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幻想再帰のアリュージョニスト 作者:最近

第4章 傷つけるのはハートだけ、口づけるのは頬にだけ

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4-26 嵐の前

 第五階層の天井に、抜けるような青が広がっていた。
 ここが閉ざされた箱庭であることを忘れそうになるほどの快晴。
 そんな澄みきった空へ、白球が放物線を描いて飛んでいく。
 そこに殺到する無数の男女。
 高速で飛翔しながら敵陣目指して球体を運び、時には白球を自分の背後にいる選手に投げ渡して妨害を躱していく。
 箒で空を飛ぶ競技者たちを見上げながら、トリシューラが満足げに呟いた。

「今回は球技大会だから一種目限定だけど、元々箒を使った競技は人気だからね。今後は【シアンクリーニング】との協賛でブルームレースとかも開催予定だよ。レースを応援しながら着順を予想する健全な賭博」

「健全なのかそれ。嵌って身を持ち崩す奴とか出そうだけど」

 俺は空を見上げながら疑問を口にする。空中には幻影のラインが引かれ、箒を利用した空中競技が行われていた。地上から観戦する人々は口々に声援や野次を飛ばして、勝敗に一喜一憂している。
 第五階層南西ブロック――つまり現ラフディ領に特設された即席の競技場では、至る所で様々な競技が行われていた。運営や審判は遍在するちびシューラを中心としたドローンスタッフが行っており、今のところ問題は起きていない。至る所で目を光らせている見張り(センチネル)ドローンが機能している証拠だ。

 大半の競技には賞金がかけられており、参加者はそこそこ集まっていた。ガロアンディアンとラフディとの間で一時的な休戦が約束されたことも大きいだろう。
 とはいえ、この大会を開催するためにかなりの出費をしてしまっている。
 主催者側の用意した選手が賞金を獲得するのはどうかと思わなくもないが、少しでも資金を回収しておかないと後々厳しくなってくるのも確かだ。リソースは限られている。時間と同様に。

「これで武力闘争とは違う形式の競い合いが少しでも定着すればいいんだけど」

「そうだな。とりあえず箒による競技ができる仕組みを作っておけばクロウサー家の問題はある程度穏便に片付くだろう」

 トリシューラと二人、一人の男を見上げながら希望的観測を口にした。
 空の競技場を一条の稲妻が駆け抜けていく。
 他を圧倒する速度での飛翔。縦横無尽に飛び回り、たった一人で試合の趨勢を決定付けてしまう男の名はパーン・ガレニス・クロウサーといった。

「遅い、そんなものか!」

 獰猛な笑みを浮かべるパーンの前髪が風圧で逆立ち背後に流れていく。四角い眼鏡の古典的イメージとは裏腹に、野獣のような印象を周囲に与えていた。
 第五階層の戦いが始まってからというものずっと沈黙を保っていたこの男は、球技大会の知らせを聞くとふらりとやって来て飛び入り参加し、箒競技に片端から参加しては優勝を攫っていった。
 最速のガレニスと呼ばれたパーンを殊更に煽るような惹句――『空の最速は誰だ』みたいなやつだ――が奏効したということなのだろう。

 グレンデルヒとの六王を巡る戦いの中で、俺たちは三勝三敗という結果に終わった。結果としてアルトとカーティス、そしてパーンの三人を完全に敵に回すことは回避できたのだが、何故かパーンは再演呪術の影響を受けづらいようで味方にすることはできなかった。敵にもならなかったのだが。
 今日はじめて俺たちの前に姿を現したパーンはこんな事を口にしていた。

「お前たちは適当にやりあって数を減らしておけ。勝ち上がった者だけに俺への挑戦権をくれてやる」

 暫定的な中立。
 当然のように第五階層を支配するつもりらしいが、今のところ六王同士で戦うつもりはない――というかバトルロイヤルには一番最後に参加する気のようだ。

「約束しただろうが。クロウサー家当主、『空使い』リーナ・ゾラ・クロウサーとの競い合いは血の流れないものにしてやるとな。再生者である俺が命を懸けず、相手に命を懸けさせるというのも公平ではない。舞台はそちらで用意しておけ。相手はもう呼んでいるのだろうな? あまり待たせるなよ、俺の気は長くない」

