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第99話 アイツにめがけて




「――しっかりせんかい泉!」
数日後、とある教室で黒井先生の怒声が飛び散る。
「ち、ちょっと徹夜しちゃって元気でません…」
「〜ったく、ええかー! 今日は待ちに待った体育祭や! 優勝目指すためにドーンと張り切るんやでー!」
「………はぁ」
「こぉら桃原!ため息つくな!」
そういわれても生徒よりマジになってる先生を見てると逆にしんどい…。
それに俺は体育祭なんか大嫌いなんだよ……。
なぜなら――
「今年はウチラが優勝やー!」
俺はサッカーボールを持っていない時は半端じゃない運動オンチなのだから――





開会式を終えたら俺とこなた、つかさ、みゆきさんは皆で見学しようという話になってかがみさんたちを探しに行った。
かがみさんとあやのさん、それからみさおは簡単に見つけられたのだが一年生組は気まずかったなぁ…。
そのあとに適当に空いてる一番前を見つけてその場所をとっていく。
ほんと早く終わってくれよ……。
「そういえば椿先輩は何に出るんすか?」
「…へ? 俺? 俺は走り高跳びだけど……ひよりは?」
「私は走り幅跳びのほうっす」
あー、走り幅跳びか。 俺の記憶が正しければたしかかがみさんが……。
俺はチラッとかがみさんを見るとギロリと物凄い形相で睨み返してきた。
そして“あんたまだ覚えてんの? さっさと忘れなさいよ”的な怨念を背中へビリビリと伝わってくる。
この記憶は排除しておいたほうが安全かも……。
――パァン!
「うぉっ!?」
突然の銃声に肩をすくめる。
「あ、そろそろサイショのキョウギがハジマルネ」
な、なんだよビビらせやがって…。
するとこなたはからかうように言う。
「ぷぷっ、“うぉっ!?”だって〜☆」
「ぐ…!」
こ、こなため〜!





「走り高跳びに参加する人は入場門前に集まってください」
役員からの連絡がマイクから通される。
「とうとうきちまったのか…」
俺はげっそりと立ち上がる。
固まった筋肉を軽くストレッチして伸ばし準備を整えた。
「桃原君、頑張ってくださいね」
「椿君ならサッカーやってたし大丈夫だよね」
みゆきさんとあやのさんに見送られ返事を返す。
「あ、ああ…」
い、言えなかった…。
実は俺は運動オンチだと言えば楽になれるのに、変な意地というかプライドが邪魔をする。
ボールを持っているときは並みじゃない集中力で楽々切り抜けれたけど、ボールを持っていない時はウジ虫的存在になっちまうなんて俺のバカヤロー…。
きっと皆あまりのギャップの激しさに白い目で見るんだろうな…。
………だったら!
ここで一発カッコいいとこ見せてやる…!
でないと恥かいただけで終わっちまう…!
さっきだって銃声にビビってしまったし…。
だから絶対翔んでやる!
翔べば全ては解決するんだから――






前の人から順番に跳んでいく。
意外と早いペースで進んでいくのでデータを見直す。
高跳びの助走距離は10メートル程か…。
棒の高さは1メートル20センチ…。まだまだ比較的低い方だな。
その証拠にいまだに失敗しているやつは12人中1人しかいない。
なら俺もできるんだ!
あんなやつらに俺が負けるはずがないんだ!
ミスって1人だけいるあいつのとこになんか行きたくない…!

――あ、でもちょっと待てよ…。早めに失敗したほうがいいんじゃないのか?
それだったらすぐに終わるし……。
後は見とくだけという最上級のチケットが手に入ってしまう…。
…ってダメだダメだ!
何を考えているんだ俺は!
みゆきさんたちの期待に満ちた眼を思い出せ!
翔ぶしかないんだ…!
あのデカイ壁を俺は…!
「次、3年B組の桃原」








「お、やっと椿の番かよ。 何十メートル跳ぶか見物だぜぇ」
「あんたバカだろ」
「あ、あやのー!柊が冷凍食品のように冷たい!」
「ま、まあまあ…」
「な、なんだかドキドキするね」
ゆたかは嬉しそうに言う。
「そうデスカ? ワタシはあんまりネ」
「だって椿君がどこまで跳べるかって思ったらなんか楽しくなってきちゃった」
「でも実は全然跳べなかったりしてねー☆」
こなたの冗談にひよりが反応する。
「まっさかー、それはないっすよ先輩。だって椿先輩はサッカー部で県のエースにもなれた存在っすよ? 椿先輩に限ってボールがないとダメだなんてそんな――」
ひよりたちは椿君が跳ぶ姿に注目した。
『あ…』
全員が固まる。
ほとんどの者がクリアを予想した。
しかし、ひよりたちが見たものはとてつもないものだった……。








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