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4章 留速
38th 武闘祭・予選
 石畳に覆われたこのステージでは、人との感覚はかなり狭い。
 半径十五メートルと、多人数での戦闘を行うには心もとない範囲だ。
 参加している人々の職種は雑多で、戦士もいれば剣士もいて、盗賊みたいな奴に、果てには学者の様なエルフもいる。
 というか学者風な人、アンタどうやって戦闘こなすんだ。薬か、錬金術士か。

「るぅあああああああああああああッ!! 行くぜぇえええええええええええッ!!」

 開始早々、馬鹿でかい声と同時に、大柄な戦士がファルシオンを肩に担いで前に出た。
 見た目通り完全なパワータイプらしく、直線状に居た軽装の戦士を迫り合いに持ち込み、膂力だけで場外に吹っ飛ばした。
 てか何だあれ。魔力使ってないぞ。肉体強化も単純な強化もしてないってことは、純粋な身体能力か?
 ……おかしいな、目測で大体十メートル以上吹っ飛んでるんだが。なんぞアレ。人間じゃないだろ。

「――おいおい坊主、お前そんな槍一本でやる気かぁ?」

「……関係ないだろオッサン。見た目で人を判断するなって知らないのか」

 目の前に居るのは小柄な、盗賊のような・・・・中年の軽戦士。
 こちらを見て弱いと思ったのか、下種な笑顔でこちらを侮っている。
 というか顔が酷い。何が酷いって歪みまくりだろアンタ。何だ、あれか、何時も口の端しか歪めないんですか。

「けけっ、これでもヤりやすそうな餓鬼は見繕ってんだよォ!!」

「っとぉ!?」

 語尾と同時に突っ込まれた短剣を身を逸らして避ける。
 抜き手が見えなかったし、どうやら暗器か?
 にしてもかなりの速度だ。踏み込みの速度は一級だなぁ。

「ひひっ、どうしたどうした? 槍だけの意気込みで終わるのかぁ? あ?」

「……」

 溜め息と同時に槍を構える。
 今回は槍のみしか持って来ていない。
 太刀は本線まで温存して、今回は槍だけで行けるとこまで行ってみよう、と。
 まあ詰まる所は修行みたいなものなんだけど。

「お? お前そういやぁ良い槍もってんなぁ?」

 良いながら繰り出される短剣を、槍で牽制し、柄で弾く。
 一度大きく、しかし小出しで薙ぎ、背後から来た相手の顎を石突で沈ませ、そのまま距離をとった。

「けっ、逃げやがって……おいこらァ! 近くで戦えやァ!!」

「はぁ……」

 馬鹿か。陳腐な誘いにもほどがあるだろうに。
 そう言いながら、初期から俺とこの男の戦闘を見守っていた奴等を含め、俺の周囲には近寄ってこない。
 腰と右手の高さを同一にし、親指の付け根がほぼ真上に来るまで握る。

 そも、長物と格闘武器の距離レンジは、個人戦闘においても集団戦闘においても、圧倒的な差がある。
 有名な言葉で言えば剣道三倍段。槍を使う者に対して勝利するには、剣を使う者は三倍の技量を必要とする。
 あながち間違ってはいない。魔法や魔剣、聖剣と言った中、長距離にまで対応する個人武装があるこの世界で、その言葉の通りにはならないだろうが、そうであったとしても長物が圧倒的有利であることには変わりない。

