

「――信じてくれてありがとう、アキラ」

 甘やかな、熱と痛み。
 首筋に入り込んでいく冷たさを感じながら、全身へと『冷たさ』が広がっていくのを感じる。自分の中から無数の感覚が失われていくのと共に、それらが全て傍にいる誰かと一体になっていくという安心感。

 その心地よさすら希薄になって、残るのはぞっとするほどの寒さ。俺は全てを捧げ、それを対価にして揺るぎない冷たさを得たのだと理解した。

 目を開けた時、世界の寒さに、反射的に身体が震える。首筋に顔を埋めてほとんど密着している少女の姿。そうした外界の全てに、まるで心を動かされていないことを確認して、俺は二度、三度と瞬きを繰り返す。

 ――ああ、『俺』は戻ってきたのだ。
 敗北を経て、ようやく手に入れた、それは心の平穏だった。

 コルセスカの肩に手を置こうとして、それができないことに気付く。仕方無く、口のすぐ近くにあった形の良い耳に向かって囁きかける。

「ありがとう、コルセスカ。お陰で、いつになく気分が良い」

「ひゃぅ?!」

 理由はよくわからないが、何故かびくりと肩を震わせて激烈な反応を示すコルセスカ。妙な感じだった。感覚的にどうしてこのような反応をしているのかは理解できる気がするのだが、その理解が端から食べられて虫喰いになっているような気分。

 以前は感情や感覚の取捨選択を自分で行えたのだが、今は全てコルセスカに委ねている為だろうか。コルセスカは首から離れると、そのまま過剰なほどに後退して距離をとった。その白い頬がかつてなく赤く染まっている。血を吸った直後だからかもしれない。

「――あのですね。貴方には自覚が無いだけで、貴方が抱いた感情や欲求や痛みは全て私が知覚しているんです。ですから、なるべく妙な事を考えたり、危険な状況に陥ったりしないこと――と、私が言っても拘束力はないでしょうけど、とにかく色々控えて下さい。貴方の存在はもう貴方一人だけのものではないのですから」

 それはつまり、シナモリ・アキラ自身の事を本人以上に鮮烈に感じているということでもあり、より深く理解しているということでもあった。

 更に付け加えられた説明によると、二人の繋がりは目に見えない呪術的なものであり、二人が共感し続けている限り途切れないらしい。どちらかが相手を共感可能だと思う限り、その呪術は破れない。

 ならば、この呪術は盤石だ。この感情を吸い取る呪術が俺の性質を保とうとする限りにおいて、この関係性は揺らぎようが無いからだ。

「ええ、それはいいんですけど――これから余り私に近付かないでいただけますか?」

「何故?」

「いえ、だってその――ああ、もう何で私ばかり!」

 まるでこちらの視線から隠れるようにして両腕で身体を抱くコルセスカ。何故か顔を俯けて身悶えしている。本当にどうして苦しんでいるのかが理解できない。体調が悪いとかだったら、人を呼んだ方がいいのか?

 そんなことを考えていると、今度は急に近付いてくる。荒く息を吐いて、その瞳は赤く染まっている。明らかに吸血をしようとしていた。

「貴方が、貴方がいけないんですからね!」

「いや、何を言っているのかわからないがちょっと待て。これ以上吸われると血が足りなくなってやばい」

「ふふふ――もう何を言っても無駄です。アキラは私専用の孔なんですから黙って吸われなさい」

 意味不明の発言と共に、容赦のない穿孔、そして吸血。抵抗すらできず、自らの中から熱が奪われていく感覚を最後に、意識が急激に遠ざかっていく。
 暗転。

 

 目を覚ますと、今度は首から血を注ぎ込まれていた。
 寝台に横たわった俺の首筋に、上から覆い被さるようにしてコルセスカが牙を立てている。距離が近いな、とぼんやりした頭で思考した直後、がばりと頭が起き上がってまるで汚物に触れてしまったような表情で俺から離れていく。ひどくないかこれ。

「あの、今更ですけど。私なんかのどこがそんなにいいんですか?」

 何だその意味の分からない質問。しばし沈思黙考して、恐らく求められているのはこの回答だろう、と当たりを付ける。

「面白い所?」

 聞こえよがしな深い溜息が響いた。なにをそんなに疲れているのかは不明だが、どうやら不正解だったらしい。コルセスカはまあいいです、と距離を置いたまま気を取り直すように言って、これからの事を話し始めた。キロンと戦い、この状況を切り抜けるための手段を。計画の内容はそれなりに納得できるもので、俺自身が戦う為の方策も含まれている。だが、冷静な思考は成功の公算が低い事を告げていた。

「何か、もう一つか二つ、勝つための材料が欲しい所だな」

「ええ。ですから今から外を回って、他の探索者たちに協力を仰げないかどうか交渉してみます」

「それなら俺も」

「貴方は安静にしていてください。ただでさえ術を定着させた直後で精神が不安定になりがちなんですから。それに、アキラはどうやらこの階層では悪名の方が広まっているようです。はっきり言って交渉の邪魔なのでついてこないでください」

