「いやー、ひさしぶりだねぇ?」
「久しぶりで首を落とされたらたまりませんってば!?」
時は夜。既に太陽なんて跡形もなく沈んだ今、俺たちは森の入り口まで引き返し、火を熾して暖を取っていた。
先程から此方をばしばしと叩いているのは、ローブに身をまとい知的な片眼鏡をかけたお姉さんである。名前はニーディア。
「アタシゃてっきりゴブリンかと……」
「どこにこんな装備を持ったゴブリンが居るんですか? ねえ?」
「すまんな……説明もなく斥候として突っ込んだから、止めなかったのだ」
それは傭兵としていいのか非常に問いかけたいのですがバロックさん?
突っ込みどころ満載な言葉を吐きやがりましたのが、ニーディアさんの隣に巨体を窄ませる様にして座っているバロックさんである。ほら、俺が剣を切った戦士の人。
「すみませんすみませんごめんなさいごめんなさい人を襲うなんて考えはなかったんです本当にごめんなさいぃぃ……!!」
「ああいや、君はどちらかというと被害者だし……」
俺の真正面で只でさえ小さい体を更に折り曲げて必死に謝罪してくる女の子はミーシャちゃん。若干十一歳で神官補佐の地位を会得した天才少女である。
非常にかわいいのだが、今はその顔を涙と鼻水とよだれで潤ませながら必死に頭を下げ続けている。どれくらいかというと、文字通りの意味で、『必死』、なくらいに。
聞けばニーディアさんに攻撃を要求されたようで……完全に首謀者はニーディアさんですはい。
「……えと、ボク、は……?」
「……メスは、痛い」
「ごめんなさいっ!?」
あちらで土下座したのは気の弱そうな純朴少年。ケルセ、と言う名前らしい。レイシアがメスを持っているのは……まあ、放置。
というか彼からは自分と若干似通ったにおいがしたのだが……きのせいか? まあいい。
「まあまあ。ちょっとは落ち着いてこっちの話を聞きなさいって……」
「……俺、死に掛けたんですけど……?」
からからと快活そうに笑って流そうとするニーディアさん。畜生、年の功に騙されそうd――すみませんでした。
とりあえず土下座をして謝罪。言葉はなくとも誠意は伝わったようで、お怒りは静まったようだ……あれ? 俺が怒ってたんじゃ……?
まあともかく。
「にしても、あの貴族のお嬢ちゃんの依頼からあってないから――大体、3ヶ月くらいかぃ?」
「そう、ですね。もうそんなになるんですよね……」
思えば、結構いろいろなことがあった。レイシアと旅が始まって、ウルドと出会って、修行して、一緒に依頼をこなしていって……。
そう言えば、こちらの世界に来てからもう四ヶ月以上経ってたのか。どれくらいあちらでは時間が経ったんだろう?
初めて何かをやった気がしてるし、今でもそう思ってる。多分、俺はあちらへ居た時より充実、してるんだと思う。今、俺はリア充だ。死亡フラグではない。
「ぼーやも結構大人の顔つきになったんだねぇ」
「は?」
いきなり何を言うのか、と思った直後、彼女は笑った。
「あの子鬼を一掃した後のぼーやは、まだまだ青さが抜けてなかったのさ。今は……そうだね、後一押しって、ところかぃ……?」
此方を上から下までじろじろと見てきた後、彼女はそういって溜息をつく。何だか馬鹿にされた気がするのは俺だけですかそうじゃないと思いたいです。
とまれ、この人たち三人は、以前王国を脱出する時に受けた依頼の同行者と、+もう一人で依頼に来ていたらしい。
その依頼は俺たちと同じ、森の探索。
……まあ、流石に一つのチームだけに任せているはずがないんだけど、それなら何で教えてくれなかったのか。もう少しで同士討ちになるところだったぞ。
「とは言え、十分に男になったと思うよ、アタシは」
「いったい何の話なんですか結局……?」
思わず力が抜ける。何が言いたいんだこの人。
ともあれ、鳴いて謝るミーシャさんは同類のにほひがするウルドが慰めているし、先程から謝り倒しているケルセはレイシアが脅しまくってるし、バロックさんとニーディアさんはいい雰囲気というかこの人ら最初からそうならそういう雰囲気だしてろよこのリア充がと叫びたいのは俺だけじゃないはずだ。
「ま、俺にはお前が居るもんなぁ」
「ヴぉふ?」
何? 何か在るの? と頭をなでたリヴォルグが此方を向くが、何もない。
そのままリヴォルグを背もたれにして体を落ち着かせる。ふっさふさの白毛が気持ちいいのだコレが。
「もう、四ヶ月、なんだよな……」
そう、ポツリと呟く。
あちらからこちらへと、そう流れてきて既に四ヶ月。
とりあえず、魔王倒せば何とかなるだろ、とか思って魔王探しのたびに出たのはいいものの、何の手がかりもなし、だ。
今現状で、元の世界に戻る手がかりは二つ。魔王と王国、だ。
本音を言えば、故郷に帰りたい欲求はすごくある。だけど、今この状態が心地よい――心地よすぎるのも事実だ。
そもそも。あちらの世界で何かをするというのがよく分からなかったし、何かが出来たという達成感も無かった。それが、この世界に来てからはどうだ?
楽しく、面白く、怖く、疲れ、痛み、振り回し、振り回され、退屈なんて在るはずもなく、何かが出来たという確かな達成感がある。
それらはあちらではなかったことで、自分が求めていたものだ。
だからと言って、此方に居るのはどうなのか?
元の世界にも親しい友人は(極々少数だけど)居るし、戻りたいっていう思いはある。
……結論出やしないじゃん。やめとこう。
「はぁああ……」
「……重いため息ついてますね」
「ん?」
と、声のした方へ振り向けば、いつの間にやら酒瓶と木製コップを手にしたケルセ君が。
彼は何処となく影のさした顔をしてる。
「まあ、俺にもいろいろ考えるところがあるんだよ……」
「そうですか。僕もよく在るんです。何だか今の状況下僕みたいだなって……いつまでもこのままなのかなって……」
「……」
異常に重たい感情が込められてる気がするのは自分の気のせいですか。
溜息のまま彼はこちらにコップを差し出してきて、
「飲みませんか?」
「――ああ、飲もう」
思わず受け取ってしまったのだった。しかも熱い握手まで交わして。
……あれ、これは俗に言う死亡フラグでは?、なんて思ったりもした。
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