 そんな事を言って、あとは戦いなど知らぬ存ぜぬで好き勝手に振る舞うパーン。
 ある意味で、究極のマイペースと言えるだろう。
 それにしても、楽しそうに飛ぶ男だった。コルセスカが『可愛い』とか言ってたのはこういう所か。なんとなく得心がいった。

 現在は中立を謳っているとはいえ、奴が第五階層の覇権とコルセスカを狙う敵であることは間違い無く、いずれどうにかして排除しなくてはならない相手だ。
 しかし二正面作戦はなるべく避けたい。ラフディと事を構えている最中に相手をしなくていいのなら、今は放置しておくのが一番だろう。

「どっちにしろ、再生者たちを倒すには命を奪い合う戦いだけじゃ足りないんだ。形の無いものにダメージを与える『何か』が無いと勝利にはならない」

 トリシューラは大地に広がる即席の競技場を見て言った。
 丸々としたふくよかな体型に、豊かな髪という共通点を持った人々。彼ら彼女らはラフディの大地の民――【愛情の断章】によって甦った再生者たちだ。
 その体型からは予想もつかない俊敏さを発揮して様々な球技に励んでいる。球の扱いは見事の一言。手で投げるにしろ足で運ぶにしろ、その技量は卓越していた。

 技術だけではない。かなり荒っぽいプレイで怪我をしても、既に死んでいる再生者は平然としている。肉体の力を常に限界まで発揮させることができる再生者の運動量は明らかに生者たちを上回っていた。
 再生者の種族としての性質――その脅威を改めて実感させられる。

「命よりも名声や権威か。それも勝負に付き物ではあるが、妙な感じだな」

「【ダモクレスの剣】を落とす条件もイマイチわかんないし、とりあえず不死身の再生者とまともに戦うのは止めよう。どうしてもってなったら通用しそうな武装を使うしかないけど――高位再生者(オルクス=ハイ)に効くかなあ?」

 トリシューラが言うように、左腕の【ウィッチオーダー】の中には幾つか再生者に通じそうな義肢が含まれている。
 輪廻転生を司る【ヘリステラ】をはじめ、葬送呪紋が刻まれた【ネクロゾーン】や改良されたパイルバンカーの【ナタリエル】は死者の魂に直接打撃を与えることが可能な義肢だ。それか建築能力に特化したクラフトアーム【ギゼリア】で墓標を建てて封印するという手もある。

 これらを駆使すれば、肉体を損壊させても復活するという厄介な再生者の特性を発揮させず完封することも不可能ではないはずだ。
 問題はそれをさせてくれるかどうかという点。
 六王はいずれも凄まじい達人揃いだ。どうやって倒せばいいのか、一つ一つの攻防を想定するだけで容易く時間が消えていく。

 サイバーカラテ道場の対六王トピックは常に侃々諤々だ。対パーンのトピックなんか本人が動画付きで書き込んで有効そうな対策を片っ端から論破していくので有力な回答がいつまでも出てこない。それでも『勝つために何が必要か』『誰が最強なのか』という話題は常に人を楽しませ、場を盛り上げる。

 不謹慎と言えば不謹慎だろう。
 だが、俺を含めたサイバーカラテユーザーたちはこの混乱した第五階層の現状を楽しんでいることも事実だった。
 困惑し、恐怖し、不安に感じる心もまた事実なら、闘争の予感に身を震わせる興奮もまた本当のことなのだ。

 勿論、俺はトリシューラの勝利とコルセスカの救出を第一に考えなくてはならない。正面から戦って勝つことを望むのではなく、場合によっては卑怯な手で騙し討ちをしたり、交渉によって戦闘を回避したりすることも必要になるだろう。

(アキラくん? ちゃんとクールダウンできてる?)