 そう言われると、引き下がるしかない。コミュニケーション能力において、俺は万人の下を行く。それはそれとして、コルセスカが意図的に排除した選択肢について言及するべきだと考えて、口を開く。視界の隅で、小さな影が身動ぎした。

「その作戦、トリシューラと協力した方が成功率上がるよな?」

「――今更、どんな顔をして彼女に頼みに行けというのですか」

「どんな顔でもいいだろう。必要な事ならさっさと済ませてしまえばいい」

「簡単に言ってくれますね。私がそうしているとは言え、どうしてこんな人を――」

 どこかおかしそうに俺を見返して、コルセスカは呟いた。それから、少し考えさせて欲しいと言って、部屋から出て行こうとする。
 そうだ、と思い出したように振り返って、彼女はこう付け加えた。

「ここでの事は、トリシューラには秘密にして下さいね」

 恥ずかしそうに言うコルセスカを見て、全て筒抜けであるということが言いづらくなってしまった。視界の隅で微妙な顔をしているこの二頭身の魔女を、どうしたものだろう?

 

 一人になれる瞬間というのが、ここ最近どうも少ない気がする。
 ちびシューラが静かになったと思った途端、氷の床面から何かがぬっと迫り上がってくる。クリアな氷の板が水面のように波打ったかと思うと、真下から湧いて出てきたのは一人の少女型機械。

「ようやく元に戻ってくれたね、アキラくん。さあ、一緒に行こうか!」

「俺はお前ほど鮮やかに手の平を返せる存在を他に知らない」

 いっそ曲芸じみていた。変わらず朗らかに笑う美しいつくりものの顔が、俺の心に浮かぶ邪気を根こそぎにしていくようだ。いや、単に生まれた傍からコルセスカに流れているだけかもしれないが。

「あんまり怖い顔しないでよ。せっかく良いとこをセスカに譲ってあげたんだし。ま、後は私が新型義肢を用意すれば二人とも万全の体勢で戦えるよね。うんうん、お膳立てした甲斐があったよ。私ってば優秀有能♪」

「何をわけのわからないことを――というか、さっきから何がしたいんだお前は」

 頭の中の小人は現在も俺の視界の隅に居座って、空中に腰掛けて無意味に脚をぶらぶらと揺らしている。人を一度完璧に拒絶したかと思えば、別の方を向いた途端に激怒したり、擦り寄ってきたり。こちらの心情を考えれば、反感を買うことくらいわかりそうなものだが――ああ、そうか。

「だからこのタイミングで来たのか。俺が感情的にお前を追い返さないであろう、この状態を」

「アキラくんはさー。根っこの所で私を信用しきってないんだよねー。一番最初に開頭してごめんねって謝った時、もの凄い警戒と拒否の反応があったよ。嫌悪感が大きすぎてすぐに遮断してたけど。だから『もう一回私のやり方で感情制御機能を取り戻してあげるから手術させて』って頼んでも嫌がられると思ったの」

 そう、前世で手術されるならいざ知らず、この世界のよくわからない技術水準、そして腕は確からしいが無資格の闇医者、そして何か碌でもない仕掛け――具体的には洗脳装置とか仕込んできそうな邪悪な魔女と、不安になる要素しかない状態で、理性より感情を優先する俺は間違い無く彼女を拒絶する筈だ。たとえ、それが俺を安定させる為に必要なことであっても、俺は不信感と恐怖から受け入れられない。

「セスカはああいう心理的な侵入が私より上手だからね。私ができないならセスカにやらせればいいんだよ。こう、飴と鞭っていうのかな? そういうやり方をすれば、アキラくんを元に戻せるかなって思ったんだけど、大成功だったよ」

「その割には、結構真に迫った毒舌だったが」

「本心だからね」

 さらりと言ったその表情は、いつもと変わらない微笑みの形――冷徹な無表情だった。使えない状態の俺には価値が無い。であれば、使えるようになれば価値が有る。全く持って理に適った態度だ。トリシューラは首尾一貫している。終始自らの為だけに行動する、それが彼女だ。

「じゃ、行こうか! 今なら冷静に判断できるでしょう、アキラくん。高性能な義肢が欲しくない? 健康面の管理も重要だよ。今なら各種予防接種も付けちゃおう! それに、この局面を乗り切れば第五階層での確かな足場が手に入る。知ってる? セスカみたいな探索者は、収入が不安定で生活が大変なの。おまけにセスカは最下層目指してガンガン攻略していくグループだから、すっごいしんどいよ。こっちの方が楽ちんだよ」

 臆面もなく、トリシューラは俺を連れ出そうとする。恐らく直前のやり取りを全て知っているにも関わらず、素知らぬ態度でコルセスカではなく自分を選べと無言で要求してくる。

 これは、価値観にも拠るだろうが。
 異様だった。明らかに、距離感が壊れている。

 人間にはパーソナルスペースというものがある。近付かれることで不快さを感じる距離。コルセスカも大概狭いが、トリシューラはそういった概念を持っていないかのように振る舞う。出会って数日の相手に許す間合いでは無い。そして、俺自身がそれを知らず知らずのうちに許容している事がまずおかしいのである。俺は、肩に手を置くトリシューラを強く睨み付けてある疑惑を形にした。