 長物は相手の武器が届かない間合いから攻撃が出来る為に圧倒的に有利なのだ。

 だからこそ、彼らも近寄り難いのだろうが――

「あんなもんはなぁ! 近づきゃいけんだよ!!」

 言葉と同時、男、まあ盗賊が突っ込んできた。
 槍をちらつかせて軽く牽制するが、速度が落ちる気配はない。
 そのまま突きを放つも、

「遅ェ!」

 既に槍の穂先を超えた。
 これから突き戻す時間はなく、それを察しているのか男のしたり顔も深くなる。キメェ。
 正規の槍の扱いであるのならば、既に負けたも同然。

 長物は、その長さ故に、多大な重量と大きな慣性に囚われる。
 引き戻すのには時間が要り、軽快に振り回すのは並みの筋力じゃ不可能だ。

 そう、並みの筋力では。

「ひゃっはははは!! もらぁっ――」

「遅いんだって」

「――がばぁっ!?」

 体幹を槍の中へと移し、そのまま肩で槍を固定して足腰の筋力任せに振り回す。
 軽く慣性があるが、そのまま高速で半回転。
 男の肩を壊し、吹っ飛ばす。

「デカい口叩くのは死亡フラグだってのに……馬鹿め」

 そのまま片手・・で右に引き戻し、爪先へと重心をかけて前傾姿勢へ。
 新しい槍の長さは1メートル60センチ程。何らかの樹木による柄に、俺が『加工』した刃とアダマンタイトのインゴットで鋳直した刃。
 軽く、硬く、しなやかな槍だ。名槍と呼ばれても過言ではないはず。

 ちなみに、材料費は聞いてない。
 いやだって、アダマンタイトって確かドワーフの技術者しか作れない希少金属だし、何らかの樹木って言ってもあの人は何を使うわからない。
 迂闊に突っ込まれて代金払うことになったら笑えないし。財布事情はだ大分厳しいのですよ。

 ともあれ、一層俺から距離を取った参加者に対し、俺は軽く魔力を練って体を強化する。
 術式は作動させない。今回は前哨戦で、自分の技術を試すためにするものだ。
 だからこそ最低限の身体強化のみで行く。

「さ、やろうぜ」

 一歩目から駆け出した。
 先ずは手前、フードを被った魔術師らしき人。
 慌てて初級魔術をくみ上げようとするが、遅い。
 石突を下から振り上げ、顎を揺さぶった跡に直蹴り。腹を叩いて場外へ。

「う、わぁああああ!」

 背後から若い、少年とも言える声。
 軽く目をやれば、長剣を真上に振り上げ突撃してくるのが見える。

 回避するために、直蹴りの為に前へと突き出している右足を地面へと叩き落し、後ろの足の膝を抜いて、体を前へと流す。
 紙一重で剣の切先を置き去りに、左手を槍へと添えて右手を押し出す。
 槍の旋回と同時に自分も回転し、進路上にあった重戦士の頭を殴り飛ばした。
 軽く体の慣性が緩くなり、少年の真横へと回りこむ。

 瞠目した少年との目が合った瞬間に、石突を少年の脇腹へと突き込む。
 インパクトの瞬間に握りを強かに。
 ぶれる穂先を完全に押さえ、直後に少年の肋骨を砕いた。

 軽く槍を頭上で回して肩に担う。
 未だに何の術式も刻んでいないこの槍は、未知数な事も多いが現状では十分すぎるものだ。

 眼前、呆けていた何人かが徒党を組み、こちらを排除しようと連携を作り始めた。
 かなり拙い連携ではあるが、それだけ派手に動いた自身はある。

 依頼の内容は、自分が『傭兵・クレイン』と言うことを気取られず、この大会を勝ち抜くこと。
 そして出来得る限り、相手を正面から打ち倒すこと。

 他にも細々と書いてあったが、要約すれば自分の素性を気取られなければ好きにしてよい、と言うこと。
 参加名簿に書いてあった名前も、依頼主からの権力ですでに変えられている。

 報酬は帝国にある元・魔王城への進入権、帝国に属する蔵書機関の蔵書閲覧における禁書の下位閲覧権。
 そして、この街での最恵待遇。

 幾人かが纏まって群れとなり、此方への攻撃を整える。
 直後、幾本かの矢と魔術の群れが打ち出され、戦士が雄たけびとともに走ってくる。
 相対するように槍を中段に構え、俺は確かな一歩を踏みながら依頼主の名前を読み上げていた。

 アイシス伯、フランツェン・イル・マデリアという領主の名前を。


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