 ちびシューラが、こちらを覗き込むようにして問いかけてきた。
 大丈夫だ。俺は冷静なまま、目的に向かって進んでいる。
 だから俺は対六王トピックには目を通しているだけで一切書き込んでなどいない。書き込みたいとも思っていない。その欲求は生まれた瞬間に捨てている。
 別に対ルバーブの話題がマラードトピックでされてることを不満に思ってたりはしない。しないったら。

「誰に言い訳してるの、アキラくん」

「いや、なんというか、とにかくこのサイバーカラテ道場の盛り上がりを別方向に向ける為にも、球技大会は必要ってことだな」

「そうだけど、露骨に誤魔化したよね」

「あー、そういやトリシューラ、今日はジャージっぽい服だな。なんか普段着としても使えそうじゃないか?」

 こういうときは話題を変えよう。
 本日のトリシューラは伸縮性のあるトレーニングウェアを着ているのだが、何故かシャープな豚の鼻がプリントされていた。どういう趣味なんだろう。

「違うの、これは勝利の女神をモチーフにしていたはずなんだけど、ブウテト汚染のせいでこんなロゴに」

 よくわからないが、元のままより丸みがあるというかユーモラスでいいんじゃないか。多分それは尖ってて危険だから。
 二人で話しながら競技場を巡回していく。途中で同じように警備を担当してくれているレオとカーインと顔を合わせたり、特設された貴賓席で試合を観戦しているアルトと話したりした。

 アルトは今回、自ら競技には参加しない方針とのことだった。
 その代わり、【道徳の断章】によって甦った竜王国の再生者たちをガロアンディアンの現代人たちのチームに分散させて、人材の交流を行ってくれている。ラフディの再生者への対抗策にもなっており、波風を立てない良い手だった。

 竜王国がまとまったチームとして出場すれば、それはこの平和的な空間に亀裂を入れかねない。たとえば対立感情が高まったり、同盟相手との優劣が決定的になってしまったり――それを回避するために、竜王国は穏当な判断をしたのだ。

「見回り終了! 来場者もいい感じに入ってるし、盛り上がってるみたいでよかったよかった」

 トリシューラが満足そうに笑う。
 賭博目当てのごろつきもかなりいるとはいえ、そいつらを飼い慣らして骨抜きにしたり駆除したりする手間が省けたという点ではそれもまた良し、だ。
 犯罪組織の多い南西ブロックの治安はカシュラムの崩壊で一層悪化しているという。一時的にあの地区を纏めていたオルヴァのカリスマは惜しいが、今となっては無い物ねだりだ。まあ再生者なのでじきに復活するだろうが。

「ラフディに負けたって噂で名誉が傷つけられてるから、しばらくオルヴァは復活できないと思うけどね。本当に厄介なのは、どうやってカシュラム人に負けを認めさせるかだよ。復活限界とかあるのかな? 霊体への攻撃って有効? むう、データが少なすぎる」

 カシュラムの崩壊は、図らずも再生者の厄介さを証明する結果となっていた。
 オルヴァを崇拝していたカシュラム人たちは殆ど死亡したらしいが、王の遺体は忽然とどこかに消えていたという。【地位の断章】も未だラフディの手には渡っていないと聞いている。『再生者の王国』としてのカシュラムはまだ死んでいないのだ。

「先は長いねー。今日でラフディとの戦いが終わらないかなー」

 トリシューラの言葉を、俺は厳粛に受け止めた。
 主の望み、叶えられるものなら叶えてやりたい。
 それを為すのは俺の役目だ。

 楽しそうに球を追いかける人々を見ていると、このかりそめの平和が本物なのだと勘違いしそうになる。
 その勘違いを真実に変えて、ガロアンディアンの女王に献上しよう。
 決意を固め、拳を握る。

 老いも若きも、健常者も障害者も、機械の力によって自由に参加出来る球技大会。それを可能にするのはガロアンディアンが有する技術力。
 対して、肉体の老いや死を超越して限界を超えた力を発揮できる再生者の加護。
 この大会は、互いの勢力の利点を広める為のプレゼンテーション、デモンストレーションの場でもあった。

 ラケットやバット、シューズといった道具にセンサーを埋め込み、動作のデータを蓄積。サイバーカラテ道場に集まった膨大な試合データを参照し、認定コーチたちの遠隔指導によりあらゆる初心者は最大効率で上達していくことができる。

 情報の集積、そして即時のフィードバック。
 サイバーカラテ道場は、効率的なスポーツの練習すら可能にする。
 戦いの形式は変わったが、戦いの本質は何も変わっていない。
 これもまた、ガロアンディアンとラフディの戦争の続きなのだ。