「俺に侵入しただろう、トリシューラ」

「うん」

 らしい、というべきだろうか。肯定もまた、あまりにもあっさりとしたもので、それが悪いというような価値観は一切持ち合わせていないようだった。そう、この魔女はそういう性質なのだ。

「アキラくんが想像しているような、生理学的な処理を脳に施してそれと気付かれないように洗脳! みたいな事はしてないよ」

「そうなのか? わかった、信じる」

「随分あっさりだね、疑ったりしないの?」

「疑いの底が無いタイプの疑問はそもそも持たない事にしている。お前がどう回答しても証明にならないんだからな。それより今の、気になる言い回しだったな」

 気付かれないような洗脳をしていないということは、気付かれるような洗脳はしているということではないのだろうか。もしくは、生理学的な処理ではなく呪術的な処理とか。

「うん。アキラくんとの距離を短期間で縮める為にちょっと悪いことはしたよ。これは証明できるし、アキラくんもすぐに確認できること」

「――そうか。その為のちびシューラか」

 ずっと俺の意識の片隅に有り続けたデフォルメされた魔女が、悪戯がばれた子供のような表情をした。おいやめろ、舌をぺろりと出すな。

「その為だけの存在じゃないけどね。ちびシューラをアキラくんの内部に常駐させることで、トリシューラという全体に対しての心理的障壁を取り払う。アキラくんは簡単に誰かに心を許すタイプじゃないから、最初に強引にドアをこじ開けて、足を無理矢理ねじ込ませるみたいな方法が効果的だって」

「誰かに指示されたみたいな言い草だな――ああ、わかった。例の『お姉様』の入れ知恵だな?」

「うん。言いつけを守る私、偉いでしょう! 褒めてもいいよ!」

「馬鹿じゃねえの死ね」

「アキラくんひっどーい!」

 ひどいのはお前の頭だ。だいたい、こっちの視界や表層的な思考を覗けるというのならわかっているはずだ。今更こんなふうに俺の目の前に表れても、もう無意味だと言うことぐらい。

 そう考えた瞬間、目の前にあるトリシューラの笑顔が急に無表情になる。その緑色の瞳からは光が消え失せ、あたかも電源を落としてしまったかのよう。視界の端からちびシューラが中央に進み出て、トリシューラの前に出てきてその意思を代弁するかのように口を開く。

(そうだね。その通り。アキラくんがどういう決断を下したのか、シューラにはわかってる。でも、わかってても意味が無いって気付いたんだ。アキラくんにとって、今考えてる事なんて何の意味も無いんだ。だって、同じような決断をシューラの時もしていたでしょう? シューラの言葉に、キャラクターに魅せられて、私と共に行くと決意してくれた。とっても嬉しかったよ、だって私のことを認めてくれたって事だもんね。――その意思が、決意が、ほんの少しの時間で覆ってしまった。心の中の過去や現在を把握しても、結局は何にもならないんだって、よくわかったよ)

 デフォルメされている割に、その表情は微妙なニュアンスまで正確に表現できていた。頭身ゆえに幼く見える彼女の表情に、諦観と自嘲が暗い影を落としている。

(特別な感情なんて無い。特別な想い、意志、決意、そんなものは無いんだね。全部、他と替えが効くものでしかない。シューラはアキラくんにとって、他と交換可能な存在でしかないんだ)

 こいつは一体、何を馬鹿なことを――当たり前の事を言っているのだろう、と思った。
 そんなのは今更だ。俺のそういう性質を見込んで誘いをかけてきたのはトリシューラの方だというのに。

 俺はトリシューラの言葉や意志、在り方が好ましいと思った。その姿に価値を見出した。価値を見出すということは値札を付けるということだ。言い換えればそれは、交換可能性を認めるということ。

 同様に、コルセスカや他の相手に価値を見出すこともごく当たり前の事だ。これらは独立した事象であり、同時に相関関係が見いだせる事象でもある。交換可能性という論理に貫かれているからだ。つまりコルセスカもまた交換可能なものの一つであると言える。彼女たちが、俺の相対的希少性に値札を付けたように、俺もまた彼女たちに値札をつけてその価値を吟味する。競争とはそういう事だろう。

 それゆえに俺は三日間というゲームのルールを提案し、彼女もそれに同意した。だからこれは想定されてしかるべき展開である。
 それに何か誤解があるようだ。たとえ俺の内心がどうであったとしてもそれは――。

(じゃあシューラは、アキラくんにとっていらない子? コルセスカと比べて、有用性が低いって事なのかな)

 トリシューラはあくまでも、有用性という点での優劣を比較したがった。需要と供給とか、買い手側の心理とか、時間と価値の関係とか、そういった現実的な問題を全て無視して、物事を単純化しようと躍起になっているようだ。しかし、二人の競争は単純な比較ではない、というのが前提だったと記憶しているが、違うのだろうか。

(そうじゃなくて! そっちの話じゃなくて、アキラくんにとってどうかを訊いているの。だって、そうじゃなかったら、わ、私――トリシューラは)

 耳の奥に異物をねじ込まれたような感覚。今、ちびシューラの発言に一人称の混乱が無かったか?
 デフォルメされた二頭身が、その全身にノイズを走らせ、何かにおびえるようにして視界の隅に縮こまる。恐ろしいものからその身を隠すように。

(シューラは、私、私、私、私だから、わた、わたわたわたわたわた――)

 ちびシューラの全身が一瞬だけかき消え、その場に杖型のアイコンだけが残される。緊急停止という無造作な情報だけが提示され、何の説明も無く会話が途絶する。

 わけも分からず呆ける俺の目の前で、ゆっくりと現実のトリシューラの身体が傾いていき、そのまま氷の床に倒れ伏した。

「は?」

 呆然と、俺はそのまま佇んで、頭を抱える為の腕がないことに気がつくと、ひとまずコルセスカを探しに行く事に決めた。

 

 
「しばらく安静にしておくのが一番でしょうね」

 昏倒したトリシューラを氷の寝台に横たえると、コルセスカはこちらに向き直って簡単に状況だけ伝えてきた。平然としているが、呼びに行った時は血相を変えて俺を置き去りにして家に向かっていた。そう楽観的な容態ではない可能性がある。

「あのロボ娘、何がどうしていきなりバグったんだ?」

「ロボ、ですか。おそらく他意は無いのでしょうが、できればその言葉を彼女の前で使わないほうがいいでしょう。特に、今のような状況では」

「うん? アンドロイドならいいのか?」

「ええ。そちらのほうが不穏でないので」

 どういうことだろうか。今のトリシューラに対しては、二つの言葉を区別して使う必要がある? 労働を語源とする言葉より、人を模したものという意味の言葉のほうが穏当であるということの意味が良く分からなかった。もしや、働きたくないあまりに引きこもってしまったとか? 共感性の高いバグり方をする奴だな。

 ――脳内のボケに対する突っ込みが皆無であるのは当たり前だが、それも今はやや物足りなく感じられた。

「この症状は過度の消耗と疲労、それに精神的なショックが加わったために起きたものです。おそらくは、キロンとの戦闘で【鮮血呪】を使いすぎたことが主な原因でしょう。時間経過で元に戻ります。とはいえ今回は少々長引いている上に、タイミングも悪かったようですが」

「それは、どういう」

「トリシューラの【禁戒】である【鮮血呪】について、説明を受けたことはありますか」

「いや、そもそも【禁戒】ってのが何なのかも知らない」

「そうですね、まずはそこからでしょうか」

 【禁戒】もしくは【禁呪】。
 それは【最後の魔女】の候補者たる四人の魔女がひとりにつき一つだけ持つ、固有の呪術のことだという。【氷血のコルセスカ】が持つ【氷血呪】は時すら凍り付かせ、彼女の敵である【融血のトライデント】が持つ【融血呪】はあらゆる存在を融け合わせることができる。

「そして【鮮血のトリシューラ】が持つ【鮮血呪】の力は、価値の操作を可能とします」

「いきなり抽象的な効果になったな。意味がわからないんだが」

「私も話に聞いただけで正確に理解しているわけではないのですが――厳密な定義は【交換不可能なものと交換可能なものを交換する呪術】だそうです」

「更にわけがわからん。具体例を挙げてくれ」

「融血呪に捕らわれた貴方とレオを助け出したり、模型を本物にしたりといった事ができるらしいですが、私も詳しくは知りません。ふつう、呪術師は同じ教室の出身であっても手の内を見せたりすることはあまりありませんから。ですから、これは私なりの解釈、という但し書きがつきます――」

 正確なところは本人に尋ねるのが一番でしょうと前置きして、コルセスカは説明を始めた。

 【鮮血呪】を一番わかりやすいイメージで捉えると、その名の通り鮮血を捧げる呪術というビジュアルを目に浮かべるのがいいらしい。前世で言うところの黒魔術が一番近いだろう。

 人間や家畜などの生き血を捧げ、神や悪魔、自然などの高次の霊的存在に超常現象を希う。雨乞いや治水などがポピュラーな所だろうか。人知の及ばぬ自然の猛威、未来を予見する占いや託宣。特定のプロトコルに基づいた儀式と、定められた血の対価。

 生贄が流す鮮血とは、人間社会において交換価値を認められているもののメタファーだという。古い時代、家畜は重要な財産だった。ルールに従って交換可能な何かを代償に捧げ、交換不可能な神秘を現出させる。コストを支払えば、かくも容易く神秘的現象が引き起こされるのである。

「なんだ、最初からそういう風に説明してくれればわかりやすいのに。むしろ、コルセスカの時間を凍らせるとかよりも直感的に理解しやすいくらいじゃないか」

「それが、これはまだ【鮮血呪】の効果の半分でしかないのです」

 【鮮血呪】の効果を流通価値によって神秘を購入していると見た時、逆説的だが、交換不可能な神秘を、交換可能という低次のレベルにまで貶めていると見ることが可能になる。

 逆転の理屈が生まれる。詭弁によって効率化を図ろうとした、浅ましい人類の悪知恵。口減らしの為、そのコミュニティ内部で最も価値の無い存在を生贄に捧げようと誰かが思いついたのだ。子殺しや姥捨ての責任を神に転嫁しようという、神々への祝りを屠りの汚穢へと堕落させる忌まわしい行為。