「残りの競技も少なくなってきたが――仕掛けるのは最後でいいんだな?」

「うん。本日最後に行われるラフディの国技、『ラフディーボール』で私たちガロアンディアンの価値を示す。アキラくんにも頑張って貰うから、よろしくね」

 ラフディには国技と呼べるものが二つある。
 一つは軍隊格闘技から派生したと言われるラフディ相撲サイバーカラテ
 もう一つは棘付きの球を投げ合う危険な競技、ラフディーボールだ。

 相手の得意分野での戦い、恐らく圧倒的に不利な戦いを強いられる。
 だが、それゆえに相手は挑戦を断れない。
 そしてトリシューラは、ここで勝負を仕掛けるつもりだった。
 とその時。会場隅で作戦の最終確認をしていると、意外な人物が姿を現した。

「あれ、一人だけ?」

 トリシューラが首を傾げる。
 丸々とした体型と長い髪。典型的な大地の民体型だが、鍛え上げられた彼の肉体は立ち姿からしてものが違う。重心が一切ぶれない安定した姿勢、脂肪を押し上げる屈強な筋肉。力士のような彼にとって、『醜』という言葉はむしろ力強さを強調する形容となるだろう。

「すまないが、少し時間をいただけないだろうか」

 美しきラフディの王マラードとは対照的に不器量な乱れ髪の男――ルバーブは声を潜めるようにしてそう言った。

「試合に関する事? アキラくんとルバーブは選手だし、試合前にこうやって話してるとあらぬ噂を立てられる可能性があるからまずいんだけど――」

「心配には及びませぬ。ラフディーボールの勝敗は実力差がそのまま反映されるもの。いかに球神であっても気紛れを転がすことはできないと言われております」

 つまり『お前たちが弱すぎて八百長をする余地が無い』ということだ。
 少し意外だ。こういう事を言うタイプだったのか。

「それに用があるのはあなたの方だ、きぐるみの魔女よ」

「私? お命頂戴とか?」

 笑顔で冗談を口にするトリシューラ。
 ルバーブは「そうではない」と生真面目に否定し、周囲の何も無いように見える空間を一瞥した。
 光学迷彩によって姿を隠している戦闘用ドローンが油断無くルバーブに銃口を向けていることに気付いたのだろうか。もしそうなら、彼には光学迷彩が通用しないということになる。一体どうやって気配を察知したのやら。

「星見の塔に所属する魔女についての情報が欲しい。アレッテ・イヴニルという名に聞き覚えは?」

 その名が出た途端、トリシューラの笑顔が硬直した。
 それからすっと目を細めて、

「そっか、ようやく動いたんだ。最初に接触するのはラフディだと思ってたし、想定の範囲内だけど」

 と呟いた。
 アレッテ・イヴニルという魔女のことはトリシューラから聞いていた。
 ミヒトネッセと並ぶ、ラクルラールの高弟。
 それだけではなく、ラクルラールという『群』を構成する一部でもあるという。
 その魔女が、遂にラフディに接触した。
 明らかに何かろくでもないことを企んでいるのだろうが、狙いがわからない。
 ルバーブはアレッテ・イヴニルが接触してきた経緯を語り、その後その魔女が如何にしてマラードに取り入ってみせたかを説明した。

「あの毒婦は危険だ」

「ラクルラール派では割と素直な部類だけど、まあわかるよ。ついでに言えば根っからのお姫様気質で、常に一番高いところにいないと気が済まないタイプだから、マラードの下で大人しくしたままってことは確実に無いと思う」

 直接アレッテ・イヴニルを知っている二人の見解は一致したようだ。
 聞けば、邪眼の人形姫と名乗った魔女はラフディの正統なる後継者を自称しているという。ラフディでは人形使いは尊敬される。アレッテ・イヴニルはすぐに大地の民から信頼を集め、マラードもまたすっかりアレッテ・イヴニルに心を許しているとのことだ。

 『後継者』という存在に対して、過去から甦った再生者は思うところがあるらしい。そういえば、カーティスもリールエルバに、アルトもトリシューラに対して友好的な態度をとっている。他の王たちにもこの時代における『後継者』がいるのだろうか?