 しかし、生贄となる個人もまた個別の関係性で見れば価値を見出される存在であり、なによりも自分自身が己に価値を見出していることだろう。ゆえに、ここで価値判断が混乱を来す。高みにある神秘は汚濁に穢され零落し、流血という価値の切り売りで商取引が可能な商品に堕落する。

 果てしない転倒を繰り返す神秘の価値を、【鮮血呪】は弄ぶ。交換不可能な形のない何かを失う事で、交換可能な実体のあるものを創造する効果が副産物として生まれてしまう。本来の効果の逆利用とも解釈可能なそれは、理解可能な形で物理的現象として現出する。「荒ぶる天神の怒り」は貶められ、相応の対価を支払うことで「放電現象」が発生する。説明不可能なものを、説明可能にして利用するという、工学者としての顔を持つ【杖】の呪術師たちの最も原始的で最も根本的な呪術観がそこにある。

 神秘の零落。【杖】が他の呪術師たちから嫌悪され、侮蔑される傾向があるのは、この性質のためである。その【杖】の奥義である【鮮血呪】は、あらゆる神秘、あらゆる呪術を低俗なものへと堕落させてしまう、四つの禁呪で最も卑俗な呪術なのだ。

「彼女が【鮮血呪】を使う時、あらゆる神秘が零落し、交換可能となり果てます。そしてそれは、実はあらゆるものが交換不可能なものであることと表裏一体。交換可能性――価値そのものを解体し、再構築するのがその本当の力なのだと私は理解しています」

「――なんか、余計訳が分からなくなってきた気がする。つまり、トリシューラにどんな事態が起きてて今は何がどうヤバイんだ? もう説明はいいからそこだけ教えてくれ」

 つまりは鮮血――代償を支払わなくちゃならないってのがこの呪術の要点なのはよく分かった。何ができるかは抽象的過ぎてよくわからないままだが、トリシューラが俺を助けるために何か大きな代償を支払ったことは確かだ。

「鮮血呪の代償は、使用者にとって最も価値があり、同時に交換不可能なものです」

 先程の話からすればその言葉は矛盾に満ちているようだが、価値と無価値は表裏一体だ。世界のあらゆるものを交換可能だと捉えた時に最も価値あるものは、同時に何物にも換えがたいであろうから。

 彼女が最も大切にしているものとは何か。考えるまでもない。トリシューラの最優先事項はただひとつ。己の存在を世界に証明すること。

「トリシューラが支払わなければならない鮮血呪の代償は、自己同一性の喪失。それに伴って、情緒が不安定になり錯乱症状が引き起こされます。これは時間経過で安定するようになりますが、それまで積み上げてきた情緒や自己認識のパターンは傷付き、自分への自信を失い、塞ぎ込むようになってしまうのです。自尊心が傷つけられるということは、トリシューラにとっては目的から遠ざかることを意味しているからです。トリシューラは、自己を確立し、完全な知性であることを証明し続けなければ他の競争相手わたしたちに対して『負けている』と見なされてしまう。その知性が不完全で、人格は見せかけの張りぼて、出来損ないのアンドロイドだと見なされることは、トリシューラにとって死にも等しい存在の否定なんです」

 チューリングテスト。中国語の部屋。コンピューターが質問の意味を『理解』できているのかどうか。トリシューラというパターンを、知能だと見なせるか否か。

「俺には、あいつが完成した人格と高い知性を兼ね備えているように見えるがな」

「それを直接本人に言ってあげて下さい。きっと喜びますよ。――というより、彼女にはそういう承認が必要なのでしょうね」

 トリシューラの目的とはアンドロイド――人工知能の完成を、自らの存在によって世界に証明すること。それこそ、トリシューラにとって自己の存在意義に関わる最優先目的なのだ。

 トリシューラに知性があるかどうかについての判断はこの世界の技術水準にもよるが――さて、コルセスカが保全してくれたお陰で、俺は幸運にもそれに関する結論を持ち合わせていた。しかし、わざわざ現代日本の常識を持ち込んでまで、この問題に関して口を挟んで良いものだろうか?

 トリシューラにとって、それが本当に必要なものなのかどうか。俺が持っているのはあまりにも身も蓋もない答えで、彼女が求めているものなのかどうか、かなり微妙なのである。そうでなくとも、彼女ならばその結論は自分で辿り着きたいのではないかという気がした。

 その後、コルセスカと相談したところ、このような結論が出た。
 トリシューラがこれほど長く錯乱しているのは、【鮮血呪】による代償のせいもあるが、それ以上に自己同一性を保つという重要な課題よりも、俺という他者の為に戦うことを優先したことが原因だという。

 自分の目的を最優先に行動するという規範が、彼女の一貫性を担保している。
 ゆえに、それが揺らいだ為に自己同一性の崩壊に拍車をかけている可能性があるという。

 【鮮血呪】はトリシューラの存在、いわば【魂】を損なう。ゆえに、【禁戒】は自らの為だけに破らなければならない。そうしなければ、【自己】を強固に保とうとするトリシューラは行動と意思とのギャップに耐えきれず、精神を病んでしまう。