「だが、後継者などはありえない。きぐるみの魔女トリシューラよ、あれは何なのだ? そして、ラクルラールとは一体何者だ? どうして球神より賜った至宝が星見の塔の魔女になっている?」

「前第六位ミスカトニカお姉様がお隠れになった後、アーザノエルお姉様の推薦で代理となったのがラクルラールだって聞いてる。けどその姿を見たことがある者はいない。全ての姉妹を知るアーザノエルお姉様だけがその所在を知っているらしいけれど、アーザノエルお姉様も滅多に人前に姿を現さないから」

 アーザノエルというのは確か、トリシューラの後ろ盾となっている有力な魔女の一人だった筈だ。『会った事は無いが、トリシューラが信用しているからには味方だと判断していいのだろう』――しかしその人物の紹介だからといってラクルラールまで信用出来るわけではない。

「ラクルラールお姉様は人形を手足のように操って第六位代行としての役目を果たしていた。ミヒトネッセとアレッテ・イヴニルは近年になって作られた最高傑作と言われているよ――ていうか、私やリールエルバの姉妹機なんだけど」

 心底嫌そうに渋面を作るトリシューラ。
 それにしても物凄く濃い姉妹だなそれ。

「けど、ミヒトネッセが完全にゼロから生み出されたラクルラールの作品であるのに対して、アレッテ・イヴニルには元となった呪具があるって噂を聞いたかな。あの小さなラクルラール人形も同じ。ラフディ崩壊の際に失われた秘宝は、どういうわけか『誰も見たことのない最初のラクルラール』の手に渡ったんだ」

「結局、黒幕は正体不明というわけか。気に入らんな。ラフディの国宝を奪い、ラフディの人形繰りの技術を奪い、次は何を奪う気だというのだ」

 ルバーブのアレッテ・イヴニルへの不審はかなり強い。
 これは、もしかするともしかするのかもしれない。
 こちらの期待が伝わったのかどうかは不明だが、彼はトリシューラを見ると一瞬だけ躊躇い、だが決然と提案した。

「あの女は何かを企んでいる。もし、この大会で奴が動くことがあれば、私は陛下をお守りする為に必要なことをするだろう」

「うん。その時は、私も大会の運営を担う者として障害を排除するつもりだよ。試合ではお互いに競い合う関係だけど、大会を成功させるって点では協力できればいいよね、両国の為にも」

 トリシューラはにこやかに快諾する。
 ラフディは敵対勢力だが、ルバーブのラクルラール派に対するスタンスを明確にできたことは大きい。
 ある意味で、これはマラードに対する裏切りともとれる。
 だが、ルバーブの目に邪心は無い。それに俺たちは彼が常にマラードを第一に考えていることを知っていた。

 ルバーブは忠臣だ。
 俺はマラードよりも、むしろ彼に惹き付けられるものを感じていた。
 ああいう風にはなれないだろう、と思う。
 なりたいというわけでもない。
 だが、その在り方に敬意を抱かずにはいられなかった。

 お互いの方針を確認した所で、試合の準備をするために分かれていく。
 去り際に、トリシューラはルバーブに声をかけた。

「そうそう、試合の話だけど。あんまり油断してると、足下を掬われるかもね?」

 当たり前のように侮られていることに静かに闘志を燃やしながら、トリシューラはいつもの貼り付けられたような笑みを浮かべた。
 事実上の、『勝ちに行く』という宣言。

「ラフディーボールは得意なんだ。ゲームではセスカに勝ち越してたんだから」

 それを聞いて、ルバーブの表情が見たことのないものに変わる。
 面白がるような、舌なめずりをするような、彼のこれまでの印象からは全くかけ離れた、野卑で獰猛な気配。
 戦いに飢えた、猛獣の顔だと思った。

「ほう、試合ゲーム形式でラフディーボールを? 面白い」

 二人が話しているのはガロアンディアン語だが、多分カタカナ語のゲームが誤解を生んでいると思う。面白いのでこのまま誤解していてもらおう。
 こちらとしても、舐められたまま適当にプレイされてはつまらない。
 全力の相手に勝ってこそ、こちらの名も上がるというものだ。

 そう、俺たちは勝つつもりでいる。
 『地上で最も激しい球技』ラフディーボールを国技とするラフディのチーム相手に、真正面から勝利する。
 それが、対ラフディ戦を制する為のトリシューラの作戦だった。


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