 【鮮血呪】を他人の為に使ってしまった場合、その行為が最終的に自分の為にならなければならない。トリシューラは自分で自分を蔑ろにしたという矛盾に耐えきれず、精神に深いダメージを負ってしまうのだ。つまり、俺の為に戦う事は、俺が彼女に協力するという合意が形成されている限りにおいて正当化される。

 ゆえにトリシューラはあんなに性急に俺と再び手を組もうと焦っていたのだろう。そうしなければ、自分の行動が無駄な利他行為でしかないということになってしまうから。

 純粋な利他行為。アズーリア、レオ、コルセスカといった俺が好ましいと感じた人々が当たり前の様に行うそれは、トリシューラにとっては猛毒と同じものなのだ。純粋な利己的行為の追求だけが彼女の生存を保証する。

 そして、俺はただ生存の為に必死だった彼女に対して何をしてしまっただろうか。

 よりにもよって、競争相手――最大の比較対象であるコルセスカの方を選択するという現実を突きつけて、あしざまに罵倒してしまった。挙げ句『馬鹿じゃねえの死ね』だ。馬鹿は俺だろうが、と強く前歯を噛み合わせる。本当にトリシューラが死んでしまったら、きっと殺したのは俺の言葉だ。

 寝台の上で、意識も無いのに虚ろな目を見開いて、荒い呼吸を繰り返す少女の姿があった。過剰なまでに、生命があるかのような素振りを繰り返す。目蓋を擦ったり、寝返りをうったり、身体のあちこちを掻いてみたり、苦しげな唸り声を上げてみたりと落ち着きがない。その全てが、アンドロイドの機械の身体には必要が無いと思われる動作であるのがどこか空恐ろしかった。

 長引く錯乱は、いつもの明るく朗らかなトリシューラを変貌させていた。見る影もない。見るに堪えない。
 そしてその原因は俺にある。

「【鮮血呪】使用後の自己同一性の乖離、情緒の不安定化、心身の喪失や恐慌などは、彼女の【活動的生活】のレベルが低下することによって引き起こされます。【鮮血呪】をどれだけの規模で発動させるかによりますが、およそ三回の発動で一つ下の段階に落ちると思って良いでしょう。貴方を助けに第六階層まで降りてきた時、彼女は【活動】のレベル、つまり好調な望ましい状態でした。現在の彼女は【仕事】のレベル、それもかなり低調のようです。鮮血呪の代償以外にも、精神的疲労やショックなどが関係しているのかもしれません」

「その状態は、どのくらいやばいんだ?」

「これ以上無理に【鮮血呪】を使ったりすれば、彼女の状態は最低レベルの【労働】にまで落ち込みます。この危険域に陥ることは絶対に避けるべきです。もし万が一このレベルから更に低下するようなことがあれば」

「どうなるんだ?」

 薄々とその続きを予感しながらも、俺は訊ねずにいられなかった。案の定と言うべきか、コルセスカは即座に冷徹な事実を告げてくれる。

「その時、トリシューラは意思無きロボットとなり、完全な『死』を迎えるでしょう。私たちは未だ完全な『不死』を体現できていない。ゆえに、【最後の魔女】になるという勝利なくしては死の運命からは逃れられません」

「待て。まさか、勝利条件を満たせないと、トリシューラは死ぬっていうのか」

「その通りです。自己の存在証明を果たす事が生存とイコールである為、トリシューラ以外の候補者が【最後の魔女】になれば彼女は存在意義を否定されて自死するでしょう。そしてそれは、竜殺しの神話をなぞる為に生み出された架空の存在――私も同じ事。私も、そしてトリシューラも。敗者はただ死の中に埋没していくだけです」

 二人の魔女にとって、敗北は死に等しい。危機は最終的な敗北だけではなく、すぐ目の前にもある。俺に絶対的な存在として選ばれなければ、『唯一の存在である』というアイデンティティが損なわれたトリシューラは精神にダメージを受けてその意識のレベルを低下、最悪の場合死亡してしまう可能性がある。

 この『レッテルによる死』はトリシューラの予備の身体を用意するなどの物理的な手段では覆せないということらしい。今損なわれているのは、物理的な形の無い、あやふやな彼女の『価値』だからである。

 冗談じゃないと思った。
 トリシューラほど不死から程遠い存在もそういない。それどころか、この世界は彼女にとって死の可能性に満ちた危険な場所だ。交換可能性の論理に晒されない者が人間社会で生きていくことがどれだけ困難な事か。人とコミュニケーションを取る事すら自己を否定される可能性がある危険な試みだ。人里はなれた山奥で隠者のような生活を送ることが最も安全なのではないだろうか。

 にも関わらず、トリシューラは他者の視線に自分を晒すことを選択した。俺、あるいは第五階層の住人たちからの無遠慮な値踏みに。何故か? それはきっと、自分のためだ。トリシューラがそうしたいと思ったから、危険を顧みずにそのように行動したのだろう。『私』であるために。それはいい。そうしたいという意志に文句をつけるつもりはない。問題は、俺が彼女を選ばないということが彼女の死に直結するということ。冗談じゃないというのはそこだ。

 そんなものは、選択肢が無いのと同じだ。
 大体、その前提に立ってトリシューラを選んだとして、そこに本当の意味で価値は宿るのか? このまま俺がトリシューラを選んだら、そのまま死ぬという可能性は皆無だろうか。その選び方はトリシューラを――そしてコルセスカを馬鹿にしてないか?

 うんざりする。
 この手のクソみたいなジレンマ。選択肢の外側に置かれた絶対的な規範。倫理観を前提とした実は選ばせる気が無い誘導設問。決断の責任をこっちに丸投げするような選択肢を突きつける、出題側の無責任さと傲慢さ。

 反吐が出る。何もかもぶっ壊してやりたい。
 しかし、湧き上がってくる激情は片端から冷たく凍り付いていく。

 ふと、かつての自分を幻視した。怒りの感情が許容できる閾値を超えたことを示すアラート音が鳴り響き、深呼吸しながら『E-E』の操作によって精神状態を安定させる。失われた能力。今はコルセスカに頼り切りの、俺の弱さであり強さであるもの。

 目の前のコルセスカが、表情を強張らせて、強い憤りを感じているのがわかった。彼女は今、俺に代わって状況の理不尽さに怒ってくれているのだろう。その心の善性と優しさに従って。

 であれば、俺がするべきはコルセスカに代わって冷静な、感情を排した思考を行うことに他ならない。
 状況はシンプルで、解決方法は明快だ。

 トリシューラが俺を助ける行為が「目的の為の遠回り」であったということにすればいい。俺の存在がトリシューラの目的にとって有益ならば、トリシューラの行動に矛盾は生じなくなる。彼女は首尾一貫しており、整合性が保たれる。

 つまり、俺がトリシューラを選べばいい。理由はいくらでも再設定できる。理由と言うのもまた交換可能だからだ。そもそも、確かに俺はコルセスカに価値を認め、感情を全て委ね、共に進むと決意を口に出したが、だからといって実際にどのように行動するかは話が別だ。

 誰かに価値を見出して、そこに優劣をつけたからといってなんだというのだろう。価値と質は別々のものだ。価値が下がっても質が損なわれたりはしない。質が低下した結果として価値が下がることはあるが、その逆は必ずしも真ではない。

 人の思考を読んだくらいで人のことを分かったような気になっているあいつは、やはり正しい意味で人間を理解してはいないのだろう。

 人間の内心や感情、価値観なんてものはいくらでも交換可能であり、類型的なものに過ぎない。微細機械群によって自由に調整可能な、それはただの状態だ。

 近代までの人は、脳の神経伝達網を解析されて内心を覗かれる事に強い不快感を覚える傾向があったという。確かに俺もちびシューラを疎ましく不快で不躾で下品だとは思ったが、強く排除しようとまでは思わなかった。何故なら俺の思考になど大した価値は無いからだ。思考など、外側から推量できるものとあまり差は無い。脳の基本的な機能が同じなのだから、人間がそれぞれ違うことを考えている、感じているというのも幻想に過ぎない。正直に言えば、トリシューラが拘っていた転生者の特性だのなんだのという理屈は俺には戯れ言にしか聞こえなかった。ゆえにちびシューラが俺の脳内に常駐し、その思考データをトリシューラに送信しているのだとしても、元世界の倫理から言えばプライバシーの侵害であり法的には犯罪であるのだが、拒絶するほどのことでは無かったのだ。

 俺は別に、今までの過剰に近い距離感が嫌だと思ったことは無い。感情制御によって嫌悪感は消えるから当然なのだが。トリシューラとの密な時間は、むしろ居心地が良かったとすら思っていた。それをあの馬鹿、人に拒絶されたみたいな顔しやがって。たかが内心を読んだくらいで俺のことをわかったような振る舞いをされるのは、甚だ不本意だ。

 トリシューラとの契約が、状況を解決する。正答はもうわかっている。問題は答えに至るまでの過程だ。
 俺はもう結論を出してしまった。単純に選び直すにはコルセスカという比較対象が優れすぎている。かといってこのままコルセスカと共に行けばきっとトリシューラは深く傷付き、最悪死んでしまう。

 自問する。それは俺にとって、絶対に選べない道だろうか。
 コルセスカの、あの圧倒的に楽しそうなプレイスタイル。一緒に遊ぶならこの相手だという直感があった。とびっきり悲惨でハード、そしてこの上なく痛快な冒険が楽しめることだろう。選んだ先の道には、異世界転生の王道を行くハックアンドスラッシュの物語。トリシューラを切り捨て、物言わぬ残骸となったアンドロイドの成れの果てを踏み越えて、竜を殺しに迷宮に挑む。

 死はありふれている。屍を踏みつけていくことの是非を問うならば、カインたちの事はどうなる。彼らの死は耐えられるのに、トリシューラの死は耐えられないのか?

 何だそれは、俺は何様だ?
 コルセスカの誘いに乗った自分の事を肯定できると今でも確信している。それは揺るがない。だが、目の前の彼女は今どんな表情をしている?

 苦しみ、うなされる妹を見るコルセスカは、まるでその痛みが自分の身に降りかかったものであるかのように眉根を寄せて、下唇を強く噛んでいる。あまりにも強く、強大な生命力を有するがゆえに、自分よりも他者の痛みに強く苦痛を感じる少女。吸血鬼という性質ゆえに、他者から熱を、痛みを、命を、感情を、全て自らの身の内に引き受けてしまう。それを、俺は身をもって知っているはずだ。

 せいぜい出会って数日の俺に対して、世界まで天秤にかけようとするほどに彼女が、幼い頃から共に育ってきた妹同然の相手を切り捨てられるというのだろうか。その覚悟を決めていたとして、その余りにも巨大な苦痛を、俺は看過していいのか?

 トリシューラからこれ以上何かを奪う事はできない、とコルセスカは言った。コルセスカにできるのは奪い、停止させることだけ。何かを得て、前に進むことを望んでいるトリシューラとは、決して相容れない。

 生存のジレンマ。コルセスカとトリシューラは最終的にはどちらか一方しか生き残れない。二者択一、トレードオフの関係にある。それが、存在のあやふやな神話の魔女と、自意識の定まらないアンドロイドの魔女に背負わされた運命なのだ。

 一方は世界を脅かす危機に挑んで世界を危機に陥れようとしている英雄譚の登場人物。もう一方は人ならざる身にして人を超えた存在であることを世界に証明しようとしている魔女。

 どっちも最悪を一歩通り越して頭がどうかしているが、それだけに同じくらい面白いと俺は思う。
 今、両腕の空虚がなによりも呪わしく感じる。

 力が欲しい。
 コルセスカに報いる為の力。松明の騎士からトリシューラを守るための力。どうしようもない運命に抗う為の力。自分自身の居場所を守るための力。

 その時、ふと場違いに流れ出す着信音。【歌姫Spear】の【三叉路の染色分体】が奏でる不協和音のイントロが、服の内側で誰かからの連絡を知らせていた。コルセスカから向けられた視線にやや慌てそうになるが、すぐに音声入力機能の存在を思い出して、口頭でカード型端末の浮遊を命じる。目の前に浮かび上がった端末の画面を見て、誰からの着信かを確認。そして、俺は目を見開いた。

 全く予想外な、まさしくあさっての方向からの接触。
 リーナ・ゾラ・クロウサー。今朝方に関係性を築き上げたばかりの、新たな友人からの知らせが、窮状を鮮やかに塗り替えていく。

 記憶の彼方で、聞き覚えのある魔法の呪文が甦る。死の色すら飲み込む、それは光のない無彩色。
 世界を震わせる頌歌のように。

 身体の奧に刻印された、ある呪いが再び息を吹き返す。
 混迷を極めたような奇怪なメロディがぶつりと途切れて、端末から聞こえてきたのは知らない声。

「知り合いの物書きがさー『全員生き残って大団円で終わる筋書きと犠牲を払ったけどその悲しみを胸に強く生きていくみたいな筋書き、どっちがいいと思う?』って相談してくるんだけど、どう思う?」

「はい?」

 思わず間抜けに口を開いて呆けてしまうほど、それは場違いというか、空気感の断絶した言葉だった。当然かも知れない、端末のあちら側は地上で、この場所の緊迫した空気を共有できる筈も無いのだ。なにやら端末越しに揉めているような気配があり、複数のくぐもった声が言い争っている。音質が悪く、微かにしか聞き取れないのだが――。

「ちょっ、リーナ、やめてっ余計な事しないでっ」「えーいいじゃない。いつでも連絡して良いって言われたんでしょ」「だからそれは私じゃなくてリーナ!」「うん、私がかけてるよね、今」「そう言う事じゃな――あああ聞こえてる聞こえてる切って切って通話は駄目せめてメールにして!」

 なんだろう、どこかで、聞き覚えがあるような――?

 いや、気のせいかな。この慌てているせいかやけに高い声をもう少し低くして、あとは兜などを通したようなくぐもった感じで、【心話】の術で二重音声のようにすれば、かなりの確度で一致するような気配はあるのだが。

 それにしても、深刻に悩んでいる時に妙な問いを投げかけられて、すっかり思考が切り替わってしまった。むしろ余計な重さが肩から取り除かれたような気分で、その点で感謝するべきかも知れない。

 俺は軽く笑って、端末に向かって声をかける。

「個人的な好みで言わせてもらえば――悩むくらいなら両方の要素をぶち込んでしまえばいい。収拾がつかないとか辻褄とかバランスとかは気にしないで、滅茶苦茶なくらいが一番面白いと、俺は思う」

 瞬間、驚いたように息を呑む音。重要な示唆を得たかのように、向こう側の空気が変わっていく。
 ぶつ切りで通話が途絶して、直後にメールを受信。開封すると、予想通りの差出人。

『プロットをご覧いただいてもよろしいでしょうか?』

 それが、俺達が勝つための最後の鍵だった。

 

 
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